廃クラさんが通る
010 カテドラさんがんばる
この日は俺がログインした時にはカテドラさんがログインしていて、 I D を攻略中だった。 ギルドメンバーリストでIDの名前を見てみると、どうやら難易度は獄らしい。
TFLOの I D には難易度が通常のものに加えて真版、さらにその上には獄という超絶難易度 I D もある 俺が手を出せるのは、せいぜい真まで。 とても獄なんて手を出そうなんて気すら起こらない。
カテドラさんがIDを攻略してる間に、他の二人のACメンバーも相次いでログインしてきた。 カテドラさんがまだID攻略中だが、ACメンバーが全員同時にログインしたのは久しぶりだ。 その間三人はいつも通りたわいもない話をしながらそれぞれの活動をする。 しばらくすると、カテドラさんのID攻略が終わったようで挨拶をしてきた。
Cathedra:みなさん、こんばんはSelfish:おっすJill:おはよ~Sky:おはようJill:キャシー、インフェルノはクリアできた?Cathedra:ええ、おかげさまで。欲しい装備はドロップしませんでしたけど
このゲームで大切なのはやはり運。 プレイヤースキルがいくら高かろうが、運が良くなければ目当てのアイテムは入手出来ない。 当たり前のことだけど。
Jill:そうか~、うちもいつか行きたいんやけどねぇCathedra:いいですよ。一緒に行きましょうか? せっかくでしたら皆さんも一緒にJill:う~ん、うちはラグがあるし、みんなに迷惑かけちゃうといけないからな~Selfish:俺はみんなで行くならいつでも行ってもいいが、インフェルノは全く行くつもりがなかったから全然予習すらしていないぞ?
セルフィッシュさんですら尻込みをする獄。 まあ、そういった最難関コンテンツを捨てたからこそ製作を極めし者になったんだろうけど。
Sky:俺はハードですらいっぱいいっぱいだからなぁCathedra:そうですか。今日は職場の同僚や上司などと行ったのですが、その人達とならなんとかなるかとも思ったのですけどSelfish:とりあえず俺はパスだ。わざわざありがとうな、カテドラJill:うちもいつかラグがなくなったらそのときは頼むね、キャシ~Sky:うん、いつも気にかけてくれてありがとうね、カテドラさん
職場の同僚って人たちが気になるけど、聞いたらまずいよな。 きっと看護師の人たちとか看護師長とかそういう人たちなんだろうけど。 看護師の人たちはネトゲ率高いってどっかで見た気がしたけど、だとしたらその話は本当だったのかな?
Jill:ところでキャシー、同僚の人たちがそんなにいるのになんでこっちのギルドを選んだん?
おい、ジル! ……っていいのか? 別に仕事の内容こと聞いたわけでもないし。
Cathedra:そうですね、最初に誘われたのがあなた方お二人だったからでしょうか? 抜ける理由もないですしSelfish:そうか、すまないな。俺たちが一緒にエンドコンテンツ行けたら良かったんだがCathedra:いえいえ、謝るのはこちらの方ですよ。私の仕事が不規則なせいで皆さんとご一緒出来ないで
なるほど、あまり考えたことなかったけど、セルフィッシュさんが製作メインでやってるのはこれが理由だったんだな。 あまり時間が合わないカテドラさんと、ラグを気にしてなかなか上位コンテンツに行けないジル。 やろうと思えばマッチング機能もあるから一人でだって獄とか最難関コンテンツには行けるんだろうけど、二人に合わせているんだろうな。たぶん。
Cathedra:でもせっかく久しぶりに四人そろったのですから、インフェルノではなくてもどこか適当に行ってみませんか?Selfish:そうだな。どこかハードをランダムで回してみるかJill:うん、行こうSky:そうしようか、あまり自信ないけど
カテドラさんがギルドハウスに入ってくると
JillはCathedraに抱きついた
例によってジルはカテドラさんに抱きつく。 カテドラさんはフードをかぶり、青い光の筋が入ったローブを着ている。 獄で手に入れたであろう装備なんだろうけど見た目も非常に格好いい。 セルフィッシュさんが製作で作れる装備は最難関コンテンツで手に入る装備にかなわないと言っていたが、見た目からしてすでに差が付いている。 セルフィッシュさんにパーティに誘われ、それに加わると続けて他の二人も加わり、最小限パーティとなる。 俺のメイン戦闘職は魔剣士、近接攻撃職だ。 大剣を振り回すのが格好いいという理由だけで決めたんだけど、隙が大きく敵の範囲攻撃に対応しきれなかったり、防御を捨てて捨て身で攻撃しているときに限って攻撃を食らったりすることが多かったりと、魔剣士を選んだことに今はちょっと後悔している。 ただ単に俺の操作技術が足りないというだけなんだろうけど……。 ジルは魔導銃士、魔力を込めた弾丸を放つ銃を使う遠隔攻撃職だ。 