裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

183話



「さっきは仕事とはいえ攻撃して悪かった。だが、できればこの町の中では暴れないでほしい。」

町の中に入り、門が見えなくなったあたりで男が急に話しかけてきた。

「あ?俺をなんだと思ってるんだ?何もされなきゃなんもしねぇよ。」

「気分を害したならすまん。ただ、ここの領主は冒険者があまり好きじゃないから、冒険者が問題を起こすと他の冒険者にまで飛び火することがあるからよ。」

「めんどくさそうな町だな。」

「いや、むしろ新人からDランクくらいまでの冒険者にとってはかなり住みやすい町だぞ。宿は少し高いが家を買ったり借りたりするならかなり安いし、税金も安い。問題を起こさず税金をちゃんと払っていれば何かをいわれることもないしな。なんせ俺も冒険者だし、領主はそれをわかってて俺を雇ってるしな。」

「…ここに住んでない冒険者に対してだけ当たりが強いってことか?」

「いや、問題さえ起こさなければ何もされないぞ。」

「…は?領主が冒険者を嫌ってるようには聞こえないんだが?」

こいつの話だけだとただ単に問題を起こすやつには厳しい領主ってだけで、冒険者だからってわけではなさそうに聞こえる。

「べつに領主は冒険者を毛嫌いしてるわけじゃなくて、あまり好きじゃないってだけだ。その証拠にこの町には冒険者ギルドの支部がない。」

「それは証拠になるのか?」

「慌てるなって。この話には続きがあってな、昔ここに住んでたベテラン冒険者がわざわざ首都まで行くのが面倒だったからここに冒険者ギルドを建ててほしいと領主に頼んだらしいんだが、即却下されたらしい。だが、それで諦めきれずに町の冒険者を集って抗議したらしいんだよ。しかもギルド職員の一部まで買収してな。最終的には脅しのようなことまでしてたらしいんだが、気づいたらその話はなくなってたんだとさ。そのベテラン冒険者と買収されたギルド職員とともにな。」

「ん?うるさいから消されたってだけだろ?というかなんで騒いだ本人が消されたのにその話が伝わってるんだ?」

「消されただけって…。いや、そんとき半強制で参加させられてた新人冒険者のやつらだけは何もされなかったらしくて、気づいたら先輩たちがいなくなってたんだってさ。諦めて他の町に引っ越したのかと思った新人冒険者の1人が首都のギルドに立ち寄ったさいになんとなしに買収されたギルド職員の確認をしようとしたら、そんな人はこのギルドにはいないっていわれたらしいぜ。」

「領主がギルドと繋がってるならむしろ仲いいんじゃねぇの?」

「そういわれるとそうだな…。ん?ならなんでギルド支部を建てないんだ?あまり冒険者に集まられたくないからじゃないのか?」

「嫌いじゃないからギルドとも手を組むが、好きじゃないから自分の領地には集まってほしくないってことか。なんかスッキリしたが、ずいぶんわがままな領主だな。」

「だから領主を怒らせるようなことをいわないでくれよ。誰かに聞かれたらどうすんだ。せっかく税金も安くて南にある森は弱い魔物しかいないうえに食用になる魔物もいるし、薬草とかもけっこう生えてて、低ランク冒険者にはかなり住みやすい町なんだから、俺らのせいで他の冒険者まで消されたり追い出されたりするのは勘弁だぞ。」

話を聞けば聞くほどわけわかんねぇな。
さっきは納得しかけたが、なんか違う気がしてきた。
冒険者があまり好きじゃないんじゃなくて、騒がしいやつが嫌いなだけなんじゃねぇか?

