裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

161話



久しぶりにかなり寝たな。
昼飯後にロリコンが鍛え直して出直してくるとか意味わかんないこといって帰っていき、それを見送って、風呂に入ってすぐ寝たから、12時間くらい寝たのか?

今は真夜中だ。

今まで降っていなかった分を補うかのように雨が降り続けていやがるから、本当に迷惑だ。

なんとなしに窓から外を見ると、何かがこちらに飛んできた。その何かは俺の部屋の窓にコツコツとうるさくない程度に何度も器用にぶつかってきた。
よく見たらサーシャの作り出した蝙蝠みたいなやつじゃねぇか。

確か夜はサーシャが門番をしてるって話だったよな?ってことは何かがあって俺を呼んでるってことか?

サーシャに自己判断させたらロクなことにならなそうだから行くべきなんだろうが、雨の中行くのはかったるいな。こんな時間に目覚めなけりゃ、寝てて気づかなかったって言い訳ができたんだけどな…しゃーない、行くか。

部屋に干しておいたカッパ代わりのローブを羽織り、部屋から出て、あまり音を立てないように気をつけて玄関まで行き、外に出た。

けっこう降ってるな。

やっぱりこういうときは傘が欲しい。

ガルナはこれから大変だろうから、ガルネにでも作らせるか。

まぁそんなこといったって今すぐ出来上がるわけでもねぇし、諦めてフードを被って門まで走った。

門を開けて外に出ると、血で屋根を作ってその下で立っているサーシャとずぶ濡れの女が向かい合っていた。
赤髪のロングに黒眼で身長も体格もヴェルくらいだから、俺とそんなに歳は変わらなそうだな。
ただ、雰囲気はヴェルとは全く違く、大人しそうな印象だ。

「リキ様。こやつがこの村に用があるとのことだが、出身地がカゲロアらしいのだ。アリアからはクルムナかケモーナから来た子どもはいれていいといわれておるから、どうしたら良いのかわからんくてのぅ。」

いや、アリアは出身地を限定してはいなかったと思うぞ?ただ、その2つの国から逃げてくる子どもがいるかもしれないから、その場合は受け入れてやれって話だった気がするが…………まぁサーシャは馬鹿だから仕方ないか。

「俺がこの村の村長ってことになってる、神野 力だ。それで、何の用だ?」

「ナルセニア・カスフィアです。お母さんにここに行くようにいわれました。」

「だからなんでここに来るようにいわれたんだ?」

「………わからないです。」

なんだ今の間は?というより雨がうぜぇな。
サーシャをどかして場所を奪えば俺は濡れずにすみそうだなと思ったが、べつにここで話す必要もねぇんだよな。

「雨がうぜぇから話は中で聞く、ついて来い。先にいっておくが、変な真似しようとしたら躊躇なく殺すからな。」

女はビクッと肩を震わせた。

怖がらせちまったか?

「べつに普通にしてりゃなんもしねぇよ。見るからにびしょ濡れだし、寒いだろ?風邪引く前にとりあえず風呂入れ。着替えはてきとうに用意しとくからよ。」

「…いいんですか?」

「いいも何も俺はこの雨の中で長話をしたくねぇし、びしょ濡れのやつに家の中をうろうろされんのも嫌なんだよ。だからお前は風呂入って温まれるし、屋敷も最低限しか汚れない、俺も雨に当たらずにすむ。みんなハッピーだろ?」

「ハッピー?」

どうでもいいとこを疑問にもたれてもな。

「幸せってことだ。んで、どうすんだ?べつに帰りたいなら帰れ。話があんならとりあえず風呂に入れ。」

「…幸せ……。お風呂いただきます。」

女が深く頭を下げた。

この女は俺と話してる間も雨に当たりっぱなしなんだが、気にならないのか?
よく見ると着てる服もけっこう汚れてるな。元は白いワンピースなんだと思うが、ところどころ黒くなってるし、穴というか破れてる?とこもある。

「というかお前、服透けてるけど恥ずかしくねぇの?」

門に取り付けられてる頼りない光しかないから気づくのが遅れたが、こいつ下着を着けてないっぽい。俺とあまり歳が離れてないように見えたが、もしかしてセリナみたいに見た目より実年齢が下なのか?

