裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

208話



俺は全身を纏うような黒い靄を消して、荒い息を吐きながら周りを確認した。
クラクラとする頭を抑えていたら、アリアからの治癒魔法を受けたようで、全身の傷が塞がっていく。

マナドールとの訓練を始めてから5日目の昼前、壊れてパーツがいくつか散らばった8体の人形と所々に血が飛び散り、数ヶ所地面が抉れている草原はなかなかに酷い状態だ。

ちなみに抉れた地面と傷だらけの体は自爆みたいなものだがな。


初日で複数相手との戦闘の感覚を少しだけ掴んだ俺は2日目も同じようにスキルを使わずに練習し、見えないはずの相手からの攻撃のタイミングを感覚で掴むことが出来るようになった。
そのことをアリアに話したら、取得可能スキル内に『気配察知』がないかと聞かれ、そんな便利そうなスキルはなかった気がすると思いながら確認したら増えていた。
アリア曰く、SPで取れるスキルの種類は最初は個人の才能や種族次第らしいが、スキルの取得条件を満たすと増えるらしい。んで、スキルを使わずに見えない相手が感覚でわかるなら間違いなくあるだろうと思ったらしい。ちなみにセリナは自力取得してるらしい。いや、いいんだけどさ。
それにしても久しぶりにSPを使った気がする。
今持ってるスキルすら使いこなせてないから新しく取ることを考えてもいなかったな。

新しく取った『気配察知』を使ってみると、最初は攻撃されるタイミングだけなんとなくわかるレベルだったのが、今では見えない相手の位置までわかるようになった。そのおかげで3日目には人形何体相手でも立ち回ることが出来るようになった。
だが、立ち回ることは出来ても俺の素の攻撃力では鉄でできた人形を破壊したり行動不能にすることは出来なかった。
『気配察知』のおかげで少し余裕が出来たから、どうにかしようと近接戦闘しながら魔法を使ってみたり、関節を重点的に狙うようにしたりと試してみたがあまり効果はなかった。
鉄の塊を殴って壊すのは簡単なことではないのはわかってたが、どうにもならないってのはけっこう辛い。俺の攻撃力なんてその程度だといわれてる気がするからな。
まぁそのおかげで戦いながら魔法を使うのは少し上手くなった気がする。

4日目には『会心の一撃』をタメなしで使えないかを試すことにした。

いつもみたいに右手だけに集中させた分を使ってしまうと、またタメなければならないから少し時間がかかる。だからといってほぼタメなしじゃ壊すことは出来なかった。

だから一ヶ所ではなく全身にスキルを使ってみたところで、けっきょく殴れば腕の部分や腰の部分など殴るために力を込めた部分のスキルは消えるからタメ直しだし、一ヶ所集中より威力が落ちるわ疲れるわで意味がなかった。

なら一ヶ所集中で、タメ時間を最低ギリギリにして使えばいいんじゃないかと思い、何秒くらいタメれば鉄を壊せるかを戦いながら試しているときにふと思った。

タメたスキルをストック出来ないかと。

ということで、一時中断してアリアに確認したら、俺が両腕にタメているのがストックではないのかと聞き返された。確かに使わずタメてるんだからストックだけど、俺がいいたいのはそれとは別でと説明したが、さすがのアリアもスキルのストックは知らないらしい。
魔法なら空水晶に入れておいたり、『エンプティマジック』にストックしたり、そもそもストックではなく『副音声』とかいうスキルを使って同時発動するとかなんとかいろいろ手段があるといっていたが…悪い、何いってるかわからんかった。まぁスキルを別に用意しておくことは出来ない。少なくとも今はわからないということはわかった。

なら諦めるかと思って訓練再開していたら、アリアがいっていたことがふいに頭をよぎった。

両腕にタメているのがストックではないのか。

俺が求めてたのとは違うが、それも1つの答えじゃねぇか。全身にスキルをタメ、意識して攻撃する腕の分だけスキルを使うようにして、スキルが消えた腕の部分に他のタメてたスキルを移せばいいんじゃね?

物は試しとやってみたら、案外感覚で出来た。たまに使うつもりじゃないのに力んでスキルの無駄撃ちをしたり、受けた攻撃に対してスキルが反応して消費され、なぜか俺が受けるダメージが少し増したりしたが、鉄くらいの硬さの相手なら十分使える戦法だ。

これは練習すれば使えるんじゃないかと思い、4日目はその練習に費やした。

それで5日目、俺は考えが足らなかったことを痛みとともに後悔した。

4日目で『会心の一撃』の使い方がなんとなくわかってきたせいか、その夜にふと思ってしまった。

『会心の一撃』より強い『一撃の極み』ならもっと楽に敵を倒せるんじゃねぇかと。

思い立ったら即実行と試した結果がこの有様だ。

確かに人形は簡単に壊せるようになったが、俺も尋常じゃないダメージを負うことになった。しかもスキルのせいか血を流しすぎたせいかわからんが、まだ昼前なのに疲れ過ぎてこのまま寝たい。

