根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜
Ep1/act.7 覚醒
幼い頃、死んだ父が僕に言っていた。
「弱くたっていいんだ。誰かの下にいることはカッコ悪いことじゃない。でも、誰かを守る時に逃げ出すのはダメだ。なんでって?特もないって?そうだなぁ。考えてごらん。君が誰かを守る時、逃げるのはカッコ悪いだろ?」
僕はふふっと笑ってしまった。
こんな見たこともない猛獣と対峙した時、あんたならどうするんだと責めたくなった。
それでも、心が軽くなったのを感じた。
「ここで逃げるのは、カッコ悪い」
なんでそんなことを今思い出したのかは分からない。でも、理由なんてそんなもんでいい。
今の僕は無力じゃない。与えられた力がある。
選ばれたとか選ばれてないとかは逃げ出す理由にはならない。そう言い聞かせて、
僕は自分の下に紫色の円を広げた。
前と同じ。こうしたらいいって言うイメージ。
これで何が出来るかは分からないけど、きっと何かが起こる。そんな気がした。
「おいサクラ。こんな状況で諦めたか?それが賢い選択かもな。今のお前が立ち向かってボロボロに痛めつけられるより、痛みなく自分の能力で死んだ方が楽かもな!」
レオンが笑っている。いいさ、どうにでもなれ。
力を込めると、円が僕のことを包んだ。
星空のような世界。真っ暗なようで点々とした光があり、今まで吸い込んでいたであろう死体が散らばっていた。
吸収したら力に反映するだけではなく、反映できなかった分はここに溜まっていたのだ。
周り一面に広がる死体が次々に消えていく。
最後の1つが消えると、奥から真っ黒な影が押し寄せてきて、僕を包み込んだ。
目を開けると、猛獣の牙が僕の目前にあった。
僕は反射的に払い除けようと腕を振るった。
ブワッと空気が押し出されるように猛獣を吹っ飛ばしてしまった。
唖然としている僕を見て、レオンは真っ青な顔を浮かべてこう言った。
「サクラ…お前何をしたんだ…何だその姿は…」
思考が追いつかないまま手を見ると、何やら黒っぽいオーラのようなものが体から溢れ出ていた。
それは全身から溢れ出ているようで、オーラに包まれているのが体感として伝わった。
恐怖心も、怒りも、何も失くなっていた。
前の世界で、一人の時によく感じた感覚だ。
頭が無に侵される感覚。
「レオンさん、僕はあなたのような成功者ではないし、頭も回らない。でも、それがここであなたに負けていい理由にはならないんです」
焦ったのか、レオンが猛獣と一緒に襲いかかってきたが、同時になぎ倒し、巨大な円で彼らを戦闘不能にした。
牢屋も破壊しホッと力を抜くと、全身のオーラが蒸発するような感覚に陥り、同時に僕は意識を失っていた。
「英雄様!英雄様!」
2つの若い声に目を覚ました。自分がヒーローになったかのような壮大な夢を見ていた気がする。
「英雄様か、夢の中でもそうやって呼んでくれる人たちがいたなぁ…」
薄っすら目を開けると、キツネのような耳と尻尾をピョコピョコ動かす生物たちが僕を見ていた。
「夢じゃない!?」
何度見ても彼らは獣人の子供。
ここまで来て夢オチで帰してくれるほど甘い現実ではなかったようだ。
僕が目を覚ましたことを確認すると、獣人の子供は話し始めた。
「私はレオンのナビゲーターになるはずだったミカエルと申します」
「わ、私はその弟のガゼルです!」
ナビゲーターか…確か冒険する時の道案内…。
レオンさんはこんな子供を選んだのか…。
なんとなくこの子たちを使って何をしようとしていたかを考えると背筋が凍った。
「あ!そう言えばレオンさんは!?」
ふと気が付いて質問した。
少し戸惑い気味にミカエルが答えた。
「レオンは牢屋に監禁したのですが、なにぶん古かったもので獣人の力を駆使して逃げ出してしまいました。サクラ様がこんな状態で誰も追うことが出来ず、取り逃がす形となりました」
「そうだったのか…僕の心が弱くて、彼の命を奪うことが出来なかったことが要因だね。申し訳ない。みんなに危害がなくてよかったよ」
ミカエルとガゼルはにんまりして答えた。
「やっぱりサクラ様はお優しい方ですね!弱い故ではありません、お優しかった故です。私はどこまで行っても命を奪わないお優しいサクラ様に付き従いたいと思い、こうして目が覚めるのを待っておりました!」
「付き従うって言うのは、ナビゲーターとしてってことかな?」
「ナビゲーターとして冒険のお供をさせて頂きたいのもありますが、身の回りのお世話や…」
「ああああ!いいよそう言うのは!一緒に来てくれるのは助かるけど、なんかそう言う奴隷みたいなことはさせたくないし…そう言う堅苦しいのも苦手かな…」
「でしたらどうすればいいでしょう?」
「うーん。そう言うお供とか付き従うじゃなくて、僕の仲間になってよ。敬語とか、様とか、従うとか、そう言うの一切禁止の平等な仲間!」
ミカエルとガゼルは目を輝かせて答えた。
「分かったよサクラ!僕らは仲間だー!」
こうして、僕に可愛い仲間が2匹出来た。
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