「あ、ただ、あんたもここに住むつもりなら南側はやめとけよ。南側は特に安く家が買えるんだが、治安が悪い。俺は行ったことはないが、町から消えたやつが奴隷市場に並んでたなんて話もあるくらいだ。南側はほとんど衛兵がいないから自分で自分の身を護れるやつかよっぽど金のないやつ以外はこの大通り以外を歩かない方がいい。」

俺が黙ったのを移住を考えてるとでも勘違いしたのか、男が補足してきた。

騒がしいやつが嫌いなくせに南側は衛兵すら置かずに放置?そのくせ門には門番と別で冒険者まで雇ってる?冒険者ギルドは建てないが冒険者が住むことには何もいわない?
なんか矛盾だらけだな。

まぁギルド支部建設に関しては金の問題って可能性もあるが………俺には関係ないことに頭を使う必要はねぇか。

もしかしたらアリアなら知ってるんじゃねぇか?と軽い気持ちでアリアを見たら、見られたことに気づいたのかアリアもこっちを見た。

「…推測ですが、さっきのかたが関係しているのではないかと思います。」

まだ何もいってないのにアリアが答えた。
さすがはアリアといいたいが、さっきの方?

この男ならこの人っていうよな?
なら門番か?いや、人たちではないなら1人を指してるんだよな…ならあのクズか?

クズがいる地域だからおかしいと?

クズ1人に影響を受ける領主だったら、冒険者たちに抗議された時点で冒険者ギルドを建ててるわな。

ならもっと影響力のありそうなやつ………わかんねぇから聞いた方が早いな。考えるの疲れたし。

というかもっとわかりやすくいやぁいいのになんでわざわざ伏せるような………ん?あえて伏せたのか?

ここで名前を出せないやつ?

………あぁ、なんか納得いったわ。

人狼皇帝か。

あんな化け物がくるところに下手に強い冒険者を置いておくと面倒が起こるだろうから冒険者ギルドを置くわけにはいかないが、弱い冒険者なら別に問題はないってことか。

この辺に衛兵を置かないのも同じような理由だろう。あとはこの辺で奴隷狩りを黙認するためか?人狼皇帝が来たときに奴隷がいませんじゃどうなるかわからねぇし。

人狼皇帝のことを領主が知ってるってことはたぶん王族と深い繋がりでもあるんだろう。

ギルドは国に所属しないといってもあんな化け物に関わるくらいなら金で買収されるようなクズい職員を消す方を選んだとか?

推測に過ぎないが、なんかしっくりきた。

魔族1人に支配されてるような形は気にいらねぇが、あの化け物を怒らせたら国一つ余裕で消されそうだから、民を守る立場としては仕方がない選択なのかもな。

「さすがアリアだな。」

「…今ので伝わるリキ様の方が凄いと思います。」

「何が〜?」

アリアと話していたらイーラが加わってきた。

「領主がギルドを建てない理由だよ。」

「ふ〜ん。」

聞いてきたくせに興味なかったみたいだな。

「無駄に頭を使ったせいで腹が減った。早く宿を決めて飯を食いたいから急げ。」

男に案内を急ぐようにいうと、苦笑いをしてから小走りし始めた。






男の案内が終わってから宿屋に着いたのはだいぶ遅い時間だった。

1軒目の人形屋は南側にあったからすぐだったが、残りは1軒が領主の館前、1軒が東側、2軒が西側、3軒が北側とバラバラだったから、小走りで回っても終わったのがこの時間だ。
むしろ全部回ってから南門に戻って、さらにまた北門近くの宿まできてこの時間なら早く回れた方なんだろうな。

この町はけっこうデカかったから、全部回るのはかなり面倒だった。というかあいつ明日の昼から回ってたんじゃ絶対に1日じゃ間に合わなかっただろ。

本当なら南門までサーシャとヴェルを迎えに行ったのだから南門近くの宿屋に泊まるのが楽なんだが、南側にはそもそも宿屋がないらしい。治安が悪いとかいってたし、そのせいなんだろうが迷惑な話だ。まぁ南門からはデカいドライガーに変身したイーラに乗って屋根伝いに移動したからたいして時間はかかってないんだがな。