『一撃の極み』は『会心の一撃』のように感覚でどうにかなるようなスキルじゃなかった。




全身に『一撃の極み』を発動してから、移動のために右足に力を入れたらスキルが消費され、地面に小さなクレーターを作りながら思ったよりも勢いよく移動することになった。そのせいで人形に肩が掠ったらスキルが消費され、人形は吹っ飛び俺の肩の骨が砕けた。

ただでさえ予想以上に移動してバランスを崩してたところにそんな激痛が与えられたせいで頭が真っ白になり、咄嗟に左足を着いたらまたスキルが消費され、地面が凹んで左ふくらはぎの表皮が裂けて血を吹き出しながら、バランスを崩して近くにいた人形の方に倒れた。

マナドールはそれを攻撃と判断したのか、人形は俺を支えようとはせずに殴りかかってきた。
その人形の腕を右手で払うと力を入れたつもりじゃないのに砕けて飛び散った。

自分でも意味がわからず一瞬止まったが、とりあえず急いで人形たちから距離をとった。

『ハイヒール』

体の傷を治してから原因を考えようとしたが、人形はそんな時間をくれそうにはなかった。

まぁ実戦で学べばいいかと全身に『一撃の極み』を再度発動させて練習を再開した。

そんでなんとか8体の人形を倒しはしたが、地面は荒れて俺は自爆で血まみれだ。傷はアリアが癒してくれたみたいだけどな。

それにしても『一撃の極み』は制御が難しすぎるだろ。午前中はボロボロになりながらも練習を続けたが、上手くなった気がしない。

攻撃するつもりで発動するなら、その部位に力を入れているからか皮膚が裂けるということはないみたいだが、少し力んだだけで不意に発動したときは俺の体がスキルに耐えられなくてダメージを負う。しかも相手の攻撃を受けたときには自然と体が力むからスキルが発動して、相手が攻撃に使った部位と俺が攻撃を受けた部分の骨がともに砕けた。

しかも殴る以外で攻撃にスキルが乗ると相手に与えるダメージより俺が受けるダメージの方がでかい気がしてならない。

『会心の一撃』を全身にストックするのは使えるが、『一撃の極み』を全身に纏うのは却下だな。

とりあえずもっと体を鍛えるなりレベルを上げるなりしてから試すべきだろう。



俺はちょうど区切りがいいし、そろそろ昼飯にしようかと思って、他のやつらの状況確認をしようと思ったら、後ろから何かが近づいてくるのがわかった。

まだ人形が残っていたかと振り向くと、イーラが走って近づいてきていた。イーラはそのままの勢いで飛びかかってきたが、俺は避ける気力がなかったから、足に少しだけ力を込めて吹っ飛ばされないように構えた。

たぷん。

人間のタックルを受け止めるつもりで構えていたら、衝撃を受けることなく吸い込まれるようにイーラに丸々飲み込まれたみたいだ。

驚きはしたが、咄嗟に呼吸を止めてイーラに念話を送った。

「何してんだ?」

「血まみれだから綺麗にしようと思って!」

イーラは念話で返答するとすぐに俺から離れた。

確かに綺麗になったな。傷はアリアが治してくれたし、さっきまでボロボロだったのが嘘のようだ。

「ありがとう。」

「イーラもありがとう!」

イーラにお礼をいわれるのは意味不明だが、まぁいいか。

あらためて周りを見ると全員一区切りついたみたいで、壊れた人形を担いでマナドールに運んでいた。といってもヒトミとウサギは壊せていないから他のやつらを手伝っているだけみたいだが。

戦闘に参加していないアリアとテンコは既に近くまで来ていた。

「じゃあ午前中はこれで終わりにして、飯食ったら午後は…。」

「…。」

俺が話している間、アリアが無言で見つめてきたから、言葉を止めた。

「…わかってるよ。飯食ったらカンノ村に帰るぞ。」

「「「はい。」」」

ここにいるアリアとイーラとテンコの返事を聞きながら、散らばった人形8体を一ヶ所に集める作業を始めた。

体が怠い。

血が足りないせいもあるかもしれねぇが、原因はそれだけじゃねぇんだろうな。

なんでこんなにも帰るのが面倒だと思っているのか………まぁ間違いなく『戦乙女』のせいだよな。

昨日の夜にアリアから聞いたんだが、カンノ村に『乙女の集い』のメンバーが来ているという連絡がサラからきたらしい。

今はべつに何か被害を受けているわけではないらしいが、化け物級のやつに滞在されるだけで迷惑極まりない。しかもあいつはロリコンと意気投合するレベルの子ども好きらしいし、俺やセリナを恨んでいてもおかしくないやつだ。
そんなやつをサラだけに相手させるのはさすがに可哀想だからと今日の午前の練習を終えたら帰ることに決めてたんだが、面倒だな。あの女のせいで帰らなきゃならないってのが気に入らない。
確かにもともとマナドールを利用した戦闘訓練は今日までだったし、黒龍の素材集めにはセリナを連れていくつもりだったから、今帰るのは何の問題もないんだが、なんかなぁ…。

