裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

198話



…………。

うん、わからん。

今までいくつか有名な冒険者のグループは耳にしたことあるが、その中には『道化師連合』なんて名前はなかった気がする。ほとんど聞き流してたから自信はねぇけど。
というかそもそも冒険者とは限らねぇのか。

困った時のアリアだな。

そう思って隣のアリアを見ると少し驚いた顔をしていた。そのせいか俺の視線に気づいていない。

「アリア、知っているのか?」

俺が声をかけるとアリアはいつもの顔に戻り、俺の方を向いた。

「…名前はとても有名なグループです。ですが、わたしは何も知りません。」

アリアでも知らないことがあるのはおかしなことではないが、返答がなんだかおかしくないか?

「どういう意味だ?」

「…リーダーの二つ名が『道化師』ということと不気味な顔のグループマークということしか正確な情報を知られていないグループです。噂ならいくつもありますが、どれが正しいのか一切わからない、実在しているかも疑われているグループです。」

ん?リーダーがいてグループマークがあるのは確実なのに実在してるかわからないっておかしくね?

「簡単なことですよ。リーダー以外の現メンバーは1人として名前も顔もないのですから、知られようがないのです。そしてリーダーは冒険者として表舞台に出ることはもうなく、顔を知るものすら少数ですからね。」

俺がアリアの発言に頭をひねっていたら、貼り付けたような笑顔のマルチが答えてくれた。

「お前にはマルチって名前があるじゃねぇか。」

「マルチという名はこの地域で活動するためだけに使っている名前であり、私に本当の名前はありませんよ。」

「もしかしてもともと存在してたマルチってやつを殺して乗っ取ったのか?」

「そんなことはしていません。昔、上の命令で勇者パーティーに潜入していたときに勇者にマルチプレイヤーと呼ばれたことがあったので、その後ドルテニア担当になってからマルチと名乗るようにしているだけです。なので、この国でいうマルチという女はこの国での私のことですよ。」

やべぇな。頭がこんがらがりそうだ。

「…噂の一つに『道化師連合』は情報に長けたグループというのがありましたが、その一員のあなたがそんなに情報を軽く扱っていいのですか?」

脳が疲れたから考えるのを放棄しようかと考えていたら。アリアが話に加わってきた。

「これは手厳しいですね。信じてもらえるかはわかりませんが、相手がリキ・カンノさんだからですよ。」

「…敵と見られて殺されるのを恐れてですか?」

「いえ、半分違います。敵と見られてしまうのは困りますが、私の命程度でしたらご自由に奪っていただいてかまいません。『道化師連合』はリキ・カンノさん及び『一条ひとすじの光』のメンバーと敵対するつもりはありません。なので今回の接触は自己判断によるものであり、リーダーからの命令ではありません。」

「リーダーからはなんて命令されてんだ?」

「先ほど伝えた、ドルテニアでの情報収集の他、後から与えられたリーダーからの命令はリキ・カンノさんに不快感を与えない範囲での情報収集です。」

「それを俺にいってもいいのか?」

「はい。私の権限にて許されていることに関しては答える許可を得ています。」

貼り付けた笑顔と質問に淡々と答える姿のせいか、機械かなんかと話してる気分になってくる。有り体にいえばなんか不気味だ。

「じゃあ質問すればなんでも答えてくれんのか?」

「それで敵対せずに済むというのであれば、私の答えられる範囲内のことはいくらでも答えたく思います。」

「じゃあスリーサイズとかでも教えてくれんのか?」

「申し訳ありません。“スリーサイズ”が何かわからないので答えられません。私でもわかるように質問していただけると助かります。」

そんなまじめに返答されると困る…。
そういやこの世界にきてから長さの単位を聞いたことがない気がするし、スリーサイズなんか測ること自体がないのかもな。

「今のは冗談だから忘れろ。」

「はい。」

「そもそも俺らの質問に正直に答えている保証はなんかあるのか?」

「それは信じていただくしかありません。」

そりゃそうだな。
まぁとくに俺は聞きたいことがあるわけでもないし、べつにいいんだが。…いや、一つあったな。

「じゃあさ、黒龍の住処を教えてくれよ。」

「ここからさらに西へ行くといくつかの国を越えた先にパワンセルフという国があります。その国より西には大きな山々しかないのですが、その山に龍族が住んでいるという話を聞いたことがあります。ただ、黒龍が必ずいるかはわかりません。他にも目撃情報はいくつかありますが、どれも一時的なものであり、既に同じ場所にはいないと思われます。」

凄えな。
ダメ元で聞いてみただけなのに簡単に答えやがった。

せっかくだからいろいろと聞きたいんだが、こういうときに限ってなんも出てこないんだよな。いや、そもそも聞きたいことがねぇのか。
アリアに出会ってからはほとんどを任せちまってるから、俺自身で調べるとかしてねぇんだよな。だから未解決の疑問がほとんどねぇ。
それに興味ねぇことには疑問を持ったところでどうでもいいと流しちまってたし。

こういうのはアリアが聞いた方がいいんじゃないかと思ってアリアを見たら、アリアと目があった。
でもアリアはなんでも知ってるし、聞くこともないか?