女は自分の胸もとを確認した後、焦った様子もなく右腕で胸を隠した。

「ごめんなさい。」

「いや、べつにお前がいいならどうでもいいが、とりあえず付いて来い。」

このままだとダラダラと話し続けることになりそうだから、中に入ることにした。

俺が門から村に入り、屋敷に向かって歩き出すと女もキョロキョロと周りを見ながらついてきた。

少しでも濡れないようにするなら走るべきなんだが、靴が水を吸いすぎて走る気になれなかった。

「ここは何かの実験場ですか?」

「…は?さっき俺は村長だっていったと思うが、その説明でここが村だってわからねぇのか?」

「ごめんなさい。」

「そもそもなんでそんな意味不明な勘違いをするんだ?」

「…道が整備されてるわけでもない森の中に村があって、村なのに壁で囲われていて、それなのに壁の中は建物が2つしかない。それにリキさんは人間なのに外にいたのは魔族。そして、お母さんが自分にここに来るようにいったので、ここは実験場なのかと思ってしまいました。」

大人しそうなやつだと思ったが、実はけっこう喋るやつなのか?まぁ喋るやつの方が事情やらなんやらを聞けるからいいんだがな。

「それはこの村が作ってる最中みたいなもんだからだ。壁を作ったのは森の中だから魔物に寝込みを襲われないためってだけだ。」

…ん?こいつはサーシャが魔族だって見分けられたのか?それに母親に行けといわれた場所が実験場かもしれないなんて発想が出てくるのはかなり異常じゃねぇか?

「勘違いをしてごめんなさい。」

「べつにいい。」

話してるうちに屋敷に着いた。

「これから中に入るが、中ではガキどもが寝てるから、出来るだけ静かにな。あと、さすがに会ってすぐに信用なんて出来ないからお前が風呂に入ってる間は見張りを立てるが気にするな。」

「はい。」

扉を開けて先に俺が入り、女を中に入れてから扉を閉めた。

「こんな夜中に来客かい?」

声の方を見るとヴェルが二階から降りてきていた。

「ちょうどいい。こいつをこれから風呂に入らせるから、変なことしないように見張っててくれ。あと、こいつに服を一式貸してやれ。」

「僕がかい?」

「は?この流れでヴェル以外にいねぇだろ。」

「そうだね。すまない。じゃあ君…えっと名前は?」

「ナルセニア・カスフィアです。」

「じゃあナルセニア。風呂はこっちだ。」

「はい。」

ヴェルに案内されて女は風呂場に向かった。

俺もシャワーを浴びてくるかな。






シャワー室から出て応接室にしている入り口近くの部屋に向かおうとしたら、いい争ってるような声が微かに聞こえた。

声のする方に向かうとどうやら風呂場の前でいい争ってるみたいだな。あれはセリナとヴェルか?


「そもそもこれはリキ様からの命令だ。僕がリキ様の命令に背いてセリナに従うことは出来ないな。」

「でも!」

「ならリキ様に直接いってくれ。」

俺が2人に近づいていくと、背中を向けてたセリナがぐりんと振り向いた。

「リキ様!危険だよ!」

セリナは静かに声を荒げるという器用なことをしてきた。

「何がだ?」

「今風呂場にいるやつは危険だよ!」

あの女のことか?俺の観察眼は何も反応しなかったけど、セリナがいうなら何か感じるものがあるのかもな。

「わかったよ。セリナがそこまでいうなら確認してくるから、セリナは寝てろ。明日の日中はセリナが門番なんだろ?」

「でも…リキ様に何かあったら…。」

「わかったよ。すぐ戻ってくるから待ってろ。」

アイテムボックスからチェインメイルとガントレットを取り出して装備した。
寝間着の上から着ると違和感があるが、全部着替えるのはめんどいからいいや。

2人を外に残して風呂場に入り、脱衣所をぬけて浴室の扉を開けると、女は体を洗っていたようで、こちらに背中を向けていた。
だから最初に目に入ったのは黒くて大きな翼だった。そして、その翼がさっきの女の背中から生えていることに気づいた時に女が振り返った。
振り返った女と目が合ったが、女の眼はさっきと違い、白目の部分が黒く、黒目の部分が赤くなっていた。それに頭からはツノまで生えていた。

