裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

210話



セリナがジャンヌの抱擁から解放されたあと、俺らはジャンヌたちと別れて宿屋を出た。

「一応俺は村長だから村のことを知らないってのはマズイからな。一つ一つ教えてもらっていいか?」

とりあえず村に入ろうかと思っていたが、宿屋を出てすぐにもう一つの大きな建物が視界に入り、そういやこれもわけわからん建物だったなと思い出したから、案内はアリアたちに完全に任せることにした。

「…はい。」

今いるメンツだと、建物を建てたときに村にいたセリナが案内するのかとも思ったが、やっぱりアリアなんだな。

「早速だが、ここでは何をやってんだ?」

門の外にある宿屋ではない方の建物を顎で指して確認した。

「…この建物で先着40名に毎日午前中、大陸共通語を教えています。最後に読み書きの試験を行い、合格した方にカンノ村の学校区画の通行証を与えています。」

ってことは通行証を持ってるやつは文字の読み書きができるってことか。………ん?

「学校区画?」

「…はい。カンノ村はわたしたち村民用の区画と誰でも利用できる学校区画に分けてあります。」

…そこまでガッツリと学校をやるつもりはなかったんだが、今さらいっても意味ねぇか。俺の中ではガキどもに将来の選択肢を与えてやれればくらいに考えてたから、最悪屋敷の一室でも良かったんだが、まぁいいか。これならガキどもが先生になるって選択肢も増えるしな。

「午前中ってことは今は使われてないのか?」

「…はい。中には誰もいませんが、入りますか?」

「そうだな。」

一応、中がどんなかを見てみるかと思い、門番から鍵を借りて、アリアの案内で中に入った。

建物に入るとちょっとしたスペースになっていて、入り口から見て左側に受付のようなカウンターがあり、右側には扉が2つ、あとはスペースを越えた先の正面に扉が1つあった。

「…午前中はここに受付担当が座っています。右側の扉はトイレです。右が男性用、左が女性用です。正面の扉が文字を教え、試験をする部屋です。」

今まで宿屋の個室にあるトイレと屋敷のしか使ってなかったから男女分かれてるのはこの世界で初めて見たかもしれない。だからなんだって話だけど。

視線をトイレの扉から正面に移すと、アリアが正面の扉に向かって歩きだしたからついていく。その扉から中に入ると、右手前が教壇のようになっていて、奥に向かって机が横に5、縦に8の計40個並んでいた。一列ごとに段差になってるみたいだし、ずいぶん生徒に配慮してるんだな。
左側と奥はただの壁だが、右奥の壁は窓のようにガラスがいくつかはめてあるから閉塞感がないようになっている。つっても外は木々が生い茂ってるから陽の光はたいして入ってこなそうだけどな。

なんとなく教壇に立ってみた。

背後の壁は黒板になってるんだな。チョークより固そうな石っぽいものと布巾が置かれている。
あとは教卓があるくらいか。…ん?教卓の中に踏み台が入ってる?あぁ、俺にちょうどいい高さの教卓だとガキどもには高いのか。それに黒板を広く使うためにも踏み台が必要なわけね。

今度は授業を受ける側の1番後の席に座ってみた。

…懐かしいな。

俺が行っていた学校とは少し違うが、教室って感じがすごく懐かしく感じる。
落ち着いたら俺も授業を受けてみるかな。文字の読み書きは出来て損はないし。

アリアたちが不思議そうに俺を見ているから、入り口で待っているアリアたちのところに戻るか。

この建物は受付のあるスペースとトイレ以外には一部屋しかないらしく、他に見るところもないから外に出た。

屋台はスルーして門に近づくと、外側に2人と門のところにある小部屋内に1人、挨拶だけしてそのまま通り過ぎると村の中に1人いた。その4人とも獣人のガキみたいだ。

村に入るならもう必要ないだろうから、ガントレットは外して腰につけた。

アリアは俺がガントレットを腰のベルトにつけたのを待ってから口を開いた。

「…試験に合格して通行証を手に入れた方は門の受付でステータスチェックをしての本登録があります。本登録後は通行証のみで通行可能になります。登録データは保存してあるので、敵対した場合に有効に使えるかと思います。」

個人情報保護法なんてこの世界にはないんだろうな。いや、冒険者ギルドでは登録時の情報はギルド職員以外には伝わることはないようなことをいっていた気がするから、組織によるってことか。まぁうちは秘密厳守なんて謳ってないから、確認せずに見せる方が悪い。

