裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

201話



昨晩、チンピラを追い出したことで子どもを怖がらせちまったかと思ったら、そんなことはなかったみたいで普通に髪を切ってくれた。
もしかしたら母親を困らせた俺に復讐でも考えてんのかと思って警戒していたが、そんなことはなく、無事に終わった。今までで一番疲れた散髪だったな。
俺の髪を切りながら子どもが話していたんだが、母親から助けてもらったといわれたのを信じてるみたいだった。俺は助けたわけではないんだけどな。まぁ余計なことをいう必要はないかと聞き流したけど。

その後シャワーを浴びてから鏡を確認したが、悪くないな。ただ、毛先に若干染まってる部分を残してるのが気にはなるが……どうせなら赤茶に染まってる部分を全部切ってくれればとも思ったが、さすがにそこまで切ったら短くなりすぎてただろうし、これでちょうど良かったのだろう。

散髪自体はわりとすんなり終わったんだが、俺がシャワーから帰ってきたら、俺の髪を誰がもらうかとかいう意味がわからないいい合いが始まっていた。

人間の頭髪が何かの材料にでもなるのかと思って最初は好きにさせようと放置したが、イーラとニアがいい争っているのを聞いた感じではなんか違う気がしたし、なかなか終わりそうになかったから宿で処分してもらうことにした。

そんなくだらないことで夜中まで起きていたから、めちゃくちゃ眠い。アリアが起こしてくれたからイグ車の出発には間に合ったが、ほとんど寝れてないから眠くて仕方がない。

町に着くまではどうせ暇だし寝ちまうか。

俺はイグ車内の窓際の壁に体を預け、目を閉じた。





目を開けると外は真っ暗だったが、体が揺れている感覚からして、まだ到着はしていないのだろう。

イグ車の中には俺たち以外にも数人乗っているからか、かなり静かだ。会話をしているやつらもいるが、周りに気を使っているのか小声で話している。
イーラやサーシャもたまに喋っていたが、ちゃんと小声で喋っていた。少しは空気が読めるようになったんだな。

そんなことを考えていたら、イグ車が止まった。ちょうどいいタイミングで到着したんだな。

イグ車の扉が外から開かれ、俺ら以外の乗客が次々と降りていった。

俺らも降りるかと思ったら、隣のアリアが本を閉じて俺を見た。

「…おはようございます。町に着いたようです。」

どうやら俺が起きてたことに気づいてなかったみたいだな。

「あぁ、降りるぞ。」

アリアたちの間を通ってイグ車を降り、固まった体を伸ばして骨をボキボキと鳴らしてから馬車乗り場の建物の外に出た。

馬車乗り場は町の外壁の外に建てられていたらしい。村では村内に乗り場があったから、てっきり町でも中まで乗って入るのかと思っていたが、違うみたいだ。

まぁ門は目の前にあるし特に問題はないけどな。

門で全員が身分証を提示すると少し驚かれた。アリアとかは奴隷紋が見えているのに身分証を持ってるからかもな。
だが、ドールンの時とは違い、無駄に止められることはなく町に入れた。

門をくぐり、目に入った町は普通だ。
石畳が敷かれ、町の真ん中に王城だと思われるデカい建物があり、見える範囲は整備されたように家や店が並んでいる。アラフミナとか他の町と大差ない。所々に建てられた街灯が淡い光で照らし出す街並みというのは悪くないが、感動はとくにない。
今思うと見た目だけならガンザーラが一番綺麗な町だったな。用でもない限り二度と行く気はないが。

「とりあえず宿を探すぞ。」

今回は12時間以上も寝てて昼飯を食ってねぇから腹が減って仕方がねぇ。
途中何度か目を覚ましたが、寝てる姿勢が悪かったせいか眠さが全然取れなくて、気づけば到着まで寝ていたみたいだ。正直いえばまだ眠い。これは寝過ぎたせいかもな。

「そこ宿屋っぽいからそこにするか。」

「…はい。」

探すかといっておきながら面倒だったから、門の近くにあった宿屋のような店を選んで入った。少し高そうな宿屋だが、まぁ一泊くらいはいいだろ。
この宿には10人部屋があったから、その部屋を借り、飯やシャワーを済ませてからあらためて眠りについた。







