裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

163話



朝食を終えて、とくに準備することがなかった俺とイーラはそのまま門の外に出たんだが、なんだこれ?

なぜか門番やってるセリナとイーラが俺の片腕ずつ…つまり2人で俺の両腕に絡みついてきやがった。

かなり鬱陶しいが、セリナには我慢させてるからこのくらいは大目にみるか…。

それにしても町に買い物に行くのにわざわざ俺がついていかなきゃならないのはめんどいな。もう全員分の身分証を作るか。けっこうな出費にはなるが、アリアたちが自由に町に入れるようになればいろいろと楽になるだろうしな。

思い立ったらすぐに行動すべきだろ。

「これから第三王女に連絡入れるから、邪魔すんなよ。」

「「は〜い。」」

いや、腕を組まれてんのも邪魔なんだが……まぁ電話と違って耳につける必要がねぇから、このくらいは許容してやろう。今だけな。

んで、どの指輪が第三王女だったか?
ん?これか?なんか見たらなんとなくわかったぞ。装備者には感覚でわかるようになってるのか?

まぁ試しに連絡してみりゃいいか。

「おい。」

「なんでしょうか、リキ様。」

指輪を通して話しかけるようにMPを少し使うと、すぐに返事が返ってきた。それにしても返事が早すぎねぇか?
いや、着信音とかなしにいきなり頭に言葉が入ってくるんだからこのくらい即座に反応できてもおかしくはないのか。

「アリアたちに身分証を作りたいんだが、どうすればいい?」

「そうですね。それでは私が北門まで伺いますので、そちらで全員分の身分証をお渡しいたしましょう。その際、金貨13枚が必要になりますが、よろしいでしょうか?」

「1人金貨1枚ってのはかまわないんだが、今は奴隷が14人いる。新しく入ったやつの分も頼めるか?」

ん?そもそもこいつはなぜ13人も知っている?こいつと最後に会ったのがいつかは覚えてないが、少なくともヴェルとガルナとガルネは会ったことないはずだ。
アリアが伝えているのか?

「もちろんです。それではお名前だけお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ナルセニアだったはずだ。」

「かしこまりました。夕方までには用意させますので、陽の色が変わる頃に北門でお渡しする形でよろしいでしょうか?」

「あぁ、よろしく頼む。」

「お役に立てて嬉しいですわ。それではお待ちしております。」

指輪の繋がっている感覚が切れた。

夕方に北門ってことは買い物してぶらぶらしてから戻ってくるついでにもらえばいいか。




「…お待たせしました。」

やることもなくぼーっと突っ立っていたら、アリアが門から出てきた。

アリアの後ろにはニアもいて、ペコリと会釈だけしてきた。一緒にくるくらいにはもううち解けたのか。

「じゃあもう行くからイーラもセリナも離れろ。」

イーラは唇を突き出しつつもおとなしく離れ、セリナは俺の二の腕に頰を擦り付けてから名残惜しそうに離れた。

べつに夜には戻ってくるのに大袈裟すぎだろと思いながら、なんとなくセリナに頬ずりされたところをぱんぱんと叩いた。

「酷い!」

セリナがショックを受けたような顔をしたから、片手を上げながら「悪い、悪い。」とだけ告げてセリナと別れ、町に向かった。




町に入って、とりあえず市場に向かっているが、どうするか…。
まずはニアの服を買ってから、おっさんのとこにガントレットを取りに行けばいいか?
いや、いっそ自由に買いに行かせりゃいいか。女の服の買い物に付き合うのは疲れるし、ニアも俺がイライラして待ってたらちゃんと選べないだろうしな。

「これから自由時間にする。市場と冒険者ギルド間であれば好きにしてかまわないが、ニアは自分の服を買っておけよ。」

「「はい。」」

「…え?」

アリアとイーラは初めてじゃないから大丈夫みたいだが、ニアは意味がわからないといった顔をした。

「市場と冒険者ギルドだけなら危ないことはないだろうから心配すんな。金はちゃんと渡すから好きなの買ってこい。」

そういやヴェルとガルナとガルネの服も買ってやってなかったな。ん?でもあいつら最初と違う服を着てた気がするが気のせいか?
まぁいい。

「ついでにヴェルとガルナとガルネの分も5セットくらい買っといてくれ。金は多めに渡すから、余った分は好きに使え。」

「…ヴェルさんとガルナさんとガルネの服は既に買ってあります。」

ニアに話していたら、アリアが既に買っていたらしい。だから新しい服を持ってたのか。

「じゃあニアは自分の分だけ揃えておけ。余った金は好きにしろ。アリアはヴェルたちの服代として多めに渡しておく。」

アリアに銀貨50枚、イーラに銀貨5枚、ニアに銀貨10枚渡すと、まだニアがわからないという顔をしていた。こいつはもしかして馬鹿なのか?

