裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

209話



念のためガントレットを装備してからマリネットールの南門を出て、少し歩いたところにある森の中に入っていった。

ところどころから地表に飛び出している木の根などに気をつけながら獣道をしばらく歩き、町からは見えないだろうところで俺が止まるとアリアたちも止まった。

今の俺の『気配察知』では集中してもせいぜい周囲10メートル程度しか確認できないから、辺りを見回して誰かいないかを目視で確認しながらアリアの指示を待っていた。

こういうときにセリナがいないのは不便だよな。いや、よくよく考えたらアオイもけっこうな範囲で人間や魔物を知覚出来るじゃねぇか。

「…準備が出来たそうなので、お願いします。」

アオイに警戒を頼もうと思ったら、もう向こうの準備が出来たようだ。
一応アオイに確認だけさせた方がいいかとアオイを見ると、頷かれた。

わざわざ頼まなくても確認してくれてたんだな。
アオイもけっこう付き合いが長いから、いわなくてもわかってくれるようになったようで楽だ。………伝わったうえで頷いたんだよな?

まぁいいか。俺自身で確認もしたし。

『超級魔法:扉』

今回もカンノ村がある森の端に繋がることを意識しながら魔法を発動し、目の前に出現した大きな扉を開いた。


「おかえりにゃさ〜い!!!!!!」


扉が開ききった瞬間にすごい速度で近づいてくるセリナに気づき、足に力を込めて待ち構え、突撃してきたセリナを抱きとめた。

近づいてきた勢いそのままにセリナが抱きついてきたからそれ相応の衝撃を覚悟したが、予想よりも軽すぎる接触のせいで俺は前に向かってバランスを崩した。そのせいで抱きとめるというより俺から抱きしめる形になっちまった。

「にゃふ〜。」

倒れて押しつぶさないように足に力を入れて耐えたせいか、腕に力が入ってしまったようでセリナが気の抜けるような声を漏らした。

「悪い。………ただいま。」

わざとではないが締め付けてしまったことに謝罪し、セリナの肩を掴んで離れようとしたが、セリナが抱きついて離れないから諦めて帰ってきた挨拶を返した。

スリスリと顔を俺の胸に擦りつけられるのは鬱陶しいが、仕方ないとはいえしばらく除け者にしちまってたから、このくらいは我慢してやるか。

…ん?いろいろあったからかなり久しぶりに感じていたが、あらためて考えたら離れてまだ1ヶ月も経っていないよな?実際は半月程度か?

それなのにこの状態ってことはまだ発情期が終わってねぇんじゃねえの?

「これってまだダメなんじゃねぇの?」

「…久しぶりにリキ様に会えて喜んでいるだけで、治っているはずです。」

…。

「とりあえず離れろ。自分の意思で離れられないなら、もうしばらく俺らは他国に行ってくるぞ。」

俺がいい切る前にセリナは俺から素早く離れ、列に並んだ。
そう、列だ。なぜかは知らないが、今回は獣人の門番たちではなく、俺の奴隷組のセリナたちが横一列に並んでいた。

「「「「「「「おかえりなさい。」」」」」」

どうやらわざわざ出迎えてくれたみたいだ。

「あぁ、ただいま。」

俺らは扉を通り、扉を消してからセリナたちに返事をした。

たかだか半月程度しか離れてなかったはずだが、ずいぶん久しぶりな気がする。まぁ全員元気そうでなによりだ。

「何か問題はなかったか?」

アリアとサラが連絡を取っていたみたいだから、アリアから何もいわれてないイコール何も問題はないってことだろうけど、念のための確認だ。

「『乙女の集い』の方々について以外はないのです。」

サラが答えた。他のやつは口を開こうともしなかったから、報告はサラの役目みたいだな。

「あいつらなんかやらかしたのか?」

「違うのです。どう対応すればいいかわからなかったのです。あとちょっと怖かったのです。」

たしかあいつは冒険者ランクがSSランクとかいってたよな?ようするにマナドールより強いってことだろ?そんな化け物が近くにいたらそりゃ怖いわな。

「面倒だが、あとは俺とアリアが対処する。それで、あいつらは何のために来たんだ?」

「ごめんなさいなのです。遊びにきたといっていたのです。」

「遊びにって遊ぶようなとこはないだろ。いや、あいつはロリコンと同類だから何もなくてもいいのか。」

俺が一人で納得していたら、全員の視線がアリアを見ていることに気づいた。

どうしたのかとアリアを見たら、目があった。

「…村の建物などは完成しました。学校も試験的に始めているので、わたしたちや村民以外にも人が来ています。ただ、『乙女の集い』の方々は詳しくは知らずに来たそうです。」

