ハルバード使いは異世界を謳歌するそうですよ

超究極キグルミ

10 辛き思い出、決意の大技

 今からかなり昔の話になる。その時俺はまだ十歳だった。その時は両親と小さなボロアパートで三人仲良く暮らしていた。父は小さな工場の代表取締役、母は保育士だったので父はあまり家に戻ってこなくて母に付きっきりだった。それでも三人で暮らすのは苦ではなかった。あの日までは。
 その日は俺の誕生日で久々に休みがとれた父と部屋の飾りつけをしていた。日がくれる頃、飾りつけを終えた父と俺は母の帰宅がやけに遅いことに気がついた。父はかなりの心配性だったので慌てて母に連絡をとった。しかし、携帯にはいつまでたっても母の声が聞こえない。とうとう父と俺はアパートを出て母の職場に向かっていた。雪が降り、外は例年よりも冷え込んでいたが父と俺は必死になって保育園に行った。そして保育園に着いたとき、確かに母はいた。血まみれで倒れていた。父はすぐに救急車を呼んだ。俺は母を必死に揺らして母を呼んでいたらしい。それから数時間後、母は多量出血で死んだ。頭部を刃物で刺されていたらしい。父は泣いていたが俺はどうしようもなかった。そして父は言ったらしい。「お前はなんとしてでも生きてくれ。それが母さんと父さんの一番の頼みだ」と。その日から二日後、母を殺した犯人が捕まった。犯人は女性で保育士である母に恨みを持っていたらしい。
 その日からさらに四年がたったある日、父が血まみれで帰ってきた。刺された相手は四年前の女性だった。頭部を刃物で刺されていたらしい。その時俺は十四歳。心肺蘇生はできた。心肺蘇生をすれば死ぬ確率は大幅に減ると習った。だから俺は唯一の家族を失いたくない一心で心肺蘇生をした。しかし、大幅に減ると死なないは似て非なるもの。俺はその賭けに負けたのだろう。父は心肺蘇生で死んでしまった。その日も白い雪が降る日だった。だからその時に誓った。新しい家族、または恩人は体に溢れる全ての感情を怒りに変えてそいつを殺すと。たとえそれが法で裁かれても、周りから悪魔とか言われても。


 目が覚める。どうやら結構長く意識を失っていたらしい。幸い記憶はある。そしてもう一つ、あいつを消すこともわかる。体には氷の礫が刺さっているかと思っていたが予想以上に少ない。理由はすぐにわかった。

「コウヨウさん…大丈夫で、すか」

 ムラサキさんが身を盾にして氷の礫を弾いてくれていたらしい。ムラサキさんには俺の数倍の氷の礫が刺さっている。そして、刺さっているところからは血が流れている。

「ええ。…ムラサキさんは退いてください」
「嫌です」
「何故です?」
「だって、今日一日はコウヨウさんは彼氏ですから」
「はは、そうでしたね。ではなおさらです。退いてください」
「じゃあ私も聞きます。何故ですか?」
「簡単な話ですよ。ムラサキさんは今日一日限りの彼女です。なら、彼氏として当然のことをしますよ」
「コウヨウさん…!」
「さあ行ってください!出来れば増援お願いします」
「わかりました。絶対生きて帰ってください」

 そういうとムラサキさんは多少ふらつきながらも走っていた。さぁ、あいつには何倍にしても足りないほどの致命的ダメージを与えてやる。

「ぶち殺す」

 こんなに綺麗な街並みを血で汚したやつを、数々の人々を不安や恐怖に陥れたやつを、そして、ムラサキさんにあれだけの無茶をさせてやつを…ぶち殺す。

「正直これは使いたくなかったが…」

 魔法の手引き書の最後のページにあった、魔法フィニッシュ。自分の魔力を半分消費する代償に次の一撃を武器本来の攻撃力プラス今までの蓄積ダメージの和を五倍にする禁忌魔法。それを今解き放つ。

「フィニッシュッ!」

 瞬間思いっきり体から力が抜けた。一瞬倒れてしまいそうになるがなんとか食い止める。すると体の奥底から何かが沸き上がってくるような感じがした。実際には純粋な攻撃力なのだがわかっていても俺には別物に感じられる。それは…怒り。あの日の誓いを今ここで。全身全霊、全てを込めたハルバードの一撃。降り注ぐ氷の礫を駆け上がり同じ高度になった瞬間にアームコピーとポルガイスターを解除する。一本勝負の一撃。

赤き雪の日、原点にして終点天罰神一心不乱斬っ!」

 雪…氷の礫が降り注ぐ日。俺は正体不明の悪魔をこの手で斬り裂いた。斬り裂いた瞬間、空からは魔方陣と正体不明が消えて、空には太陽が上っていた。

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