「自分たちは奴隷なのにリキ様と別行動ということですか?」

「俺は別でやりたいことがあるからな。そういやまだグループマークはつけてないのか?」

でもグループマークをつけてなくても今の服なら奴隷紋が見えてないから問題ないと思うがな。

それにしても薄い生地のミニ丈ワンピにデニムシャツっぽいアウターとサンダルとかなんか日本を思い出すな。まぁ髪が真っ赤だからファンタジー感は抜けちゃいないが。でも足が綺麗だから似合ってはいるけどな。
というかこれって服のサイズ的にヴェルに借りてるんだよな?こんな女っぽい服を持ってるのがかなり意外なんだが…まぁヴェルも年頃の女の子だってことか。龍だけど。

俺も含めアリアたちは出かけるときはほとんど装備だから私服に拘ってるヤツを見るのは新鮮だな。

「グループマークはソフィアさんにつけてもらってますが、自分は奴隷なので、リキ様のお役に立ちたいです。お側にいたいです。」

「べつに戦闘時に役に立ってくれりゃいいから、自由時間くらい好きに過ごせ。ついて来たきゃついて来てもいいといいたいところだが、ニアは服を買うのが今日の仕事だ。だから仕事をしてこい。」

「…はい。」

渋々といった返事だな。

「あと、いい忘れていたが、俺の奴隷には2つだけ必ず守ってもらうことがある。『俺を裏切らない』と『俺の命令は絶対』だ。本来なら一度奴隷にしたやつを解放する気はないが、先にいうのを忘れちまったから、もしそれが守れないなら今から奴隷解放をする。守れるか?」

「もちろんです!」

こっちは即答だな…。
俺とこの世界のやつでは育った世界が違うから価値観そのものが違うんだろうが、命令を受けることに抵抗がないやつが多い気がするのは気のせいか?それとも俺の周りに頭がおかしいのが多いのか?

いや、今考えることじゃねぇな。

「それじゃあ昼に冒険者ギルドでってことで解散。」

「「「はい。」」」






「イーラは自分の時間を楽しまなくていいのか?」

俺は武器防具屋のおっさんのところに向かっているのだが、なぜかイーラがついてきた。

「イーラはリキ様と一緒にいるのが楽しいんだもん!今日はついて行ってもいいんでしょ?」

まぁ今日は憩いの場に行くつもりはないからいいんだが、イーラはもっと他のことにも興味を持つべきだと思う。じゃなきゃ俺がいなくなったらどうするんだと少し心配でもある。
いや、好意を向けられるのは嬉しくはあるんだがな。

「ついてきてもいいが、武器屋に用があるだけだぞ?」

「イーラはリキ様と一緒にいられるならどこでもいいよ。」

「あぁそう。じゃあとっとと終わらせて冒険者ギルドに行くとするか。」

「は〜い。」





武器防具屋に入ると今日はおっさんがカウンターにいた。

「おう、坊主!この前のガントレットの使い心地はどうだ?」

目が合うとおっさんが声をかけてきた。この前はぶっ倒れたようなことをいってたからちょっと心配だったんだが、問題なさそうだな。

「凄い良かったな。ミノタウルスを殴り殺せたし、指が潰れるほどの威力で殴ったのに壊れなかったからな。」

「坊主は何をやってんだ…それなら今まですぐにボロボロになってたことにも納得ではあるが。一応見せてみろ。」

少し呆れたようないい方でガントレットを渡すようにいってきたから、素直に渡した。

「確かにそれだけのことをしておいて修理するほどの歪みはねぇのは凄えが、ちょっとだけ整備しといた方がよさそうだな。夕方には終わるだろうけどどうする?」

「じゃあ頼む。」

「そんじゃそれまではこいつを使ってくれ。」

おっさんはカウンターに綺麗な緑色をしたガントレットを置いた。そのガントレットを手で持ち、一通り眺めてから腰につけた。

「もしかして龍の鱗で作ったやつか?」

「そうだ。物としての質は坊主がずっと使ってるこいつの方がいいが、価値はその龍の鱗で作ったガントレットの方がいい。金貨200枚はくだらないほどの価値だろうよ。使うも売るも好きにすればいい。」

俺が使ってたガントレットは龍素材よりも良いもんだったのか。もしかしてこのおっさんってけっこう腕のいい鍛治師なのか?