「は?まだ俺らが出かけてから1ヶ月も経ってないぞ?そんな短期間で家が建つのか?」

それに学校は村のガキども用に頼んだだけなんだが、他所からもガキどもが学びに来てるのか?まぁやる気があるやつならべつにいいんだけどさ。

「…皆さんが頑張ってくれました。」

頑張ってどうにかなるものなのかはわからないが、早くできる分にはなんの問題もないか。

「そうか、ありがとな。…じゃあとりあえず村に行くか。」

セリナたちに礼をいって、ここで話すよりも実際に見たほうが早いだろうと思い、村に向かうことにした。






「ここって村の外だよな?」

村を囲うように作った壁の外側に大きめの建物が2つあり、他にも屋台のようなものがチラホラとあった。

大きな建物の内1つは3階建てで、横にも広いから威圧感がある。もう1つの大きな建物は1階のみみたいで、高校の体育館より少し小さいくらいの大きさだ。

屋台はパッと見た感じではほとんどが食べ物で、他にも文房具が売ってるとこやキーホルダーみたいな物を売ってるとこなどがあるみたいだ。…ん?よく見ると売ってるのは村のガキどもじゃねぇか。

「「「おかえりなさーい!」」」

「ただいま。」

目が合うと声をかけられたから、手を上げて答えた。

「…はい。こちらが村に来た方々用の宿屋で、あちらが村の通行証となるカードを手に入れるための試験場です。」

なんで宿屋が外にある?しかも村なのに試験を受けて専用の通行証を手に入れないと中に入れないのか?

まぁ変なのが簡単に出入り出来るよりはよっぽどいいが、アラフミナの首都よりチェックが厳しそうなのはどうなんだ?いや、一応ローウィンスみたいな偉いやつがいる村だからおかしくはないのか。

「詳しい話は後で聞くとして、とりあえず村に入るか。」

「…ジャンヌさんは宿屋にいるそうです。」

あぁ、そういやあいつに会いにきたんだったな。村がずいぶん変わっているようだったから、そっちに興味が移って忘れてた。

あいつのためにわざわざシャワーを浴びたり着替えたりするのは面倒だからこのまま行くか。イーラが綺麗にしてくれたからたぶん大丈夫だろ。

「そうだな。さっさと済ませるか。アリアにはついてきてほしいが、他は好きにしてくれ。出かけてもかまわないが、夕飯までには戻ってこいよ。」

「はい。」

全員の返事を聞いてから宿屋に向かって歩き出すと、アリアだけでなくイーラとセリナとテンコとニアがついてきた。
好きにしろっていったのは俺だからかまわないが、何も楽しくないと思うぞ。まぁいいか。




宿屋に入ると目の前に受付があり、座っているのはうちの村人のガキが2人だ。

「「おかえりなさい!」」

「ただいま。」

宿屋に入った瞬間にでかい声で声をかけられたせいで視線を集めた気がするが、気にせず答えた。

左右に視線を動かすと広々としたロビーになっていた。ロビーには2人用と4人用と6人用のテーブルがたくさんあり、いくつかのテーブルでは知らないやつらが必死になって何かを紙に書いている。

左側の奥はキッチンになってるっぽいな。かすかにいい匂いがする。

右側は階段が1つある以外は全てがロビーになっていてかなり広い。入り口から1番離れたテーブルには見たことある女が座ってこっちを見ていたが、無視して視線を受付に戻した。

「…リキ様。」

「…わかってる。」

アリアにジト目を向けられ続けたから、面倒だが諦めて『戦乙女』のジャンヌのところに向かった。



「おかえりなさい。ずいぶん早いのね。遠くに行っているって聞いたのだけど。」

俺らが近づくとジャンヌの方から声をかけてきた。

普通に挨拶を交わすほど親しい仲ではなかったと思うんだが…。むしろ恨まれてると思っていたが、こいつはあのときのことを気にしてないのか?

「たまたまタイミングが良かっただけだ。」

答えになってない返事をして、ジャンヌの向かいに視線を移した。

ジャンヌが座っている2人がけテーブルには首と胸と小手だけの軽鎧をしているジャンヌの他にとくに装備をしているようには見えない肉塊…知らない女が1人座っていて、こっちを見ていた。

ジャンヌの向かいに座っているってことは知らない仲ではないんだろうが、体型からして冒険者ではなさそうだ。この村でたまたま会ったとかか?

「初めまして。『豚乙女』ことピグレです。よろしくお願いします、カンノさん。」

ピグレと名乗った女は座ったままだが、礼儀正しくお辞儀をされた。

今、豚乙女って聞こえたんだが、自虐か?

