根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜

雨猫

Ep3/act.4 望月茜


小学生の頃に、一度だけ話したことがある。
誰にでも優しくて、気さくな女の子。
小中高とずっと一緒だったのに、恵まれず同じクラスになったことは一度としてなかった。
小学生の頃、イジメられて校舎裏で泣いていた時にハンカチを渡してくれた。
それっきり返すことも出来ず、話しかけてお礼を言うことすらできなかった。

「望月茜…ちゃん…」
「え、どうして私のことを…」

そう。覚えてるわけもないのだ。
カースト上位に君臨する彼女が、誰にでも優しく親しみ深い彼女が。
僕みたいな最下層の陰で生きてる人間など、目に写ってるはずもない。

「僕は前の世界で君と同じ学校に通ってたんだ。別のクラスだから知らなくて当然だけどね」

「すごいな、そんな偶然があるのか」

エドさんが割り込んで入ってくる。
後ろの方で王様の困ってる顔が見える。

「何はともあれ一緒に…」
「嫌」

空気を読んだ僕の発言は、彼女の一言によって掻き消された。

「ど、どうして…」
「教えない」

みんなも困り果てた顔をしていた。

「君になら話す。もし私を納得させられたら、私も一緒に行く」

何故か指名された僕。謎に重役を任された。
しかし、こんな異世界に来てようやく憧れの人と二人きりで話せるなんて、誠に不条理な人生だと思った。

塔に入り、誰にも聞き耳を立てられないように二階へと登った。
うわぁ、本当に二人きりじゃないか。

塔の二階も一階と大して変わらず、机と椅子がそこには並べられていた。
僕らは向かい合うように腰を下ろした。

「君から見た私ってどんな風だった?」

僕はいきなりの質問に少し戸惑う。
自分のありったけを叫び出したかったが、そんな勇気もなく静かに答えた。

「誰とでも仲良くて友達が多くて、情けないけど、羨ましく思ってたよ」

「そう」

会話が途切れた。そうって返されても…こっちから質問してもいいのだろうか。

しばらくの沈黙を破ったのは彼女だった。

「私ね、この世界に来る前、いやもうほんとに前日のことなんだけどね」

ゴクリと息を飲み込む。
彼女の瞳からは涙が溢れそうになっていた。

「お母さんを殺したの」

言葉の意味が理解できなかった。
いつも通りと言えばいつも通りなのだが。
彼女は泣き出してしまった。

僕には、この沈黙を破れる勇気はなかった。

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