元々精霊使いをやってたらしいけど、ラグで「むーたん」が暴走するため、操作が難しくなく、敵の攻撃もラグがあったとしても比較的避けやすい魔導銃士にしたらしい。 ちなみにむーたんは決して山に捨ててきたわけではないと、この前PBCを見た後に聞いた。 カテドラさんがいないときは流儀切替で回復職寄りの魔導銃士になることもある。 ちなみに俺の魔剣士も流儀切替で盾よりにすることは出来るが、本職にはやはり敵わない。 あくまで流儀切替は本職の役割が戦闘不能になったときなどに一時的に対応することを想定した仕様なので本職には敵わないようになっている。 ただ、それも獄をやる場合のことで、真程度なら流儀切替して戦ってもなんら問題はない。 というか、真は流儀切替した戦闘職を基準にして難易度を調整しているという話なので、流儀切替なしで挑めば普通にクリア出来る難易度にはなっている。 セルフィッシュさんは聖騎士で盾、カテドラさんは司祭で回復職だ。 ちなみに聖騎士は流儀切替で回復職に、司祭は遠隔攻撃職よりになることが出来る。
Selfish:よし、それじゃランダムで登録するぞJill:準備OKだよCathedra:はい、行きましょうSky:こっちもいつでもおk
俺が発言した後すぐに「しゃきーん!」とパーティがマッチングしたときの効果音が鳴る。 俺が一人でマッチング登録をしたときは10分とか、長いときは30分以上待つときもあるんだが、攻撃職は本当につらい。
突入のボタンを押下すると画面が暗転。 さて、どこになるのか。 読み込みが開けると、熱波で周りがゆがんで見える。 遠くには火山、脇には溶岩の川が流れている。
Selfish:ルルド火山か、それほど難しいところでもないし、大丈夫だろう
いや、俺ここ苦手なんだけど……。道中噴石が落ちてくるし、最後のボスに舞台から落とされるし……
カテドラさんが防御力上昇の呪文を唱え、上方効果がかかったのを確認すると、セルフィッシュさんが走り出す。
Jill:GO!
ジルを始め俺たちはセルフィッシュさんの後についていく。 毎度のことながらジルの挙動は怪しい。 立ち止まっては猛ダッシュ――また立ち止まっては猛ダッシュ――と、俺たちはジルのこの挙動にはもう慣れたが、初見さんがこれを見たら面食らうんだろうな。 その昔あったという「むーたん」の暴れっぷりも何となく想像できる。 道中、空中に浮かぶ風船状の妖異、生まれつきなのか、寄居虫のように他から借りてきたものなのかはわからないが、岩石のような鉱質の外殻をまとう蜘蛛のような甲虫、溶岩の中に棲み着く液状の怪異などが俺たちの前に立ちはだかる。
敵は2~3匹程度で固まっていて、それを盾役が敵視を集め、他のPCに攻撃が向かないように気をつけつつ各個撃破していくことになる。 その固まりを引っ張ってもう一つの2~3匹の固まりと同時にまとめて倒していくやり方もあるのだが、俺はそのやり方はどうにも苦手だ。 そもそも魔剣士は複数の敵を同時に攻撃する手段が少なく、その少ないながらも唯一ある範囲攻撃は威力は大きいが隙も大きいので敵の攻撃を避けづらい。 道中噴石が降ってきて、それも避けないといけないこのルルド火山と魔剣士はとても相性が悪いのだ。 セルフィッシュさんもそれをわかっているのか、まとめずに一固まりずつ戦ってくれている。 俺たちはその固まりのモンスターを一つ一つ攻撃して倒していく、途中噴石が降ってくるのだが、それは地面に丸い円の予兆が出るので、予兆が表示されている制限時間内に避ける必要がある。 セルフィッシュさんが一固まりずつ戦ってくれているため俺は一匹一匹への攻撃に集中できるので噴石が俺を狙ってきてもなんとか避けることができる。 ジルもたびたび狙われるのだが、危なっかしいながらもなんとか避ける。 道中はボス戦に向けての練習のようなものだから、予兆が出ている時間も少し長めになっている。 本番はあくまでボス戦だ。 セルフィッシュさんの配慮などもあって、ボス戦までは特に危なげもなく行くことができた。 画面が暗転し、親玉が登場する映像演出が入る。
空中に浮いた核が周りの岩石を引き寄せるとゴツゴツした岩石質の巨人が出来上がった。 太い腕と脚の寸胴な体型。 不格好だが筋骨隆々とは違った無骨で天然な力強さが感じられる。
いよいよルルド火山のボス、巨人戦だ。範囲攻撃を行わないボスはまずいないのだが、巨人は範囲攻撃の塊。 しかも後半は戦闘区域から押し出す攻撃までしてくる。 戦闘区域から押し出され、落下死したPCは蘇生も復帰も不可能。 巨人を倒してクリアするか、パーティが全滅して再戦闘になるまで行動不能になるのだ。
Selfish:よし! みんな気合い入れていけ!Selfishは気合いを入れた。
カテドラさんの防御力上昇の呪文の詠唱が終わると
Selfish:いくぞ!