そもそも教わりにきたくせに敵対するようなやつなら容赦する必要がないだろ。



門から入って最初に目についたのは噴水だ。建物と建物の間の道を進んで噴水のところまで行くと、その噴水を囲むようにちょっとした広場になっていて、円形のテーブルに四脚の椅子が1セットになっているものがいくつか置いてある。

噴水の先には1つ横に大きな建物があり、振り返ると左右にそれぞれ横に大きな建物がある。この3つの建物で広場を囲っている感じだな。大きな建物に囲まれてはいるが、高さはないから日は当たるし、圧迫感はない。むしろ門が近いからか木々の香りがして落ち着く気がする。

「…左の建物が武器防具文房具屋で、右の建物が食事処です。噴水の先にある建物は最初に学校の利用方法などの説明に使ったり、授業に使ったり、会議室として貸し出したりする部屋がいくつかあります。あと、受付にもなっているので、日が落ちるまでは誰か2人は常にいます。」

門に振り返った状態で左が武器防具文房具屋で右が食い物屋、んで門を背にして噴水の先にあるのが総合案内兼貸し部屋みたいな感じか。
なぜ武器防具屋に文房具屋をくっつけたのかはわからんが、学校だから必需品ではあるのだろう。だからといって外の屋台、宿屋の受付、試験場の受付、この文房具屋とまだ外壁が見えてから村に入って少ししか歩いてないのに四軒も文房具を売ってるところがあるのはありすぎだろ。まぁ宿屋と試験場はちょこっと置いてあっただけだったけどさ。

「ずいぶん文房具を用意してるんだな。」

「…はい。学校を無料で開放しているので、紙束や筆記具を通常より高めに販売し、収入を得ています。紙はソフィアさんのおかげで木さえあればいくらでも作れるので、十分な収入になっています。武器防具は安く売る予定ですが、わたしたちが自分で取った素材をガルナさんや他の方たちの練習で作るものなので、損はないようにします。ただ、まだ作り始めたばかりで商品がほとんどないので、今は主に文房具屋となっています。あの食事処や屋台も含めて村民の希望を聞いたうえで割り振るようにしています。」

お、おう…。一気に説明されたからちゃんと聞いてなかった…。

とりあえず学校は無料、紙は高い、武器防具はまだ、あとは…えっと……あぁ、ガキどもにはちゃんとやりたい仕事を聞いただったな。

「べつにアリアたちの負担になってるわけじゃねぇなら、本気で学びたいやつから金を取る必要はないとは俺も思ってるからいいんだけど、けっきょく紙や筆記具が高かったら金持ちしか勉強できねぇんじゃねぇか?」

「…筆記用具は持ち込み自由で、どんな筆記用具でも所持していれば授業を受けられるので、ここで買う必要はありません。町まで買いに行くのを面倒に思う人や自分で木版などを作るのが面倒だという人たちが買っているだけなので、お金を一切持たない人でもナイフ…いえ、鉄くず1つあれば、あとはその辺りで木片を拾ってくるだけで授業を受けることは可能です。」

いつもながら、さすがアリアだ。いろいろ考えてんだな。考えすぎて俺が頼んだことの300%くらいの達成率を叩き出してる気がするけどな。いや、負担でないならいいんだけどさ。

「ほとんど丸投げだったのにありがとな。」

「…いえ、好きでやっているので気にしないでください。」

アリアが一瞬驚いたような顔になりかけてすぐに真顔に戻ったんだが、若干頰がピクついている。これは喜んでるんだよな?ほぼ毎日一緒にいるから、最近はなんとなくわかるようになってきたわ。アリアみたいにほとんどのことを完璧に出来ちゃうような天才でも頑張ったことを褒められるとやっぱり嬉しいもんだよな。

たまにはちゃんと褒めてやるべきだろうと思っても、パッとは上手い言葉が出てこなかったから、無言で頭を撫でた。

アリアは俯いて、されるがままだ。テンコが頭を撫でられるのが好きだったみたいだし、アリアの頭がちょうどいい高さだったからつい撫でちまったが、アリアにとっては頭を撫でられたところで喜べるようなことではなかったみたいだ。

