廃クラさんが通る
033 狂気の策謀
「GMはあてにできない。あんなことを言っておきながらやはり何もできはしない無能なのだ」「いや、せかちゃんに書き込まれたらGMだってどうしようもないっしょ」
全力で対応するとは言ってたけど外部の掲示板までGMが取り締まれるわけではない。
「でも、やっぱりあたしの推測は正しかった気がする。あの時、偽者の綴りがあんたと違ってるのを指摘したのがあたしだけど、その時そこにいたのがGoddardってPCだ。そいつはそれでもあんたを悪者に仕立て上げようとしていた。そのときのあたしの行為が偽者を排除したという結果になったという意味に捉えられたなら、あいつもクラフターだから、あたしに対しても敵意を持ってあの書き込みになったとするならば、やっぱりあいつが今回の犯人なんじゃないかなって」
腕を組み、長田さんの話をじっと聞いていた美麗さんは一つため息をつく。
「で、そいつが犯人だとして、おまえはどうしたいんだ? これからどうするつもりなんだ? まだ製品の値下げを続けるつもりなのか? そいつに報復するために」
美麗さんが長田さんに聞く
「いや、あれはそいつをあぶり出すためにしたものだから…」「あぶり出した後にどうするのか? そこに到達した後に何を為べきなのか? お前はそれを考えていなかったということなのだろう? ただ単に思いつきで偽者に対して嫌がらせで対抗しただけではないか」「……」
黙り込む長田さん。
「……それを、ゴダードって奴のことを、GMに報告しようと思う」
少し間をおいた後に発した長田さんのその答えに、美麗さんは「はあ」ともう一つ深いため息をつく。
「そのPCと偽者を同一人物が操作していたとしても、別回線、別機種で操作していたらGMだって追うことができないかもしれない。問題の本質は、その無能なGMに対処できない隙間にこの問題が存在しているということだ」
だったらどうすればいいんだ? GMにできなければ俺たちもお手上げなんじゃないのか?
「……せかちゃんでじっくり説明する。今度はけんか腰にならず、丁寧に」
長田さんのトーンがさらに下がる。 先ほどまであった目の光は失いかけている。
「あの掲示板でか? 馬鹿か? お前は? あんな表立ってものの言えない、陰口しかできない奴らを相手にする必要は全くない。相手にしたところでまたあの失態を繰り返すだけだ。悔しいのはわかるが、もうあそこに関わるべきではない」「じゃあどうしろっつーんよ?」「私たちが戦うのはそんな薄汚れた板か? 違うだろう? 我々が毎日火花を散らしている相応しい板があるではないか」
その問いかけに俺たちは首をかしげる。 美麗さんたちが毎日戦ってる板? 何のことだ?
「マーケットボードのこと?」
ジルが答える。
「そうだ、マーケットボードこそ我々の戦場だ。TFLOにおけるプレイヤー同士の戦いは、PvPコンテンツのウルフファングや大規模戦闘のフィールドコマンダーだけではない。マーケットボードこそ我々クラフターにとっての、いや、全TFLOプレーヤーにとって最大の対人コンテンツなのだ」
胸を張り、そう主張する美麗さん。 その発想はなかった。 プレイヤー相手の対戦なんて俺には無理だし、そもそもやろうとも思わなかったコンテンツだ。 でも、たしかにマケボでは自分の出品したものを、他の出品者よりも先に売ろうと、高く売ろうとプレイヤー同士で争っている。 これってたしかに考えようによっては対人戦ともいえなくもない。
「じゃあやっぱり値下げを続けるって事じゃねーか」
ふて腐れたように言う長田さん。
「なぜそうなる? それをした結果、今度はお前が標的にされるという今回の事態を招いたのであろう?」「じゃあ逆に値上げしろっての? 値上げしたって奴が喜ぶだけじゃねーか…」「値上げする、しないはお前次第だ。だが私たちが戦うのはそこじゃない」
考え込む長田さん。
「他に何かあるの?」
俺は長田さんに代わり、聞いてみる。
「大元を買ってやればいい、根絶やしにするくらいに」
腕を組み、薄ら笑みを浮かべる美麗さん。 その目に冷たい炎が再び宿る。
「大元って木綿糸のこと?」「そうだ」
頬を緩ませ俺に肯定する。
「奴にマケで買わせないために全部買い占めるって事? そいつは偽者に直接ギルドで買わせてたりもしたんだ。それだけで攻撃になるとは思えない」「私はそいつに攻撃を加えようとしているわけではない。誰も攻撃はしない。誰も不幸にはならない。むしろみんなが幸せになる」「どういうこと?」「マーケットで根絶やしにするくらいに買った結果どうなるか?」
考え込む俺たち。
「……値段が上がる?」「そうだ、上がるだけ上げてやればいい」
美麗さんの瞳が徐々に狂気に満ち始め、声もだんだんって上擦ってきた気がする。