セルフィッシュさんが巨人向かって飛び出す。
戦闘が始まるといきなり俺は範囲攻撃の的にされ、地面に攻撃の予兆が表示される。 攻撃を仕掛ける前だったから俺は難なく避けることはできたが、ジルが吸い込まれるようにその攻撃を食らう。 う~ん、普通避けられない範囲攻撃じゃないんだけど、やっぱりラグがあると厳しいんだなぁ……。 その後もちょくちょく範囲攻撃を食らうジル。 ジルほどではないけど俺も時折範囲攻撃を食らう。 俺たちが攻撃を食らう度にカテドラさんの回復魔法が飛んでくる。 俺たちを回復しつつ、もちろん盾であるセルフィッシュさんの回復も疎かにはしない。 さすが獄を攻略することの出来る 腕 前 だけのことはある。 俺たちがもっと上手ければカテドラさんも楽なんだろうけど、カテドラさんには本当に迷惑かけっぱなしだ。 それでもなんとか巨人のHPを削っていくと段階が進み、ボスが本気を出してきた。
さて、ここからだ。
巨人が戦闘区域の中央に移動、力を溜める仕種をする。 それを見てみんなが一斉に巨人のところに駆け寄る。
「ウガアアアアアアアア!!!!!!」
巨人が叫び腕を大きく掲げ、力を開放すると俺たちは大打撃を受けるとともに戦闘区域の外周側に吹き飛ばされる。
これは何回か戦った俺たちはわかっていることだけど、初めての場合たいてい落とされる。俺も初めての時は落とされた。 TFLOはこんな初見殺しな仕掛けが本当に多い。
ジルは出足が遅かったせいか戦闘区域ギリギリまで吹き飛ばされた。 カテドラさんは急いで中央まで戻り、範囲回復をする。 ――が、ジルが範囲から漏れる。 そこに運悪くジルに向かって範囲攻撃が飛んでくる。そしておそらくジルはかわしたつもりであっただろうが見事にそれを食らた。 HPが0になり、ジル、戦闘不能。
Jill:あーもうなにゃねん!
「n」が一つ足りない。翻訳をすると「あーもうなんやねん!」だ。
カテドラさんがすかさず蘇生の呪文を唱える。 詠唱に時間がかかるのでセルフィッシュさんへの回復が疎かになる。 それを察してセルフィッシュさんは防御力上昇の極意を使用、巨人の攻撃を耐える。 俺は攻撃を食らってカテドラさんに迷惑をかけないように回避に専念。 ちょっと攻撃が疎かになるけどしょうがないよね?。 カテドラさんの詠唱が終わるとジルに蘇生の効果がかかりジルが蘇生する。
Jill:ありがとうキャシー
HPが少ない状態で蘇生したジルに対してカテドラさんはすかさず回復魔法をかけ、さらに防御上昇の魔法もかける。 一方セルフィッシュさんも防御力上昇の効果が切れHPが低下、ちょっと危機的状況。 しかしカテドラさんは再使用時間が長いため使用制限のある最大回復魔法を使い一気にセルフィッシュさんを回復。 なんとか危機的状況を乗り切った。
よし、体勢が立て直ったし大丈夫かな?
