裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
166話
食後は何をするかは特に決めていなかったが、アリアが村づくりに必要なものを買いたいらしいからついていくことにした。
どうやらアリアも建築の本を読んだらしい。というか読んだだけで理解できるってのはもはや頭がおかしいと思う。俺もアリアくらいのときは勉強が好きでいろいろ覚えたが、所詮は高校生レベルまでだ。そこまで専門的なものはやらなかったってのもあるが、やったとしてもたぶん理解できなかっただろう。その程度で天才だと思ってた自分が恥ずかしくなるな。
ガルナたちはもともと武器の製作なんかはしていたから、技術的なものは任せてるみたいだが、建築についてもアリアが指揮を取ることになりそうだな。明らかにオーバーワークだろ。しかも自ら好んで奴隷のように働きたがってる節があるから困る。いや、奴隷なんだけどさ、違うんだよ。
これがワーカーホリックってやつか?でもアリアはその他のことも普通にこなしてるんだよな。まぁ俺とともにいるのが仕事っていっちまえば本読んでるとき以外はほぼ仕事してることになるんだけどさ。
そんな心配をしているうちに買い物はほぼ終わったようだが、あと1つ買いたいものがあるということで、いくつかの道具屋を回っているが見つからないようだ。城門通りの方も見ているんだが、アリアの目当てのものはないらしい。
「あと1つってのはなんだ?」
3軒目を見終えたときにアリアが若干困った顔をしていたから、任せきりなのも悪いと思って声をかけた。
「…水晶を探しているのですが、どこにもないようです。」
水晶っていったら薬屋の女が持ってたやつか?…ん?もしかしてあれか?
「前にフォーリンミリヤのダンジョンで手に入れたやつなんだが、もしかしてこれのことか?」
アイテムボックスから前に魔物から採取した水晶を取り出した。
「…さすがはリキ様です。ここまで先を見越して手に入れていたんですね。」
「いや、そんなわけねぇから。」
アリアがクスクスと笑っているのを見るに冗談だったのだろう。俺には何が面白かったかわからなかったが、アリアが楽しそうならいいか。
「…これで必要な物は買い終わりました。水晶はもう2つほど欲しいところですが、急ぎではないので後日にします。リキ様は行きたいところはありますか?」
「いや、もうそろそろ日も落ちるし、ガントレットを回収したら第三王女のところに行くぞ。」
「「「はい。」」」
おっさんからガントレットを回収してから北門に行くと、門の横に止まっていた馬車から第三王女が降りてきた。
護衛は2人だけみたいだな。前にカンノ村にいたおっさんとたぶん初めて見る女騎士だ。いや、前に見た気がするけど思い出せないから初めてでいいだろ。
「お久しぶりです。リキ様。お会いできるのを待ちわびておりました。」
「あぁ、久しぶり。それで、身分証は出来てるのか?」
「もちろんです。それでは一緒に参りましょうか。」
「は?」
「本日は住むにあたってのカンノ村の確認と荷物の搬入など、準備をさせていただこうかと思っております。」
「本当に住む気なのか?」
「もちろんです。ただ、実際に住むのは5日後になってしまうと思います。私の根回………準備に手間取ってしまいまして、手続きが遅れてしまっているのです。」
…。
「いや、べつにお前の領土なんだから好きにすればいいけどさ。いっとくが安全は保証できねぇから自分の身は自分で護れよ。」
「ありがとうございます。ただ、安全については王城よりもリキ様の側にいる方がいいと思っております。一応エイシアも一緒に住むことになりましたしね。」
「アラフミナ王国近衛騎士団ローウィンス第三王女近衛騎士隊副隊長エイシアです。よろしくお願いいたします。」
胸当てとガントレットと額当てだけの軽装備で、腰にポーチと短剣とレイピアっぽいのを身につけた金髪ショートの女が胸に手を当てて頭を下げてきた。
頭をあげて開かれた眼は透き通った青色だ。
少しつり目だから睨まれてるようにも見えるからか、雰囲気的にお堅そうな女だ。そのせいか、年齢は俺と変わらなそうなのに可愛いよりも綺麗という印象を受ける。
あとは耳の裏から鎖骨あたりまである傷が凄い目立つな。正直いえばその傷に1番最初に目がいってしまった。次に胸だが、それは男だから仕方ない。あんなあからさまに胸の形がわかる胸当てをつけてるんだから、男なら見るだろ普通。もちろん戦闘中なら気にもしないと思うが…たぶん。
それにしても古傷を残してるなんてかっこいいと思ってんのか?王国の近衛騎士なら神薬くらい買えんだろ。でも傷を気にしないやつからしたら無駄遣い以外のなんでもないのかもな。なんたって金貨100枚だし。
それに近衛騎士の正装したら隠れる傷だろうからな。
「神野力だ。よろしく。」
「この傷が気になりますか?隠した方がよろしいでしょうか?」
さすがに見過ぎたか。
「神薬で治さねぇのかなって思っただけだ。お前が気にならねえならそのままでいいんじゃねぇの?」
「私に神薬を使うなど勿体無いです。それならばそのお金はもっと別のことに使うべきだと思いませんか?」
「俺に聞かれてもな。価値観なんて人それぞれだろ。俺からしたらお前は他人だからお前に使うくらいなら予備として持っとくけど、仲間だったら使ってやりたくなるんじゃねぇの?」
「…ローウィンス様がいっていた通りの方ですね。試すようなことをしてしまい申し訳ありません。」
今度はさっきより深く頭を下げてきたが、俺は今なにかを試されたのか?
