根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜

雨猫

Ep3/act.15 サクラの新魔法


アスラは瞬間的に僕の目前に移動し、拳に炎を纏わせて殴りかかってきた。

「ちょっと待って!」
「あ?実戦に待つなんてねえぞ!」

僕は脊髄反射で、間一髪アスラの拳を交わした。地面に叩きつけられた拳の周りはコンクリートが溶け、フシューと煙を出しながら砕かれていた。

こんなもんマジでぶつけようとしたのか…。
僕は急いでストックしてある死体を力に変えた。

「【死体吸収デッドインヘイル】!」

「それが正解だ。お前は死体吸収デッドインヘイルして強化した肉体でないとこれからの強敵とは渡り合えない。人一倍攻防が弱いが、魔力レベルは他の転移者よりも桁違いに強い。魔力が上がれば死体吸収デッドインヘイルで消費する死体の数を抑えながら、人よりも強固な肉体に変えられる」

さて、と魔力解放したアスラは再び戦闘態勢に入った。

「もう一回食らってみろ!!」

再び瞬間的に僕の目前に移動し、拳に炎を纏わせて振るおうとしてきた。
しかし、今度はちゃんと見えた。自身強化により瞬発力も比例して上昇する。
今度はアスラの拳を見ながら避け、そのまま僕も腹にパンチをしようとしたが、アスラはユラっと体を曲げてあっさりと避けた。

「んー。やっぱお前体術はダメだ。へにゃちょこパンチすぎて無駄なモーションが多い。いくら死体吸収デッドインヘイルで自身強化してスピードが桁違いに上がっても、そんな隙ありすぎなパンチじゃ誰にも当てられない」

「そんなこと言われても…」

「頭を回せ。お前は近接はからっきしなんだ。それこそ魔法で補えばいい」

魔法で近接を補う。すごく難しそうなことを簡単に言ってくれる。
僕が分からない顔をしていると、アスラが手本を見せると言って構えた。

「少し痛いのは我慢しろよ」

そう言って先ほどと同じように瞬間的に僕の目前に移動し、炎を纏わせた拳を振るった。
僕は同じ攻撃だと安堵し、フラッと避けた。
その途端、僕のお腹にはじんわりと熱い感触が広がり、瞬く間に吹き飛ばされた。

「え…避けたのになんで…」
「今のは、避けられることを想定して拳から炎弾を出して攻撃したんだ」
「パンチして、その拳から炎弾を出す…」

なるほど、言葉では理解できても行動できるかはまた違った話だった。
僕は頭を悩ませた後に、よし、と気合を入れた。
昔あった、「こうした方がいい」と言う感覚が、今まさに膨らんできたのだ。

「試したいことがある」
「やってみろ」

僕たちは再び戦闘態勢に入った。

「行くよアスラ!」

僕はアスラに飛び掛かり、拳を振るった。
アスラはヒョイと避けてみせた。
手を開くと、そこには巨大な球が現れた。

「なんだこれ!?」

それは、濃い紫色に禍々しく渦巻いていた。
アスラは巨大な魔力を感知し、危機回避をしたが、腕だけ当たっていたようだ。

「い、痛くない?攻撃ではないのかな…」

僕が心配すると、アスラは答えた。

「多分だが、これは精力を吸収する球だな。暗黒円ブラックホールに似たような技だろう。違うとすれば、暗黒円ブラックホールは地面に広げて精力を奪えるが、空中に効果はない。これは、移動こそ出来ないが近付いて相手に当てる箇所が多ければ多いほど、その分精力を多大に奪えるだろう。暗黒円ブラックホールが下級ならこれは暗黒玉ブラックボール、中級魔法と言ったところだな」

こうして、僕の新魔法は一つ出来た。

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