廃クラさんが通る

おまえ

010 廃クラさんと廃棄物

「ほら、ジャンクコーナー行くんっしょ?」
 と、何事もなかったかのようにそそくさと立ち去ろうとする長田さん。
「油を売っていたのはお前だろうが…」
 美麗さんはやれやれとついて行く。俺もそれに続く。 ジャンクコーナーは店の奥にあり、通路も他に比べて心なしか狭くなっているような気がする。 壁際の棚にはパソコン本体のジャンク品がずらりと並べられている。 その反対側の棚のケースの中に俺たちには理解不能なパーツ類がぎっしりと入っていて、そんなケースがいくつも並べられている。
「これ、本当に動くのあるの…?」「マジ燃えないゴミ扱いっしょ……これ」
 俺はためしに並べられたケースの一つから中に入ったパーツを手にとってみるが、どれもこれも長田さんの言うように廃棄物ゴミにしか見えない。 それ以前にこの中のどれが必要なパーツなのかもわからず、どれを選んでいいものかもまったくわからない。
「いや、そこに入っているのはケーブルだとか周辺機器だとかパソコンの外に付けるようなパーツだろう。ジャンクとはいえ、さすがにパソコンの内部に使うパーツで剥き出しはないだろうと思う」
 と、狭い通路の棚を見渡す。
「必要なのはグラフィックボードとメモリなのだが……」
 美麗さんは棚の上にずらりと並べられたビニールやら緩衝材プチプチやらでラッピングされているパーツを見つけると、その中から一つを手に取る。 大きな冷却器ファンが付いている長方形のパーツだ。
「これだ。これが全部グラフィックボードか…」
 棚を見渡し笑みを浮かべると、美麗さんは手に取ったものを真剣な眼差しで斜めから見たり、裏返してみたり、違うものを代わる代わる手にとっては同じようなことをする。 そして一通り見たところでもう一度笑みを浮かべ
「なるほど、わからん」
 と言い切る。
「え?」「わからん…って、あんたがそんなんじゃ、ここにいったい何しに来たんよ……」
 予想外の美麗さんの一言に驚く俺たち二人。
「いや、動くものなのかどうなのか、一見したところでわからんと言う意味だ。ここにあるものはすべてジャンク品だ。もしかしたら全部動かないという可能性すらある」「そんなこと最初からわかってたことっしょ……」「だからこいつが役に立つのではないかと思うのだ」
 と、俺の方を見る美麗さん。
「え? 俺?」
 突然の指名に俺は驚く。
「そうだ。さあ、この中からどれか一つを選んでくれ」
 と、美麗さんはずらりと並ぶグラフィックボードのジャンクを指し示す。
「なんで俺? 俺こういうの詳しくないからどれ選べばいいのかわからないよ?」「いやいやいや、こいつに選ばせるって、それこそあんた無謀ってもんでしょ」
 俺たち二人は美麗さんの提案を否定する。
「そもそも動くかもわからんジャンクを選ぶのに余計な知識は邪魔になる。だとしたらいっそこいつの運に賭けてみよう、と、そう思った次第だ」
 腰に手を当て胸を張り、自信満々に言う美麗さん。
「あ~、なるほどね」
 長田さんはなにやら納得したらしい。
「いや、俺って運が悪いし、こういうの向いていないから……」「何を言っている。お前はHQ率98%を外してNQ品を作るという強運の持ち主ではないか」「それこそ運が悪いって証拠だから…」「発想を逆転させるのことが大事だぞ、スカイ」
 声を籠もらせつつ長田さんも美麗さんに同調し胸を張る。
「ここでセルフィッシュさんにならなくてもいいから。確かに残りの2%を引き当てたから逆に運がいいとは言ってたけど…」「そうだ、ほぼ『あたり』しかない中から『はずれ』を引き当てたのだ。だとするならば逆に、このジャンクという『はずれ』の中から動作品という『あたり』を引き当てることがきっと出来るはずだ」「う~ん、でもなぁ……」「大丈夫、あたしも保証する。あんたの運の良さは自慢していいレベルだから」
 二人からの期待の眼差しに俺はたじろぐが
「二人ともそう言って俺に責任を押しつけようとしてない?」
 と、疑いの目を向けると
「そんなことをするわけがなかろう」「ねーって。そんなんありえねーって」
 微妙に俺から視線を外す二人。
「はぁ……わかったよ。俺が選ぶよ」
 諦めてため息をつくと俺は棚に並んでいるグラフィックボードに対峙する。
「う~ん……」
 悩んだところでどうなるものでもないんだけど……。 ちらりと横に立つ二人を見る。
「……」「……」
 無言で期待の眼差しを向ける二人の視線がちくちく突き刺さる。 あらためて俺はグラボのジャンク達と向き合う。 そして意を決して俺は恐る恐る並べられているグラボの一つを手に取った。
「う~ん……」
 冷却器ファンが横に並んで二つ付いているグラボを裏返したりして見てみたが、ビニール越しだということも加味されて俺には全然わからない。
「これか? これなのだな?」
 美麗さんにそれを渡すと俺は美麗さんの顔を伺う。
「これは…」
 いろんな角度でグラボを凝視していた美麗さんがある角度にしたときに突然固まる。
「やっぱりそれじゃ駄目かな?」
 俺は恐る恐る聞くが
「いや、大丈夫だ。お前が選んだものだ。何の心配もない。これを買うことにしよう」
 ちょっと顔が引きつっているのが気になるところだが……。
「あとメモリだっけ? それも必要なんっしょ?」「メモリはジャンクではなく動作確認が取れているものを買おう。このグラボがだいぶ安かったのでそちらにまわす余裕ができた」「安かったって……、大丈夫なん? それ?」「ジャンクに大丈夫もクソもあるものか。今はこいつを信じるしかない」
 と、俺の方をちらりと見る。 いや、俺、何もわからずただ選んだだけなんですけど?

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