裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

179話



「はぁはぁ…。」

夢と現実の狭間をうろうろしていると、腹部にサンオイルを塗られるような感触があり、荒い息遣いが聞こえてきた。

「はぁ…リキ様…はぁはぁ…。」

ずいぶん艶っぽい声を出しているが、この声はたぶんセリナだろう。
昨日というか今朝は寝るのが遅かったから、セリナのために起きる気にはなれねぇ。だからこのまま目も開けずに二度寝をしようかと思ったが、なんだ?こんな状況、前にもあった気がする。デジャヴか?
しかも無視すると後悔する結果になる気がしてならないのはなぜだ?
だけど眠いうえに寝起きの頭じゃなかなか思い出せない。

「…んぅ……リキ様〜…ぁっ……。」

っ!

そういや前回はこんな状態でイーラに食われたんだったと思い出したら、一瞬で眠気が吹き飛び、重たかったはずの瞼を見開いた。

どうやら腹の上に乗っていたのはセリナで間違いなさそうだ。ただ、いつもと雰囲気が違う。
セリナは顔を紅潮させ、俺の肩に手を置いて股を俺の腹に擦り付けるように前後に動かしている。


…。


セリナの行動もアウトだが、服装も完全にアウトだろ。
生地が薄いベビードールのような肌着を着ているから、窓から射し込む光で胸が丸見えだ。セリナがちゃんと12歳に見合った成長具合なら、無理して大人びた下着を着ちゃって背伸びしてるなくらいの苦笑いで済むのかもしれないが、こいつの見た目年齢は俺とそこまで変わらないと思えるくらいに成長している。だから胸もそこそこあるし、身体つきも女性らしくなっている。だから完全にこの服装で俺の部屋に来るのはアウトだろ。まぁ、ショーツをはいているのはせめてもの救いかもしれないと思ったが、濡れてる時点でなんの救いにもなってなかった。

セリナと別の出会い方をしてたり、出会って間もないとかなら据え膳とか思えたかもしれないが、既に俺はセリナを妹みたいな存在だと思っちまってる。だからこんな姿を見てしまうと居た堪れない。

「…はぁ〜。」

深くため息をついてから上体を起こすと、腹の上に乗っていたセリナが落ちることなく器用にバランスをとって抱きついてきた。

「リキ様〜。はむ。」

今度は抱きついたまま俺の左耳を甘噛みしてきやがった。こいつはそういう知識をどこで得るんだ?本能か?

じゅろっ。

セリナが俺の左耳に舌を入れてきた。不快のあまり背中がゾワっとしたから、左手でセリナが動けないように腰をホールドし、右手でセリナの後頭部を押さえながら自分の首をそらして強制的に俺の耳からセリナを離した。

そしたら今度は首すじを甘噛みし始めた。

「…何してんだ?」

凄い今さら感は否めないが、ここまで執拗に攻めてくる意味がわからない。
俺が嫌がってるのがわからないほどセリナは馬鹿じゃないはずだ。だからもしかしたらなんか意味があることなのかもしれない。

「リキ様〜。子作りしよ〜。」

あぁ、そのままの意味だったみたいだ。

「しねぇよ。離れろ。」

セリナの腰と後頭部から両手を離し、セリナの脇の下をそれぞれ両手で掴んで引き離そうとしたが、ガッチリとホールドしてやがるせいで引き離せない。

「一度でいいからしようよ〜。ちゃんと一度で身籠もるからさ〜。おねがい。」

ダメだ。会話もまともにできない状態だ。もしかして状態異常か?
ステータスを確認するが状態異常はなしとなっている。本当にどうした?

