廃クラさんが通る

おまえ

026 無謀な善意

「似ていない。私はこんなに目が釣り上がってはいない」
 副会長に就任した当時のRIMU、いや、当時はまだ芸能人のRIMUではない。 本名「柏木かしわぎ来夢らいむ」、あの柏木のねーちゃんの写真を見た美麗さんの感想だ。 …いや、俺には同じくらいに思えるけど…。 もしかして美麗さんは顔がちょっときつかったりするのを気にしてたりするのかな? ちょっと威圧感があるのは否定できないけど。 整った切れ長の目で綺麗だし、俺は決して嫌いじゃない。 いや、好きか嫌いかで言ったら結構好きな方だよ?
「そんなくだらないことをしていないで、早く仕事を終わらせたらどうなんだ? 余計なことをしているくらいなら私は先に帰るぞ?」
 と、その場を離れて、元居た椅子に座る。
「別にいいっしょ? このくらい。最近ちょっと柔らかくなってきたと思ったのに、なんでまた戻っちゃうかなー?」
 いや、理由はだいたいわかってるでしょ? 問題はなんでTFLOゲーム内で美麗さんが突然俺たちを避けだしたのかだ。 俺たちのことを仲間じゃないとか言い出すし、なんで俺たちが美麗さんの擁護をしたらいけないんだ? 長田さんの愚痴を美麗さんは完全に無視スルー。 スマホを手に取り覗き込む。
「いつくらいからああなったのかな? 保存されてる写真、順に調べてみる?」「え? 順に?」
 ジルの提案に俺はちょっと躊躇する。 それはちょっと時間かかるんじゃない? 美麗さん、もっと怒っちゃうよ?
「写真撮ってあるとしたら一番近い行事…文化祭か体育祭なのかな?」
 長田さんもジルの提案に乗っかってくる。 ……ジルの大きな胸に挟まれていると、どうしても逆らえない。 俺はジルの操り人形かの如く、自分の意思とは別個に動く手でマウスを操作すると、RIMUの写真を探すべく画面上のマウスカーソルを動かす。 その動きは時折揺れるジルの胸と完全に同期していた。
「どういうことだ? これは?」
 美麗さんが突然声を上げ、立ち上がる。
「どうしたの? 美麗さん」
 俺は手を止めると、ジルの胸を押しのけ美麗さんの方を向く。
「どうしたもこうしたもない…」
 湧き上がる怒りを押し殺しつつこちらに歩いてくる。 そして立ち止まると
「これはお前だろう?」
 長田さんにスマホを突き出す。 座ったままの俺の位置からはちょっと見えづらい。 俺は席から立ち上がり、三人で顔を揃えてその画面を覗き込むと


─────────────────────────────105 Millennium 20XX/09/2X(木) 13:41:18.16今日も大収穫だった。敗北を知りたい。お前たちが頭を下げれば勝ち取る秘訣を教えてやってもいいんだぞ?─────────────────────────────106 無属性冒険者 20XX/09/2X(木) 13:48:21.63何が秘訣だ。ギルドが開く直前に何か言って他の奴らの気をそらしてるんだろ? うぜーんだよ。偽者は消えろ、ばーか─────────────────────────────107 無属性冒険者 20XX/09/2X(木) 13:50:11.19お? なんだ? 偽者って事はお前が本物のミレニアムなのか?─────────────────────────────108 無属性冒険者 20XX/09/2X(木) 13:52:57.06俺はミレニアムじゃねーよ。あんなやつと一緒にするな! だけどこいつはあいつじゃない、偽者だ─────────────────────────────109 Millennium 20XX/09/2X(木) 13:58:33.82ほう、お前に私の何がわかる? 私は本物だ。私こそが本物のミレニアムなのだ。─────────────────────────────110 無属性冒険者 20XX/09/2X(木) 14:01:13.75お前のことはもう通報したからな! 後で後悔するなよ! ば~か。─────────────────────────────111 無属性冒険者 20XX/09/2X(木) 14:06:17.96通報とかwコイツが本物のミレニアムなんじゃねえのw─────────────────────────────112 無属性冒険者 20XX/09/2X(木) 14:10:42.14もりあがってまいりましたwww─────────────────────────────

