裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

180話



最後に残しておいたソーセージの入ったポトフを飲み干してからふと思った。気のせいかもしれないが、今日の朝食はやけに静かだったな。
アリアたちは一言も喋らなかったし、いつもは騒がしいガキどもすらほぼ無言だった気がする。少なくとも俺の耳には届いていない。

なっていた音といえば食器が触れ合う音くらいだった気がする。いや、今思えばその音すらもいつもより静かだったんじゃねぇか?まぁそんなことにすら気づけなくなるくらいに異常なやつがいたから今まで気づけなかったんだが、朝飯を終えて周りを見渡せば異常なまでに静かなのがわかる。

アリアたちやガキどもに確認するまでもなく原因はセリナだろうな。

いつもだとアリアの隣に座っているセリナが、今日はアリアたちの席の中で俺から一番遠いところに座っている。というか縛られて座らされている。にもかかわらず、終始俺から目を離さないとか、敵意ではなく好意を持っての視線とわかっててもちょっとホラーだわ。
アリアたちもガキどももそんなセリナのことは完全に無視してるようだが、普段カレンの隣に座っているサラがセリナの隣に座ってご飯を食べさせてあげている。俺の奴隷のなかでまだ捻くれてない優しいサラらしいな。残された良心って二つ名をつけるならセリナよりサラにつけてやるべきだろ。

…出来ればそのまま純粋に育ってほしいもんだ。まぁこんな殺し殺されが普通な世界では無理なことだろうがな。

もしかしたらそうしないと朝飯が片付かないから仕方なくやってるのかもしれないが………こんな邪推しちまう俺は最低だな。

壊れたロボットのように口だけ動かすセリナにサラが最後のパンのカケラを詰め込んだ。
もう食器の音も聞こえないし、これで全員食べ終わっただろう。

「全員食い終わったな?そしたらとりあえず、ごちそうさま。」

「ごちそうさまでした!」

静まりかえっていた食堂だったから、やけに大きく聞こえて少し驚いた。

「じゃあ村人組は解散だ。各自仕事に励んでくれ。アリアたち戦闘奴隷組にはあそこの異常者について話があるから残ってくれ。」

「はい!」

全員が返事を返したが、ガキどもの返事がやけに生き生きしているように聞こえたのは気のせいだよな?
ガキどもはいつもキビキビと動いている印象はあるが、今日はいつも以上に動きが速い気がする。気のせいだよな?

ガキどもが消えて残ったのは俺とアリアたち戦闘奴隷組だけとなった。

「仕事があるやつには悪いが、セリナについて聞きたいことがある。まず、第一前提として、そこにいるセリナは見えているよな?」

「はい。」

セリナ以外は返事をしたが、誰もセリナの方を見るやつはいなかった。

「昨日寝るときまでは普通?だったと思うんだが、朝起きたら既にこの状態だった。何か心当たりがあるやつはいるか?的外れなことでもいいから可能性がありそうなことはどんどんいってくれ。」

「サーシャが魅了でもかけて遊んでるんじゃないの?」

「我がそんなことするわけなかろう!あとでリキ様に怒られるとわかることをするほど馬鹿ではない!」

イーラがあまり興味がないような風にしれっとサーシャのせいにしたが、さすがのサーシャも即座に否定した。

散々やらかしてきたサーシャがそんなことをいっても説得力のカケラもないが、今回は違うだろう。

「いや、サーシャならやりかねないが、セリナの状態異常はなしになっている。」

「…魅了したうえで隠蔽する手段もあるかもしれませんが、あまり頭………サーシャには無理でしょう。」

アリア…そこまでいったら隠せてねぇぞ。

「リキ様もアリアも酷いではないか…。」

さすがのサーシャも馬鹿にされてることは気づいたみたいだな。

「他にはないか?」

「…スキルによる副作用の可能性はありませんか?」

そうか…イーラの飢餓みたいなデメリットスキルを取得してしまった可能性もあるのか。

…ん?考えたくないが、もしかしてまた禁忌魔法か?…そういや既に確認されてる禁忌魔法で今のセリナの症状と関係ありそうなのがあるじゃねぇか。
…色欲。だがあれは所有者がいるはずだ。まさか色欲の巫女まで死んでセリナが手に入れたなんてないよな…。

