裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

192話



それにしても暇だ。

今は地下3階を歩いているんだが、やることがない。
トラップがないとわかっているからアオイが先頭を歩いて魔物をバラバラにし、マルチがその後ろで討伐証明部位を取り、俺らはその後ろを歩いてついていくだけだ。

アオイの体を慣らすためだからこうなることはわかっていたことだが、実際に暇だとつまらん。
だからといって全く警戒しないのは危険すぎるから遊ぶわけにもいかないしな。いくら雑魚しかいないといってもダンジョンでは何があるかわからねぇ。しかもここは他のダンジョンとも違うみたいだから尚更だ。

「もうすぐ階段ッスよ。」

唯一このダンジョンに来たことあるマルチが声をかけてきた。
ジョブは冒険者だっていっていたし、ダンジョンマップで確認できることだから間違いないだろう。

「わかった。アオイは次の階からはあまり前に出るなよ。知らずにトラップを踏んだりしたらマルチとパーティーを組んでる意味がなくなるからな。だから魔物が現れたらマルチがアオイより後ろに下がってくれ。アオイはマルチがいた場所より前には出るな。」

「承知した。」

「了解ッス〜。」

話をしながらも歩いて進んでいたからか、道から逸れたところに小部屋のような空間があり、その空間の真ん中に階段があった。

ここにとどまる必要がないから、マルチを先頭にてきとうに下りていく。なぜかサーシャがマルチの次に下りていったが、今日はずいぶんやる気みたいだな。といってもまだなんの役にもたってねぇけど。

地下4階に下りると、マルチが止まっていたから全員が止まってマルチを見た。

「ここからはトラップがあるから気をつけてほしいッス。まだ即死するようなのはほとんどないッスけど、指が吹っ飛んだりくらいはするんで勝手な行動はしないでほしいッス。」

「あぁ。」

なぜかマルチが俺を見て話すから、一応返事をしておいた。
俺が返事をして納得したのか、今度はアリアに視線を向けて話し出した。

「トラップの有無の見分け方なんスけど、トラップの仕掛けが隠れてるところは色がわずかに違ったり、変に盛り上がっていたりするッス。下に行くほど見分けづらいッスから、今のうちに気づけるようになっといた方がいいッスよ。」

「…はい。ありがとうございます。」

「とりあえず下の階に一番近い道順でいいッスか?」

今度は俺に確認をしてきた。
個人的にはマップを全部埋めたい気持ちもあるが、トラップがあると走って埋めるわけにもいかないからな。しかも今回はアオイのためのようなものだ。なら出来るだけ早く下まで行くべきだろう。じゃなきゃやることのない俺が長時間の暇に耐えられず、飽きてダンジョン探索自体を終わりにしかねない。

「あぁ、とりあえずは最短距離で頼む。」

「了解ッス〜。」

そういってマルチが進み出した。



しばらく歩くと魔物に会う前に違和感のある壁と地面が目についた。

「もしかしてあれがトラップか?」

「え?ここから見えるんスか!?」

質問を質問で返されたが、仕方がないか。
さっきの話からしたら近づかなきゃわからない程度の色の違いや盛り上がりなんだろう。
それをこの距離で気づいたとしたら驚くわな。
セリナくらい目がよければわかるかもしれないが、いくらこの世界にきて目が良くなったといっても俺はそこまでじゃない。観察眼様様なだけだ。

「見えるわけじゃないが違和感がある気がしてな。」

「そういうスキルも持ってるんスか?羨ましいッスね。」

話しながら違和感があった場所に近づくと、地面の色が違うのがわかる。道幅いっぱいに奥行きが5メートルくらいか?跳び越えられないこともないけど、そのエリアが範囲なら跳んで無防備なところに何かをされてバッドエンドだな。

「ここがトラップゾーンッス。この色違いの地面を踏むとビリビリするッス。それで解除方法なんスけど、トラップゾーンの近くには制御装置みたいのがあるんスよ。それを止めるなり破壊するなりすれば一時的に効果が止まるッス。ただ、物によっては破壊することが次のトラップの発動条件だったりするんで壊さずに解除するのが無難ッスね。」