俺は攻撃力上昇の極意を使用、一気にたたみ込む。 巨人のHPが徐々に削られていき、あと一息で倒せそうだ。「しゃきーん!」と連係奥義のゲージが貯まった効果音が鳴る。 連係奥義とはパーティを組んでいると使える技で、パーティ中連係奥義のゲージが戦闘行為により溜まっていく。 それを溜めて上限に達すると連係奥義という特殊な奥義が使えるのだ。
よし、終局だ! 俺は L B の手順命令を押下。
Sky:みんなの力を俺に貸してくれ!
俺の持つ大剣に光が集まり俺は大きくジャンプをする。 光は闇の炎となり大剣から黒い炎が迸る。
Sky:これでおわりだあああああああああ!!!!!!!
手順命令による俺の絶叫が響き渡り、俺は渾身の一撃をたたき込む。 闇が覆い尽くす演出が発生、巨人に大打撃を与えた。
よし! やった!
――かに思われたが巨人のHPがわずかに残り、踏み留まる。 そして巨人が振り向き岩石のように太い腕を振り上げると、俺に向かって直線範囲攻撃の予兆が出た。 俺は当然全力で避けようとした――が L B の硬直で動けず見事に直撃。 「どか~ん」と戦闘区域の外まで吹っ飛ばされ、そのまま奈落へ落下し、戦闘不能。
Sky:あ~、あとちょっとだったのに
しかし残りの体力を他のみんなで削りきり巨人を攻略しきった。
「ウボァー」
巨人が断末魔を上げて倒れ霧散する映像演出が入る。 そして画面に表示される『COMPLETE!』の文字。 無事クリアだ。 俺は落ちたままだけど。
Selfish:よし、みんなよくやった!Jill:ぐっじょぶCathedra:お疲れ様でしたSky:おつかれさま
俺は復帰のボタンを押下し復活してみんなのいる戦闘区域に戻った。 セルフィッシュさんがクリア報酬の宝箱を開けると、武器と防具がそれぞれ一つずつ、それに加えて製作用素材が二つ入っていた。
Selfish:レアは出なかったけど、まあまあの報酬だなCathedra:ここのハードだと装備も素材も型落ちですけどね
いや、型落ちっていっても今出た装備、今俺が装備しているやつより強いよ?
Selfish:そうでもないぞ、ここは最近あまり挑戦する輩が少ないからか、素材は値上がり気味だからな
さすがセルフィッシュさん、経済の動向には目敏い。
Jill:とりあえずロットしとこう
俺も報酬のアイテムの抽選をする。武器は拳士用だが、防具は魔剣士用だから優先して抽選できる。 そして抽選の結果、武器はジル、防具は俺、素材二つはセルフィッシュさんがそれぞれゲットした。
Jill:あれ? キャシーはパスしたの?
報酬が必要なければ抽選はパスをすることもできる。
Cathedra:ええ、私には必要のないものでしたからSelfish:そうか、素材はマケに流せばそこそこの値段にはなるだろうに。俺が買い取ってもよかったし
そして俺たちは脱出地点から I D を退出。
Sky:ジルは今日も範囲喰らいまくりだったねJill:うちの画面だと全部避けてるんやけどねえSelfish:スカイもなかなかの喰らいっぷりだったぞ。特に最後はマクロも含めて見事な散り様だったSky:あれはLBの硬直で動けなかったんだからしょうがないでしょJill:どこかの石油王でもオーストラリアにサーバー作ってくれればうちもラグなしでプレイできるんやろうけどねえCathedra:サーバーの設置にはお金がかかりますからね。設置したとしても維持費もかかりますし、オーストラリアでどれだけの人がTFLOをプレイしてくれるかにもよりますねSelfish:もしオーストラリアにサーバーができたらジルはそっちのサーバーに移籍するのか?