考えるより確認する方が早いだろ。

…。

セリナのスキルをパッと確認したが、禁忌魔法はなかった。そりゃさすがにそんなにポンポンと手に入れられるようなスキルじゃないはずだからな。世界で1人しか所有出来ないらしいし。今まで続けて手に入れてたのがおかしかっただけで、今回はとりあえず安心か。

それにしてもスキルがめちゃくちゃ増えてやがる。スキル取得申請なんかきてないんだが?…あぁ、そういやセリナは幸運の加護持ちだったな。この中からデメリットスキルを探すのは骨が折れそうだ…普通ならな。

こんなときの観察眼!


…。


はい。
スキルや加護に変なのはないっぽい。

あらためてパッとスキルと加護全部を確認したが、観察眼に反応するものはなかった。つまりスキルや加護のせいじゃないってことだ。

観察眼様様だな。

さすがに一つ一つ確認する気なんか起きないから、俺は観察眼を信じることにする。

まぁ最後まで原因がわからなかったら見たことないスキルは全部確認するけどさ。



俺が無言でセリナのスキルを確認していたからか、全員が俺を見ていた。

「悪い。セリナの状態はスキルや加護のせいではなさそうだ。他には何かないか?」

全員を見回すと、イーラとサーシャ以外は考えているみたいだが、何も思いつかないのか困った顔をしている。

「一つよいか?」

突然念話が飛んできた。

「アオイか、どうした?」

「妾の生前の記憶じゃから、自信はないのじゃが、獣人族には発情期というのがあると聞いたことがある。それではないか?」

アリアたちがまだアオイの方を見ているところを見るに、どうやらこの念話は俺にしか送ってないみたいだ。つまりアリアたちからしたら俺の問いかけに無視してるように映ってるわけか。まぁ発情期じゃほとんど未成年しかいないここではセリナのことを思うといいづらいか。…既に手遅れだとは思うが。

「どうすれば治る?先にいっておくが、セリナとやるという選択肢はない。」

アオイが気を遣っているのだから、俺も念話で返した。

「手っ取り早い方法が子を孕むことじゃった気がするが、それがダメなら対象を知覚外に引き離して治るのを待つという手もあったと思うぞ。」

「どういうことだ?セリナをしばらく地下牢にでも監禁すればいいのか?」

まぁ地下牢なんかないけどな。

「地下牢はたしかに作っておったが、それではダメじゃと思う。そもそも対象というのはセリナにとっての対象じゃからのぅ。つまりはリキ殿じゃよ。それでセリナの知覚外じゃから、この村内にいては無意味じゃと思うぞ。」

地下牢があるのかよ…。何のために作った?いや、それはあとにするべきか。

それにしても一番察知範囲の広いセリナがそんな状態になるとか迷惑甚だしいな。
まぁ種族特有なら生理現象みたいなもんだろうから仕方ねぇけどよ。

「セリナの知覚範囲外っていったら確かに村にいたらダメそうだな。だが、俺が遠くに行ったところでこの村には男が他にもいるぞ?全員連れてどっかに行けと?」

「あ〜…。それは問題ないじゃろう。見ている限り村の中での対象はリキ殿だけのようじゃからの。」

あぁ。孕むとかなんとかいってるくらいだから生殖能力のある相手にしか反応しないってことか。それならセリナをどっかに行かせたり監禁するより俺が旅行にでも行くのがいいか。

最近落ち着いてきたし、この世界を旅してみるのもありだろう。

おっちゃんに頼んだ防具はまだ出来てないけど、急ぐことでもないか。

「治るのはどのくらいだ?」

「さすがにわからん。早くて3日遅くて一月といったところじゃなかろうか?」

そのあたりは様子が治ったら誰かしらに連絡させればいいか。

「よし、対策が決まった。俺は少し旅に出る。」

「…え?」

さっきまでアオイとだけ念話をしていて決まったことを急に話し出したからか、アリアたちが全員ポカーンという顔をした。

「セリナが変になってるのは俺が原因な可能性があることがわかったから、俺はセリナから少し距離をとる。イーラは移動のために一緒に来てほしいが、他は好きにすごせ。セリナは村から出ることを禁止する。」

