根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜

雨猫

Ep3/act.5 君のことも救いたい


しばらくして彼女は落ち着き、話を続けた。

「私ね、小さい頃からDVを受けてたの。お父さんからもお母さんからも」

小さい頃って言うのは幼稚園とかの話だろうか。それとも、いつでも笑顔で誰にでも優しかった小学生の頃だろうか。

「二人は、傷の見えない服に隠れる位置を巧妙に殴っていた。周りに気取られないよう、いつも笑顔でいるように言われてきた。学校から連絡があったら何されるか分からないから、誰にも相談できずに、ただ笑顔でいたの」

僕は額の汗を拭った。
天空で日差しが強いから、ってわけではない。
いつでも笑顔な背景にはそんな事実があったのだと知る由もなかった。

「それでね、この前定期テストがあったでしょ?私いつも3位以内を取るように言われてるのに、ちょっと友達と遊びすぎたのか6位に落ちてて、めちゃくちゃに物投げられて蹴られて…。もう嫌だって投げられた物を投げ返したら、頭に当たっちゃって血を流して倒れたの」

なんとも言えなかった。
けれど、真相を聞きたかったのだ。

「それで、本当に死んだの?」

「救急車で運ばれて、隊員の方はすごく危ない状況だって言ってたの。お父さんが付き添って行ったきり戻らなくて、私も嫌になって逃げ出した。悲しくて河原の橋の下で一人で泣いてるうちに寝ちゃって、気付いたら次の日の夕方になってて、それでも家に帰りたくなくてずっと一人で泣いてたらこっちの世界に来る扉が現れたの」

塔にこもっている理由も察せた。
正直、彼女を説得する気はもうなかった。

「望月さんは、ずっと一人で辛かったんだね。僕もずっと一人で、救いの手なんかなくて、逃げ出したい思いでこの世界に来たんだ」

「あ、君ってもしかして、よく校舎裏で泣いてた…。えぇっと、チビ太くん?」

「う、うん。まあイジメっ子たちから呼ばれてたアダ名だけどその通りだよ」

痛い記憶を突くなぁと思ったが、何故だか辛くは感じなかった。

「一度だけ話したことあるよね。小学生の頃にハンカチ渡したよね?なんか、記憶が曖昧だけど、たくましくなったね」

微かな記憶でも覚えててくれたことが何よりも嬉しかった。
彼女の心が少しでも軽くなるように、僕はそれだけ言い残して去ろうと思った。

「僕はこの世界に来て、僕のことを認めてくれた人が出来たんだ。その人たちが平和に暮らせるように、その人たちが笑顔になれるように、サタンを倒すことが僕たちの使命なら、それを叶えたいと思った。だから、いつか君のことも救いたい」

望月さんは一粒だけ涙を零した。
すぐに笑顔を取り戻して僕に告げた。

「あの泣き虫なチビ太くんにそこまで言われちゃ、クヨクヨしてる私がバカらしいよね」

彼女はハニカミながら話す。
僕をからかってるようで少しムッとしたが、彼女の笑顔に癒された。

「私も旅に連れて行ってよ」

説得する気はなかったのだが、彼女を一人きりにしたくない想いもあって、僕はありがとうと伝え、みんなの場所に連れて行った。

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