TFLOは全世界で展開しているMMORPGで日本、アメリカ、ヨーロッパにぞれぞれ主要なサーバーがあり、サーバーを超えて同じ世界での同時プレイは出来ない。 違うサーバーで遊んでいるPCが同じ世界で一緒にプレイするにはサーバーの移籍が必要になる。
Jill:う~ん、そうなんよね。移籍するとみんなと一緒にプレイ出来なくなっちゃうんだよね。とりあえず今はそんなこと考えられないし、もしオーストラリアにサーバーできたらその時にあらためて考えるわ
俺もジルのいないACは考えられない、もし本当にオーストラリアにサーバーができたらどうなるかなんて、その後のことはあまり考えたくない。
俺が加入してから何一つ変わっていない、ギルドACのみんなとのいつも通りの活動。 そんないつも通りの活動がいつも通り続き、夏休みも終わろうかというある日になって突然――
――毎日欠かさずログインしていたジルが何の前触れもなく突然ログインしなくなった。
TFLOの I D には難易度が通常のものに加えて真版、さらにその上には獄という超絶難易度 I D もある 俺が手を出せるのは、せいぜい真まで。 とても獄なんて手を出そうなんて気すら起こらない。
カテドラさんがIDを攻略してる間に、他の二人のACメンバーも相次いでログインしてきた。 カテドラさんがまだID攻略中だが、ACメンバーが全員同時にログインしたのは久しぶりだ。 その間三人はいつも通りたわいもない話をしながらそれぞれの活動をする。 しばらくすると、カテドラさんのID攻略が終わったようで挨拶をしてきた。
Cathedra:みなさん、こんばんはSelfish:おっすJill:おはよ~Sky:おはようJill:キャシー、インフェルノはクリアできた?Cathedra:ええ、おかげさまで。欲しい装備はドロップしませんでしたけど
このゲームで大切なのはやはり運。 プレイヤースキルがいくら高かろうが、運が良くなければ目当てのアイテムは入手出来ない。 当たり前のことだけど。
Jill:そうか~、うちもいつか行きたいんやけどねぇCathedra:いいですよ。一緒に行きましょうか? せっかくでしたら皆さんも一緒にJill:う~ん、うちはラグがあるし、みんなに迷惑かけちゃうといけないからな~Selfish:俺はみんなで行くならいつでも行ってもいいが、インフェルノは全く行くつもりがなかったから全然予習すらしていないぞ?
セルフィッシュさんですら尻込みをする獄。 まあ、そういった最難関コンテンツを捨てたからこそ製作を極めし者になったんだろうけど。
Sky:俺はハードですらいっぱいいっぱいだからなぁCathedra:そうですか。今日は職場の同僚や上司などと行ったのですが、その人達とならなんとかなるかとも思ったのですけどSelfish:とりあえず俺はパスだ。わざわざありがとうな、カテドラJill:うちもいつかラグがなくなったらそのときは頼むね、キャシ~Sky:うん、いつも気にかけてくれてありがとうね、カテドラさん
職場の同僚って人たちが気になるけど、聞いたらまずいよな。 きっと看護師の人たちとか看護師長とかそういう人たちなんだろうけど。 看護師の人たちはネトゲ率高いってどっかで見た気がしたけど、だとしたらその話は本当だったのかな?
Jill:ところでキャシー、同僚の人たちがそんなにいるのになんでこっちのギルドを選んだん?
おい、ジル! ……っていいのか? 別に仕事の内容こと聞いたわけでもないし。
Cathedra:そうですね、最初に誘われたのがあなた方お二人だったからでしょうか? 抜ける理由もないですしSelfish:そうか、すまないな。俺たちが一緒にエンドコンテンツ行けたら良かったんだがCathedra:いえいえ、謝るのはこちらの方ですよ。私の仕事が不規則なせいで皆さんとご一緒出来ないで
なるほど、あまり考えたことなかったけど、セルフィッシュさんが製作メインでやってるのはこれが理由だったんだな。 あまり時間が合わないカテドラさんと、ラグを気にしてなかなか上位コンテンツに行けないジル。 やろうと思えばマッチング機能もあるから一人でだって獄とか最難関コンテンツには行けるんだろうけど、二人に合わせているんだろうな。たぶん。
Cathedra:でもせっかく久しぶりに四人そろったのですから、インフェルノではなくてもどこか適当に行ってみませんか?Selfish:そうだな。どこかハードをランダムで回してみるかJill:うん、行こうSky:そうしようか、あまり自信ないけど
カテドラさんがギルドハウスに入ってくると
JillはCathedraに抱きついた
