裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

171話



村の敷地内に着地するとサラとソフィアとガルナとガルネ、他複数のガキどもが出迎えてくれた。出迎えてくれたというより、なんかの作業をしているところに龍形態のイーラとヴェルが飛んできたから退くしかなかったっぽいな。

俺が放心少女を脇に抱えながらイーラから飛び降りるとアリアたちも飛び降り、イーラとヴェルは人間形態になった。そしたら、タイミングを見計らっていたようにサラが前に出てきた。

「おかえりなさいなのです。」

「ただいま。作業の邪魔して悪かったな。」

「大丈夫なのです。」

「んで、外で何やってたんだ?」

「必要な魔道具が完成したので、建物の配置などを決めていたのです。」

サラにいわれて周りを見ると、杭のようなものが所々に刺されていた。他にも掘ってから埋めなおしたような不自然な地面の微かな盛り上がりやいくつか地面から生えている太めのパイプというか土管?がある。下水管か?

それにしてもなんか意外だ。自分でやらせておいてなんだが、こんな子どもに家を建てるなんて出来るのかちょっと心配だったが、なんか本格的というか、任せても大丈夫そうで安心した。

家を建てたりする計画にはアリアも関わっているから、いきなり家が崩れるとかはないはずだ。アリアを過信し過ぎているかもしれないが、アリアならわからないことは素直に聞いてくるか自分でちゃんと調べるだろうから、わからないまま作ってヤバいことになることはないだろうという意味で信用している。最近はサラも頑張ってるしな。余計なことをいわずに任せるべきだろう。

「魔道具で家を建てるのか?」

いまいち魔道具がどんなものかわかってないからなんとなしに聞いたのだが、サラに首を傾げられた。

「今回ソフィアさんに設計してもらってガルナさんとガルネさんに作ってもらった魔道具は汚水を綺麗にして土に還す物と室内を照らす光を発生させる物と細かくステータスチェックが出来る水晶と水を温める蛇口なのです。」

ん?魔道具ってもっと魔法的な物をイメージしてたのになんか地味というか、正直ちょっとガッカリした。いや、日本で当たり前に使われてたものを再現しろとかいわれても俺は出来ないし、それを再現できる魔道具は凄いと思うが、なんだかな…。

魔道具という響きに勝手に期待した俺が悪いのか。それらを作ったソフィアたちが凄いことは確かなんだから、褒めるべきだろう。

「ソフィア、ガルナ、ガルネ。よくやった。引き続き頼むな。」

「「「はい!」」」

労いの言葉だけで満面の笑みを浮かべてはいるが、やっぱり仕事に見合った報酬は与えるべきだよな。

「今回建築に関わったものは欲しいものをいくつか考えておけ。俺がその望みが仕事に見合っていると思えば与えるつもりだ。欲しいものがとくにないやつには給料を支払う。だから、サラは誰がどの程度働いてたか把握しといてくれ。」

「はいなのです。」

衣食住を与えているから働くのは当たり前だと思ってはいるが、ソフィアたちはまだしもガキどもは村人だ。今後いろいろなところで金が必要になるだろうから、そろそろ給料は与えてやるべきだろう。もちろん衣食住を最低限賄える分以上の働きをした者に限りだが。

「アリア。建築に関わった者だけではなく、仕事をしている村人全員に給料を支給したいと思っている。衣食住は与えているから最低限の働きはしてもらうが、それを超える仕事をしたやつには対価として給料を払いたいと思う。その計算やら諸々を任せてもいいか?給料計算とかはアリアが任せられると思ったやつに任せてもかまわない。誰にいくら払うからいくら必要になるのかを紙に書いて渡してくれればその額を俺が用意する。」

ぶっちゃけ丸投げだが、この世界の基準がよくわからない俺がやるよりアリアに任せた方がいいだろう。さすがに1人で全部をやるのはきびしいだろうけど、アリアなら程よく他のやつに仕事を割り振るだろう。

