裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

170話



盗賊の引き渡しが終わった後、何軒か武器防具屋やアイテムショップっぽい店に入ってみたが、王都との違いがほとんどないな。
本屋に関しては印刷技術があまり発展してないらしく、本屋ごとに置いてある本が違うらしいが、それで喜ぶのはアリアくらいだからな。まぁ楽しそうに本選びをしているアリアが見れたからいいか。

昼食後に自由時間を作ろうかと思ったが、本は既に買ったし、俺はとくに行きたいとこもないから帰ることにした。

門から出て、見えなくなるところまで歩いてから龍形態のイーラに乗ろうかと思ったが、町の見張り台から見えないとこまで歩くなら盗賊たちのいたとこまで歩いても大差ないと気づいて、既に町からは見えなくなっているが歩いている。

本当はもうイーラの変身能力を隠す必要はないんだが、ついつい見えないとこまで歩いてしまった。
アリアたちも何もいわないから気づくのが遅れて、既に見えなくなるとこまで歩いちゃってたからな。

アリアとの約束のために盗賊がいた場所の近くにきたとき、セリナが俺の前に立って双剣を構えながら耳をピクピクさせた。

「魔物がいるよ。弱そうだけど注意してね。」

俺は腰のガントレットを装着した。
アリアたちも武器を装備したようだが、アリアからの強化魔法はなかった。セリナが弱いっていったから必要ないと判断したのだろう。

「なら僕が先頭を行くよ。サーシャも周りに眷属を飛ばしながら一緒に来てもらってもいいかい?」

「我はかまわんが…。」

サーシャはヴェルに答えながら俺を見た。
勝手なことをしないと学習したのか?まぁ今回はセリナのいい方からして危険はなさそうだし、ヴェルとサーシャのセットなら問題ないだろ。

「なら先頭は任せるがあまり2人だけで先に行くなよ。セリナはそのまま警戒を頼む。イーラは…もっと周りに被害の出ない武器に変えろ。」

「はい。」

セリナは返事をして警戒にあたっているが、イーラは物凄く不満な顔で鎌を消して、前にニアがおっさんの武器防具屋で注文しようとしてた返しのついた棒を作り出した。
鉄パイプに持ち手側に向かって棘のついたような武器だ。

「これでいい?」

殺傷能力が低そうなのに敵のダメージを想像すると凶悪としかいえない武器を笑顔で素振りしてるイーラはいろいろ問題あるが、あの長さなら味方に攻撃を間違って当てる可能性は低いからいいだろう。

「あぁ。それでいい。」

「一体来たよ!他に近づいて来てるのはいにゃいよ。」

全員の準備が終わるのを待っていたのかというくらいちょうどいいタイミングで魔物が出てきた。

見た目は狼っぽいが、白い体毛が少し光って見える。よく見ると目が赤く、4つもあるな。

俺が魔物の特徴を見ているうちにヴェルのかかと落としによって魔物が潰れた。
ヴェルは魔物に飛びかかって着地時にかかと落としをしたのだろう。地面まで凹んでいるし、狼の首から上が血だまりしか存在しなくなるほどの勢いをぶつけたみたいだ。
潰れた魔物の血はサーシャが吸いとり、残りはイーラが捕食した。

俺が一声も発する前に魔物が本当に存在していたのかと疑問に思ってしまうくらい綺麗に片付いてる。

俺の仲間が化け物過ぎるな。

「…子どもたちが襲われてる可能性があります。先を急ぎましょう。」

アリアの言葉を一瞬理解できなかったが、俺たちにとっては脅威でもなんでもなくても、武器もないガキにとっては脅威になる可能性もあるわけか。

子どもたちは村人にするとアリアと約束をしているから、放置するわけにはいかねぇな。だからヴェルの案内のもと、子どもたちが囚われていたところに走って向かった。

「前方に魔物が3体!近場には他にいにゃいよ。」

しばらく走ると、洞窟っぽいものがあり、その入り口にさっきの狼っぽい3体の魔物がいた。
草でも食ってるのかと思ったら、人間の死体を食ってるみたいだ。口周りを真っ赤に染めながら咥えて引きちぎってクチャクチャガリゴリと食べていた。