そういいながら右側の壁の下、色違いの地面の少し手前を触り出したマルチが地面を開けた。そこだけ蓋になってたみたいだ。

「これが制御装置ッス。アリアちゃんちょっといいッスか?」

「…はい。」

マルチはアリアを呼んで解除方法を教え始めた。
まずはマルチが手本を見せているみたいで、説明しながら手を動かし、1分もしないで終わったみたいだ。

「ここのトラップ解除はこんな感じッス!」

「…ありがとうございます。」

これで終わり?
地面の色は変わらないが、たしかに地面の違和感は薄らいだ。

だが、俺が感じた壁の違和感にはノータッチだ。

「これで終わりなのか?」

「このトラップの解除はこれで終わりッスよ?これでしばらくはトラップが発動しないッス。でも、通るときは念のため何かで試した方がいいッスよ。」

そういってマルチはポーチから小石のようなものを取り出して転がした。しかし何も起こらない。

「ほら。大丈夫みたいッスよ。」

今のが確認なのか。
まぁここまで大丈夫といってるんだから余計なことはするべきじゃねぇか。

「わかった。」

深く考えるのはやめて、マルチを先頭に先に進むことにした。






地下10階まできたが、今日はここを最後にしようと思う。時間的にけっこう遅くなってるし、区切りも良さそうだからだ。

地下4階以降は魔物が激減した。
頻繁に冒険者が出入りしているかららしいが、これじゃあアオイの慣らしにならねぇじゃねぇか。
まぁ魔物が全くいないわけではないから多少の意味はあるだろうからいいけどよ。アリアのトラップ解除の勉強にもなるみたいだし。

ただ、さっきから気になって仕方がないのがある。

トラップゾーンとかいってる場所にある違和感だ。

トラップゾーンには俺の目が反応する場所が毎回4つあった。

1つはトラップが発動するエリア。

もう1つはマルチとアリアが解除してるスイッチと罠を挟んだ反対側のスイッチ1つの計2つ。

んで最後は一切触れずに素通りされてるものだ。

俺が違和感を得ているから何かがあるんだと思うが、トラップ自体はスイッチを解除するだけで停止している。

だから余計なことはするべきじゃねぇかと素通りしてきたが、毎回あると気になって仕方がない。


俺は我慢できずに壁の違和感を掴むように両手の指を壁に突っ込んだ。


他の壁より柔らかいみたいで、力を入れると指がズブッとめり込んだ。
そのまま両手の指を握ろうとすると壁の中に何かがあるような感触が指先に伝わってきた。

一度指を壁から抜き、違和感がある範囲の外枠を指で丁寧に削った。

「何してるんスか?」

「気にするな。」

てきとうに返事をしながら壁を指で削ると、中から漫画の月刊誌くらいの何かが出てきた。材質は金属か?

「それは魔道具じゃな。どうやらそのトラップとやらを発動させとるのはそれのようじゃよ。」

俺が持っている金属の塊を裏返したりして確認していたら、アオイが声をかけてきた。

「え!?本当ッスか!?だとしたら大発見じゃないッスか!」

「アオイはなんでそんなことがわかるんだ?」

「何故といわれてもそれが発してるものと床で発動してるものが同じだったからじゃが、上手く説明は出来ぬ。わかるからわかっただけじゃよ。リキ殿もそれの存在に気づいたのならわかるのではないか?」

「いや、俺はそこまではわからん。」

「そうか。妾とリキ殿では見えてるものが違うようじゃな。」

「このダンジョンはトラップを発動する魔道具まで生み出すんスね。」

いや、どう考えても人工物だろ!?
といっても俺はこの世界の常識を知らないから、もしかしたら本当にダンジョンが作り出してるのかもしれない。
だから下手に人工物だろうといって間違ってたら、あとで恥をかくことになるから何もいわないが。

それにしても、この体から何かがわずかに抜けていく感じはなんだ?
知らないうちに状態異常にでもなったかと思ってステータスを確認するが、状態異常にはなっていない。ただ、MPが徐々になくなってやがる。ジョブが魔王で大量のMPがあるから徐々にといえるが、けっこうな消費速度だ。

目を凝らすと薄っすらとこの魔道具にモヤっとしたものが吸われているように見えた。

間違いなくこの魔道具のせいだな。

俺は魔道具を左手で持ち、右手を握って拳をつくり、力の限りに殴って魔道具を潰した。

「なにやってんスか!?」

アリアも少し驚いているが、他は特に気にしてないみたいだ。つまりマルチの反応は大げさすぎるってことだな。
だから一度マルチを無視して、あらためてトラップゾーンを見てみると、微かに違和感はあるが、目を凝らしてもモヤっとした何かは見えなくなった。今の魔道具がバッテリーというか主電源だったのだろう。

これは人工物の可能性が高くなってきたんじゃねぇか?まだもしもがあるから余計なことはいえないが。
そもそもなんのためにこんな物を用意するんだ?他のダンジョンと違うつくりに興味を持たせて冒険者を集めるため?それで誰が得をする?村人にとっては利益があるかもしれないが、こんな大規模な仕掛けを村人だけで出来るとは思わない。だからといって国が村のためにここまでするとも思えない。

うちの村だって場所と壁と家を作ってもらっただけだしな。どこも似たようなものだろう。たぶん。

「このダンジョンっていつからあったんだ?」

「無視ッスか!?いや、まぁいいッスけど…。あと、それはダンジョン入る前に話したと思うんスけど、10年前に知られたッスね。いつ生まれたのかは知らないッスから、もしかしたらもっと前から潜ってる人もいるかもしれないッスけど、広く知れ渡ったのは10年くらい前ッスよ。」