「いや、値上げるなんて、あんたそれこそ奴を喜ばせるだけっしょ…」「おまえはそこまでしか知恵が回らないのか? まったくボンクラにもほどがある」
呆れ果てる美麗さん。
「あたしはボンクラじゃねーよ! …まったく、何か考えがあるのなら、もったいつけないで早く結論言えっつーの」「木綿糸一本が10万そこらで今の賑わいだ。それが一本100万、200万になればどうなると思う?」
その問いかけに俺は、はっと気づく。
「木綿糸を買いにギルドに集まる人が多くなる。…争奪戦がさらに激しくなる?」
俺の答えに嬉しそうに頷く美麗さん。
「そうだ、あの偽者だって毎時間ごとに買えていたわけでは決してなかったであろう。買い逃していたことも決して少なくはなかったはずだ。ならばさらに買い負ける割合を増やしてやれば、奴も根負けして…」「いやいやいや! あんた、木綿糸一本に100万、200万って本気で言ってるの? そんな値段で買ったら作った製品の値段だってたいへんなことになるっつーの!」
美麗さんを遮って割り込む長田さん。
「だから、値上げする、しないはお前の勝手だと言ったであろう?」
狂気に満ちた目で長田さんを舐る美麗さん。
「……まさか赤字で売れっての? …あんた言わなかったっけ? 赤字で売るってことはクラフターにとっての敗北だって?」
長田さんは青い顔で美麗さんを見上げる。
「そんなことを言ったこともあったか? だがたとえ赤字であったとしても、私は人として、TFLOをプレイする一プレイヤー『ミレニアム』として負けるつもりは決してない」
と、胸を張る美麗さん
「いや、あんた…なに都合のいいこと言ってるんよ…」
それに対して呆れ果てる長田さん。
「ふん、お前はこの期に及んでまだ利益を追求しようというのか? 貯め込んだところで大して使い道のないgolがそんなに惜しいのか? そんなものに未練があるからこそお前はやはり…」「あー! もう! わかったよ! 乗ってやろうじゃねーか! やってやろうじゃねーか! 一本100万でも、200万でも、いくらだって買ってやるよ!」
ついに根負けし、破れかぶれで美麗さんの策謀に賛同する長田さん。 …いや、本当にやるの? 一本100万ってほぼ俺の全財産だよ? そんな値段で買ってくれるなら俺もこっそり木綿糸を買いにいこうかな…。
全力で対応するとは言ってたけど外部の掲示板までGMが取り締まれるわけではない。
「でも、やっぱりあたしの推測は正しかった気がする。あの時、偽者の綴りがあんたと違ってるのを指摘したのがあたしだけど、その時そこにいたのがGoddardってPCだ。そいつはそれでもあんたを悪者に仕立て上げようとしていた。そのときのあたしの行為が偽者を排除したという結果になったという意味に捉えられたなら、あいつもクラフターだから、あたしに対しても敵意を持ってあの書き込みになったとするならば、やっぱりあいつが今回の犯人なんじゃないかなって」
腕を組み、長田さんの話をじっと聞いていた美麗さんは一つため息をつく。
「で、そいつが犯人だとして、おまえはどうしたいんだ? これからどうするつもりなんだ? まだ製品の値下げを続けるつもりなのか? そいつに報復するために」
美麗さんが長田さんに聞く
「いや、あれはそいつをあぶり出すためにしたものだから…」「あぶり出した後にどうするのか? そこに到達した後に何を為べきなのか? お前はそれを考えていなかったということなのだろう? ただ単に思いつきで偽者に対して嫌がらせで対抗しただけではないか」「……」
黙り込む長田さん。
「……それを、ゴダードって奴のことを、GMに報告しようと思う」
少し間をおいた後に発した長田さんのその答えに、美麗さんは「はあ」ともう一つ深いため息をつく。
「そのPCと偽者を同一人物が操作していたとしても、別回線、別機種で操作していたらGMだって追うことができないかもしれない。問題の本質は、その無能なGMに対処できない隙間にこの問題が存在しているということだ」
だったらどうすればいいんだ? GMにできなければ俺たちもお手上げなんじゃないのか?
「……せかちゃんでじっくり説明する。今度はけんか腰にならず、丁寧に」
長田さんのトーンがさらに下がる。 先ほどまであった目の光は失いかけている。
「あの掲示板でか? 馬鹿か? お前は? あんな表立ってものの言えない、陰口しかできない奴らを相手にする必要は全くない。相手にしたところでまたあの失態を繰り返すだけだ。悔しいのはわかるが、もうあそこに関わるべきではない」「じゃあどうしろっつーんよ?」「私たちが戦うのはそんな薄汚れた板か? 違うだろう? 我々が毎日火花を散らしている相応しい板があるではないか」
その問いかけに俺たちは首をかしげる。 美麗さんたちが毎日戦ってる板? 何のことだ?