俺がアリアの頭から手を離してしばらくしたらアリアが顔を上げた。
安定の無表情だ。

「アリアがいてくれて本当に助かってる。これからもよろしくな。」

「…はい。」

返事をしたアリアが次の説明のために歩き出したから、俺らもあとについていった。





「…この壁の中は全てが有料図書館になっています。滞在時間に関係なく、入ってから出るまでで銀貨1枚です。ただ、ここの利用はある程度信用できる方限定にする予定なので、まだ条件を満たしている方はいません。図書館には学校区画からも村民用区画からも入ることが可能ですが、学校区画用の通行証しか持たない方は村民用区画には行けないようになっています。」

村を全て回ったはずなのに村民用の区画がねぇなと思っていたら、壁で完全に分けられてるらしい。そんで壁の真ん中あたりにある扉の前でアリアが説明を始めた。

この扉から入って逆に抜ければ俺ら用の区画なのか。村の約半分を突っ切らなきゃ行けないのは面倒だな。それに突っ切るっていっても学校区画には建物がいくつも建ってるからまっすぐ進めなくて、ここに来るためにはちょっと遠回りしなきゃならねぇ。だから余計に面倒だ。

学校区画は主に座学を受ける場所になっているみたいだからか建物が多い。学校なんだから教室が多いことはおかしなことじゃないか。ただ、ほぼ座学用の教室しかないってのは意外だった。もっとなんかあってもいいんじゃね?…体育館とかさ。
なんか簡単に説明された感じだと生徒は受ける授業を自分で決められるらしく、その中には冒険者になるための授業があるっていってた気がする。
冒険者になろうとしてるのに座学だけだとなんか違くね?その場合は森の中で魔物を倒す訓練とかあったりするのか?

「…これで室内授業用の学校区画の説明は終わりです。」

「そうか、ありが………ん?室内授業用?」

「…はい。戦闘系の授業は壁の外で行っています。他にも農業に関する授業で実際に畑を使用する場合もあります。」

「外にも施設があるのか?」

「…建築途中の闘技場はありますが、他に特別に建てたものはありません。森の一部の木々を引き抜いて、授業するための場所を確保しただけのはずです。」

木々を引き抜く?いや、それより闘技場ってなんだし!?…そういや俺の奴隷はほとんどが戦闘狂だったな。普段はいろいろと頑張ってくれてるんだし、そういった娯楽も必要なことだろうから、今回は目を瞑ろう。仕事をアリアたちに放り投げといて、途中で口出ししたら不満もたまるだろうしな。

「そうか。作りかけの闘技場は今見ても意味ないだろうし、外壁の外まで案内をしてもらうほどの時間はもうないから、俺らが住む用の区画の案内を頼む。」

思いのほか学校区画が広かったから全て回るのに時間がかかり、既に太陽が夕日色に染まりつつあった。だからということもあったが、本当は前に見たことがある畑やスペースを確保しただけの場所をまた見に行くのは面倒だと思ったからという理由が一番だ。ただ、村長だからひと通り知っておきたいといった手前、面倒だからとはいいづらかったから時間が遅いからということにした。

「…はい。それでは図書館を通って村民用区画に入りましょう。ここ以外にも外壁の外側を回ったところに村民用の門があるので、そちらからも入れます。」

俺が毎回ここから入るのは面倒くさいなと思っていたのがバレたのか、アリアは他の入り口があることを説明してから図書館へと入っていった。俺らもアリアに続いて図書館へと入った。


「「おかえりなさい!」」

「あぁ、ただいま。」

図書館は入り口に受付があり、そこに2人座っていた。ここで金を払うのだろう。

受付を素通りし、村民用区画に出れる出口に向かって進みながら図書館を見回すが、めちゃくちゃ広いな。
壁の中のほとんどが図書館になっているようだ。
本棚もたくさんあるし、その棚に本が揃えば立派な図書館だな。ただ、今は目に入ったいくつかの本棚はスカスカだったり、一冊も入ってないのすらある。たぶん目に入ってない部分の本棚もほとんど変わらない状態だろう。

せっかくこれだけ広いのにもったいないと思うが、そういやこの世界の本は安いものではなかったし、仕方がないのか。


俺らが入ってきたのと反対側の壁にある扉の手前にも受付のようなところがあり、そこにも2人座っていた。
どうやらここで通行証の確認をするみたいだが、俺らは顔パスだった。当たり前か。

扉を出て村民用区画に入ると、目の前が大通りのようになっていて、突き当たりには俺らが住んでる屋敷が見える。左右の壁沿いも道になっている。そう、道だ。つまり半月前まではただの広場だったのが道になるほど建物が並んでいるってことだ。
これはさすがにおかしいというのが俺でもわかる。といいたいが、日本の常識でものをいって恥をかくのは嫌だから何もいうつもりはないがな。まぁ早くできたなら文句をいう必要がないだろ。