「リキ・カンノだ。……『豚乙女』ってのは二つ名なのか?」

とりあえず名乗り返し、聞いていいか迷いながら豚乙女について確認した。ただの自虐なのか、周りからの嫌がらせなのか。

「昔、カテヒムロの勇者様が私を一目見てつけてくれた二つ名なんですよ。私のことを乙女扱いしてくださった殿方は初めてでしたので嬉しくて、豚の意味はわかりませんが自分で名乗っているうちに定着した二つ名です。素敵でしょ?」

…。

「ソウダナ。」

本人が納得してるならいいだろ。
ここで俺が豚の意味を教えるのもおかしなことだしな。この世界に豚はいないみたいだし、知らぬが仏だろ。

「…んで、お前らはなんでここにいるんだ?」

「べつに私たちがどこにいたっていいじゃない。」

「いいわけねぇだろ。お前みたいな化け物がいたら村のガキどもが怖がるんだ。だから用があるわけじゃねぇならどっか行ってくれ。」

「…そんなハッキリいわれたのは初めてだわ。」

ジャンヌは俺の言葉に驚いたかのように目を見開いて答えた。
まぁ普通は逆ギレされることを考えたらいえないからな。だが、俺は形だけでも村長だから、俺がいわなきゃならねぇし仕方がない。
ここで暴れられたら面倒だったが、とりあえずは大丈夫そうだ。

「もっと皮肉っぽくいった方が良かったか?」

「…あなたって性格悪いのね。」

今度はジト目を向けられた。

「急に喧嘩を売ってくるようなお前に優しくする理由がないからな。」

べつにこいつにたいしてイラついてはいないが、人の話を聞かずに攻撃してくるようなやつにいい印象を持てるわけがない。
前回は返り討ちにあったこいつが哀れだったからどうでもよくなっただけで、印象が良くなったわけじゃねぇしな。

「あ、あのときは……噂を鵜呑みにしてしまって………あなたの話をちゃんと聞かずに攻撃したことは後悔しているわ。…ごめんなさい。」

ジャンヌはわざわざ椅子から立って頭を下げてきた。
冒険者のトップクラスにいるやつが、ただのFランク冒険者にも謝罪するんだな。こいつはプライド高そうだったからちょっと意外だ。

「SSランク様でも謝罪とかするんだな。」

「謝罪に強さなんて関係ないじゃない。悪いことをしたら謝るべきだわ。もちろん立場上頭を下げることができない人もいるのはわかるけど、だからといって強ければなんでも許されるわけではないと私は思ってる。だから、あのときは完全に私が悪かったのだから謝らせてほしい。本当にごめんなさい。」

ジャンヌは再度頭を下げてきた。

謝ってきたことは意外だったが、こうして理由を聞いてみると潔癖というか堅物というか、まぁこいつのイメージ通りっちゃイメージ通りだな。
一気に印象がよくなるわけではないが、こういう考え方ができるやつは嫌いではない。

「そうか。べつに俺はそこまで気にしちゃいなかったから、謝罪は受け取らせてもらう。だから帰れ。」

「…え?」

頭を上げたジャンヌは驚いた顔で俺を見てきた。

「ん?俺にとってのお前の印象が変わったところで、ガキどもがお前を怖がることに変わりはないからな。だから用が済んだならとっとと帰れ。」

「ちょっと待って!たしかにあなたに謝るためっていうのも一つの理由だったけど、ここに来た目的はそれだけじゃないの。私はこの楽園を満喫したかったのよ。それに来てみたら平民でも通える学校なんてものがあるみたいで、そこにうちの子が通わせてもらってるから、しばらくはいるつもりよ。…そんなに私って怖がられているの?」

焦ったように早口で帰る気がないことを主張し始めたかと思ったら、急に泣きそうな顔で確認を取ってきた。
さっきから驚いたり焦ったり悲しんだり、こいつはずいぶんと表情が豊かだな。

「全員に聞いたわけじゃねぇけど、怖がってるやつもいるな。というかお前って子どもがいるのか?」

ジャンヌは一瞬悲しげな顔をしたが、俺に質問されたことにより不思議なものを見るような顔に変わって首を傾げ、しばらくして目を見開いた。

「違うわよ!私の子どもではなくて、『乙女の集い』の子たちのことよ!」

そういやこいつのグループは『黒薔薇の棘』と違ってSランク縛りはないんだったな。どういう基準かはわからんが、こいつが乙女と判断したやつが所属してるらしいから子どももいるのかもな。

「そうか。まぁ勉強したいやつは好きにすればいい。だがお前は…。」

「…リキ様。そこまで警戒しなくても大丈夫だと思います。」

ジャンヌは首都の方の宿屋に行けよといおうと思ったら、アリアが口を挟んできた。
たしかにこいつは敵意とかを持ってるような感じもなければ、威圧を放ってるわけでもないからそこまで気にする必要はないかもしれない。だが、実際にサラが怖がってるんだから、サラに我慢させてまでこいつらを滞在させてやる理由がないだろ。でも、アリアが口を挟むってことはなんか理由があるのか?

