異世界転生した私の話を聞いて貰っていいですか?

白黒にゃんこ

疑問と謎

「ずっと泣きっぱなしで、すみませんでした。」

「泣いて良いって言ったの俺だし、気にすんな。」

あれから泣き続けて、二人に迷惑をかけてしまった。
泣き止むまで手を握ってくれて居たシンさんと、頭を撫でてくれたカインさん。
二人共、とても優しい人だと分かった。
でも、二人が何故この森の中にいるのか、"試験"とは何なのか、私は何も知らない。


私のお腹から"ぐ〜"と音がした。


恥ずかしい。
本日二回目の赤面である。

「もうそんな時間かー。腹が減る訳だ。」

窓の外を見ると、いつの間にか日が傾いて、オレンジ色の空になっていた。

「そんじゃ、飯にするか!あ、アイリも居るから三人分だな。」


そっか。今私は行方不明中だった。シア姉も行方不明なのに、私だけ帰るなんて出来ない。

「おい、シン。お前も手伝えよー。"本読みたいからパス"ってのは無しだぜー?」

「・・・。」

図星だったのか、シンさんは見るからに不機嫌そうなオーラを出している。

「ほら行くぞー。アイリは此処で待っててくれ。出来たら呼ぶからー。」

カインさんはそう言って、シンさんをズルズルと引きずる様に部屋から出て行ってしまった。




何もする事が無い私は、近くの本棚から適当に一冊の本を取り出した。
表紙には題名も絵も、何も書かれていない真っ白な本。
本を開くと、最初のページに文章が書かれていた。



ー貴女の名前は?ー



それだけだった。
他のページもめくって見たが、何も書かれておらず白紙ばかり。
一体この本は何なのだろうか?後で二人に聞いてみよう。


ふと、疑問に思う。

何故私は、この文字が読めた・・・・・・・・のか。

此処は前とは違う世界。当然文化は違うし、文字も違う。


孤児院では読み書きなんて教えて貰ってない。

一体、何故・・・?



ーこれは、僕と君だけの秘密。ー

ー約束だよ?ー



一瞬、何か大切な事を思い出した、気がする。
でも、何故か記憶全体が霞んで、朧げにしか分からない。
まるで、思い出さない様に、そう、鍵が掛かっている様な、そんな・・・





「おーい、飯出来たぞー。」


カインさんの声が聞こえた。
気が付いたら窓の外はもう暗い。随分と時間が経ってしまった様だ。
私は先程感じた疑問を頭の隅に追いやり、本を置いて部屋を出た。





部屋を出ると、食欲をそそる良い匂いがした。

「お、来たか。こっちだ、こっちー。」

ひょっこりと、カインさんが廊下の奥から顔を出した。
進んで行くと、美味しそうな料理がテーブルに並べられていた。でも、三人分にしては量が多い様な・・・?

「すまん。ちょっと気合い入って、作り過ぎたんだ・・・。」

「だから作り過ぎじゃないか、って言ったのに・・・。」

「いや、お前も結構ノリノリだったよな?
つーか、お前の所為でもあるからな?」

文句を言っているカインさんを無視して、シンさんは席に座った。

「君も座ったら?
カインの料理は、取り敢えず食べれるレベルだから。」

「まるで俺が料理下手みたいな言い方するなよ!
あ、アイリ。遠慮しないで食ってくれ。おかわりもあるからな。」

空いている席に座る。
テーブルの右側にカインさん、左側にシンさんが座っている。

料理のメニューは、パン、スープ、サラダと、とてもシンプル。
スープは野菜がゴロゴロ入っているので、どちらかと言えばポトフに近いかも知れない。
どうやら野菜や料理名など、食べ物関連の名前は前の世界と同じらしい。謎だ。


「それじゃあ、神の恵みに感謝を。」


この世界では、食べる前に目を閉じて神に感謝してから食べ始めるらしい。孤児院でもそう教わったから、当たり前の事なのだろう。
そんな所は何処でも同じなんだ、と思った。

「いただきます。」

スープを一口、口に運ぶ。




「・・・美味しい。」


食べたらほっとする様な、そんな優しい味がした。

「なんか、新鮮だな。こうやって、感想言われると。」

「まぁ、たまには良いんじゃない?」

二人共照れている。二人で作っているんだから、お互いに感想とか言い合わないのだろうか?

「今回は珍しくシンが手伝ったからなー。お前本当にどうしたんだ?」

「別に・・・。」

「まさか、アイリに良い所を見せたかった、とか・・・?」

「カインには関係無いだろ。」

「それはどうかなぁ〜?」

ニヤニヤしているカインさんを、シンさんは睨みつけていた。
楽しそうにしている所悪いが、私は疑問に思っている事を聞いてみる事にした。

「あの、お二人の"試験"って、一体何なんですか?」



ぴたりと、時間が止まった。
二人が此方を見る。その目は暗く、二人の視線が痛い。
先程まで、あんなに騒がしくしていたのが、嘘の様に静まり返った。




「・・・・・・聞きたい?」



シンさんの言葉が、聞こえた。

初めて、二人が怖いと思った。
蛇に睨まれた蛙、なんて言葉が頭に浮かぶ。
冷や汗が、背筋を流れる。
ゴクリと生唾を飲み込んで、私は口を開いた。

「・・・はい。私は、お二人の事を、知りたいです。」

「そっか・・・。カイン。」

「俺は構わないけど・・・。お前は、良いのか?」

「大丈夫、平気。」

「・・・よし、分かった!
飯が食い終わったら、話すよ。」

「・・・はい。分かりました。」





初日のご飯は、少しだけ冷たくなった。

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