村民用区画もアリア先導のもと、歩きながら一つ一つ建物の説明をされた。ほとんどが村民の住居だったが、中には鍛冶場や魔道具研究開発兼製作所のような仕事場もあるみたいだ。

真ん中の大通りを縦方向とした場合、縦方向に抜ける道は建物内を突っ切らなければ真ん中の大通りと左右の壁沿いの道以外にはなく、横方向の道が等間隔で複数ある。
上から道を見たらスケルトンの肋骨みたいになってそうだな。

そんな道を左側からS字のように行ったり来たりしながら進んで、屋敷がちょうど折り返し地点となり、反対側をまたS字のように進んだ。

残り4分の1ほどになったところで、外壁に門を見つけた。
あの門はもともとなかったはずだから、区画分けしたときに改めて作ったのだろう。

「…ここが学校区画を経由せずに村民用区画に入れる門です。そして、こちらの塔が門番をする方々のために用意した詰所です。」

そういって、アリアは先に進もうとした。

「ん?こっちの建物はなんなんだ?」

アリアはここまで建物一つ一つを全て説明してきた。ただの住居ですらだ。なのに門を挟んで詰所と反対側にあるそこそこ大きな建物には触れなかったから、不思議に思い確認しちまった。よくよく考えれば、わざわざ説明しなかったのだから、両側が詰所なんだろう。

「……………………教会です。」

だが、アリアから返ってきた言葉は予想外すぎた。

今までアリアたちが神に祈っているところは見たことがないし、そもそも俺は教会に行ったことすらないから、ほぼ一緒にいるアリアたちも教会には行ったことないんじゃねぇか?
たまの自由時間に行ってたりしたのか?

建物をよく見るとクロスしたガントレットの模様が描かれている。あれがシンボルマークか?あれだとバッテンになっているが、教会って普通は十字架じゃないのか?まぁ俺は宗教に入ったことがないから全く詳しくはないんだが。

というかあのマークって屋台で売ってたキーホルダーみたいなやつと同じじゃね?それどころか、よく見たら俺らのグループマークのガントレット部分と同じに見えるんだが、もしかしてもともとあった教会のマークを使ったのか?だとしたらさすがにまずいだろ。最悪俺らのグループマークを変える必要があるかもな。

「ガントレットのシンボルマークってことは英雄教か?」

神や女神はガントレットってイメージがないからな。

「…はい。」

…。

……。

…え?どの英雄かの説明が続かないのか!?

まぁ昔の英雄の名前をいわれてもどうせ俺は知らないから、説明がなくてもいいっちゃいいんだが、今回はちゃんと聞かなきゃならないと直感が告げている。いつもならアリアに任せておけば間違いないだろうから、無理に聞き出す必要はねぇかとスルーするんだが、今回はダメだ。嫌な予感しかしねぇ。

「その英雄の名前はなんていうんだ?」

「……………………リキ様です。」

……いや、意味がわかんねぇ。

「俺は英雄なんかじゃねぇし、崇め奉られるような偉人でもねぇよ。」

「…わたしたちにとっては英雄です。」

…。

「よく考えてみろ。自分の村に自分を崇めるための教会を作ってるとか、度を超えたナルシストだと思われるじゃねぇか。」

「…カンノ村の村民用区画に入れるのはリキ様を尊敬する方々だけなので問題ありません。」

「意味がわからねぇから。というかここにはローウィンスがいるんだから、貴族とかも来るかもしれねぇじゃねぇか。」

「…貴族様方は直接お屋敷に通すため、教会に立ち寄ることはないので問題ありません。」

本当に意味わかんねぇよ。だが、アリアは教会を潰す気はねぇみたいだな。

リキ教………恥ずかしすぎるだろ。

ここは命令してでもやめさせるべきか。

「…リキ様の命令に逆らうつもりはありません。なので、命令なら従います。ただ、ここはリキ様に会えないときのわたしたちの心の拠り所であることを知ったうえで判断をしてほしいです。」

まるで心を読まれてる気分だな。たぶん俺にバレたときのことを前もって考えていただけだろうけど。

それにしても情に訴える作戦か?その程度じゃ俺には意味をなさないということを付き合いの長いアリアなら知ってると思うんだが。

「…ここがなくなった場合、村民の方々の習慣となった毎朝の教会でのお祈りをリキ様に直接することになるので、覚悟してください。」

…情に訴える作戦じゃなくて、ただの脅迫じゃねぇか!

