異世界転生した私の話を聞いて貰っていいですか?

白黒にゃんこ

そのコトバは

言われた通りに隠れた私は、本棚の隙間から様子を伺う事にした。

中に入って来たのはカインさんと、よく言えば体格の良い男の人だった。
着ている服は多分軍服、と言うやつだろう。濃い緑色でかっちりしている。しかし、お腹の脂肪で今にもボタンが弾けそうだ。
何の断りも無く部屋の椅子に座り、シンさんが淹れてくれていたお茶を飲む。

「お前達、分かっているだろうなぁ?」

声だけで、二人を見下している事が分かる。多分、偉い人なのだろう。二人共、立ったまま話を聞いている。

「今回の結果で、お前達の処分が決まる。」

「・・・話は、それだけでしょうか。」

カインさんの言葉を、男の人は鼻で笑った。

「お前は馬鹿か?好き好んでお前達の所になんぞ、来たくないわ。」

そう言って、表情を険しくさせた。

「近くにある孤児院から、黒髪の少女と青髪の少女が行方不明だ、と連絡があった。」

それって、もしかして・・・

「お前達の試験場の近くだからな。見つけ次第、孤児院に連れ戻せ。話はそれだけだ。」

そう言って男の人は席を立つ。部屋を出る直前に振り返り、男の人はとんでもない事を言った。

「そうそう。試験の期限なんだが、あと三日に変更だ。それと、行方不明者の捜索も追加だ。」

「そんな・・・無茶苦茶だ!只でさえ、今回は」「口答えをするな!」
カインさんの悲痛な言葉は、無理矢理遮られた。

「今回の試験はこの私が・・担当なのだからなぁ。もしかしたら、不合格にしてしまうかもなぁ?」

それは立派な脅しだった。ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべて、悔しそうにしているカインさんに圧力をかけている。



「もしも」


シンさんが唐突に口を開いた。男の人も、隣に居たカインさんも、其方に顔を向ける。

「もしも今回の試験を突破し、行方不明者を探し出したら、」

男の人の前へと、歩み出す。

「僕達を合格とし、僕達を認める、と言うことですよね?」

はっきりと言うその姿に、男の人も動揺してしまった。

「あ、あぁ、そうだ。だが、まぁ、お前達には最初から期待なんぞしとらんわ。これから本部に応援要請をするからな。」

「・・・分かりました。話はそれだけです。」

そう言ってシンさんは元の位置へと下がった。

「ふ、ふん!
これだから・・・・・は。」

そう呟きながら男の人は、部屋から出て行った。




「もう出て来ても良いよ。」

少し経ってから言われたシンさんの言葉に、私は従った。狭い場所から出られて、少しだけホッとする。

「ごめん、狭い場所に押し込めて。」

「あー、そこに居たんだな。じゃあ、全部聞かれちまった訳だ。」

カインさんがばつの悪そうな顔をした。

「私こそ、ごめんなさい。黒髪の少女は、多分私の事です。」

「まぁ、話聞いて何となく分かってた。それじゃ、青髪の少女って・・・?」

孤児院には、黒髪は私だけだった。そして、青髪も・・・。

「それは、シア姉、だと思います。綺麗な青髪は、シア姉だけだったから・・・。」

「・・・シア、姉?」

シンさんがコテンと首を傾げた。




・・・あ。何時もの様に呼んじゃった。


「あ、あの、違うんです、その、違わないけど、えっと、えーっと、」

頭がパニックになって上手く伝えられない。
もう、恥ずかしい。絶対顔真っ赤だ。

「アイリ、ちょっと深呼吸してみなー。はい、吸ってー、吐いてー。」

カインさんに言われた通りに深呼吸をする。
・・・やっと落ち着いた。

「落ち着いたかー?」

「はい、落ち着きました。あの、ごめんなさい。」

「別に気にしてねーよ。取り敢えず、話の続きを聞かせてくれ。」

私は二人にシア姉の事を話した。勿論、孤児院の事も。

「つまり、住んでる孤児院の神父様が怪しいから、シアンって言うまとめ役の子と一緒に色々調べてた、と。」

「大まかに言うと、そうなります。」

「・・・確かに、女の子ばかりは変だね。もしかしたら、何かの魔法で違和感を認識出来ない様にしているのかもしれない。」

魔法・・・やっぱりこの世界には存在しているのか。もしかして、二人も使えたりするのだろうか?

「まぁ、その話はここまでにして・・・。アイリ。お前はなんで俺達にこんな事を話してくれたんだ?」

先程とは打って変わって、真剣な表情で聞いて来たカインさん。

きちんと、話すしかない。

「私は、孤児院に来る前までの記憶を、余り覚えて無いんです。」

俯いて言った言葉を、二人共静かに聞いてくれた。

「孤児院の前で倒れて居た私を、シスターが見つけて、それから皆が優しくしてくれて。」

だから、だから、

「だから、私は、恩返しがしたいんです。」

もう、逃げない様に

「こんな得体の知れない私を、大切な家族だと言ってくれた、私の家族を、助けたいんです!!」

溢れてきた涙で視界がぼやけて、指で拭っても止まらなかった。雫が床に落ちて行く。
すると、手が横から掴まれる。

「目、擦ると痛くなるよ。」

シンさんだった。続いて頭にはカインさんの手が置かれた。私の頭を優しく撫で始める。

「今は思いっきり泣いとけ。・・・俺達しか居ないからさ。な?」

笑って言ってくれたその言葉に安心して、私はこの世界に来て初めて、人前で声を上げて泣いた。



 






そのコトバは、私に温もりをくれた

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