「なんだ、お前は魔族だったのか。」

女は風呂場に急に入ってこられたのに恥ずかしがるでも怒るでもなく、諦めたような悲しそうな顔をした。

セリナに危険だといわれたからの確認とはいえ、入ってみたら普通に風呂に入ってるだけみたいで罪悪感が半端ない。

「悪いな。俺の仲間が危険だっていうから勝手に入らせてもらったが、勘違いだったみたいだ。すまん。気にせずゆっくり入っててくれ。」

右手を顔の前に持ってきて謝罪をし、外に出ようと思ったら、「え?」といわれた。
確かに俺が悪いが、土下座でもしろっていうのか?

「裸を見たのは悪いと思っているが、土下座をする気はねぇぞ。」

いや、でもさすがにこいつはガキじゃねぇからな…ここは土下座ぐらいするべきか?
今さらだが、セリナ自身に確認させれば良かったな。そしたら女同士だし問題なかっただろうに…失敗した。

つっても今さら後悔してもどうにもならねぇし、ここは潔く土下座して謝罪をするべきか?嫌だけど、間違いなく俺が悪いし…嫌だけど…。

「いえ、裸を見られたのはべつにいいのですが、殺さないのですか?」

「は?」

なんでそんな話に……あぁ、俺がガントレットを装備してるからか。

「自分は悪魔の子だから、リキさんの仲間の人は危険だといったのではないですか?だからリキさんも自分を殺そうと思って来たのではないのですか?」

「悪魔の子?まぁよくわからんが、セリナが危険だっていったから最悪殺すことになる可能性はあったが、普通に風呂に入ってるだけなのに殺したりしねぇよ。」

「え?」

というか少しは恥ずかしがれよ。そして体を隠せし。
いくら意識しないようにしてても、歳が近いやつの裸を見続けるのはヤバい。
さっきは危険人物かもしれないという確認だけだったからそういった見方をしてなかったが、危険でないとわかったら翼とツノがあるだけで体は人間と変わらないからな。しかも眼がおかしいってだけで綺麗な顔立ちをしているから、そんなやつが裸でいるとか目に毒だ。

長居は禁物だな。

「とりあえずこのことも含めて話はあとでにしよう。俺は外で頭冷やして待ってるから、お前はゆっくり風呂を堪能してから応接室に来い。いいな?じゃ、また後でな。」

今度は女の返事を聞かずに外に出た。

脱衣所をぬけて廊下に出ると、セリナとヴェルがいた。

「問題はなかったから大丈夫だ。セリナは寝ろ。ヴェルは念のため引き続き見張りだ。俺は応接室で待ってるから、あの女が風呂から出てきたら連れてこい。」

「「はい。」」

セリナは渋々といった感じではあったが、反論することなく部屋に向かって歩いていった。



…はぁ。


外が雨じゃなけりゃひとっ走りして憩いの場に行くことも出来たのに…。仕方ねぇから応接室で待ってる間に少し寝て忘れよう。





ふと目が覚めると、目の前にさっきの女とヴェルがいた。どうやら俺は応接室のソファーに座ったまま踏ん反り返って寝てたみたいだ。

「いや、終わったなら起こせよ。」

「すまない。疲れているのなら起こすべきではないかと思って、起きるのを待っていたんだ。」

あらためて女を見るが、見た目は最初の状態に戻っていた。これだと人間にしか見えない。どことなく喋り始める前のヒトミに似てるか?

「さっきは翼やツノがあったと思ったんだが、俺の見間違いか?」

「いえ、さっきは久しぶりのお風呂でしたので、ツノや翼も洗いたいと思い、出してしまいましたが、普段は出していません。」

出したりしまったりできるとか便利だな。さすがはファンタジーってとこか?