「でしょ。リキ様は強いだけではない素敵な方なんです。」
ずいぶんいい笑顔で第三王女が褒めてきた。ちょっと可愛いと思ってしまったが、こいつは腹ん中が真っ黒な人間だからこれも計算かもな。気をつけねぇと。
「当たり前です。リキ様に勝る人などいません。」
ニアが便乗しやがった。褒められることなんてあんまねぇから恥ずかしいなこれ。
しかもニアは本気でいってるだろうからなおさらだ。
「あら?もしかしてあなたがナルセニアさん?」
「はい。リキ様の奴隷となりました魔人のナルセニアです。」
隊長のおっさんが腰の剣に手を当て、第三王女の半歩前に出ようとしたのを第三王女が即座に手で静止させた。
「ウィルソン。リキ様の仲間の方に対して失礼ですよ。リキ様とその仲間の方への無礼は私への無礼だと伝えたと思うのですが、忘れたのですか?」
「大変失礼いたしました。申し訳ございません。」
隊長のおっさんは直立してから深々と頭を下げてきた。
というか俺らへの対応が丁寧すぎねぇか?逆にやりづれぇな。
まぁでもこのおっさんの対応を見るに魔人ってのはそれだけで恐れられてんのかもなと思いながらニアを見たら目が変色してた。…そのせいで警戒されたんじゃねぇの?いや、どっちが先かわかんねぇから決めつけんのは良くねぇな。
「ニア、目を戻せ。こいつらは今のところ敵じゃねぇ。面倒を起こすようなことはするな。」
「申し訳ありません。」
これは悪いと思ってねぇな。こっちが試されたから試したくらいにしか思ってねぇのかもな。まぁ理解してんならいいけどさ。
「私はいつまでもリキ様の味方ですよ。」
「あっそう。というか話進まねぇから行くなら行こうぜ。」
馬車に乗るほどの距離じゃねぇから乗るのを拒否って歩こうとしたら、第三王女まで一緒に歩くとかいいだしやがって、今は先頭にアリアとイーラ、少し間を空けて俺と第三王女が並び、その少し後ろにニアと女騎士が歩いてる。馬車はおっさんが一人で乗って、俺らより少し後ろをゆっくりとついてきている。
「さっき王城より俺の側の方が安全みたいなこといってたけど、俺は村にいるとはかぎらねぇぞ?しかも俺はお前を優先的に護るつもりもねぇし、どう考えても王城の方が安全だろ。」
「リキ様が王城が安全というのは何かの冗談でしょうか?」
ニッコリと笑ってるこいつが何を考えてんのか全くわかんねぇ。
「どういう意味だ?」
「ケモーナ王国の第一王女とその婚約者は王城で殺されているのですよ?もちろん国によって王城の作りは違いますけど、ケモーナ王国とアラフミナ王国では城そのものの性能にそこまでの差はありません。アラフミナ王国には色欲の巫女がいますが、ケモーナ王国にはケモーナ最強の戦士がいましたから、条件はあまり変わりません。それでも殺されてしまう程度の安全性なのですよ。もちろん王城に住む人間の価値によって安全性は変わってきますけどね。」
こいつはどこまで知ってんだろうな。
それにしても、もうケモーナの第一王女が死んでることまで伝わってるのかよ。
俺がいうのを冗談かと聞いたってことは知っているかカマをかけてるのか…スルーが1番だな。
「そう考えたらどこにいても大して変わらんのか。むしろ広い王城の部屋に1人でいるより普通の家に近衛騎士といた方が安全性は高くなるのかもな。」
「それもありますが、リキ様の村にいる者を襲おうという者はある程度の地位を持つ人間にはもうほとんどいないと思いますからね。よっぽど頭が悪い方もいますから絶対ではありませんが。」
「なにいってんだ?」
「なんでもありませんわ。そういえば、忘れてしまわないようにこちらをお渡しいたします。」
第三王女は話を逸らすように身分証を渡してきた。
全部で14枚。見た目は俺が持っているのも含めて全部一緒だ。つまりどれがどいつのかわかんねぇ。