「アリアちゃん、ありがとう!よかったら『乙女の集い』にこない?」

「…いえ、わたしはリキ様のグループから抜ける気はありません。それにわたしはジャンヌさんのためにいったわけではないのでお礼もいりません。ただ、リキ様が村にいてくれるのであればジャンヌさんのことは村の誰も気にしなくなると思うので大丈夫といっただけです。」

こいつはしれっとアリアを勧誘しやがったが、ハッキリと断られた。それになんかアリアの言葉に棘があるように聞こえるな。ロリコンの仲間だから生理的に受け付けないタイプなのか?いや、そんなことより俺がいたらこいつのことを気にしなくなる意味がわからねぇ。

「ずいぶん俺を過大評価してくれてるみたいだが、こいつがもし暴れたら、俺じゃ勝てねぇぞ。」

「あら、わかっているじゃない。まぁ私は暴れる気は全くないけれどね。」

本当のことだが、本人に肯定されるとなんかムカつくな。

「…リキ様にいてもらえるだけで、わたしたちは強くあれます。精神的にも肉体的にも。なので、今はまだほんの少しだけジャンヌさんより戦闘能力だけは下だとしてもそんな些細なことは関係ありません。」

スキルの効果とかの影響ってことか?
というか…。

「アリアってもしかしてこいつが嫌いか?」

「…………………いえ、そんなことはありません。」

「アリアちゃん!?なんで!?私って何か嫌われるようなことしちゃったかしら?」

「…わたしはなにもされていません。気にしないでください。」

オロオロとしだしたジャンヌが助けを求めるように俺を見てきたが、俺が助けてやるとでも思ってるのか?

「好き嫌いなんて人それぞれだろ。気にすんな。」

「やっぱり嫌われてるの!?なんで!?せっかくなんだから仲良くしましょう、アリアちゃん。」

「…わたしはリキ様の奴隷です。わたしの一存では判断できません。」

「うふふ。」

俺らの会話をずっと黙って見ていた『豚乙女』のピグレが急に笑い出した。
そのせいで全員の視線がピグレに集まった。

「アリアちゃん、大丈夫よ。ジャンヌの心は見た目よりずっと子どもだから、まだそういった意識すらできないから安心して。そして、出来れば仲良くしてあげてほしいと思うの。あと、私とも仲良くしてほしいわ。ダメかしら?」

このブ……ピグレが急にわけがわからないことをいいだしたんだが、アリアにだけは伝わったみたいで、アリアが俯いた。いや、セリナがニヤニヤしてるからセリナも理解してるみたいだ。

しばらく意味を考えてみたが、やっぱりよくわからないし、ピグレもアリアにたいしていっているから俺らが理解する必要はねぇかと考えるのをやめた。

俯いていたアリアが顔を上げた。

「…ごめんなさい。よろしくお願いします。」

ピグレは椅子から立ち上がり、頭を下げているアリアを優しく微笑みながら軽く抱きしめた。

「えっと…。」

肉塊にアリアが吸収されるかのような光景を見て、ジャンヌがなんと声をかけていいか迷っていた。
ピグレが抱擁をやめると、アリアはジャンヌに向き直った。

「…よろしくお願いします。」

とくに謝罪する気はないみたいだが、仲良くするつもりはあるのか、アリアはジャンヌにペコリと頭を下げた。

「よろしくね、アリアちゃん!」

「にゃはっ。よろしく!」

ジャンヌがアリアに抱きつこうとしたら、アリアが一歩後ろに下がり、ジャンヌとアリアの間にセリナが割り込んだ。
ジャンヌは気づいてはいただろうが、止まる気配もなくそのままセリナと抱き合う形になった。

…。

なかなかジャンヌが離れないからセリナがちょっと困った顔をしているが、どうやらジャンヌは人前で下着姿にされたことを恨んでいるわけではなく、ただ単にセリナの抱き心地を満喫してるだけみたいだから大丈夫だろ。
なぜかはわからんが、セリナは自分で2人の間に入ったのだから困っていようが自業自得だ。

とりあえずこれで一件落着だろうし、次は村がどうなったかの確認をしておくか。

この後の予定をてきとうに考えながら、セリナの助けて欲しそうな視線を無視して、2人の抱擁を眺めつつ、それが終わるのを待つことにした。

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