ひと眠りしたからか、余計なことを考えずに会話ができそうだ。それにヒトミに似てると思ったからか、裸姿がフラッシュバックしてもそこまで気にならなくなった。

「なんで普段は出さないんだ?邪魔だからか?いや、服が着れなくなるからか。」

「…いえ、人間に討伐されてしまうからです。」

「そうなのか?」

「僕に聞かれても人間のことなんかわからないよ。」

ヴェルに確認のために話を振ったが、ヴェルは人間の世界に疎いようだ。俺もこの世界の常識とかまだよくわからんし、話し合いの場にヴェルとか人選失敗したな。

そういやこの世界では魔族は悪って感じだもんな。イーラとかと過ごしてるせいでその辺の感覚が鈍ってきてるわ。というより俺は殺す相手は敵になったやつだけで、種族とかそもそも気にしてなかったな。

「まぁとりあえずお前が魔族なのはわかった。それでお前はここにきて、どうしたいんだ?」

「違います。私は魔人です。」

「ヴェル、魔人ってなんだ?」

「僕に聞かれても知らないよ。」

…話し合いはアリアが起きてからにすれば良かった。

「魔人は魔族と人族の間に生まれた者です。」

「それで、あれか?魔族の母親にアラフミナの偵察に行ってこいとかいわれたのか?」

それで町には入れないからここに立ち寄ったとか?それなら追い出すか殺すか…。

「お母さんはお父さんに魅了で操られて自分を産まされた人族です。最近、お父さんの魅了が弱まってきたようで、お母さんが自分といることを辛く思い始めたのか、ここに行くようにいわれました。なので、これ以上お母さんを苦しめたくはなかったので、ここがなんなのかわからないまま、歩いてきました。」

「父親はどうしてんだ?」

「自分が産まれる前に討伐されたそうです。」

それで頼るあてがないから母親にいわれたこと従ったわけか。

「そうか。んで、お前はどうしたいんだ?」

「…わからないです。」

「お前は見た感じ俺と歳が変わらないように見えるが何歳なんだ?」

「15歳です。」

成人してるんじゃねぇか。

「この世界では15歳で成人だったよな?」

「この世界?」

余計なことをいっちまった…。

「忘れろ。…とりあえず成人してんだから好きに生きりゃいいじゃねぇか。なんで母親のいいなりになってんだ?」

「今まで迷惑をかけたので、ここに来ることが今までの償いになるのならと思ったからです。」

…。

「お前のその考え方、気にくわねぇな。」

「え?」

「お前は今まで母親になんかしたのか?」

「自分は魔人なので、生きているだけで「おい!」…え?」

「次、種族を言い訳にしたらぶん殴るからな。…じゃあ質問の仕方を変える。お前は今まで母親に意図的に・・・・何かをしたのか?」

「…してません。」

「お前の母親は魅了されてたらしいから本心は知らねぇが、お前に辛く当たるようなことをしたのか?」

「いえ…優しかったです。」

「なら感謝こそすれ、迷惑をかけたなんて悔やんでんじゃねぇよ。」

「でも!自分のせいでお母さんは村にも住めずに山に隠れるように住んで。買い物をするのも離れた村まで行かなければならないし、飢えをしのぐために傷だらけになりながら魔物を狩ったりの生活を強いらせてしまった!」

「勘違いするんじゃねぇよ!お前のせい?思い上がるな!たかだか魔族との子を孕んだだけで除け者にした村のやつらのせいだろうが!子どものために苦労するのは親の義務だ。お前の母親は魅了されていたっていうから同情の余地はあるが、その責任を子どもが負う必要があるとは俺には思えない。苦労させたと思うなら、これから恩返しをすればいいじゃねぇか?お前はもう成人してんだ。働くことだってできんだろ?なら働いて金貯めて、これから養ってやれよ。」