毎朝ガキどもが家にきて目の前で祈られるとか迷惑すぎるだろ。どの程度の信者がいるのかはわからねぇが、もし1人しかいなかったとしても毎朝祈りに来られるのは鬱陶しいわ。

「わかったよ。俺に迷惑のかかんねぇ範囲で好きにしろ。」

「…ありがとうございます。」

アリアがぺこりと頭を下げたが、たぶんアリアはこうなることがわかってたんだろうな。だから悪びれた様子が全くねぇ。
建設途中や設計の段階で伝えたらさすがに止められるから、完成してからしばらく経つまで黙ってたんだろうな。

…諦めて早めに忘れよう。



その後、残りの説明をされ終えたときには空は暗くなっていた。
屋敷とローウィンスの家しかなかったときを見ているからカンノ村が広いことは知っていたが、建物がちゃんと出来上がって、それを一つ一つ見ながら回るとここまで時間がかかるとはな。

時間も遅いし歩き疲れたし、あとは飯食って寝るとするか。

アリアが既に飯の用意ができていると教えてくれたから屋敷の食堂へと移動すると、食堂に集まっていたガキどもから一斉に「おかえりなさい!」と声をかけられた。
その場で全員に「ただいま。」と返して見回したが、ガキがさらに増えているような気がする。
食堂は広いからそこそこスペースが余っていた気がするんだが、空きスペースが心許なくなってきてるな。

というかガキどもは家を用意されてるはずなのになんでここに集まってるんだ?

「…皆さんの希望もあり、大人になるまでは朝と夜は仕事をしている方を除き、ここでご飯を食べることにしたのですが、やめた方がいいですか?」

俺の疑問が顔に出ていたのか、アリアが声をかけてきた。

まぁガキどもがそうしたいなら好きにさせればいい。ここの飯を作っているのもガキどもなんだから、揉め事が起きたり不満が溜まったりしないなら俺が何かをいうことじゃねぇ。

「ガキどもたちで話し合ったうえで決めたことなら、俺はかまわない。飯が賑やかなのは悪くないし、好きにしろ。」

「…ありがとうございます。あと、新しく入った方々の奴隷契約をまたお願いしたいです。」

やっぱり増えていたのか。それにアリアがまた頼むってことはやっぱり俺の奴隷になるかどうかで成長具合がかわるのかもな。

「強制する気はないが、なりたいやつがいるならかまわない。そういや前に奴隷契約をしたやつらの訓練は終わったのか?」

「…はい。なので、その方々の解放もお願いしたいです。」

「わかった。飯を食い終わったらな。」

「…ありがとうございます。」

アリアと話し終えて席に着くと、配膳係がせかせかと料理を並べ始めた。

「おかえりなさいませ。リキ様。」

俺が座るのを待っていたかのように隣に座るローウィンスが声をかけてきた。

「あぁ、ただいま。今日はこっちで飯を食うんだな。」

「今日はリキ様が長旅からご帰宅なさると伺ったので、是非にとご一緒させていただきました。」

「半月じゃ長旅ってほどじゃねぇし、俺が帰ってきただけで気を遣って参加することでもねぇと思うが。」

「いえ、私がリキ様とご一緒したかっただけです。できれば毎晩ご一緒したいのですけれどね。」

「べつに飯くらい一緒に食いたきゃ好きにくればいいんじゃねぇか?1人2人増えたところでこれだけ大人数なら作る側からしたらたいして手間も変わらねぇだろうし、ガキどももローウィンスがいても緊張してねぇみたいだし、問題ねぇだろ。一応本当に毎回来るつもりならアリアに確認はとっておいてほしいがな。」

「本当ですか!ありがとうございます。アリアさんと話し合わせていただきます。」

ローウィンスは何がそこまで嬉しいのか、ニコニコとご機嫌そうな顔のまま席を立ち、アリアに確認に向かった。

そしてアリアと少し話したかと思ったらすぐに戻ってきた。

「許可をいただきましたので、これからもよろしくお願いいたします。」

「あぁ、よろしく。」

そんなすぐに許可を取ってくるとは思わなかったが、アリアが平気だっていうなら特に問題はないってことだろ。

ローウィンスが席に座り直して少ししたら、全ての配膳が終わったようだ。

全員が俺の食事の挨拶を待っているようだったから、とっとと挨拶を済ませ、久しぶりに大人数での晩飯を食べ始めた。

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