異世界転生した私の話を聞いて貰っていいですか?
孤児院の話
「今日から家族になるアイリちゃんです。仲良くしてあげてね。」
はーい。と口々に返事をする子ども達。
この時には、異世界に転生する前の記憶があった。
しかし、他の記憶はまだ思い出していない。
「それじゃ、シアン。よろしくね。」
「分かりました、シスター。」
シアンと呼ばれた少女が此方に近づいて来た。
私より少し身長が大きい少女は、笑顔で話しかけて来た。
「私の名前は、シアンって言うの。よろしくね、アイリちゃん。」
「・・・よろしく、お願いします・・・。」
「もう!他人行儀は無しよ。
私達はもう家族なんだから。ね?」
濃い青色の長い髪に、青紫色の眼。
第一印象は、明るくてしっかりした人だと思った。
私は彼女に、孤児院の中を案内してもらうことになった。
「アイリちゃんって何歳なの?」
「えっと、多分、9だった、と思います・・・。」
自分の年齢なんて、薄っすらとしか覚えていないのが本音だった。言葉も少したどたどしくなってしまったが、彼女は気にせずに話し出した。
「そうなの?
私はね、そろそろ11になるの。」
一番年上なのよ。と彼女は得意げに言った。
他愛ない話をしながら歩いていると、前から子どもが走って来た。
「シアねぇ、これみて!」
その子が手に持っていた物を、私達に見せた。
「あら、これどうしたの?」
 
その子が持っていたのは、草花で作られた指輪だった。
「えへへ〜。がんばってつくった!
シアねぇにあげる!」
一生懸命に作ったのか、笑いながら差し出したその手は泥だらけだった。彼女は笑顔で指輪を受け取る。
「ありがとう。でも、指先が切れてるわ。手を洗って、シスターに手当てしてもらいなさい。」
「うん。わかった!」
そう頷き、シスターの元へ走って行ってしまった。
「ごめんなさいね。あの子、何時もああなのよ。元気なのはいいことなんだけど・・・。」
溜息を吐いて、彼女は苦笑いをしていた。ふと、私は気が付いたことを尋ねた。
「・・・ここって、男の子がいないんですか?」
さっきの子も、出迎えてくれた子達も、全員女の子だった。
「・・・えぇ。そうなの。ちょっと来て。」
彼女に手を掴まれて外へ出る。
連れて来られたのは、孤児院の裏。
日が遮られているのか、少し薄暗い。
私達が歩いて行くと、そこに一本の大きな木が生えていた。
「此処、私のお気に入りの場所なの。」
そう言った彼女は木陰に座り込んだ。
私も一緒に座る。
おもむろに彼女は口を開いた。
「この孤児院、どう思う?」
静かに私に問いかけた。
「・・・はっきり言うと、可笑しいと思います。」
シスターが一人だけで、女の子が数人しかいない孤児院。
運営出来ているのが不思議なくらい、何もかもが不足している。
 
「そう・・・。もし、・・・神父様が、悪い人だったら、どうする?」
何故神父様の事を?
もしかして・・・
「シアンさん、何か知っているんですか?」
「えぇ、まぁね。・・・それよりも、その呼び方!」
突然、此方に顔を寄せてきた。頬が膨れていて、拗ねてる、いや怒っている?
「『シアンさん』なんて言わないで。私達は家族なんだから。他の子達みたいに、『シアねぇ』って呼んでいいのよ?」
「・・・シア、ねぇ?」
何でだろう、何故か懐かしい様な気がする。
「うん!
貴女も私の妹なんだから、頼っていいのよ。」
ー貴女は私の妹みたいなものなんだから、何かあったら遠慮なく頼りなさいー
今一瞬、何かを思い出した様な・・・?
頭が、痛い。
「アイリちゃん?大丈夫?