それぞれのカードに何かを書いた紙が貼ってあるから、たぶんわかるようにしてくれてるんだろうが、読めない。
「アリア、配っといてくれ。」
「…はい。」
困ったときはアリア頼みだ。
…働かせすぎって思っておきながら任せる俺にも問題ありかもしれねぇな。
「金貨14枚でよかったよな。」
金貨14枚を第三王女に渡した。
「はい。…突然なのですが、現在お金に困っていたりしませんか?」
「本当に突然だな。依頼か?」
「依頼というわけではありません。最近出費がかさんでいるかと思ったので、お金になりそうな情報を提供したいと思いました。」
確かに最近金をけっこう使っちまってるからちょっと心配ではある。さっきも村づくりに必要なものを買うのに金貨30枚以上消えたしな。だが、こいつに弱みを見せるとロクなことにならなさそうだから黙っておこう。
「聞いたら断れないとかいうのなら聞く気はねぇぞ。」
「いえ、王都の東側に馬車で2日ほど進んだ街道や村で盗賊の被害が出ているという情報があったというだけですよ。その盗賊を纏めているのはラクラスという男で、その男を近くにあるファリルカートという町に持っていけば、生死にかかわらず金貨10枚もらえるらしいですよ。それにラクラスは複数の盗賊をまとめているそうなので、けっこうな蓄えがあると思います。」
こいつってお姫様だよな?
盗賊潰せば蓄えを手に入れられるって考えが浮かぶのはどうなんだ?いや、正しいとは思うけどさ。
「まぁ暇があったらな。」
「はい。前向きに検討をお願いします。」
ん?何か違和感が…。もしかして情報提供とかいいながら、本当は討伐を頼みたいのか?なら何故依頼しない?まぁ依頼だと断られるからだろうな。
どうせやることねぇし、こいつにはなんだかんだ世話になってるしな。
ガントレットを試すついでに金集めに行くか。
第三王女と話をしているうちに森の入り口に使ってるところに着いた。入り口っていっても俺の村まではちゃんとした道なんて存在しない。ダンジョンがあったときに冒険者がしょっちゅう行き来してたから出来た獣道に近い道があるだけだ。
イグ車は通れたみたいだけど、馬車はキツいだろうな。馬の性能的な意味で。
「どうすんだ?」
「ここからは自力で運ぶしかなさそうですね。ウィルソンが。」
なかなか酷いお姫様だな。
「老体に無理させんなよ。さっきの盗賊の情報料として運んでやろうか?」
「そんな!リキ様に運んでいただくなんて申し訳ありません!」
「いや、運ぶのは俺じゃなくてイーラだし、収納すれば重さはねぇんじゃねぇの?」
「なになに?イーラはどれを運べばいいの?」
「それでは、収納できる分だけでかまいませんのでお願いしたいと思います。」
「じゃあイーラはあの馬車の荷台に入ってる荷物を全部村まで運べ。」
「は〜い。」
「あの積荷を全部アイテムボックスに収納できるなんて、まだ幼いのにずいぶん冒険者のレベルが高いのですね。」
「は?イーラは冒険者じゃねぇっていうかジョブ自体ねぇよ。」
イーラが積荷を全部収納したようで、戻ってきたから、村に向かって歩き始めた。
「どういうことですか?」
そういやケモーナの婚約者殺しが俺たちだとケモーナにバレた時点でイーラの変身能力を隠す必要性がなくなってんだな。ならべつにこれからはイーラが魔族だとバレても問題ないのか。
「イーラは魔族だ。だからジョブとかはねぇ。」
第三王女は驚いた顔をしたと思ったら、何かを思いついたような顔をした。
「もしかしてイーラさんはスライムの魔族ですか?」
「あぁ。よくわかったな。」
「以前、リキ様を調べているときに一部の情報でスライムを頭に乗せているとあったのですが、そのとき以外にスライムの情報が一切なかったので、もしかしてと思いました。」
本人を目の前に調べてたとかよくいえるな。