3体の魔物がこちらを向く前にセリナとヒトミとウサギが走り出した。
魔物が反応する前にセリナが1体の首をはね、ヒトミのモーニングスターが1体の顔面を潰し、ウサギがさっきのヴェルを真似るようにかかと落としをして1体の頭を潰した。

さすがにウサギのかかと落としはヴェルみたいな非常識過ぎる威力ではなかったが、みんな強くなったな。

そんなことをぼんやりと思っていたが、今度はサーシャもイーラも動かなかった。

「リキ様。その人間と魔物の血が混ざっておるんだが、飲んでもよいか?」

サーシャは人間の血も吸っていいのかわからなくて動かなかったのか。んで、サーシャが動かないからイーラも動かなかったわけか。

「もう骨も頭蓋骨くらいしかまともに残ってねぇから、それだけ埋めて簡易の墓を作ってやればいいだろ。」

肉片や血はイーラやサーシャの経験値になるのだから、簡易的な墓を作ってやるくらいはしてやるべきだろう。

イーラとサーシャが綺麗にした後に残った2つの頭蓋骨をテンコに作らせた2つの穴に投げ入れ、土をかぶせた後にテンコに作らせた名前を刻んでいない墓石を乗せた。

この世界の葬い方法がわからないが、俺は軽く手を合わせて目を閉じた。



しばらくして目を開くと、アリアたちも俺の横や後ろに並んで同じように目を閉じていた。もしかしたらこっちでも葬い方法は似たような感じなのかもな。まぁ俺が日本の葬い方法をあやふやにしか知らないんだけどな。

「ガキどもはこの中か?」

俺が洞窟の方を見ながら確認を取ると、アリアが頷いた。

「…はい。ただ、中は汚いので、リキ様はここで待っていてください。少し時間がかかりますが、子どもたちを綺麗にしてから連れてきます。」

「いや、ガキ以外もいる可能性もあるから、俺も行く。」

大人がまだ残ってるなら王都までの護衛をして多少の金をもらえるかもだからな。

洞窟の通路はそこまで広くないから、2人ずつで並んで歩いている。
先頭がヴェルとサーシャ、その後ろにテンコとウサギ、俺とニア、アリアとセリナ、そして最後にイーラとヒトミだ。

念のため警戒しながら歩いていたが、洞窟内には魔物がいないようで、1番奥の広くなった場所まで何事もなく到着した。
たしかに汚くて臭いとこだな。
残ってるガキは3人か。大人は全員出てったみたいだな。無事かどうかは知らんが。

「おい、ガキども!」

ガキどもに声をかけたら、1人だけ俺らに気づいてこっちを見て、ビクッと反応した。

「お前らに選択肢をやる。うちの村人になって働くか、ここに放置されるか。どっちがいい?」

死んだ魚のような目をして横になってる女が2人とその2人を見ながらこっちを見てビクビクしている男が1人か。

女2人は死んでるようにも見えるが、上から被せられてる布がわずかに上下してるから生きてはいるみたいだな。半目で放心状態のやつを生きてるといっていいならだが。

アリアは子どもが残っていたら村人にしたいっていってはいたが、たぶんこいつらを保護したいという意味だろうな。昔のアリアそっくりだ。いや、まだアリアの方がこの2人よりは人として保ててはいたか。

俺はアイテムボックスから水を取り出しながら近い方の女に近づき、布を取った。
まぁ予想通り裸だが、これは酷いな。一目で慰み者にされたのがわかる汚れ方だ。怪我はないようだが、アリアが治したのか?もしくは殴られたりはしなかっただけかもな。
さすがにアリアとそんな変わらないガキのこんな姿を見ると可哀想だと思っちまうな。

「悪いな。汚いから洗うぞ。」

一応声をかけてから、返事を聞かずに水をかけながら布で洗ったが、少し冷たい水をかけたのに無反応だ。呼吸しているから生きてるのはわかるが、こいつは今後まともな生活送れんのか?