「…はい。ただ、現在は畑仕事をドライアドやトレントが全て行なっているので、村人たちの仕事が人数に対してあまりありません。なので、まだ学校は出来ていないのですが、明日から村人たちに勉強の時間を作ってもいいですか?」

「あぁ、任せる。これからはとくに予定はないしな。勉強も真面目にやるやつに限り仕事ということにしてやれ。やる気がないやつがいたら教えてくれ。」

いくらガキだからといって働く意思のないやつを養ってやるほど俺は優しくはない。あくまでチャンスをやるだけであって、そのチャンスを無駄にするやつを面倒見る気なんてないからな。
やる気があるけど人並みに仕事が出来ないってのは仕方がないと思うが、やる気がなくて何もやらないやつはいらない。

もちろん今俺が抱えてる放心少女みたいなやつは例外だが、こいつもいつまでも無償で世話をしてやる気はない。一月経ってもこのままだったら、奴隷商に買い取ってもらうことになるかもな。気分のいいことではないが、生きる気力のない人間1人を世話するのは簡単なことじゃないからな。
一月でも長いくらいだが、まだガキだし、それなりの辛い思いはしているだろうから、そのくらいのチャンスはあってもいいだろう。

「…はい。仕事となるのであれば、しっかりと覚えてもらおうと思います。」

アリアの口角が少し上がった。珍しい表情だが、スパルタでいくってことだろう。

「俺も何か手伝おうか?算術くらいなら教えられるぞ。」

この世界で必要な計算は四則演算程度だ。それなら俺でも教えられると思ったが、ヤバい。俺はこの世界の数字を書けないんだから教えられねぇじゃん。口頭でやればなんとかなるか?

「…ありがとうございます。でもお気持ちだけで大丈夫です。わたしとセリナさんとサラで教えようと思います。村人たちは仕事もあるので半数ずつの交代制で勉強させる予定です。リキ様の奴隷は全員が教える立場になれるようにしたいのですが、いいですか?」

「全て任せるから好きにしていいぞ。俺はしばらく予定がないし、少し出かけるにしてもとくに付き添いはいなくてもいいしな。」

これからは好きに過ごす予定だから、しばらく1人の時間を楽しむのもいいだろう。
既に決まっている予定はおっさんのところにニアの装備品を取りに行くくらいだしな。
この辺や王都をぶらぶらするくらいなら1人でもとくに危険はないだろうし。

「…ありがとうございます。」

いつまでも外で会話するのは疲れるから、区切りもいいし、そろそろ屋敷に入るか。

「お疲れ様です。」

屋敷に入る手前で、屋敷の隣の家から顔を出したエイシアに挨拶された。

「あぁ、あんたの主の情報のおかげで金にはなったが、そこそこ疲れたよ。」

「お役に立てたのであればローウィンス様も喜ぶと思います。」

エイシアがニコリと笑った。
とくに話すこともないから、空いてる手を上げ、エイシアに向けてヒラヒラと軽く振ってから屋敷に入った。

屋敷に入ると食器類が乗ったワゴンを押して食堂に入ろうとしていたクリスがいた。

「あっ!おかえりなさい!」

クリスがワゴンをその場に置いて近づいてきた。仕事中じゃないのか?まぁ偉いやつがいたら自分の手を止めて挨拶するのが普通か。いや、高校生だった俺に社会の常識はわからないが、漫画ではそんな感じだった気がする。俺自身がそんなことを気にしたことがなかったからなんでそんな無駄なことをするんだろうという疑問しかないけどな。

「あぁ、ただいま。」

クリスに返事をすると、クリスの視線が俺から放心少女に映った。

「その人どうしたの?具合悪いの?」

俺が脇に抱えている少女は死んでいるかのように手足をダランとしているから、クリスは本気で心配しているようだ。
このガキに何があったのかの予想はできるが、実際に何があったかを見ても聞いてもいない俺には答えようがないから、曖昧に答えておくか。