「…もう…無理だよ…お母…さんは…死んじゃったもん………。」

女は突っかかってきたかと思ったら、泣き始めた。

母親は死んだか…魅了で苦しんでたってのがわかっちまったなら、それは自分のせいだって思っちまうかもな…。

「事故か?」

「魔物を狩って帰ったら、木に吊るした縄で「悪い。もういい。」…。」

女は涙を流しながら、無表情で淡々と話しはじめ、これはマズいと思い、言葉を遮った。

「何も知らないのに偉そうなことをいったことは謝る。すまない。だが、お前のせいじゃないって意見を変えるつもりはない。」

女は光のなくなったような目で俺を見てきた。

「それと、これは俺の勝手な想像だが、お前の母親はお前のことを憎んではいなかったと思うぞ?」

「ふざけるな!」

女はさっきの風呂場のときと同じ、黒と赤の目に変わり、ツノが生え、怒鳴りつけたさいに鋭い牙のようなものも見えた。
今にも殴りかかりそうになっているが、ヴェルが止めようとしたのを手を上げてやめさせる。

「ふざけてなんかねぇよ。お前がいったんじゃねぇか。母親がここに来るようにいったって。」

「そうだよ!お母さんは自分を厄介払いしたかったんだ!」

「じゃあなんで死んだ?お前を追い出すなら死ぬ必要がないだろ?それに追い出すだけならわざわざここを指定する必要もねぇ。てきとうなとこを伝えて追い出せばいいだけだからな。」

「…。」

「まぁ死んだ理由は魅了されてたことが原因かもしんねぇけど、それだってかけたのはお前の父親だ。お前のせいじゃねぇ。」

「っ!」

女は何かをいいかけたが、やめたようだ。

「んで、お前の母親がここを指定した理由だが、噂でも耳にしたんじゃねぇのか?」

「…噂?」

女は少し落ち着いたのか、ツノと牙がなくなっていた。目は黒と赤のままだが。

「奴隷の避難所って呼ばれてるらしいぞ。奴隷が避難する場所ってくらいだから、まともな場所だとでも思ったんじゃねぇか?」

「…。」

まぁロリコンから聞いただけだから、本当かどうかは知らないがな。そもそも村が出来上がってないのに噂になってること自体おかしいんだが…たぶんアリアがなんかしたんだろう。じゃなきゃクルムナやケモーナからこの村に子どもが逃げてくることすら意味不明だからな。

だって途中にいくつも村や町があるのに、わざわざここに来るんだからおかしいだろ。

ん?思考がそれたおかげでふと思ったが、なんで俺は仲間でもなんでもないこいつにこんなこといってんだ?

ヒトミに似てるとか思っちまったせいか?

まぁここまできたら最後までだな。

「魅了で10年以上も操られてたことに気づいて精神的にやられちまったのかもしれねぇが、それでもお前だけは幸せになってほしいとか思ったんじゃねぇか?なら、幸せになる努力をするのが最大の恩返しなんじゃねぇの?」

実際は死んじまったやつの本心なんてわかんねぇ。でも、ポジティブに考えるべきだと俺は思う。
だって、もし本当に幸せになってほしいと思われていたら、幸せになる努力をすることが恩返しにもなるし、自分も幸せになれる。
かりに死んでほしいと思われてたとしたら、そんな風に思うやつのことなんて忘れて幸せになる努力をするべきだと思う。

だけど、幸せになってほしいと思われてたのに勝手に後悔を背負って不幸にでもなったら、誰も報われない。というかその母親が可哀想すぎるだろ。魅了で無理やり子を産まされて、それでも自分が産んだ子だから可愛いと思って、せめて子どもだけでも幸せにと願ったのに自殺を自分のせいだと思われて不幸になられたら…まぁ自殺をした罰なのかもしれねぇけど、さすがに魅了を10年以上もかけられてたんなら、子をおいて自殺をしたことを強く責める気にはなれねぇ。

「だから、母親の不幸を自分のせいなんていうんじゃねぇ。お前の母親が頑張ってくれたおかげで健康なまま成人になれて、ありがとうでいいじゃねぇか。あとは幸せになって墓参りのときに報告でもしてやれよ。」