例によってジルはカテドラさんに抱きつく。 カテドラさんはフードをかぶり、青い光の筋が入ったローブを着ている。 獄で手に入れたであろう装備なんだろうけど見た目も非常に格好いい。 セルフィッシュさんが製作で作れる装備は最難関コンテンツで手に入る装備にかなわないと言っていたが、見た目からしてすでに差が付いている。 セルフィッシュさんにパーティに誘われ、それに加わると続けて他の二人も加わり、最小限パーティとなる。 俺のメイン戦闘職は魔剣士、近接攻撃職だ。 大剣を振り回すのが格好いいという理由だけで決めたんだけど、隙が大きく敵の範囲攻撃に対応しきれなかったり、防御を捨てて捨て身で攻撃しているときに限って攻撃を食らったりすることが多かったりと、魔剣士を選んだことに今はちょっと後悔している。 ただ単に俺の操作技術が足りないというだけなんだろうけど……。 ジルは魔導銃士、魔力を込めた弾丸を放つ銃を使う遠隔攻撃職だ。 元々精霊使いをやってたらしいけど、ラグで「むーたん」が暴走するため、操作が難しくなく、敵の攻撃もラグがあったとしても比較的避けやすい魔導銃士にしたらしい。 ちなみにむーたんは決して山に捨ててきたわけではないと、この前PBCを見た後に聞いた。 カテドラさんがいないときは流儀切替で回復職寄りの魔導銃士になることもある。 ちなみに俺の魔剣士も流儀切替で盾よりにすることは出来るが、本職にはやはり敵わない。 あくまで流儀切替は本職の役割が戦闘不能になったときなどに一時的に対応することを想定した仕様なので本職には敵わないようになっている。 ただ、それも獄をやる場合のことで、真程度なら流儀切替して戦ってもなんら問題はない。 というか、真は流儀切替した戦闘職を基準にして難易度を調整しているという話なので、流儀切替なしで挑めば普通にクリア出来る難易度にはなっている。 セルフィッシュさんは聖騎士で盾、カテドラさんは司祭で回復職だ。 ちなみに聖騎士は流儀切替で回復職に、司祭は遠隔攻撃職よりになることが出来る。
Selfish:よし、それじゃランダムで登録するぞJill:準備OKだよCathedra:はい、行きましょうSky:こっちもいつでもおk
俺が発言した後すぐに「しゃきーん!」とパーティがマッチングしたときの効果音が鳴る。 俺が一人でマッチング登録をしたときは10分とか、長いときは30分以上待つときもあるんだが、攻撃職は本当につらい。
突入のボタンを押下すると画面が暗転。 さて、どこになるのか。 読み込みが開けると、熱波で周りがゆがんで見える。 遠くには火山、脇には溶岩の川が流れている。
Selfish:ルルド火山か、それほど難しいところでもないし、大丈夫だろう
いや、俺ここ苦手なんだけど……。道中噴石が落ちてくるし、最後のボスに舞台から落とされるし……
カテドラさんが防御力上昇の呪文を唱え、上方効果がかかったのを確認すると、セルフィッシュさんが走り出す。
Jill:GO!
ジルを始め俺たちはセルフィッシュさんの後についていく。 毎度のことながらジルの挙動は怪しい。 立ち止まっては猛ダッシュ――また立ち止まっては猛ダッシュ――と、俺たちはジルのこの挙動にはもう慣れたが、初見さんがこれを見たら面食らうんだろうな。 その昔あったという「むーたん」の暴れっぷりも何となく想像できる。 道中、空中に浮かぶ風船状の妖異、生まれつきなのか、寄居虫のように他から借りてきたものなのかはわからないが、岩石のような鉱質の外殻をまとう蜘蛛のような甲虫、溶岩の中に棲み着く液状の怪異などが俺たちの前に立ちはだかる。
敵は2~3匹程度で固まっていて、それを盾役が敵視を集め、他のPCに攻撃が向かないように気をつけつつ各個撃破していくことになる。 その固まりを引っ張ってもう一つの2~3匹の固まりと同時にまとめて倒していくやり方もあるのだが、俺はそのやり方はどうにも苦手だ。 そもそも魔剣士は複数の敵を同時に攻撃する手段が少なく、その少ないながらも唯一ある範囲攻撃は威力は大きいが隙も大きいので敵の攻撃を避けづらい。 道中噴石が降ってきて、それも避けないといけないこのルルド火山と魔剣士はとても相性が悪いのだ。 セルフィッシュさんもそれをわかっているのか、まとめずに一固まりずつ戦ってくれている。 俺たちはその固まりのモンスターを一つ一つ攻撃して倒していく、途中噴石が降ってくるのだが、それは地面に丸い円の予兆が出るので、予兆が表示されている制限時間内に避ける必要がある。 セルフィッシュさんが一固まりずつ戦ってくれているため俺は一匹一匹への攻撃に集中できるので噴石が俺を狙ってきてもなんとか避けることができる。 ジルもたびたび狙われるのだが、危なっかしいながらもなんとか避ける。 道中はボス戦に向けての練習のようなものだから、予兆が出ている時間も少し長めになっている。 本番はあくまでボス戦だ。 セルフィッシュさんの配慮などもあって、ボス戦までは特に危なげもなく行くことができた。 画面が暗転し、親玉が登場する映像演出が入る。
空中に浮いた核が周りの岩石を引き寄せるとゴツゴツした岩石質の巨人が出来上がった。 太い腕と脚の寸胴な体型。 不格好だが筋骨隆々とは違った無骨で天然な力強さが感じられる。
いよいよルルド火山のボス、巨人戦だ。範囲攻撃を行わないボスはまずいないのだが、巨人は範囲攻撃の塊。 しかも後半は戦闘区域から押し出す攻撃までしてくる。 戦闘区域から押し出され、落下死したPCは蘇生も復帰も不可能。 巨人を倒してクリアするか、パーティが全滅して再戦闘になるまで行動不能になるのだ。
Selfish:よし! みんな気合い入れていけ!Selfishは気合いを入れた。
カテドラさんの防御力上昇の呪文の詠唱が終わると
Selfish:いくぞ!