「盗賊のとこでちょっとな。しばらく保護する予定だ。」

「…盗賊?」

ボソリと呟いたクリスの黒目が小刻みに揺れ出した。ちょっとという言葉だけでは意味がわからなかったかもな。まぁガキ相手に詳しく話すつもりはないが。

「あぁ、さっき潰してきた盗賊のアジトにいたから保護しただけだ。あまり気にするな。」

「…いやだ。」

これ以上話を続けるつもりもなかったから仕事に戻るように告げて話を終えようと思ったら、まさかの返答に俺は一瞬固まった。

こいつは俺の気にすんなって言葉を拒否したのか?それとも俺が保護したことが気にくわなかったのか?なぜだ?クリスも似たような立場だったはずなんだが。

「何が嫌なんだ?」

俺がクリスを見ながら確認を取ると、クリスは目を見開いて一歩後ずさった。

「い…いや。」

なんかおかしいと思うが、どうすりゃいいんだ?

「どうした?」

あらためて確認を取るが、クリスはさらに一歩下がっただけで答えなかった。よく見るとなぜか体も震えている。

「…っ…………いやーーーー!」

少しずつ下がっていたクリスが躓いて倒れそうになったから、咄嗟に近づいて空いてる右手で支えようと思ったら叫びながら全力で払われた。

さすがにガントレットをしていなかったからか俺の右手は途中で止まり、倒れながらに無理やり俺の手を払ったクリスは変な体勢で床に当たって鈍い音がなった。
その後痛そうにしながらも上体を起こし、俺から目を離さないように地面に座るような体勢を取った。

まさかいきなり拒絶されるとはな。

今がクリスとの初対面ならここで興味を失っていたかもしれないが、さすがに普段とこれだけの差が生まれたってことはなんか原因があるのだろうと考えていた。

「…もしかして記憶が戻ったのか?」

だとしたら男の俺を拒絶したくなる気持ちも想像できなくはない。

とりあえず起こそうと思って手を伸ばすが、クリスは見開いて黒目が小刻みに揺れている目で俺を見ながら少しでも距離を取ろうと下がっていく。

「いや…来ないで……。」

これは会話が成り立ってねぇな。こういう時は時間をおくのがいいのかもしれないが、どうやら俺はそこまで優しくないみたいだ。
倒れそうになったところに伸ばした手を払われたのがなんかモヤモヤするせいかもな。

俺は右手を何度か握ったり開いたりして、素手での感覚を確かめる。

そして、瞬間的にクリスとの距離を詰めて片膝をつき、右手でクリスの口を塞いだ。

「黙って聞け。お前が俺の話を聞いている間は何もしない。」

クリスは口を塞がれているせいか、鼻息が荒くなっている。目からは涙が流れ始めた。

「クリスが盗賊に酷い目にあっただろうことはわかるから、思い出したなら他人…とくに男が怖くなるのも理解できなくはない。」

クリスの見開いている目がどんどんと充血してきている。

「だけど、辛かったことを思い出したからってここで過ごした日々を忘れたのか?それともここで過ごした日々も苦痛だったのか?」

クリスの黒目の揺れが止まった。

「そんなに長い日数をともに過ごしたわけではねぇけど、少なくとも俺にはクリスが楽しそうに見えていたんだが、嘘だったのか?過去を思い出したら拒絶するほど俺が嫌いか?」