つっても幸せなんて簡単に見つけられるものでもねぇんだろうけどな。でも、幸せになろうという努力はするべきだろう。

…また泣き始めやがった。

泣いたり怒ったり泣いたりと忙しないやつだな。

とりあえず女が泣き止むまでしばらく待ち、話を続けた。

「それで、あらためて聞くが、お前はここに何しにきたんだ?いや、何がしたい?」

「…リキ様と一緒にいたいです。」

「…は?」

「差別しないで人として自分に接してくれたのはお母さん以外で初めてでした。それにそこまで真剣に自分のことを思ってくれる人も…優しくしてくれる人も………好きです。」

「…そうか。ありがとう。だが、俺はお前に恋愛感情は抱いていない。だからもう一度聞こう、何がしたい?」

「リキ様と一緒にいたいです。」

「だから、俺はお前とそういう関係になる気はさらさらないぞ。」

「それでもです。」

…マジかよ。

「わかったうえでならべつにいいんだが、俺と一緒にいたいってのはここに住みたいって解釈でいいのか?」

「はい。ここに住んで、リキ様のためになる仕事がしたいです。」

大人しいやつかと思ったらけっこうグイグイくるな…。

「仕事がしたいって、何ができんだ?」

「戦えます。家事は少しならできます。」

「あと、俺と一緒に行動するつもりなら奴隷になってもらうぞ?いいのか?」

「喜んで。」

…こいつはまともなやつだと思っていたが、わりと頭がおかしい部類みたいだな。
奴隷になるのを喜ぶとか怖いわ。

「変な勘違いをさせてしまったようなので、理由を説明します。自分は魔人なので、奴隷紋があった方が討伐される危険が減ります。それに外にいた魔族は使い魔のようでしたが、無理やり従わせているのではなく慕われているようだったので、きっとリキ様は奴隷や使い魔に酷いことをしない人だと思いました。なので、リキ様との繋がりが持てるのなら喜んでお受けしたいと思いました。」

さっきの発言に引いたのが伝わったのか、わざわざ説明してきやがった。

「いっとくが、一度奴隷にしたら二度と解放しないぞ?」

「はい。」

もう何をいっても無駄だろうな。

「じゃあ契約するからこっちこい。」

「はい。」

女が迂回して俺のとこまできたから、立ち上がって、女の胸に右手を当てた。

「あっ…。」

「変な声出すな。」

「…すみません。」

奴隷契約を胸に指定して発動すると右腕から発生した蠢く何かが女の胸に集まっていく。

「んっ…。」

…。


しばらくしたら蠢く何かは女に染み込むように入っていった。



ナルセニア 15歳
魔人族LV48
状態異常:なし
スキル 『悪食』『威圧』『認識阻害』『魅了』『肉体強化』『精神侵食』『再生』
加護 『精神攻撃耐性』『物理抵抗』『成長補強』『成長増々』『状態維持』『成長促進』『奴隷補強』



思った以上に強そうだな。

名前は長いから略すとして、ナルセだと日本人っぽ過ぎるから、ナル…いや、あえてここはニアにしとくか。

「じゃあ俺はそろそろ寝る。」

「おともします。」

は?

「ざけんな。ニアは適当な空いてる部屋で寝ろ。ヴェル、案内してやれ。」

「僕はどこが空いてるかなんて把握してないよ。」

…。

一部屋ずつ確認していくのはさすがにめんどい…せっかく寝てるやつらを起こすのも悪いしな…というか俺ならキレる。

「しゃーない。今日だけ俺の部屋で寝ろ。明日アリアに頼むことにする。」

「はいっ!」

「ヴェルもこんな時間に付き合ってもらってありがとな。」

「いや、僕にとってもリキ様の思ってることが聞ける有意義な時間だった。」

俺の思ってることって…さすがにちょっと熱くなりすぎたな。この話題はスルーしよう。

「じゃあおやすみ。」

「おやすみなさい。」

「おやすみ。」

俺たちはそれぞれの部屋へと向かって歩き出した。

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