久しぶりにかなり寝たな。
昨日はほぼ一日中寝てたのに今日も昼近くまで寝ていたようだ。おかげでかなり目が冴えていやがる。

アリアたちは朝は出かけていたやつがいたみたいだが、今は俺が起きるのを全員で待っていたらしい。起こさずに待ってるなんて偉いやつらだ。

今日は町の外に出る予定はとくにないのになぜか戦闘用の装備をしているアリアたちを連れて、宿屋の1階で飯を食ってから俺らは冒険者ギルドに向かった。
もちろん俺の名前を使っているやつの情報を集めるためだ。







町自体はこれといって変わったところはなかったが、冒険者ギルドの外観はアラフミナの首都のギルドの倍以上の広さがあるように見える。

中に入ると外観でイメージした以上の広さだった。

受付は全部で10以上の窓口があり、3箇所に分かれてるから何か用途別にされているのだろう。文字が読めないからわからんけど。
雑談スペースのようなところは2箇所あり、どちらも広い。
片方は掲示板前のスペース。もう片方は食堂のようになっている。

もうすぐ昼になるからか、食堂の方はそこそこ人がいるが、この広さにたいして人が少なく感じるな。受付もあんだけ窓口があるのに使われてるのは5つ程度だし。

入り口横には2階に続く階段があるが、ここからだと上がどうなってるかはわからない。

俺らはさっき飯を食ったばかりだし、掲示板の前のスペースを利用するか。食堂側ほどではないが、そっちにもいくつかのパーティーがいるから、話を聞いてみるか。

6人がけテーブルを2つ確保してから、周りを確認した。
4つのパーティーはそれぞれ次の依頼をどれにするか話しているみたいだ。真剣に話し合っているのを邪魔するのも悪いし、少し待つか。



もうすぐ隣のパーティーの話し合いが終わりそうだというところで、ジョッキを片手に持ったおっさんが近づいてきた。このおっさんは食堂の方で酒を飲んでいたんだが、さっきからチラチラとこちらを見ているなとは思っていたが、なんか用でもあるのか?
冒険者ギルドではいつもイチャモンつけられるイメージしかないから、こいつもそうかもな。

「見ない顔だな。俺はライモンだ。」

とくに喧嘩腰というわけでもなく、普通に名乗ってきた。

「なんか用か?」

「用ってほどじゃないんだが、ちょっとした忠告だ。」

「もしかして俺らがなんか違反でもしてたか?」

この国のルールを知らないから、なんかやらかしたかと確認したら、男は片眉を上げて不思議そうな顔をしていた。

「いや、違う。今は子どもをあまり連れ歩かない方がいいぞっていう忠告だ。」

「なぜだ?」

「今はこの町に『少女使い』が来てるからよ。いや、『歩く災厄』になったんだったな。そいつは子どもが好きみたいでな。気に入った子どもは連れ去っていくっていう噂もあるから気をつけろっていうお節介だな。俺程度の実力じゃ『歩く災厄』に目をつけられたら助けてやることは出来ねぇから、せめてもの忠告だ。」

男は苦笑いをしてからジョッキを煽った。

本当にただ忠告してくれたみたいだ。まぁ俺の目的がそいつだから目をつけられても問題ないんだがな。

「忠告ありがとう。でも、こいつらは俺のパーティーメンバーなので、連れ歩かないというわけにはいかないんですよ。ちなみにライモンさんはその『歩く災厄』には詳しいんですか?」

せっかく情報を持ってそうな相手だから、聞けるだけ聞いておくか。善意につけ込むようで悪いが、利用させてもらう。

「詳しいわけじゃねぇよ。ただ、あいつらはここにちょいちょい顔を出すから、顔は覚えちまったな。あとわかるのは本名がリキ・カンノってこととかなり強いってことくらいか。」

「かなり強いのですか?」

「あぁ、この前Bランクの冒険者パーティーと喧嘩になっていたが、『歩く災厄』の仲間2人だけでBランク6人を再起不能にしていたから、あの2人は間違いなくAランク以上だ。その2人を従えている『歩く災厄』は噂通りSランクの実力なのかもな。だからCランクの俺からしたら強すぎてどの程度なのかわからねぇ。」