「そん時からトラップはあったのか?」

「たぶんあったと思うッスよ。」

そういやこのダンジョンは領主の兵士が見つけたようなことをいってたから、領主が人を集めるために頑張った結果なのかもな。それならあんま壊すのも悪いか。

「そうか。まぁこれ以上俺は邪魔しないから、気にするな。」

「…りょ、了解ッス。」

いいたいことがありそうな返事だったが、なんもいってこないから納得したんだろう。

一応削った壁に壊れた魔道具を入れ、壁の穴は『上級魔法:土』で元に戻しておいた。






地下10階の探索もあっという間に終わり、地下11階に下りる階段のところに来たんだが、ここの壁にも違和感があるな。サイズ的に隠し部屋か隠し通路だろうか?
セリナがいれば中が安全かの確認を取れるんだが、いないのだから仕方がない。地下10階の魔物の強さから考えて、そこまで危険はないはずだ。
ただ、ここは他と違ってトラップがある可能性もあるんだよな。

「どうしたんスか?」

階段を下りようとしていたマルチが声をかけてきた。
俺が壁を見ながら立ち止まっていたからか。

「ここはトラップとかないのか?」

「安全エリアにトラップがあったって話は聞いたことないッスね。」

「安全エリア?」

「ん?階段がある小部屋のことッスよ。」

初めて聞いたな。たしかにこの場所で魔物と戦ったことはないかもしれない。ってことはもしかしたらこの隠し部屋は当たりかもしれない。このダンジョンはトラップがあったりとゲーム的要素が強い気がするし、隠し部屋に宝箱とかあるんじゃね?
まぁなけりゃないでいいし、モンスターハウスだったとしたらアオイの練習相手が大量に手に入るからちょうどいいだろ。

俺は隠し部屋に入ることに決め、違和感のある壁に手を当てたのだが、通り抜けられない。

このダンジョンは隠し部屋への入り方も他のダンジョンと異なるのか。

壁の周りを見てみるが、ここ以外に違和感はなさそうだ。

…壊すか。

領主が作ったならすまん。俺には斥候は向いてないみたいだ。

ヘタに会心の一撃を使って壁が壊れず指が潰れたりしたら嫌だから、スキルを使わずに壁を思い切り殴った。

この壁はそこまで頑丈ではなかったみたいで、右腕が壁を貫通し、壁に大きなヒビが入った。

腕を引き抜き、その穴から中を覗いたが、何もなさそうだ。見えてる範囲には宝箱どころか魔物もいない。

ならもうどうでもいいかと思って振り返ると、マルチが驚いたような呆れてるような微妙な表情をしていた。
そういやもう邪魔しないってさっきいったばかりだったな。すまん。

「…もしかしたら、そこはボスがいた部屋かもしれません。」

アリアの言葉に反応して、マルチがアリアを見た。

「だとしたら、なんで塞がってるんスか?」

「…それはわかりません。ですが、隠し部屋なのだとしたら、壁が壊れず通り抜けられるはずです。いくらリキ様でもダンジョンの壁を簡単には壊せないと思います。なので、そこはもともとあった部屋だと思い、階段の奥にある部屋はボス部屋だけだと思ったからです。」

「たしかに階段の奥にある部屋は普通はボス部屋ッスけど、そうするとこのダンジョン…。」

「このダンジョンがどうした?」

「このダンジョンはボスのいないダンジョンっていわれてたんスよ。それなのにたまに1つの階に2種類の魔物がいたりして、トラップがあることも含めて他とは違うダンジョンっていわれてたんス。ダンジョン自体よくわからないものだから、こういうダンジョンもあるんだと思ってたッスけど、なんか急に怪しくなったッスね。」

「もしかしたら領主が変わったダンジョンに仕立て上げて、冒険者を集めて領地を盛り上げようしたのかもしれねぇな。だとしたら邪魔するのも悪いし、気づかなかったことにしてやるか。」

『上級魔法:土』

俺が殴って空いた穴やヒビが塞がっていく。よく目を凝らさなければわからないだろう。

「なるほど、そういう可能性もあるんスね。」

ん?さっきのマルチのセリフを聞くに同じ階に複数種類の魔物がいるのはおかしいことなのか?でもボス部屋がないのにっていってたってことはボス部屋があれば普通ってことだよな。なら穴場ダンジョンの虫のフロアもおかしくはないってことだろう。あそこのムカデがいた部屋は階段の奥ではなかったが、近くの小部屋だったからたぶんボス部屋だろうしな。

俺は1人納得して、振り返った。

「まぁ答えなんてわかんねぇんだし、気にするだけ無駄だろ。もう時間も遅いし、とりあえず下に下りたら村に帰るぞ。」

「「「「「「「「「はい。」」」」」」」」」

「了解ッス〜。」

マルチを先頭に地下11階に下りてから、リスタートで1階に戻り、来たときと同じように魔法で雨をしのぎながら、歩いて村へと向かった。

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