「なら予備として持っておくことにする。」

「龍素材の装備品が予備とか凄え発言だな。それにしてもなんでガントレットに拘るのかと思ってたら、主攻撃が殴るだったわけかよ。耐性持ちですら殴り殺すとか坊主のジョブは武闘家なのか?」

「武闘家なんてジョブは聞いたことすらなかったな。俺は魔お……魔導師だ。」

さすがにこんな誰に聞かれてもおかしくないところで王が付くジョブをいうべきではないだろ。確かかなり珍しいらしいし。

「はぁ?そんな装備で魔導師だ?なんで魔法が使えんのにミノタウルスを殴り殺すとかわけわかんねぇことしてやがんだ?戦闘狂か?」

確かに戦闘狂のジョブももっちゃいるが、戦闘が好きなわけじゃねぇ…はずだ。確かに強くなってくのはちょっと楽しいが、死ぬリスクがあることを好んでやりたいとは思わない。

「魔法はそんなに得意じゃねぇんだ。魔導師にしてるのは冒険者よりもステータスが高かったからってだけの理由だ。他意はない。」

「そもそも魔導師になれんのが一部の人間だけだっつうのに比較して高かったからとかそんな理由で選ぶとか、坊主は本当になにもんなんだよ。」

またしても呆れたようにいってくるが、SPで魔法を取ったら付いてきたジョブだからな。
余計なことをいってまた呆れられるのも癪だからいわないが。

「俺のことはどうでもいいだろ。それより、前に売ってもらったガキども用の武器防具ってまだあるか?あるなら売って欲しいんだが。」

「もちろんあるぞ。防具があと30くらいで武器は剣なら20はあるか?あとは数種類あるけど、前にいったように武器はうちの見習いが作ってるから耐久性は保証しないからな。」

「かまわない。全部くれ。」

今後も村人が増えるんなら、必要になるだろうしな。何度も買いに来るのは面倒だ。

「そしたら今回も銀貨5枚でいいぞ。」

「安く譲ってもらって悪いな。ありがとう。」

銀貨を5枚カウンターに置くと、おっさんは受け取った。

「いいってことよ。使用されねぇ武器防具ほど悲しいもんはねぇからよ。それと、ガントレット製作依頼で渡された龍の鱗が5枚余ってんだが、どうする?」

余ってんならニアの防具でも作ってもらうかな。足りなきゃ追加で鱗を足せばいいし。

「そしたら新しく入った仲間の防具を頼む。といってもサイズがわかんねぇか。あとは武器も買いたいが何を使うかわかんねぇんだよな。」

「素手でも戦えますが、選べるのであれば返しの付いた硬い棒と盾がいいです。」

「うおっ!」

急に後ろから声をかけられ、驚いて振り向くとニアが立っていた。
全く気づかなかった。

「急に後ろに立つんじゃねぇよ。ってか服は買ったのか?」

「はい。」

さっきは持っていなかった大きめなトートバッグを開いて、中に服が入っているのを見せてきた。

「ならいい。というかよく俺がここにいるってわかったな?」

「奴隷なら当然かと。」

その理論は意味不明だが、面倒だからそういうことにしておこう。

「じゃあちょうどいいから防具用のサイズを測ってこい。」

「はい。」

ニアはおっさんに挨拶をして、カウンター横で採寸してもらうことになった。
それをなんとなしに見ていたら、背中をちょんちょんと突かれた。振り向くとイーラが両腕を顔の前でクロスさせて構えていた。

「いつでもいいよ!」

「え?何が?」

「ガントレットの試し打ちしないの?」

なぜかイーラが腕の隙間から少し残念そうな顔で見てきた。
まぁ試し打ちが出来るに越したことはねぇか。しかもイーラは物理無効を持っている。それに多少でもダメージを与えられるならかなり使える武器だといえるからな。

俺は他に客がいないことを確認してから両手にガントレットをはめて『会心の一撃』を使……うのはやめておこう。

とくにスキルは使わずに思いっきり殴った。

構えてたイーラから抵抗はあったが、両腕と顔が弾けとんだ。知らないやつが見たらかなりグロい光景だな。
採寸されてたニアも「え?」って顔してるし。さすがにおっさんは2度目だから呆れた顔をするだけだった。

「やっぱりリキ様はあの獣人なんかとは比べ物にならないくらい強いんだね!ガントレットを変えても痛かったよ!」

顔と両腕を既に再生させたイーラが抱きついてきた。その瞬間寒気を感じて振り返るが、後ろには真剣に採寸してるおっさんとなぜか笑顔のニアしかいないから気のせいか?まぁいい。

それにしても、痛いのを喜ぶってのはどうかと思うが、化け物級に強いやつから素直に褒められるのは悪い気分じゃねぇな。

このガントレットもけっこう使えるみたいだし、予備としては十分だろ。

抱きついているイーラの頭をグリグリと撫でてから、引き剥がした。
半ば無理やり引き剥がしたから最初は唇を尖らせていたが、思い出したかのように散らばった体の破片を回収しに行った。

