根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜
Ep2/act.9 元魔族幹部アスラ
一体何が起こったのか、僕には分からないでいた。
「アンタが私の契約者だね」
契約…?召喚獣は動物じゃないのか…?
どっからどう見ても人間にしか見えない彼女はこう言った。
「私は過去の戦いで英雄たちに封印された魔族幹部の一人、アスラ」
元魔族幹部…!
敵を増やしてしまったかと思ったが、僕を守ったきり何もして来ない。
「さっきの声、アンタはアルコーンだね。下っ端中の下っ端が指揮官気取りか。私に攻撃した罪、知らなかったじゃ済まさないよ」
頭の理解が追いつかないままに事は進む。
「1000年も眠らされていた人が偉そうですね〜。魔力もからっきしなくなっているじゃないですか〜。今ならあなたすら超えて幹部入りを果たしてみせますよ先輩!!」
アルコーンと呼ばれていた魔族は、僕らに向けて大量の火の球を振り落としてきた。
シンスケさんもエドさんも戦闘態勢に入る。
「魔力に依存してるからアンタはその程度なんだよ。魔力なんかなくても瞬殺だ」
一瞬で消えたかと思ったら魔族の懐に入り込み、アスラは拳をぶち込んだ。
すると、降り注いできた火の球も消滅した。
そしてアスラは振り返り言った。
「何か言いたげだね、シンスケ」
「当たり前だろ。お前は俺たちが死に物狂いで封印したはずだ。なぜ召喚されるんだ」
「私も知らないよ。そこのガキの魔力が、あまりにも強力で邪悪だったんだろ。でも安心しろ。人間は嫌いだがお前らの味方をしてやる。魔族と戦うのも面白そうだ」
「サクラ、救われたな。今の戦力では天地がひっくり返ってもこいつには敵わない」
「ええっと…状況が飲み込めないんですけど…僕はいいことが出来たんでしょうか…?」
「今の状況から言えばかなりいい。こいつが裏切りさえしなければ…。でも現段階でそれはないだろう。こいつは幹部の中でもかなり頭がイかれてるんだ。昔はそのせいでかなり手こずったが…幸いしたな。こいつは戦いの楽しさを一番に求める。今なら俺らや人間を滅ぼすことよりも、魔族に抗う方がこいつにとって面白いことなんだろう」
「よく分かってんじゃん。アンタにも封印から解き放ってくれた恩がある。恩義には報いるタイプなんだ。主人の下で戦おう」
かなり強くて恐ろしかったけど、話してみると気さくでいい人そうだった。
裏切る恐れがあるってのは怖いけど、彼女のことを信じたいと思った。
「アスラ、これからは仲間だよ」
「仲間か…」
アスラはそう呟いて少しだけ微笑んだ。
いや、微笑んだように見えた。
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