少し横になった方が良いわ。ううん、横になりなさい。膝を貸してあげるから。」
有無を言わさずに横にされ、膝枕をされた。
少し痛みがマシになった様な気がする。
「・・・ごめん、なさい。」
「別に良いのよ。多分、初めての所に来たから、疲れちゃったのね。少し眠るといいわ。」
よしよしと頭を撫でられて、私は目を閉じた。
しばらく経ち、私は孤児院に慣れた。
シアンさん、いや、シア姉に色々教えて貰ったり、子ども達から『アイねぇ』なんて呼ばれたりしながら過ごしていた。
シア姉以外の子達は、私よりも年下だった事に驚いた。
「私、アイリちゃんが来てくれて、本当に良かったと思ってるの。」
洗濯物を二人で干しながら、シア姉は言う。
「急にどうしたの?」
もう最初の頃の様な余所余所しさは無く、私達は本当の姉妹の様に仲が良くなった。
シア姉はその表情に不安の影を落としていた。
「アイリちゃん。あのね、私、聞いたの。・・・ミントちゃんの里親が見つかったって。」
ミントちゃんはシア姉に手作りの指輪をあげた子だ。
緑の髪に黄緑色の眼をしていて、何時も元気で明るい子だ。
「でもね、その里親の人・・・前にも他の子を、養子に受け入れているの・・・。これって、変よね?」
男の子なら分かる。自分の跡を継いでもらう為に、養子を迎えるなんて珍しい話でもない。子どもの居ない家なら仕方ないだろう。
しかし、同じ人が何人もの女の子を養子に迎えるなんて、変だと思う。それに・・・
「何で皆、疑問に思わないの?」
養子の話を皆知らないのだろうか?
子ども達ならまだしも、シスターなら知っている筈なのに、何も言ってこない。
「私にも分からない。でも、これだけは言えるわ。」
ーこのままじゃ、皆が危ないー
他の子も、もちろんミントちゃんも。
私達も、いつそんな話をされるか分からない。
「神父様が誰かと話をしているの、扉の前で聞いたの。・・・上物とか、何とか言ってたわ。」
この世界には人身売買とかがあるのだろうか?
生憎、情報が得られる物が何も無くて分からないけど、考えた方が良いかもしれない。
「アイリちゃん、私、怖い。皆、居なくなったら、私・・・。」
抱きついて来たシア姉を受け止める。
その身体は震えていた。
シア姉がこんなに弱気になっているのを、私は見たことが無い。
「大丈夫だよ。シア姉。大丈夫。」
背中をトントンと一定のリズムで叩き、優しく摩ってあげた。
声を殺して涙を流すシア姉に、
"私にも何か出来る事は無いのだろうか。"
そう思った。
そして私は思い出したのだ。
女神様から貰った力を。
こうして私は、自分を試すために森に入る決心をした。
こんな状況を何とか出来るのは、私だけなのだから。
はーい。と口々に返事をする子ども達。
この時には、異世界に転生する前の記憶があった。
しかし、他の記憶はまだ思い出していない。
「それじゃ、シアン。よろしくね。」
「分かりました、シスター。」
シアンと呼ばれた少女が此方に近づいて来た。
私より少し身長が大きい少女は、笑顔で話しかけて来た。
「私の名前は、シアンって言うの。よろしくね、アイリちゃん。」
「・・・よろしく、お願いします・・・。」
「もう!他人行儀は無しよ。
私達はもう家族なんだから。ね?」
濃い青色の長い髪に、青紫色の眼。
第一印象は、明るくてしっかりした人だと思った。
私は彼女に、孤児院の中を案内してもらうことになった。
「アイリちゃんって何歳なの?」
「えっと、多分、9だった、と思います・・・。」
自分の年齢なんて、薄っすらとしか覚えていないのが本音だった。言葉も少したどたどしくなってしまったが、彼女は気にせずに話し出した。
「そうなの?
私はね、そろそろ11になるの。」
一番年上なのよ。と彼女は得意げに言った。
他愛ない話をしながら歩いていると、前から子どもが走って来た。
「シアねぇ、これみて!」
その子が手に持っていた物を、私達に見せた。
「あら、これどうしたの?」
 
その子が持っていたのは、草花で作られた指輪だった。
「えへへ〜。がんばってつくった!