「…そんなにジャンヌさんに会いたくないのですか?」

帰るのを嫌がっているのが顔に出ていたのか、アリアが確認をとってきた。
いわれて気づいたが、なぜか俺はあいつに会いたくないみたいだ。第一印象が面倒くさいやつだったからか?
だからといってアリアたちを不安にさせるのはよくないよな。

「そういうわけじゃねぇ。予定を狂わされるのが好きじゃないだけだ。」

まぁ予定なんてあってないようなものなんだけどな。

全員が作業を終えて集まったのを確認して、俺らはマリネットールに戻った。





「リキはガルに会わないの?」

町の中のてきとうな定食屋をマナドールに教えてもらって、一緒に食べている途中でいきなりマナドールに話しかけられた。

「ガルが誰か知らねぇが、俺らはこれ食ったらもう帰るぞ。」

「ガルはマナの仲間。夕方には着くっていってた。それまでマナは何すればいいの?」

「知らねぇよ。好きにすればいいだろ。」

「そう。じゃあガルが来るまで遊ぼ?」

なんなんだこいつは?1人が寂しいのか?
まぁ俺の知ったことではないが。

「俺らはこのあと用事があるんだよ。戦闘訓練は終わったし、これでお前が俺らにいきなり攻撃してきたことは許してやるから、宿屋で大人しく仲間を待ってろ。」

「わかった。リキ、あの子は?」

わけわかんないわがままをいい始めたかと思ったらすぐに俺のいうことを聞き入れ、また意味がわからないことを聞いてきた。

「誰のことだよ?」

「マナがリキにあげた子。」

…あぁ、あの人形のことか。

俺はアイテムボックスから継ぎ接ぎだらけの不気味な人形を取り出してマナドールに渡した。

「これのことか?」

「そう。」

どうやら正解だったようで、マナドールが俺からその人形を受け取………るわけではなく、右手を人形の上に乗せた。


「我与える。我が御霊より分かれし力により意味ある個と成り給え。」

『ソウルシェア』


マナドールは人形に何かの魔法をかけたようで、人形が淡く光り、ほのかな温かみを感じた気がした。

人形の光が収まると、マナドールがニコリと笑った。

「イーラに食べさせちゃダメだよ。」

「なんでだよ。さすがにもらい物を捨てるような真似はしねぇよ。」

「なら良かった。食べられると元に戻せないから、リキを護れなくなる。だから肌身離さず持っていてね。」

俺を護るつもりでこいつを渡してたのかよ。確かにケモーナでは助けられたが、初対面のときにこれをもらえるほど仲良くなるようなことはしてないはずだ。

まぁもらえるものはもらっておくがな。
こんなガキに護られるのはどうかと思わなくもないが、こいつは間違いなく今の俺より強い。ならしばらくは利用させてもらうとしよう。

「ありがとう。」

人形をアイテムボックスにしまおうとしたが、やっぱり入らなくなっていた。マナドールがかけた魔法の効果が切れるまではしまえないのだろうな。そりゃ護るために渡されてんのにアイテムボックスに入れてたらどうにもならねぇからな。

どうしようかとチェインメイルの前をめくると内ポケットが目についたから、人形はそこにしまった。



その後もマナドールのわかりづらい話を聞き流しながら昼飯を終え、店を出た。

「帰るなら最後に頭撫でて。」

店を出て、マナドールに別れを告げようと思ったら、先に頼みごとをされた。

前に頭を撫でられたのがそんなに気持ちよかったのか?側から見たら痛そうにしか見えなかったが。

まぁ断った方が面倒そうだし、その程度ならいいかと右手でわしゃわしゃと頭を撫でた。

ガントレットをしてたときと違って、首がぐりんぐりんと動きはしなかったが、てきとうに撫でてるからマナドールの髪の毛がボサボサになっていく。でもなぜかマナドールは嬉しそうだ。やっぱりこいつはよくわからん。

「まぁ頑張れよ。」

無言で撫でるのもなんだしと、てきとうに言葉をかけたらマナドールが急に真顔になった。

さすがに既に頑張っているやつに頑張れは無責任すぎたか?
こいつが頑張る理由どころか、こいつ自身のこともほとんど知らないからてきとうにいっただけなんだが、頑張ってることは知ってたんだから、もうちょい言葉を選んでやるべきだったな。

「リキはマナのこと好き?」

俺が悪いことしたかもなと思っていたら、全く関係なかったみたいだ。
脈略もなくわけわからんことを聞いてくるし、こいつ相手に真面目に考えるだけ無駄だな。

「いや、べつに。」

俺の返答が気に食わなかったのか、マナドールは不満そうな顔をした。

「リキはマナのこと好き?」

「とくに好意は抱いてねぇな。」

「むー。マナはリキ好きだよ。」

「そうかそうか、ありがとな。」

そういって、最後に強めにぐしゃぐしゃと撫でてから手を離した。

「んじゃ、俺らは帰るわ。じゃあな。」

「また会おうね。」

「運があったらな。」

俺はマナドールの別れの言葉にてきとうに返しながらヒラヒラと手を振り、南門へと向かって歩きだした。

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