 …これは…たしかに長田さんが書き込んだように思えなくもない…? 俺は隣の長田さんをちらりと見る。
「え~と……」
 長田さんは気まずそうにスマホの画面から目を反らす。 わかりやすっ! やっぱりコレを書き込んだのは長田さんなんだな…。
「まったく、なんでお前はこんな馬鹿な真似をしたんだ!」「いやいやいや! あたしじゃないって! ほ、ほら、この時間授業中っしょ? 書き込むことなんてできないっしょ?」「なぜお前はそんなわかりやすい嘘をつくのだ!? 馬鹿だからか!? 私は知っているのだぞ、この時間帯にお前がノートを取るふりをしつつ、机の横でこっそりスマホを操作していたことを」
 美麗さんは窓側一番後ろの席、それに対して長田さんは窓側の一番前だ。 そんな体勢でスマホを操作していたなら、それが見えなくもないかもしれない。
「え~と……ごめん! 本当にごめん! なんかあんたが書き込んだみたいになっちゃって……」
 長田さんが頭を下げつつ、頭の上で両手を合わせる。
「私はそんなことを怒っているわけではない! 擁護するなと言っただろう? 馬鹿め! 私の事なんて放っておけば良いのだ!」
 その長田さんを頭の上から怒鳴りつける美麗さん。
「……いや、そこだけちょっとあたしは承知できない。なんであんたを擁護したらいけないのか? どうしてもそれが納得できない」
 長田さんは顔を上げ正面から美麗さんの目を見返す。
「だから、私だけでいいのだ。被害者は私だけでいい……。お前たちがうかつに手を出した結果、危害がお前たちに及ぶこと、それを私は恐れているのだ……」
 そう言うと美麗さんは体を翻し俺たちに背を向ける。 なるほど、美麗さんは俺たちのことを思ってあんなことを、擁護するなってそういうことだったのか。 ……ん? これってもしかしたら
「トムキャットさん? もしかして、その人のことがあったから美麗さんは…」「そうだ。何も悪くないのに、あの事件には何一つ関わっていなかったのに、うかつに擁護をしたばかりに先生は……」
 下を向き、肩を震わせる。 長田さんは「はあ」と大きなため息をつく。
「な~んだ。そんなことだったん? あんたが気にしてた事って? 散々あたしのこと馬鹿馬鹿言っておいて、あんたのがよっぽど馬鹿じゃねーか」「なんだと?」
 長田さんの発言に美麗さんは振り向く。
「だったらなおさらあんたを擁護したらいけない理由なんてないっしょ? 言い方はちょっと悪いかもしれないけど、あんたの先生は犯罪者を擁護したんだ。でも、あんたは何一つ悪くない。悪者なんかじゃけっしてない。あの時カテドラだって言ってたっしょ? 仲間を頼れって。だからあたしたちを頼って欲しい」「……!」 その長田さんの言葉を目を丸くして受け止める美麗さん。
「うん、美麗さんは何も悪くないんだから、こんなやつに負けたら絶対にいけない」「そうだよミリー、一緒に戦おうよ。偽者に」
 俺たちも長田さんに賛同する。
「まったく…、馬鹿め…、やっぱり馬鹿だ、お前たちは……。何もできもしないくせに……。お前たちも辛い思いをするかもしれないのだぞ……」
 再び下を向き、肩をふるわせる美麗さん。 確かに俺には偽者に対抗する策はない。 だからってあの偽者を野放しにしては絶対にいけない。 俺に策はなくても、このみんなで考えれば、きっと何か解決する方法を生み出すことができるはずだ。

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