「なんか聞きたいことあるか?」

「…はい。」

一応確認してみたらあるらしい。

「なら好きに聞け。俺は他に聞きたいことが特にないからな。」

「…ありがとうございます。」

俺に礼をいう必要は全くないんだがな。

「…『御霊降ろし』のスキルを所持している方を知っていますか?種族は問いません。」

「担当地区が違うので詳しくは知りませんが、確かアラフミナの勇者の初期パーティーメンバーにそのスキル持ちがいたかと思います。」

「…今はどこにいますか?」

「私は詳しくは知りません。もう勇者パーティーから外されたそうですが、ヤイザウ侯爵に拾われたとまでは聞いているので、アラフミナ王国内にはいると思います。」

なぜかアリアが今の話を聞いてピクリと反応した。
もしかして本当は知っていることを確認して嘘をついてるかを試したとかか?それで嘘だったから反応したとか?

「…それは奴隷になったということですか?」

「いえ、雇われたと聞いています。ただ、何をしているのかなどは私は知らされていません。」

あれ?嘘を確かめようとしたわけじゃなさそうだな。そういやアリアは『御霊降ろし』のスキルの所持者を知らないっていってたっけか。
じゃあさっきの反応はなんだったんだ?まぁ何かあるならあとで話してくるだろうからいいか。

「…そうですか。ありがとうございます。」

アリアが聞きたかったのもこれだけみたいだな。

「あたしも一ついいかな♪」

俺らとマルチの間にいたヒトミが俺の方に振り向いて確認をしてきた。
勝手に聞けばいいと思うんだが。

「好きにしろ。」

「ありがとう♪」

だから俺に礼をいう必要は全くないんだが。

「種族はなんでもいいんだけど、魔王の居場所とか知らないかな?できれば人間領内がいいな♪」

「クルムナを襲ったのが悪魔王だったと聞いています。私が持っている魔王の情報はそれだけです。」

「悪魔王は無理だなぁ…でもありがとう♪」

なんでヒトミが魔王なんて探してるのかはわからないが、あの悪魔も魔王だったのか。あいつは嫌なやつではなかったが、二度と会いたくはねぇ。

そんなことを考えていたら、辺りが静かになった。どうやら他に聞きたいことがあるやつはいないみたいだ。
まぁアリア以外はほとんど頭使ってなさそうだし、アリアは大抵のことは知ってそうだから、聞きたいこともそんなにねぇのか。頭使ってないってのは俺も人のことはいえねぇんだけどな。

「今聞きたいのはこんなもんだ。というよりいきなりは質問が思いつかないわ。」

「本当にいいんですか?」

マルチは俺の言葉を聞いたあと、アリアを見て最後の確認をした。

「…はい。わたしの仕事なので。」

「取って代わろうなんて思っていませんよ。でも、そうですね。失礼いたしました。」

アリアがよくわからない返答をしたが、マルチには伝わっているみたいで、謝罪するように頭を下げた。まぁあからさまな作り笑顔で礼儀正しく頭を下げられても嘘くさすぎるけどな。

「それでは私はここで失礼いたします。私は二度とお会いすることはないと思いますが、また・・リーダーが伺いに行くことがあるかもしれませんので、その時はよろしくお願いいたします。」

「いいのか?」

「はい?」

マルチがまた頭を下げたときに声をかけちまったから、マルチは腰を中途半端に曲げたまま、顔だけ上げて首を傾げた。

「いや、あとボスだけなのについて来なくていいのか?」

「…………?」

マルチが顔だけ上げて首を傾げている状態で固まった。その状態はなんか不気味だからやめてほしい…。

「べつに無理について来いってわけじゃねぇから、好きにしろ。余裕があるうちはついて来てもいいって約束しちまったから一応確認しただけだ。」

ここまで来たのに帰らせるってのもなんか悪い気がして声をかけちまった。
ただ本性表しただけで帰れって空気を作って帰すのはなんかな…。本性出したせいで俺に害があったわけじゃねぇんだし。もちろん気まずいから帰りたいなら止めるつもりはないけどな。

「いいんですか?」

「あぁ。」

マルチは一度顔を伏せ、体を起こしたときには“マルチの笑顔”に変わっていた。

「ならお願いするッス!お兄さんといられるのはこれが最後になるッスから、どうせなら最後まで行きたいッス!」

「そうか。俺もそのキャラのお前といんのはわりと楽しかったからな。どうせいなくなるなら最後までそのままでいてくれよ。」

俺のわがままなんだが、どうせならいい思い出にしたいからな。作ってるキャラだとしても、こいつのバカっぽいキャラは嫌いじゃなかったし。
それに最後にあんな不気味な笑顔のままで帰られたら夢に出かねねぇからな…。

「さすが万人に愛される性格のマルチちゃんッスね!お兄さんの心も鷲掴みにしちゃうなんて、罪な女で申し訳なっ…ちょっみんな、怖いッスよ!」

ニアに威圧でも使われたのか、マルチがふざけたことをいうのを慌てたように途中で止めた。

「ふざけるくらいには余裕があるみたいだな。ならとっととボスを倒しに行くぞ。」

「「「「「「「「「はい。」」」」」」」」」

「了解ッス〜。」

アリアたちがマルチへの警戒を解いたみたいだから、俺は扉まで歩いて近づき、その大きな扉を押し開けた。

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コメント

  • くあ

    人形渡してきた女の子とか

    0
  • 葉月二三

    その正体はだいぶ先で明かされるはずです!
    一応本編で会ったことはありますよ。ただ、道化師の話は一切していないので、わからないと思いますが。

    0
  • ユーノ

    またリーダーが伺いに行くかも・・・???
    前にあったことあるんか???

    (*'へ'*) ンー
    そんな怪しいヤツおったかなぁ・・・

    0
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