ニアの方にあらためて視線を向けると、どうやら採寸は終わったようだ。

「これで防具は作り始められるんだが、さっきいってた武器がイマイチ想像できねぇ。絵にしてもらっていいか?」

俺もよくわからんかったし、紙とペンをニアに渡して自分で描かせた。
ニアが描いた絵を見るに、簡単にいったら釘バットみたいな感じか?ただ、先端とは逆側に向いて小さな棘が生えてる武器だから釘バットより凶悪だ。殴ったら引っかかるだろうから、それを力づくで使われた被害者を想像するだけで痛い。

「嬢ちゃんはずいぶん変わった武器を使うんだな。」

「リキ様に敵対した者には苦しんでもらいたいので。」

ニッコリといい笑顔で答えるニアに対しておっさんは苦笑いだ。もちろん俺も苦笑いだ。

「俺は拷問とかの趣味はねぇぞ?」

「なら剣がいいです。極力苦しめずに殺せる切れ味の鋭いのがいいです。」

あからさまな手のひら返しだな。いっそ清々しい。

「べつに無理しないで使いやすい方でいいぞ。」

「どちらも使ったことないので大丈夫です。」

大丈夫の意味がわからねぇな。
というか使ったこともないのにそんな凶悪な武器を思いつくことに驚きだ。

「できれば思い切り殴っても壊れないのがいいです。」

もうそれは剣の使い方じゃねぇだろ。

「なら武器は衝撃爆発のハンマーをやるからそれを使え。」

「リキ様が自分だけに特別に武器をくれるのですか?」

「そんな大袈裟なものじゃねぇけど、嫌ならここで作ってもらうか。それなら斧の方が殺傷力はありそうだな。」

「いえ!衝撃爆発のハンマーがいいです。むしろそれ以外の武器は使える気がしません。」

…。

「そうか。じゃあ盾はどんなのがいいんだ?腕に取り付けられるような軽いやつか?」

「いえ、重くていいので龍の体当たりにでも耐えられるような頑丈なのがいいです。」

こいつは何と戦う気なんだ?もしかしたら今後は戦闘すらする機会があるかもわかんねぇってのに…まぁいざという時用に本人に合った武器防具を用意はしてやるべきだよな。

「とのことだが、龍の鱗は足りそうか?」

「全然足んねぇだろうな。重くていいからとにかく頑丈な盾っていうなら龍の鱗よりニータートの甲羅の方が適してるんだが、あれも珍しいからそうそう手には入らねぇんだよな。」

「それなら3つだけなら持ってるぞ?足りるか?」

「は?3つも?いや、坊主なら普通か。1つありゃ十分だ。出来上がるのは長めにみて10日ってところだろうよ。金額は金貨5〜10枚ってところだろう。あと、防具を龍の鱗だけで作りたいんならもう20枚くらい欲しいところだが、重くて平気ならニータートと混ぜるか?」

俺なら普通ってなんだよ。俺もたまたま出くわしただけなんだがな。

「ニータートを混ぜると龍の鱗のみよりやっぱり劣るのか?」

「いや、ニータートの甲羅は重いっつう欠点があるだけで、それを気にしねぇんならむしろ防御力は上がるだろうよ。」

重さだけなら軽量の加護でもアリアにつけてもらえばいいか。

「じゃあそれで頼む。」

「おうよ。」

とりあえずカウンターに金貨10枚置いた。ニータートの甲羅はここで出したらヤバイだろうからな。

それにしても今日だけでかなりの出費だな。必要なことだとわかってはいるんだが…また稼がなきゃだな。

でも盾役を自らやってくれるのはけっこうありがたい。だからこそ盾と防具はちゃんとしたのにしねぇと危ねぇからな。

そろそろカゲロアの盗賊から金の回収をしないと持ち金が心許なくなりそうだな。

そんなことを考えながら、おっさんに案内されるまま作業場の素材置き場のようなところまで行き、ニータートの甲羅を1つと念のため龍の鱗を5枚置いてから、おっさんに別れを告げて武器防具屋から出た。

一応おっさんにニータートの甲羅を渡すついでにニアがどの程度なら持てるのかを試そうとニータートの甲羅を持たせてみたら片手で持ち上げやがった。
ちなみに俺は軽量の加護があって、さらにかなり本気で力を振り絞ってなんとか片手で持ち上げられたが、ちょっと右腕が痛い。男のプライドを守るために回復魔法が使えないのが地味に辛いが、怪我をしたわけではなさそうだから我慢だ。

それにしても、ニアもけっこうな化け物だったんだな。

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