セルフィッシュさんが巨人向かって飛び出す。
戦闘が始まるといきなり俺は範囲攻撃の的にされ、地面に攻撃の予兆が表示される。 攻撃を仕掛ける前だったから俺は難なく避けることはできたが、ジルが吸い込まれるようにその攻撃を食らう。 う~ん、普通避けられない範囲攻撃じゃないんだけど、やっぱりラグがあると厳しいんだなぁ……。 その後もちょくちょく範囲攻撃を食らうジル。 ジルほどではないけど俺も時折範囲攻撃を食らう。 俺たちが攻撃を食らう度にカテドラさんの回復魔法が飛んでくる。 俺たちを回復しつつ、もちろん盾であるセルフィッシュさんの回復も疎かにはしない。 さすが獄を攻略することの出来る 腕 前 だけのことはある。 俺たちがもっと上手ければカテドラさんも楽なんだろうけど、カテドラさんには本当に迷惑かけっぱなしだ。 それでもなんとか巨人のHPを削っていくと段階が進み、ボスが本気を出してきた。
さて、ここからだ。
巨人が戦闘区域の中央に移動、力を溜める仕種をする。 それを見てみんなが一斉に巨人のところに駆け寄る。
「ウガアアアアアアアア!!!!!!」
巨人が叫び腕を大きく掲げ、力を開放すると俺たちは大打撃を受けるとともに戦闘区域の外周側に吹き飛ばされる。
これは何回か戦った俺たちはわかっていることだけど、初めての場合たいてい落とされる。俺も初めての時は落とされた。 TFLOはこんな初見殺しな仕掛けが本当に多い。
ジルは出足が遅かったせいか戦闘区域ギリギリまで吹き飛ばされた。 カテドラさんは急いで中央まで戻り、範囲回復をする。 ――が、ジルが範囲から漏れる。 そこに運悪くジルに向かって範囲攻撃が飛んでくる。そしておそらくジルはかわしたつもりであっただろうが見事にそれを食らた。 HPが0になり、ジル、戦闘不能。
Jill:あーもうなにゃねん!
「n」が一つ足りない。翻訳をすると「あーもうなんやねん!」だ。
カテドラさんがすかさず蘇生の呪文を唱える。 詠唱に時間がかかるのでセルフィッシュさんへの回復が疎かになる。 それを察してセルフィッシュさんは防御力上昇の極意を使用、巨人の攻撃を耐える。 俺は攻撃を食らってカテドラさんに迷惑をかけないように回避に専念。 ちょっと攻撃が疎かになるけどしょうがないよね?。 カテドラさんの詠唱が終わるとジルに蘇生の効果がかかりジルが蘇生する。
Jill:ありがとうキャシー
HPが少ない状態で蘇生したジルに対してカテドラさんはすかさず回復魔法をかけ、さらに防御上昇の魔法もかける。 一方セルフィッシュさんも防御力上昇の効果が切れHPが低下、ちょっと危機的状況。 しかしカテドラさんは再使用時間が長いため使用制限のある最大回復魔法を使い一気にセルフィッシュさんを回復。 なんとか危機的状況を乗り切った。
よし、体勢が立て直ったし大丈夫かな?
俺は攻撃力上昇の極意を使用、一気にたたみ込む。 巨人のHPが徐々に削られていき、あと一息で倒せそうだ。「しゃきーん!」と連係奥義のゲージが貯まった効果音が鳴る。 連係奥義とはパーティを組んでいると使える技で、パーティ中連係奥義のゲージが戦闘行為により溜まっていく。 それを溜めて上限に達すると連係奥義という特殊な奥義が使えるのだ。
よし、終局だ! 俺は L B の手順命令を押下。
Sky:みんなの力を俺に貸してくれ!