「その『歩く災厄』の拠点は知ってますか?」

「さすがに知らねぇよ。でも早朝と夕方にここに顔を出すことが多いな。毎日じゃねぇけど、今日は早朝に依頼を受けに来てたらしいから、夕方にはまた来るんじゃねぇか?だからそれまでにこの町を離れた方がいいかもな。」

「いろいろとありがとうございました。」

「俺の単なるお節介だ。気にするな。」

そういって男は食堂側のスペースへと戻っていった。
冒険者ギルドにもいいやつっているんだな。

「リキ殿が敬語を使うと凄く違和感があるのぅ。」

「うるせぇな。」

ヘタに正体がバレて偽物に会う前に騒がれると面倒だからな。冒険者の後輩らしく振舞ってみただけだ。





冒険者ギルドに子どもがいるのが珍しいのか、ちょいちょい話しかけてくる冒険者が多かった。中には最初のやつと同じように心配してくるやつもいたし、ここの冒険者は全体的にいいやつが多い印象だ。
そいつらからこの国の『歩く災厄』について聞いたりしたが、けっこうやりたい放題やってるみたいだ。ただ、そろそろ人形が来る時期だからデカい顔できるのもあと少しだけだといっているやつが何人かいたが、よく意味がわからなかった。
詳しく聞きたかったが、なぜかアリアたちはわかっているようだったから聞くに聞けず、聞き流すことになっちまった。

そんなことをしているうちに夕方に差し掛かり、ギルド内の冒険者たちが増え始めていた。

さっきまでスカスカだった受付もこれだけ数があるにもかかわらず行列ができ始めていた。

騒がしくなり始めたギルド内をしばらく眺めていると急に静かになり始めた。
なんでいきなり静かになったのかと思ったら、さっきまで騒がしかったやつらが入り口の方を見ていることに気づいて俺も目を向けると、3人組の男たちが食堂側のスペースへと向かっていた。そしてガントレットをハメている1人だけ椅子に座った。残り2人の大盾を持ってるやつと棒を持ってるやつはサイドに立っている。棒を持ってるやつは頭から耳が生えているから獣人っぽいな。

その3人組は受付の行列を見てから、近づいて来たウェイトレスっぽい女に何かを話していた。待ち時間に軽食でも取るつもりみたいだ。

「なぁ、あいつは有名人なのか?あいつが入ってきた瞬間に静かになったみたいだけど。」

たぶんあいつらがこの国での『歩く災厄』なんだとは思うが、確証を得るために俺の後ろのテーブルに座っていたやつに声をかけた。

「知らないのか?あいつが『歩く災厄』って二つ名がついたリキってやつだよ。子ども好きみたいだから気をつけた方がいいよ。といっても目をつけられたら諦めるしか出来ないだろうけどさ。悪いけど、もし目をつけられたら僕らの実力じゃその子らを助けてあげることは出来ないと思う。ごめん。」

なんかここまで周りがいいやつばかりだと調子狂うな。まぁ俺はこれからここで暴れることになるかもしれないから、すぐに嫌われるだろうし、気にすることでもないだろうけどさ。

「あんたが謝ることじゃない。こいつらを守りきれなかったとしたらそれは俺の責任だ。それより、あいつらは自分で『歩く災厄』のリキ・カンノだって名乗ったのか?」

「僕はその場にいなかったけど、前にBランクの冒険者パーティーと喧嘩になったときに名乗ったらしいよ。」

「そうか、ありがとう。」

俺は後ろのやつに礼をいい、念のため『歩く災厄』に鑑定を使った。

最初はノイズがかかっていたが、少し強めるだけで頭痛がする前に名前を読み取れた。

“ノモセニー・ノレオ”

これで同姓同名の可能性は消えたな。

俺は立ち上がってガントレットをハメた。
その姿を見て後ろのやつが驚いていたが、気にせず偽物の方に向かって歩いていくと、アオイとニアがついてきた。べつに付き添いはいらなかったが、2人くらいならいいか。

