廃クラさんが通る

おまえ

009 銀の魔力(ちから)

「学校の近くにこんな店あったんだ」
 俺たちはリサイクルショップ『ジャンクオフ』の前にいる。 昨日掃除が終わった後パソコンを開けて拡張が可能だと判明したので、パーツを買いに生徒会のみんなでこの店に来た。
「駅とは逆方向だからお前たちは知らなかったか。私はいつもこの前を通っているがな」 「じゃあ美麗さんはよくこの店に来てるの?」「いや、私も入るのは初めてだ」「へ~、興味はあったけど一人だと入りづらかった、とか?」
 と、長田さんが聞くと。
「……まあ、そんなところだな」
 顔を背けつつ答える美麗さん。
「柏木、ちゃんと金持ってきたんだよね?」「持ってきたよ、ほら、昨日しっかり稼いできたんだから」
 と、ポケットから一万円札を取り出す。
「財布に入れとけよ…、てか昨日学校から帰ってその後一万円稼いできたって、やばい仕事とかじゃないよな?」「……うん、違うよ」
 なんなんだ、その間は?
「一万円で揃えられるかは怪しいところだな。新品で揃えようとしたらそれではぜんせん足りないだろうから」
 自動ドアの入り口の前に立つと静かな駆動音とともに開き、俺たちは中に入る。 入り口付近はゆったりとしたスペースがあり、やや広く感じられる店内にはテレビモニタやオーディオ機器など様々な電化製品、新旧ゲーム機やソフト、DVDなどが陳列されていた。
「おおー! DCとかあるよ! 64も! やば~い!」
 ジルが入り口付近のゲーム機コーナーに飛びつく。
「お~、おれんちにこのゲーム機あるよ。うちではまだ現役だぜ?」
 柏木がカートリッジをセットしてプレイする古いタイプのゲーム機を指さす。
「え? 柏木、こんな古いゲーム機でゲームやってるの?」「うん、俺んちでゲームって言ったらこれだよ? 小さい頃からこれしかやってない」
 柏木は笑顔で無邪気に答える。
「柏木……」
 うん、うすうす気づいてた、そうなんじゃないかって、こいつのうちがもしかしたら貧乏なんじゃないかって。 こいつの着ているピンク色のワイシャツは多分、人気がなく売れ残ったものを安売りのセールか何かで買った物なのだろう。 制服のズボンがくたびれてるどころか所々修繕したあとがあるのも新しいものが買えないから直しつつ履いているものなのだろう。 いや、まだ核心を突くの早い。 こいつの身なりは、ものを大事にするとか節約家の家だからなのかもしれない。 ゲーム機も、家が厳しくて新しいゲーム機を買ってもらえないだけかもしれない。 だとしたらやっぱり気になる。 こいつがどうやって短時間で一万円を稼いできたのか。 やっぱり何か人には言えないやばいことをして……。
「スカイ、なに難しい顔してるん?」
 ジルが俺の顔を不思議そうに覗き込む。
「いや、え~と。古いゲーム機の割には結構高いかなって思って。思ったより高いなぁ、って」
 俺は咄嗟に誤魔化す。
「こっちのは状態も良く、動作確認をとったハードだからだろうな。向こうにジャンク品のコーナーがあるみたいだが、今日用事があるのはそこだな」
 美麗さんが店の奥を指さす。
「うん、見てみよう」
 ジルと柏木を置いてそちらに向かって歩き出すが、途中で長田さんの足が止まる。 何かショーケースの中を見ているようだが
「長田さん何見てるの?」
 俺も一緒に覗き込む。 その中には時計やらアクセサリやらが並べられていて、長田さんの視線は銀色のアクセサリに向けられているようだった。
「ここ、こんなんも売ってるんだ…」
 中腰に構え、じっと真剣な目で銀色のアクセサリを見つめる長田さん。
「やっぱり、長田さんはそういうのに興味があるの? 鞄にいっぱい付けてるもんね」
 長田さんがジャラジャラと音が鳴るくらい大量に鞄に付けているアレだ。
「ん~、まあ興味あるっちゃあるけど。やっぱ高いよね中古でも、こういうのって」「長田さんはこういうのってどんなところで買うの?」「いや、アレって貰いもんだから」
 ショーケースを見つめたまま答える長田さん。
「ほう、貰い物か。男から貢がせているということか? やはりお前は見た目通りの…」「う~ん、男っていえば男なのかなぁ…」
 美麗さんが言い切る前に答えると俺たちは固まる。 ショーケースを真剣に見つめていた長田さんは、しばらくして俺たちの様子にはっと気づき
「ちげーから! 男って親だから! 父親だから! 貰ったの」
 顔を赤くして必死に弁解する。
「自分で使ってたやつをあたしにくれたら喜んだからって、どんどんあたしにくれて、そのたびにあいつは新しいもんを買うからかーさんだって困ってるっつーのに…」
 ちょっとホッとした。 いや、正直に言うと凄くホッとした。 長田さんに限ってそんなことがあるはずがない。 ちょっとでも疑った自分が情けない。 そうだよね、親がいるからね。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品