しばらく水を流しながら布で擦っているんだが、さすがに石鹸なしじゃまともにおちねぇな。

適当なところで切り上げ、アリアが差し出してきたタオルで拭いて、アリアが差し出してきた新しい布で女の体を巻いた。

ひとまずそいつは放置して、次の女に近づいて布を剥がすとまぁ予想通り同じ状態だな。
だから同じように洗おうと水をかけながら布で触れた瞬間、女が目を見開いて起き上がり、俺の二の腕に噛み付いてきた。
だが、俺はチェインメイルを着けてるからダメージを受けるのはガキの方だ。それでも離そうとしなかった。
これは明確な俺への敵意だが、さすがにこの状態のガキに殺意は覚えねぇな。後ろから威圧を使われてる気がして振り向いたが、どうやらニアはこんな状態のガキだろうと容赦なく殺意を抱いてるみたいだ。
ガキは俺越しにニアの威圧を受けてるから多少は軽減されてるのかもしれないが、体を小刻みに震わせている。それでも離そうとしないんだから相当だな。

「ニアやめろ。」

「…申し訳ありません。」

さて、こんな状態のガキになんて声をかけるべきか…。

とりあえず安心させるために噛まれていない方のガントレットを外し、ガキの頭を軽くなでた。確か歩が泣いてたときはこれで落ち着いたはずだ。

「大丈夫だ。俺はお前の体を洗うだけだ。汚れが汚れだけにアリアたちに洗わせたくはないから我慢してくれ。」

しばらくガキの頭を撫でていたが、けっこう汚れていて不快だったから、撫でるのはやめて、背中を軽くポンポンと叩いた。

「もし噛んでた方が落ち着くなら噛んでてもいいといってやりたいが、これだとお前の歯が欠けちまうからやめとけ。」

しばらく抱くような姿勢で背中をポンポンし続けたら、噛む力が緩んだみたいだ。
俺はゆっくりと体の向きを変えて俺の腕をガキの顔から離してから、目線を合わせてもう一度ガキの頭を軽く撫でた。

「お前は俺の言葉を理解できるみたいだな。それじゃあ水は俺がかけてやるから自分で洗え。あとは村に行ってから風呂に入ればいい。それなら怖くないだろ?」

敵意が薄れたと思ったら、今度は俺の胸で泣き始めた。これじゃあ絶対にチェインメイルが汚れるだろうが、もう抱きつかれた時点で手遅れだから我慢してやるか。

ガキが泣き止むまでのしばらくの間、ガキの頭を軽く撫で続けた。




ガキが泣きやんでから、さっき外したガントレットをつけなおし、ガキに自分で体を洗わせた。そのあとタオルと布を渡して自分で拭いたりなんかをさせてる間に残りの男に視線を向けた。

「さて、こいつらはとりあえず連れて行くけど、お前はどうする?」

「え?あ、僕も行きます!」

「そうか。ならついてこい。お前も体を拭いて布を着たらついてこい。」

声をかけたあと、地面に放置してた最初のガキを持ち上げて脇に抱え、出口に向かって歩きだした。

「リキ様。自分も泣いたら抱きしめていただけますか?」

「…は?」

ニアが意味不明なことをいいだしたせいで、一瞬思考停止してしまった。

「自分も泣いたら抱きしめていただけますか?」

「いや、聞こえてなかったんじゃなくて意味がわかんなかったんだよ。ニアは俺とほとんど歳変わんねぇんだから必要ねぇだろ?」

「必要あります。抱きしめてもらえないと今後の活動に支障をきたす可能性があります。」

真顔でふざけたこといいやがって…。

「ふざけんなよ?」

「…。」

俺が睨むとニアは悲しそうな顔で俯いた。

「……はぁ…。………………これで満足しとけ。」

左手はガキでふさがっているから、ニアに近づいて右手で抱き寄せ、その体勢でニアの後頭部あたりを軽く二回ポンポンと叩いてから離れた。
いつも頑張ってるし無理なわがままをいってくることもなかったから、これくらいは許容してやろう。