俺が偽物に近づいていくと、護衛のように立っていた2人が先に気づき、遅れて偽物が俺を見た。

大盾を持っているやつが盾を構えたが、まだ話しかけるには距離が少しある。だから相手の警戒を無視して程よい距離まで近寄った。

「一応の確認なんだが、そこで偉そうにしてるやつはリキ・カンノか?」

偽物だと決めつけていたが、もしかしたら人違いの可能性もあるから、念のため最終確認をした。

「そうだが、なんか用か?もしかして、俺の機嫌を取るために後ろの女どもをくれるのか?」

偽物だと確定した瞬間、俺は会心の一撃を発動して右手に力を込めながら殴る体勢に入った。
偽物の横に立っていた2人は俺の唐突な動きに反応し、大盾使いは俺と偽物の間に入って大盾を構え、棒使いはテーブルに飛び乗り、俺に向かってきた。
横目でニアが動いたのが見えたから棒使いは無視して、そのまま大盾のど真ん中を力の限り殴った。

大盾にわずかにヒビが入ったと思ったら、大盾使いは斜め後方に吹っ飛んだ。耐えきれないと判断して、偽物にぶつからないように自分から飛んだっぽいな。あの瞬間に判断できるところを見るにかなり強いのかもしれない。それだけに一撃の極みではなく会心の一撃でヒビが入る盾を使っているのがもったいないな。おかげで俺は楽が出来るからいいんだけどさ。

邪魔な大盾使いが消えたから偽物に近づこうとしたら、何かが俺の顔面に向かってきているのが見えて、首をそらして避けた。

どうやら棒使いがニアを避けて俺の反対側に回り、棒で突いてきたみたいだ。

「申し訳ありません!回り込まれました!」

「気にするな。」

この棒使いの攻撃も速いが、俺の観察眼で追える程度だからなんとかなるだろう。

一瞬の沈黙の後、棒使いが踏み込んで棒を横薙ぎにしてきた。それをバックステップで躱すと、そのままの勢いを殺さないように棒を一回転させて俺の頭を狙ってきた。それも避けるとさらに速くなった棒が俺の腕を狙ってきた。

どうやら棒の両端に重りがついているみたいで、振り回せば振り回すほど速度が増すみたいだ。これはいい回避の練習になりそうだ。

しばらく回避に専念していたら、ちょっと避けるのが厳しいほどに相手の攻撃が速くなっちまった。そろそろ反撃するべきかと思ったところで、相手が棒で足を払おうとしてきたところを間違って上に飛んで避けちまった。

ヤバイ…。

案の定、空中で次の行動が取れない俺の真横に棒が迫ってきた。
なんとか体を捻ってクロスに構えたガントレットで防御の体勢を取るが、空中だから踏ん張ることが出来ずにふっ飛ばされた。

テーブルや椅子を巻き込んで吹っ飛ばされて身体中が痛かったが、おかげで早々に勢いがなくなり、あまり遠くまでは飛ばされなかった。

『ハイヒール』

身体中痛かったのが治った。
念のため肩を回したりして確認するが、問題なさそうだ。

俺が立ち上がって偽物のところに戻ろうとすると、大盾使いが既に戻っているようだった。

ちょっと今のは楽しかったが、大盾使いは邪魔だな。

あの盾なら大丈夫だろうと判断して、『一撃の極み』を発動して、右手に集中させた。

右手の黒い靄が濃くなっていくのを確認してから、偽物たちに近づいていくと大盾使いが何かをブツブツと呟き始めた。強化魔法でも自分にかけるつもりなのかね。させねぇけど。

俺は一気に間合いを詰めて盾のど真ん中を殴ると盾はほとんど抵抗なく砕け散った。

大盾使いは驚きながらもまた自ら斜め後方に飛ぼうとしたのか、体を捻ったせいで俺の右手がそいつの左肩に当たり、抵抗なく抉った。
そのせいか回転を加えて後方に飛んだ大盾使いを棒使いが無理やり棒で掬い上げるように軌道をずらして偽物に当たらないよう後方へ吹っ飛ばした。

大盾使いの抉られた肩から血が撒き散らされているが、血避けの加護を持つ俺には関係ない。

先手必勝とばかりに棒使いが攻撃を仕掛けてきた。今度は突きの連打だ。
こいつの攻撃は程よく速いから避ける練習になるし、楽しいんだが、あまり時間をかけすぎてギルドの迷惑になるのは悪いな。ここのやつらはいい奴が多かったし。まぁもう手遅れな可能性は高いけど。