「そうか。まぁすぐに魔族になったから、魔物時代の情報はほとんどないかもな。」
「…魔族になったですか?もともと魔族だったけれど、知られないためにスライムの姿でいたのではなくてですか?」
「いや、だとしたらずっとスライム形態でいさせるだろ。」
「…確かにそうですね。たまたま進化寸前だったという可能性もありますが、きっとリキ様が進化させたのでしょうね。」
なんか勝手に納得してるから余計なことはいわなくていいか。もう村にも着いたしな。
「おかえりにゃさい!」
門が見えたと思ったら、セリナが走って近づき、勢いそのままに抱きついてきやがった。
なんとか踏ん張って耐えたが、なかなかのダメージだ。
「何すんだ?」
引き剥がそうとするが、けっこうな力で抱きついているみたいで、なかなか剥がれない。
「リキ様〜。」
俺の鳩尾あたりに顔を擦り付けてくるからちょっと苦しい。
なんか今日はやけにセリナからのボディタッチが多いな。
もしかして家族を殺したストレスが気づかないうちに溜まってて、それを解消するために無意識に甘えているとかか?
だとしたら俺のせいも少しはあるかもしれないが、なんかそんな理由じゃない気がするからとりあえず引き剥がした。
セリナはふて腐れたように唇を尖らしているが無視だ。
「お前は荷物置いたらすぐ帰んのか?それとも飯くらい食ってくか?庶民の飯で良ければだがな。」
「せっかくですのでご馳走になりたいと思います。あと、これから同じ村で住むのですから、またアインとお呼びください。もちろんローウィンスと呼び捨てにしていただいてもかまいませんよ。」
こいつは一緒に戦闘するわけでもないから名前を略す必要はないか。前は厄介ごとになるのが嫌でアインと呼んだが、同じ村に住んでる時点で気にしても無駄だろ。
それに同じ村に住む仲間でもあるしな。まだ完全に信用できるやつではねぇけど。俺の識別のスキルを信用するならこいつは味方らしいしな。
「わかった。ここではローウィンスと呼ぶことにする。」
「名前で呼んでいただけるなんて!ありがとうございます。」
名前で呼ばれるだけで喜ぶ意味がわかんねぇ。
会話が一区切りついたから門をくぐり、自宅に向かって歩き始めた。
「じゃあ準備が終わったら食堂に来てくれ。」
「承知しました。」
「イーラは荷物を運んだら、ローウィンスの準備が終わるまで待って、食堂まで案内してやれ。」
「は〜い。」
そこでふと、案外すんなりローウィンスを受け入れてる自分にビックリした。
まぁこいつには裏切られたところで困ることがないからか?いや、違うな。そもそもこいつが俺をハメるつもりとかなら、村を用意して住ませるとか、そんな無駄なことをするとは思えないからか…それも違うな。
単純にこいつが向けてくる好意が偽物ではないとわかるからかもな。
まぁ実際理由なんてわからないが、べつにどうでもいいか。裏切られたら許すつもりはないが、これからは同じ村に住むんだから仲間と思っておこう。
「んじゃ、またあとで。」
「はい。」
「は〜い。」
屋敷の前でイーラとローウィンスと近衛騎士2人と別れて、俺とアリアとニアは屋敷に入った。
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コメント
葉月二三
この作品を書き始める前に読んだ作品の内の1つなので、多分に影響を受けていることは否定できません_:(´ཀ`」 ∠):
ですが、自分の好みに忠実に書いているので、ここまでを楽しいと思ってもらえたら、これからも楽しんでもらえると思うので、読み続けてもらえたら幸いです!
ロート
すまねぇ、、、。
どうしても、盾の勇者の成り上がりに展開がにすぎて、、ww
でも、大好きです!
これからも頑張ってください!