「しねぇっていってんだろ。早く離れねぇと殴るぞ。」

「や〜。」

コノヤロウ…。


コンコンッ。


イライラし始めてきたときにドアをノックする音が聞こえた。まだ窓から差し込む光からして朝だろうから、朝食を知らせにきたのか?だとしたらイーラかニアだろう。
ちょうどよかった。

「入れ。」

あの2人ならセリナを引き剥がしてくれるだろう。

「にいちゃん。どうしよう。カレンもき…。」

入ってきたのは意外なことにカレンだった。
なんか相談ごとっぽいがその前にセリナを引き剝がさなきゃ、まともな話もできないだろう。

「話はあとだ。手伝え。」

「手伝う?………え?て、手伝うって…い、いや、カレンにはまだ早いと思う!ごめん!」

カレンは急に赤面して、慌てたように走って部屋から出て行った。

なぜだ?俺の頼みを拒否したことにも驚きだが、さらに走って逃げるってなんなんだよ。

「失礼します。今カレンさんが顔を真っ赤にして………何しているのですか?」

カレンが開けたままにしていた扉の隙間から入ってきたニアが途中で言葉を止めて確認してきた。確認されても見たまんまなんだが。

「見たままだ。セリナを引き剥がすのを手伝ってくれ。」

ニアは意味がわからなかったのか首を傾げたが、すぐに納得したような顔になった。

「見たままではありませんが、なんとなくわかりました。喜んでお手伝いいたします。」

そういうと、ニアは目の色を変え、頭から角を生やし、両手を黒く染めてから近づいてきた。

「ちょっと待て!なんで本気モードなんだ!?」

「リキ様が苦戦するほどの力なら手加減しては引き剥がせないと思います。」

まぁこれがレベルや種族がない世界での男女の会話ならもっともな意見にも聞こえなくはないが、ニアは単純に俺より力があるんだから本気を出す必要はないと思う。

「引き離すだけでいいからな?殺すんじゃねぇぞ?」

「もちろん殺ししません。」

違和感があったが、まぁいい。

俺は抱きついているセリナをそのままにし、ベッドから降りて立ち、両手を上げてニアの方を向いた。

てっきりセリナの腰あたりに両腕を回して引っ張るのかと思ったが、ニアは左手でセリナの後ろ首を掴んだ。

「んにゃっ!」

セリナが苦しげに呻いた瞬間、ホールドが一瞬弱まった。その隙を逃さないようにニアがセリナを俺から引き剥がした。

まさかセリナの後ろ首を片手で持って引き剥がすなんて思っていなかったから、力を入れるタイミングが遅れてよろめいてしまったが、なんとか倒れずにすんだ。

ニアは流れるような動きで左手をスライドさせてセリナの背中に置き、躊躇ない動きで右手でセリナの前首を掴んで床に仰向けになるように叩きつけた。

「っ!」

セリナはよほど痛かったのか目を見開いたが、声すらあげずに悶えている。後頭部でも打ったのか、両手で頭を抑えようとしたところ、ニアに左手で両手首を掴まれて拘束された。よく見るとニアは右膝を倒れたセリナの鳩尾に置いてやがる。えげつねぇ。

「目は覚めましたか?抵抗はしないでください。ポーションはあるので殺しはしませんが、変な動きをしたら首をへし折って、心臓を潰しますよ。いくらセリナさんでもこの状態から両方を阻止するのは難しいですよね?」

「にゃ〜リキ様〜。一回だけだから〜。ぐぇっ。」

これだけされて懲りてねぇのかよ。

セリナがふざけたことをいったからニアの右手に力が入ったようで、セリナが苦しげな声を出した。

それにしても今までで2番目に最悪の目覚めだわ。

もちろん1番はイーラに食われたときだがな。

服は脱がされてはいなかったみたいだから、捲られてた腹の部分は立ち上がったことで服が落ちてもと通りだが、むしろそのせいでベトベトしてる腹に寝間着がくっついて非常に気持ち悪い。

「ニア、ありがとな。あと、用があってここに来たんじゃないのか?」

「いえ、お礼をいわれるほどのことではありません。自分はもうすぐ朝食の準備が整いそうであることを知らせに来ました。」

「そうか。じゃあ俺はシャワーを浴びてから行くから、ニアはセリナを連れていってくれ。暴れるようなら椅子に縛り付けてもかまわないが、あまり怪我はさせるなよ。もちろんニアも怪我をしそうなら無理せず俺を呼べ。」

「はい。」


ニアの返事を聞いてから、俺は2人を残してシャワー室へと向かった。

コメント

  • ユーノ

    ・・・色欲か???
    でも色欲の巫女いるしな・・・
    なんだろ、獣人だから発情期かな???

    1
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