「は〜い。」

「ニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」

「…一緒に行きたいです。」

「テンコ、行く。」

「あたしも行きたいな♪」

「我も行ってもよいか?」

「ウチも行きたい!」

「もちろん僕も行くよ。」

「お伴します。」

セリナが泣き叫びやがったせいで聞き取りづらかったが、半分以上がついてくる気か?まぁ冒険が好きって気持ちはわからなくないがな。

サラも何かいいたそうにしているが、いわないってことは残ってやることの方が興味が優ってるってことか?なにをするのかは知らねぇけど。

そういやソフィアとはしばらく出かけてねぇな。本人は楽しそうにしてるからいいんだろうけど、村の役に立ってるのに放置は可哀想か…個人用のお土産くらいは買ってやるか。

ガルナとガルネは建築でいっぱいいっぱいだろうから、こいつらにもなんか買ってきてやるか。どっちも覚えてたらだけど。

「というか、そんなに一緒についてきて、村は大丈夫なのか?」

「ニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」

「…既に村人だけで村は成り立つようになっています。カレンさんとアオイさんとサラとソフィアさんが残るのであればいざという時の戦力としては問題ありませんし、ガルナさんとガルネがいれば村づくりも問題ありません。」

まぁアオイ1人でも村の戦力としては過剰戦力だしな。

「じゃあ今日の昼飯食ったら旅立つから、行きたいやつはそれまでに準備しておけ。」

「「「「「「「「はい。」」」」」」」」

「ニャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

「さっきからうるせぇよ!」

「私も行ーぎーだーいーよー!!!」

そんなガチ泣きしながらいわれても、セリナが来たら意味がねぇだろ。

「今回は駄目だ。セリナが元に戻ったらすぐに帰ってくるから早く治せ。」

「ニャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

もう放っておこう。この状態じゃ何をいっても無駄だろうしな。

そういやカレンともあんま出かけてなかった気がするな。まぁカレンは村に同年代が沢山いるし、母親もいて既に満足した暮らしが出来てるから、村から無理に出たくはないだろうな。
たしかにカレンは強くはなったけど、そもそも戦闘するのは好きではなさそうだったし、自由にさせてやるか。今は仲間が増えすぎて戦闘奴隷に困ってはいないしな。

ん?そういえば…。

「カレン、そういや朝なんか用があったんじゃねぇのか?」

セリナのせいで忘れてたが、今朝は珍しくカレンが部屋に来た。最初は朝食の準備が出来たことをいいに来たのかと思ったが、その後にニアが来てたから違うだろう。そしたら何か用があって来たはずだ。

どうやら俺の読みは当たっていたようで、カレンがビクッと反応した。だが、しばらく待ってもなんの返答もない。

「おい、無視か?」

「ち、違う。ただ、えっと…。」

どうしたんだ?…もしかして朝逃げたことを気にしてんのか?

「べつに朝セリナを引き剥がすのを手伝わずに走って逃げたことは怒ってねぇぞ。だから用があるならさっさといえ。」

俺が聞いているのにカレンは周りのやつらをキョロキョロと見ながら困った顔をして黙った。なんかいいづらいことなのか?

「すまぬが妾から伝えてもよいか?他の仲間に聞かれてよいことかわからんのだが、カレンは念話を使えんからの。」

もう一度カレンに確認を取ろうとしたところで、アオイから念話が飛んできた。やっぱりいいづらいことなのか。そこまで念を入れるってことはよっぽどのことか?


…。


「まさか裏切り者でもでたのか?」

念のため俺も念話で会話することにした。

考えたくはないが、村人まで縛りたくはないと思って奴隷から解放しちまってるから、出来ないことではない。それに俺は全てを把握できてるわけではないし、俺のやり方に不満や憎しみを抱いてる可能性がないとはいえないからな。

「まさか。ここにおる者たちにそんな恩知らずも命知らずもおらんよ。今回の話はカレンについてじゃ。正確にはカレンが得たスキルについてかの。」

裏切りでないことに安堵したが、カレンのスキルだと?