ということで、棒使いが突いてきた棒を左手で掴んで引き寄せ、驚いていた棒使いの左頬を右手でぶん殴った。

殴った瞬間に鳴っちゃいけないような音がした気がするが、吹っ飛んだせいで棒使いの顔がどうなったかは見えなかった。まぁあれだけ強ければこのくらいは大丈夫だろう。

「さて、お前の護衛はいなくなったけど、どうする?」

偽物は余裕そうな笑みを浮かべながら立ち上がった。

「どうするとはどういう意味だ?弱い仲間がやられたからって俺が焦る必要はねぇだろ?それともお前は俺が誰だか知らねぇのか?」

弱い仲間って、どう見てもこいつの方が弱いと思うんだが、スキルかなんかで弱く見せてんのか?

「ノモセニー・ノレオだろ?まぁ名前しか知らねぇけどな。」

「っ!?」

男は驚いた顔を一瞬見せたが、すぐに腰の短剣を抜いて斬りかかってきた。だが、さっきの棒使いとは比べものにならないくらい遅い。

俺は短剣を握った男の右手を左手で掴んで、ガントレットごと握りつぶした。

「っ!」

男は短剣を落としはしたが声はあげなかった。

「とうとうギルドが動きやがったのか?」

男は潰れた右手を背中に回し、左手で腰から新たに短剣を抜き、警戒するように構えた。

「は?なんでギルドが出てくるんだ?俺は勝手に俺の名前を使いやがったやつに文句をいいにきただけだが。」

「は?…もしかしてお前はリキ・カンノなのか?」

男の顔がみるみるうちに青くなるのが少し面白い。イタズラが親にバレた子どもみたいだな。

「あぁ、理解が早くて助かる。それで、人の名前を勝手に使った代償はどう支払うつもりだ?」

「き、金貨10枚ならすぐに払える!」

「なら、とりあえずそれをもらおうか。」

「あぁ。」

男がポーチから金貨10枚を取り出して渡してきた。バレた瞬間に金で解決しようとするとかずいぶん潔いやつだな。

俺は少し離れたところで見ていたウェイトレスの女の子を見つけ、手招きした。

女の子はキョロキョロと周りを見てから俺を見て、体を小刻みに震わせながら泣きそうな顔になった。
べつに何かするつもりはねぇんだけどなと苦笑を漏らしたら、女の子はビクリと肩を跳ねさせてから泣きながら近づいてきた。

俺の前で止まったが、口をパクパクさせるだけで何もいえてない。

「そんなに怖がるなよ。べつに何もしねぇから。他の従業員がわからなかったからあんたを呼んだだけだよ。それで、まずは騒がしくしてすまん。椅子やテーブルを壊しちまったからこれで買い直してくれ。余った分は今ここにいる冒険者の飲食代に使ってくれ。それでもまだ余るようならあんたの小遣いにでもしてくれ。」

そういって無理やり金貨10枚を握らせた。

意味がわからないという顔をしているウェイトレスの背中を押して戻らせてから偽物に振り返った。

「すぐに払えるのが金貨10枚ってことはまだ蓄えがあるんだろ?もちろんお前の拠点まで案内してくれるんだよな?」

男は顔を青くしたままコクコクと頷いた。

「イーラ!」

「なに〜?」

呼ばれたイーラがトテトテと走って近づいてきた。

「食べ物や血で汚れたところを綺麗にしてもらえるか?」

「は〜い。」

イーラが両手を前にかざすと床に魔法陣のようなものが浮かび上がり、光り出した魔法陣から大量のスライムが現れた。
そのスライムたちが飲食物や大盾使いが撒き散らした血を綺麗にしていった。

その間に俺は周りを見て怪我人の有無を確かめるが、さすが冒険者というべきか巻き込まれたやつらはいなさそうだ。大盾使いと棒使いは放置でいいか。

イーラが掃除を終えて戻ってくるのに合わせ、アリアたちも俺のもとに集まっていた。

「それじゃあ案内頼んだぞ。ノモセニー?」

「…………はい。」

俺らはノモセニーに拠点まで案内させるため、ノモセニーを連れて冒険者ギルドを出た。

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