俺の持つ大剣に光が集まり俺は大きくジャンプをする。 光は闇の炎となり大剣から黒い炎が迸る。
Sky:これでおわりだあああああああああ!!!!!!!
手順命令による俺の絶叫が響き渡り、俺は渾身の一撃をたたき込む。 闇が覆い尽くす演出が発生、巨人に大打撃を与えた。
よし! やった!
――かに思われたが巨人のHPがわずかに残り、踏み留まる。 そして巨人が振り向き岩石のように太い腕を振り上げると、俺に向かって直線範囲攻撃の予兆が出た。 俺は当然全力で避けようとした――が L B の硬直で動けず見事に直撃。 「どか~ん」と戦闘区域の外まで吹っ飛ばされ、そのまま奈落へ落下し、戦闘不能。
Sky:あ~、あとちょっとだったのに
しかし残りの体力を他のみんなで削りきり巨人を攻略しきった。
「ウボァー」
巨人が断末魔を上げて倒れ霧散する映像演出が入る。 そして画面に表示される『COMPLETE!』の文字。 無事クリアだ。 俺は落ちたままだけど。
Selfish:よし、みんなよくやった!Jill:ぐっじょぶCathedra:お疲れ様でしたSky:おつかれさま
俺は復帰のボタンを押下し復活してみんなのいる戦闘区域に戻った。 セルフィッシュさんがクリア報酬の宝箱を開けると、武器と防具がそれぞれ一つずつ、それに加えて製作用素材が二つ入っていた。
Selfish:レアは出なかったけど、まあまあの報酬だなCathedra:ここのハードだと装備も素材も型落ちですけどね
いや、型落ちっていっても今出た装備、今俺が装備しているやつより強いよ?
Selfish:そうでもないぞ、ここは最近あまり挑戦する輩が少ないからか、素材は値上がり気味だからな
さすがセルフィッシュさん、経済の動向には目敏い。
Jill:とりあえずロットしとこう
俺も報酬のアイテムの抽選をする。武器は拳士用だが、防具は魔剣士用だから優先して抽選できる。 そして抽選の結果、武器はジル、防具は俺、素材二つはセルフィッシュさんがそれぞれゲットした。
Jill:あれ? キャシーはパスしたの?
報酬が必要なければ抽選はパスをすることもできる。
Cathedra:ええ、私には必要のないものでしたからSelfish:そうか、素材はマケに流せばそこそこの値段にはなるだろうに。俺が買い取ってもよかったし
そして俺たちは脱出地点から I D を退出。
Sky:ジルは今日も範囲喰らいまくりだったねJill:うちの画面だと全部避けてるんやけどねえSelfish:スカイもなかなかの喰らいっぷりだったぞ。特に最後はマクロも含めて見事な散り様だったSky:あれはLBの硬直で動けなかったんだからしょうがないでしょJill:どこかの石油王でもオーストラリアにサーバー作ってくれればうちもラグなしでプレイできるんやろうけどねえCathedra:サーバーの設置にはお金がかかりますからね。設置したとしても維持費もかかりますし、オーストラリアでどれだけの人がTFLOをプレイしてくれるかにもよりますねSelfish:もしオーストラリアにサーバーができたらジルはそっちのサーバーに移籍するのか?
TFLOは全世界で展開しているMMORPGで日本、アメリカ、ヨーロッパにぞれぞれ主要なサーバーがあり、サーバーを超えて同じ世界での同時プレイは出来ない。 違うサーバーで遊んでいるPCが同じ世界で一緒にプレイするにはサーバーの移籍が必要になる。
Jill:う~ん、そうなんよね。移籍するとみんなと一緒にプレイ出来なくなっちゃうんだよね。とりあえず今はそんなこと考えられないし、もしオーストラリアにサーバーできたらその時にあらためて考えるわ
俺もジルのいないACは考えられない、もし本当にオーストラリアにサーバーができたらどうなるかなんて、その後のことはあまり考えたくない。
俺が加入してから何一つ変わっていない、ギルドACのみんなとのいつも通りの活動。 そんないつも通りの活動がいつも通り続き、夏休みも終わろうかというある日になって突然――
――毎日欠かさずログインしていたジルが何の前触れもなく突然ログインしなくなった。
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