「話づらいってことは禁忌魔法か?禁忌魔法は知られるとよくないらしいが、このメンバーだったら今さらな話だろ?もちろん世界で1人しか持てないはずの禁忌魔法がこんなに集まること自体がおかしいとは思うが、アリアたちに聞かれたらまずいことなのか?」

「確かに禁忌魔法というだけならここでは珍しくもないかもしれんし、気にするほどのことではないのじゃが…いや、そう思ってしまう環境がおかしいとは思うが、それはとりあえず置いておこうと思う。それで、こんなにもいいづらいのはカレンが得たスキルが『禁忌魔法:怠惰』だからじゃよ。」

「…は?」

「つまり、昨晩のうちにどこかでもとの所有者が死に、その時に世界で一番怠惰な者だと認められたのがカレンということじゃな。こんな不名誉なことをみなの前でいうのは酷じゃろう?」

マジかよ…。この村では全員に仕事を与えていたはずだ。それなのに怠惰だと?
そういや最近カレンが何かをしている姿を見ていない気もするな。門番小屋で座ってるのを見た程度か?

「周りからどう思われるかよりも怠惰ってことは仕事してなかったってことか?だが、ここでは全員に仕事をさせていたはずだ。つまりはサボっていたってことか?その方が問題だぞ。俺は自分だけ楽しようなんて考えてるやつを村においてやる気はないからな。」

「待ってくれ、リキ殿。カレンにも悪いところはあったと思うが、妾が甘やかしすぎたせいなんじゃ。カレンの仕事を妾が勝手にやってしまっただけなんじゃよ。だからカレンにも慈悲を頼む!」

慈悲をって大袈裟すぎんだろ。べつに殺したりする気はねぇし。

…まぁ手に入れちまったものは仕方がない。

「わかった。ならまずはカレンには親離れさせて仕事を与えるか。だからアオイも今回の旅に一緒に来い。」

「感謝する。しかし、今回は長旅になる可能性があるんじゃろ?さすがに心配なんじゃが…。」

「いっとくがアオイも子離れしねぇとカレンが成長出来ねぇからな。だからこれは命令だ。代わりに行きたいところはアオイが好きに選べ。」

いざどっか行くとなっても俺はこの世界を知らないし、アオイは出会いは最悪だったが、仲間になってからはいろいろとしてくれてるから、その対価にもなってちょうどいいだろ。

「ぐっ…。承知した。」

「カレン!」

「は、はい!」

さっきまで念話で話していたから、カレンにとっては前触れもなく急に名前を呼ばれて驚いたようだ。

「アオイから話は聞いたが、今さら何かをいったところでどうにもならないから怒るつもりはない。だが、あとでアリアに話して仕事をもらっとけ。それを俺らが出かけてる間にサボらずやるんだぞ。アオイは連れていくから1人でだ。わかったか?」

「…ごめんなさい。」

「わかったか?」

「は、はい!」

だいぶ落ち込んでるみたいだな。まぁ怠惰なんて不名誉な禁忌魔法を覚えちまったら気にもするか。でも、気にしてるならまだ改善の余地はあるはずだ。
そもそも今のところ俺が知ってる禁忌魔法はどれも前世で大罪といわれてるものだから、全てが不名誉なんだろうけどな。

「サラはカレンが頼ってきたときだけ、サラの判断で手を貸してやってくれ。」

「はいなのです!」

サラは一瞬キョトンとしていたが、頼まれてるのは理解したようで、元気な返事が返ってきた。

「アリアはあとでカレンの話を聞いてやってくれ。与える仕事はカレンができる範囲内でそこそこキツめでかまわない。頼んだぞ。」

「…はい。」

「それじゃあ解散だ。」

「ニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」

全員の返事をかき消すようにセリナがまた泣き叫んだ。

さっきからガチ泣きしてるのを無視していたが、さすがに叫ばれるとうるさいな。

「セリナには悪いが、俺らが出かけるまでそのままだ。」

「もう治っだがらづれでっでよ〜。」

泣いてるせいもあるかもだが、顔を紅潮させて荒い息をはきながら治ったといわれても説得力のかけらもねぇな。

種族的なことだからかわいそうだとは思うが、俺にしてやれることはねぇからな。
さすがにそんな一時的な欲求のために憩いの場に行かせて孕んだりしたら一生後悔することになるかもしれないから連れてはいけねぇし。そもそも未成年を連れていくつもりはねぇけど。

だから俺はあえて無視して食堂を出た。

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