廃クラさんが通る

おまえ

024 粗悪な贋品

Sky:もうサポートには連絡したの?Selfish:ああ、さっきしておいた
 今日はしっかりと夕飯を先に作ってから俺はログイン。 その間に長田セルフィッシュさんはサポートに連絡をしていたようだ。
Sky:あれからベナリスに木綿糸を買いにいったことはないけど、やっぱり今もまだすごいことになってるのかな?Selfish:まだ収まってはいないだろうな。俺はたまにフェルティスの方に買いに行くが、あそこもまだすさまじい有様だった。高騰も一段落ついて今は落ち着いてはいるが、高値であることに変わりはないからなJill:見にいってみる? そろそろギルド開くんちゃう?
 現在ゲーム内時間では夜だが、夜が明ける頃にギルドショップが開く。
Selfish:そうだな、例の偽者も気になる。あれがその偽者が書き込んだものだとしたらその確証も欲しいところだ
 ミレニアムさんは何もしなくていいとは言っていたが、あんなのを放っておいてはいけない。
Sky:なら行こう、みんなで
 俺たちはパーティを組み、瞬間移動ゲートトラベルの呪文を唱える。 画面が暗転し、読み込みローディングが終わると、ここ最近頻繁に来ているような気のする見慣れた冒険者拠点キャンプが現れる。 馬鳥マウントに乗り、背の高い木が生い茂る森、崩壊した旧世紀の遺跡をくぐり抜けると、少し開けた場所に出た。 薄曇りの空で遠くの景色も少し霞んで見える。 俺たち以外の冒険者プレイヤーも何人か同じ方向に走っている。 おそらく木綿糸を買いに向かっていのだろう。 しばらくするとベナリスの集落が見えてきた。 集落の中に入り、そこの片隅にある裁縫ギルドに向かう。 やはり多くの冒険者プレイヤー裁縫ギルドそこに向かっている。 ギルドの扉を開けると中にはさらに多くの冒険者プレイヤー。 やっぱりまだ木綿糸を求める多くの人で溢れかえっていた。 人混みの中に偽者の姿を探す――が一見したところ偽者の姿はない。
Sky:偽者はいないのかな?Selfish:そのようだなJill:いないみたいだね
 ギルドが開くまであと少し。 現れるならやっぱり直前なのかな?
Jill:そろそろギルドが開くよ
 現れないか…。 だったら俺も木綿糸の争奪戦に参加してみるか。 しかしギルドの開く直前にそれは現れた。
Mlllennium:木綿糸は私のものだ。お前たちには渡さない
 !? ミレニアムさん? …いや、これは偽者だ。 どこだ? どこにいる? この人混みの中にいるはずだ。
Mlllennium:ふははははは! また私の勝利だ! ざまあみろ! お前たち愚民は一生私から木綿糸を勝ち取ることができないのだ
 しまった。 偽者に気を取られているうちにギルドが開き、争奪戦が終わってしまっていた。 偽者は――やっぱり散々探してみたが見つけることができない。 もうすでにログアウトしてしまった後だろう。
Haruto:なんだよ? いまのは? ミレニアム? 暴言言って俺たちの気をそらしたのはYoshihiro:そうだ! 卑怯だぞ! そんなことをして楽しいか!?Yoshihiroは怒った。Sky:ちがいます! 今のは偽者なんです!Kirio:偽者だというなら本物のミレニアムはどこにいるんだ? Millennium:私がおそらくお前たちの言っている本物だが、どうやら私の偽者が現れたようだな
 このログは、本物のミレニアムさん? 声の主を探して見回すと、ギルドの入り口の戸を開け放ち、日の昇る直前の薄明かりの中、仁王立ちで立っていた。
Haruto:お前がさっき暴言を言って木綿糸を買うのを妨害したんだろ?Millennium:だからそれは偽者だ。なるほどな、そんなことがあったのかSelfish:お前たち、ログを確認してみたらどうだ? さっきのやつは『Mlllennium』だ。こいつじゃない。Jill:そうだよ、別人なんだよ
 なるほど、これは普通に見ただけでは見過ごしてしまう。 このゲームのフォントは「i」と「l」の判別が非常に付けにくい。 それを悪用してミレニアムさんを騙って悪行を働くなんて悪質にもほどがある。
Goddard:その証拠はどこにある? ログアウトしてキャラを変えてきたか、別アカウントで動かしていた可能性だってあるじゃないか?Millennium:そんなことをして私に何のメリットがある? 何度も言いたくはないが先ほどお前たちの見た者は私じゃない。偽者だSky:そうだよみんな、さっきのは偽者なんだってGoddard:さっきから擁護している奴らはお前の仲間なのか? お前たちもグルなんだろう?Millennium:いや、まったく知らない者たちだ。まったくの他人だGoddard:怪しいな。そう否定するのは。特にこいつは真っ先に偽者だって言ってたじゃないかGoddardはSkyを指さした
 俺? たしかにそう言いはしたけれど……。 それよりもなんでミレニアムさんは俺たちのことを知らない他人だなんて言うんだ?
Millennium:まったく馬鹿らしい。最後にもう一度だけ言う。お前らが先ほど遭遇したのは偽者だ。私ではない、仲間などもいない
 そう言うと瞬間移動ゲートトラベルを唱えるミレニアムさん。 詠唱が終わると「ぶぃん!」と瞬間移動ワープして消えてしまった。 え? ちょっと? ミレニアムさん、帰っちゃうの? 誤解されたままでいいの?「ぴろりん」と俺のスマホが鳴る。俺はそれを手に取り確認すると
Mill2000 お前たちも早くそこから立ち去ったほうがいい私がお前たちと関係があることを知られても面倒だから擁護もしなくていい
 美麗ミレニアムさんからのSNSのメッセージだ。 美麗さんからSNSでまともなメッセージが送られてきたのはこれが初めてだ。 しかし擁護しなくていいってなんでなんだ? 関係を知られたくないっていうのも気になる。 悪者じゃないなら堂々としていればいいのに、なんでそこまでしないといけないんだ? ミレニアムさんにはそうしなければいけない意図がなにかあるのだろうか?

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