「妾の我儘のせいですまぬのぅ。」

既に酒場と化している宿屋の食堂で遅い晩飯をアリアたちが注文しているときにアオイから念話が飛んできた。

「いや、これは今まで頑張った褒美みたいなものだから、気にするな。」

「感謝する。」

むしろ今までアオイには何もしてやってなくて悪いと思ってるくらいだ。
本人的にはもしかしたら娘と生きれるだけで満足だったかもしれないが、働いた分の対価は支払われるべきだ。

それで今回はアオイが体が欲しいということでこの国にきた。

体がないからカレンと常に行動することになって、怠惰なカレンが出来上がったという可能性があるからな。多少高い買い物になったとしても早急に手に入れるべきだろう。

それにいつまでも自由に動けないってのも、今さらだがかわいそうだしな。



アオイと念話で会話しているうちに注文は終えていたようだ。

「とりあえず今日は飯食ったらシャワー浴びて寝るぞ。んで、明日は朝から人形屋を出来る限り回る。別に急ぎじゃないから明日で終わらなくてもかまわないからアオイはしっかり選べよ。これからもしかしたらずっと使っていく体になるかもしれねぇんだからな。あと、この町に良いのがなければ首都でも探すし、無理にこの町で決める必要はないぞ。」

「気遣い感謝する。」

「今日案内された8軒の人形屋の場所が正直うろ覚えだから、出来ればアリアには一緒に来てもらいたいんだが、他は自由に過ごして構わない。ただ、真ん中にある領主の館より南には行くな。それさえ守れば町の中を好きに出歩いてかまわない。アリア、いいか?」

「…はい。」

「イーラもリキ様と行きたい!」

「テンコも、行く。」

「ウチも行きたい!」

「自分もお伴します。」

せっかく初めての町なのに色々回ってみたいとは思わないのか?
まぁ人によっては1人だと初めての場所は怖いって場合もあるのか。

「好きにしろ。せっかくの初めての町だから多めに小遣いやるから楽しんでこい。ただ、この宿の場所だけはちゃんと覚えておけよ。」

覚えやすいようにわざわざ北門近くの宿屋にしたから大丈夫だとは思うが、心配なやつもいるんだよな。誰とはいわんが。

「「「「「「「「「はい。」」」」」」」」」

それぞれに銀貨10枚ずつ配り、一緒に来ない組には昼飯代としてさらに銀貨2枚渡した。
この国の物価とかを知らねぇが、銀貨10枚あれば1日くらいは余裕で過ごせるだろ。

「そういやこの国でアラフミナの金は使えるのか?」

「…はい。アラフミナのお金は大陸共通通貨なので問題ありません。」

マジか…俺、最初におっちゃんにアラフミナの金は持ってないとかいっちまったけど大丈夫か?………まぁ今さらだな。

「ならいい。余った分は返さなくていいからな。あと、町で問題は極力起こすなよ。…ちょうど飯もき始めたし、話は終わりだ。」

「「「「「「「「「はい。」」」」」」」」」

「んじゃ、いただきます。」

「「「「「「「「いただきます。」」」」」」」」

次から次へと運ばれてくる料理にアリアたちが手をつけていく。

どうやら今回は1人一品とかではなく、みんなで分け合って食べれるような大皿料理を選んで注文したみたいだ。

それぞれの席には取り皿とコップだけで、真ん中にいくつもの大皿料理がどんどんと置かれていく。

ちゃんとそれぞれの席に取り皿があるんだが、不思議と誰も使ってない。普段気の利くアリアですらみんなに取り分けるなんて女子力高いことはしない。

まぁ今回はメンツがメンツだから仕方がねぇか。

久しぶりの争奪戦。

ここは今は騒がしい酒場だからマナーなんて気にするだけ無駄だしな。

なら俺も参戦するしかねぇだろ。

参戦表明といわんばかりに、俺はフォークをステーキのような肉の塊にぶっ刺した。

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