根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜
Ep3/act.7 処刑人イフリート
僕らが休憩を挟んだ後、僕らとエルシオの兵士たち数名は王室へと集まった。
「英雄様方も揃ったところで、改めて姫君の奪還作戦の話をさせて頂きます」
王様の少し前に出て、先ほどの使いの人は話し始めた。兵士たちは真剣に聞いていた。
「姫エリシー様を攫ったのは魔族軍、低級魔人約40体と指揮官の魔人1体。指揮官の魔人は姫を攫った後我々に、『英雄を揃えて土の国ダミネスへ来い』と言っていました」
すると、シンスケさんは真剣な顔で返した。
「英雄を揃える、と言うのはセルヴィアで魔族軍を追い返した俺たちのことを指すのはみんな分かっていると思うが、それだと引っかからないか?俺たちは指揮官の魔人4体を蹴散らしたんだ。その連絡が魔族に届いていないわけがない。プラスでここエルシオでの転移者と、これから向かうダミネスでの転移者を俺たちの戦力に加算して、それでも俺たちを指名していると言うことは、指揮官以上の魔人が控えていると考えていい」
「あいつがいる気がする」
唐突にアスラが口を開いた。
「あいつって?」
それに対してシンスケさんが聞いた。
「私がいた頃の幹部で最強を誇った魔人、処刑人イフリート」
シンスケさんは青ざめた顔を浮かべた。
「でもよ、元魔族幹部のアスラと、魔力を取り戻したシンスケがいれば勝てるんじゃないか?」
エドさんは前向きに話を進めたが、シンスケさんの顔色は変わらなかった。
「状況を冷静に整理してみろ。元魔族幹部と言ってもアスラは魔力が回復していない。それから、俺が魔力を取り戻したからと言って、俺とアスラが力を合わせても敵う相手じゃないんだ。なにせ、俺たちの頃の転移者が集まっていた状態で、奴を倒すことは出来なかったんだ」
王室に集まる全員が黙り込んだ。
「イフリートは処刑人って通り名が付くくらい残忍な奴だ。サタンに対して異常なほどの忠義を示し、少しでもサタンに無礼なことをした魔族は片っ端から処刑する。魔族の中でも一際目立つ魔人なんだ」
シンスケさんは事の大きさからか、話を進める。
「アスラは戦いが好きな魔人だから、戦いを敢えて長引かせたり、少しずつ痛めつけたりしていた。それもそれで困ったもんだが、今回に関しては分が悪い。イフリートは戦いが好きなわけじゃないから、サタンに刃向かう俺らは見つけ次第瞬殺してくるだろう」
シンスケさんも黙り込んでしまった。
事実として、エルシオのお姫様が攫われてしまっている現状、打開策を考えなければならない。
見つかったらアウト。でも、お姫様の側に構えられたら見つからないわけにはいかない。
王様からは、強面ながらも不安な気持ちが感じ取れた。
長い静寂を破ったのはガゼルだった。
「その恐ろしい魔人のことは分からないけど、ガリアと戦ってた時のサクラはシンスケの魔力レベルより遥かに高かったよ」
「と言うとどのくらいだ?」
「まだこのアイテムがなかったから数値までは分からないけど、シンスケが総60000なら、その倍くらいはあったと思う」
アスラとシンスケさんは驚いていた。
僕にはその時の記憶が散漫としていて、実感が湧かなかった。
「獣人のガゼルが言うなら間違いないだろうが、それでも五分五分だ」
アスラは真剣に答えている。
「イフリートは総100000以上ある」
その場にいた全員が凍りついた。
しっかりした数値を言われると、頭の悪い僕でもとてつもない脅威であることが理解できた。
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