目を見開きっぱなしだったクリスが何度か瞬きをし、流れ続けていた涙が途切れ途切れになった。

「俺はたしかに優しい人間じゃねぇのは自覚してるけどよ。こんな俺みたいなやつだって仲間に拒絶されると傷つくんだぜ。」

俺は何いってるんだろうな。

ただ単に俺がショックを受けたから優しくできなかっただけじゃねぇか。1番の年長者なのにダセェな。

…なんか虚しくなってきたわ。

俺はクリスから右手を離して、立ち上がった。

「アリア。悪いがこいつを頼む。俺はもう寝るから晩飯はいらない。」

アリアに放心少女を渡した。渡してから人選を間違えたかと思ったが、アリアは表情一つ変えずに放心少女をお姫様抱っこした。

「…はい。朝食のときに呼びに行きます。」

「頼んだ。」

俺が部屋に向かおうとしたら、チェインメイルを引っ張られた。振り向くとクリスが泣きながらチェインメイルを掴んでいた。鼻水とか垂れてて酷い顔だ。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…。」

クリスが必死に謝っている姿を見たら、なんかいろいろと申し訳なくなってきたな。
だからなのか、自分のガキ臭さにイラついて荒んでいた気持ちが少し和らいだような気がする。

俺はもう一度片膝をついて、今度は右手をクリスの頭に乗せた。

「俺も悪かったな。怖がってるところに追い打ちをかけて。普通に考えれば俺の今までの行動を振り返れば嫌われててもおかしくないわな。なのにちょっとしたことでイラついて八つ当たりしてすまん。」

俺は仲間と思ってるなんていっておきながら全然優しくできてねぇし、ガキどもに関しちゃ顔は覚えているがほとんど名前すら知らない。俺から歩み寄っていないのに嫌われたら怒るとかどんだけダサいんだよ。

「違う!」

気持ちが沈み始めていたところにクリスの叫ぶような声が割って入ってきた。

「何が違う?」

「リキ様は怖いけど優しい!嫌いになんてなるわけない!みんなリキ様が大好きだよ!なのに…盗賊にされたことが一気に溢れてきて…どうしようもなくて…リキ様があのときの盗賊に見えて……大好きなリキ様と盗賊を間違えて拒絶して…ごめんなさい…ごめん…なさい。」

また泣き始めたと思ったら、そのまま蹲るように丸まった。なんか土下座されてるみたいだ。

わずかにうめき声のようなものが漏れている。

こんな子どもに気を遣わせて、俺は何をやってるんだろうな。

大好きか…。

お世辞でも案外嬉しいものだな。

さすがにみんなってのは盛ってるだろうが、ニアみたいに俺が好きだといってる頭のおかしいやつは実際にいるし、クリスの言葉は素直に受け取っておこう。

丸まってるクリスの隣に座り、背中を軽く撫でた。

「ありがとな。じゃあ今回はお互い様だから、これでチャラだ。いいか?」

間違いなく俺の方がやり過ぎただろうが、いつまでも互いに謝っていたら終わらないし、クリスだけに何度も謝らせるのはさすがに心が痛い。

クリスは涙と鼻水でグシャグシャになった顔を上げて俺を見た。
酷い顔だが、子どもが泣いたらこんなもんだよな。

俺が右手を差し出すと、クリスは両手で握ってきた。

「仲直りだ。」

「うん!仲直り!」

涙と鼻水で酷い顔だが、目をそらしたくなるほどに笑顔が眩しいな。

いつまでも眺めてたらなんか浄化されて俺の存在が消えてなくなっちまいそうだな。
そんなくだらないことを考えながら、一度クリスの頭を撫でたあと、立ち上がった。

「アリア。前言撤回だ。やっぱ晩飯も食う。腹減ったからな。飯の前に俺はシャワーを浴びてくるから、大浴場でそいつを洗ってやってくれないか?アリア1人じゃ大変だろうから、誰かに丸投げするか、手伝ってもらうかは任せる。嫌なら仕方がないから俺が洗うが…。」

「…はい。サラと2人で綺麗にしておきます。」

「頼んだ。そんじゃクリス、仕事の邪魔して悪かったな。引き続き頑張れ。」

「はい!」

袖でグシグシと顔を拭いたクリスがワゴンのところに小走りで戻り、食堂へと入っていった。

それを見送った俺はアリアたちと別れて自室に戻り、着替えを持ってシャワー室へと向かった。

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