少なくとも俺が知る抱きしめるという行為ではなかったが、ニアは頰を緩ませて嬉しそうにしてるから今ので大丈夫だったっぽいな。

アリアたちの目つきが変わった気がするが、アリアは昔一緒に寝てたし、イーラとセリナはいまだに俺の布団に入ってくることがあるくらいだし、テンコは割といつもくっついてくるし、他のやつらはあんまり人にくっつきたいタイプではないだろうから、ニアにしたハグくらいを気にするやつはいないだろ。かりに目つきが変わったのが勘違いでなかったとしたら、俺がそういうことをするのが珍しいと思っただけか。

まぁどっちでもいい。

ここで余計な考えに時間を使ったら、イーラやセリナが便乗して抱きついてくるかもしれない。それは面倒だからさっさと帰るとしよう。

「帰るぞ。さっさと出ろ。」

「はい!」

ニアだけ元気な返事が返ってきたが、他のやつらはなんか元気がないっていうか渋々といった返事をして出口に向かって歩きだした。

でも、よくよく考えたらこいつらは全員、甘えられる親がいないんだよな。この世界ではニアは成人だけど、日本だったら全員まだまだ子どもだもんな。そしたら甘えたくなっても仕方がないのか…。俺自身が割り切れてたからそこまで考えが及ばなかったな。
一応俺が保護者みたいなもんなんだから、もう少し甘やかしてやるべきか?…いや、そういったことを求めるくらいに精神的に不安定だったらでいいや。ハナから甘やかしたらロクなことにならなそうだし。
なによりそこまで考えるのは面倒だ。

「…ハッ。」

俺がいきなり鼻で笑ったことに反応して、前を歩いてるテンコとウサギと横にいるニアが振り向いた。

「悪い。何でもないから気にすんな。」

俺は手を振ってテンコたちに前を向かせた。


…いつの間にか俺は仲間を甘やかしてやるべきかなんてことまで考える余裕が出来てたんだな。

この世界にきてから生きることでいっぱいいっぱいで、初めは少ない仲間のことすらちゃんと考えてやれていたか微妙なくらいに余裕がなかったのに、気づけば仲間も増えて、そいつらを親代わりに甘やかしてやるべきかを考えるなんてな。そんな風に改めて思ったら、ついつい鼻で笑っちまった。

もちろん今だって何度も死にかけてるって意味では生きるのにいっぱいいっぱいかもだけど、もしかしたら俺も少しは成長してるのかもな。

まぁ、けっきょく考えるだけで今までとやってることはたぶん変わってないのだから、ハタから見たら何も変わってないように見えるんだろうな。

どうでもいいけど。

そんなことを考えているうちに洞窟から出た。

「んじゃ、イーラに乗ってとっとと帰るぞ。このガキは俺が抱えとくから、他2人はニアが乗せてやれ。」

「はい。」

イーラが龍になったことにガキ2人はかなり驚いていたが、俺が抱えてるガキは無反応だ。

俺が先に飛び乗るとアリアたちが続き、最後にニアがガキ2人を両脇に抱えて飛び乗った。

ヴェルは帰りも自分で飛ぶみたいだな。

イーラとヴェルは力強く羽ばたいて体を浮かし、徐々に高度を上げながら、前がイーラで後ろがヴェルと並び、ある程度高く飛び上がったところで急加速してカンノ村に向かった。

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