シアねぇにあげる!」
一生懸命に作ったのか、笑いながら差し出したその手は泥だらけだった。彼女は笑顔で指輪を受け取る。
「ありがとう。でも、指先が切れてるわ。手を洗って、シスターに手当てしてもらいなさい。」
「うん。わかった!」
そう頷き、シスターの元へ走って行ってしまった。
「ごめんなさいね。あの子、何時もああなのよ。元気なのはいいことなんだけど・・・。」
溜息を吐いて、彼女は苦笑いをしていた。ふと、私は気が付いたことを尋ねた。
「・・・ここって、男の子がいないんですか?」
さっきの子も、出迎えてくれた子達も、全員女の子だった。
「・・・えぇ。そうなの。ちょっと来て。」
彼女に手を掴まれて外へ出る。
連れて来られたのは、孤児院の裏。
日が遮られているのか、少し薄暗い。
私達が歩いて行くと、そこに一本の大きな木が生えていた。
「此処、私のお気に入りの場所なの。」
そう言った彼女は木陰に座り込んだ。
私も一緒に座る。
おもむろに彼女は口を開いた。
「この孤児院、どう思う?」
静かに私に問いかけた。
「・・・はっきり言うと、可笑しいと思います。」
シスターが一人だけで、女の子が数人しかいない孤児院。
運営出来ているのが不思議なくらい、何もかもが不足している。
 
「そう・・・。もし、・・・神父様が、悪い人だったら、どうする?」
何故神父様の事を?
もしかして・・・
「シアンさん、何か知っているんですか?」
「えぇ、まぁね。・・・それよりも、その呼び方!」
突然、此方に顔を寄せてきた。頬が膨れていて、拗ねてる、いや怒っている?
「『シアンさん』なんて言わないで。私達は家族なんだから。他の子達みたいに、『シアねぇ』って呼んでいいのよ?」
「・・・シア、ねぇ?」
何でだろう、何故か懐かしい様な気がする。
「うん!
貴女も私の妹なんだから、頼っていいのよ。」
ー貴女は私の妹みたいなものなんだから、何かあったら遠慮なく頼りなさいー
今一瞬、何かを思い出した様な・・・?
頭が、痛い。
「アイリちゃん?大丈夫?
少し横になった方が良いわ。ううん、横になりなさい。膝を貸してあげるから。」
有無を言わさずに横にされ、膝枕をされた。
少し痛みがマシになった様な気がする。
「・・・ごめん、なさい。」
「別に良いのよ。多分、初めての所に来たから、疲れちゃったのね。少し眠るといいわ。」
よしよしと頭を撫でられて、私は目を閉じた。
しばらく経ち、私は孤児院に慣れた。
シアンさん、いや、シア姉に色々教えて貰ったり、子ども達から『アイねぇ』なんて呼ばれたりしながら過ごしていた。
シア姉以外の子達は、私よりも年下だった事に驚いた。
「私、アイリちゃんが来てくれて、本当に良かったと思ってるの。」
洗濯物を二人で干しながら、シア姉は言う。
「急にどうしたの?」
もう最初の頃の様な余所余所しさは無く、私達は本当の姉妹の様に仲が良くなった。
シア姉はその表情に不安の影を落としていた。
「アイリちゃん。あのね、私、聞いたの。・・・ミントちゃんの里親が見つかったって。」
ミントちゃんはシア姉に手作りの指輪をあげた子だ。
緑の髪に黄緑色の眼をしていて、何時も元気で明るい子だ。
「でもね、その里親の人・・・前にも他の子を、養子に受け入れているの・・・。これって、変よね?」
男の子なら分かる。自分の跡を継いでもらう為に、養子を迎えるなんて珍しい話でもない。子どもの居ない家なら仕方ないだろう。
しかし、同じ人が何人もの女の子を養子に迎えるなんて、変だと思う。それに・・・
「何で皆、疑問に思わないの?」
養子の話を皆知らないのだろうか?
子ども達ならまだしも、シスターなら知っている筈なのに、何も言ってこない。
「私にも分からない。でも、これだけは言えるわ。」
ーこのままじゃ、皆が危ないー
他の子も、もちろんミントちゃんも。
私達も、いつそんな話をされるか分からない。
「神父様が誰かと話をしているの、扉の前で聞いたの。・・・上物とか、何とか言ってたわ。」
この世界には人身売買とかがあるのだろうか?
生憎、情報が得られる物が何も無くて分からないけど、考えた方が良いかもしれない。
「アイリちゃん、私、怖い。皆、居なくなったら、私・・・。」
抱きついて来たシア姉を受け止める。
その身体は震えていた。
シア姉がこんなに弱気になっているのを、私は見たことが無い。
「大丈夫だよ。シア姉。大丈夫。」
背中をトントンと一定のリズムで叩き、優しく摩ってあげた。
声を殺して涙を流すシア姉に、
"私にも何か出来る事は無いのだろうか。"
そう思った。
そして私は思い出したのだ。
女神様から貰った力を。
こうして私は、自分を試すために森に入る決心をした。
こんな状況を何とか出来るのは、私だけなのだから。
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