「マーケットボードのこと?」
ジルが答える。
「そうだ、マーケットボードこそ我々の戦場だ。TFLOにおけるプレイヤー同士の戦いは、PvPコンテンツのウルフファングや大規模戦闘のフィールドコマンダーだけではない。マーケットボードこそ我々クラフターにとっての、いや、全TFLOプレーヤーにとって最大の対人コンテンツなのだ」
胸を張り、そう主張する美麗さん。 その発想はなかった。 プレイヤー相手の対戦なんて俺には無理だし、そもそもやろうとも思わなかったコンテンツだ。 でも、たしかにマケボでは自分の出品したものを、他の出品者よりも先に売ろうと、高く売ろうとプレイヤー同士で争っている。 これってたしかに考えようによっては対人戦ともいえなくもない。
「じゃあやっぱり値下げを続けるって事じゃねーか」
ふて腐れたように言う長田さん。
「なぜそうなる? それをした結果、今度はお前が標的にされるという今回の事態を招いたのであろう?」「じゃあ逆に値上げしろっての? 値上げしたって奴が喜ぶだけじゃねーか…」「値上げする、しないはお前次第だ。だが私たちが戦うのはそこじゃない」
考え込む長田さん。
「他に何かあるの?」
俺は長田さんに代わり、聞いてみる。
「大元を買ってやればいい、根絶やしにするくらいに」
腕を組み、薄ら笑みを浮かべる美麗さん。 その目に冷たい炎が再び宿る。
「大元って木綿糸のこと?」「そうだ」
頬を緩ませ俺に肯定する。
「奴にマケで買わせないために全部買い占めるって事? そいつは偽者に直接ギルドで買わせてたりもしたんだ。それだけで攻撃になるとは思えない」「私はそいつに攻撃を加えようとしているわけではない。誰も攻撃はしない。誰も不幸にはならない。むしろみんなが幸せになる」「どういうこと?」「マーケットで根絶やしにするくらいに買った結果どうなるか?」
考え込む俺たち。
「……値段が上がる?」「そうだ、上がるだけ上げてやればいい」
美麗さんの瞳が徐々に狂気に満ち始め、声もだんだんって上擦ってきた気がする。
「いや、値上げるなんて、あんたそれこそ奴を喜ばせるだけっしょ…」「おまえはそこまでしか知恵が回らないのか? まったくボンクラにもほどがある」
呆れ果てる美麗さん。
「あたしはボンクラじゃねーよ! …まったく、何か考えがあるのなら、もったいつけないで早く結論言えっつーの」「木綿糸一本が10万そこらで今の賑わいだ。それが一本100万、200万になればどうなると思う?」
その問いかけに俺は、はっと気づく。
「木綿糸を買いにギルドに集まる人が多くなる。…争奪戦がさらに激しくなる?」
俺の答えに嬉しそうに頷く美麗さん。
「そうだ、あの偽者だって毎時間ごとに買えていたわけでは決してなかったであろう。買い逃していたことも決して少なくはなかったはずだ。ならばさらに買い負ける割合を増やしてやれば、奴も根負けして…」「いやいやいや! あんた、木綿糸一本に100万、200万って本気で言ってるの? そんな値段で買ったら作った製品の値段だってたいへんなことになるっつーの!」
美麗さんを遮って割り込む長田さん。
「だから、値上げする、しないはお前の勝手だと言ったであろう?」
狂気に満ちた目で長田さんを舐る美麗さん。
「……まさか赤字で売れっての? …あんた言わなかったっけ? 赤字で売るってことはクラフターにとっての敗北だって?」
長田さんは青い顔で美麗さんを見上げる。
「そんなことを言ったこともあったか? だがたとえ赤字であったとしても、私は人として、TFLOをプレイする一プレイヤー『ミレニアム』として負けるつもりは決してない」
と、胸を張る美麗さん
「いや、あんた…なに都合のいいこと言ってるんよ…」
それに対して呆れ果てる長田さん。
「ふん、お前はこの期に及んでまだ利益を追求しようというのか? 貯め込んだところで大して使い道のないgolがそんなに惜しいのか? そんなものに未練があるからこそお前はやはり…」「あー! もう! わかったよ! 乗ってやろうじゃねーか! やってやろうじゃねーか! 一本100万でも、200万でも、いくらだって買ってやるよ!」
ついに根負けし、破れかぶれで美麗さんの策謀に賛同する長田さん。 …いや、本当にやるの? 一本100万ってほぼ俺の全財産だよ? そんな値段で買ってくれるなら俺もこっそり木綿糸を買いにいこうかな…。
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