裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

155話



とうとう第三王子が迎えにくる予定日の前日になってしまった。あれから一度も連絡がないのだから、明日の早朝に村に迎えがくるのだろう。

俺らレベル上げ組は5日目を丸一日使ってなんとか地下70階まで攻略したが、それ以上は無理と判断し、今日の午前中はガキどもの戦闘訓練に付き合っていた。

あのダンジョンは地下50階で急激に強くなったと思ったら、そこから階を下りるごとに徐々に強くなり、地下60階ではまた一気に強くなった。
そこからまた徐々に強くなっていくんだが、この時点で一対一では勝てるか怪しいほどに強かった。まぁ2人で戦えばまず勝てる程度で、全員で連携を取れば苦もなく勝てる相手だがな。
だが、地下70階に下りた瞬間、魔物の強さの桁が変わった。連携を取らなければ危ないほどに。

まぁ連携の練習にはちょうどよかったから地下70階の魔物は全滅させたんだが、地下71階は1度下りるだけにして、魔物には会わずにすぐに帰った。さすがにアリアがいない状態でこれ以上先に進むのは危なすぎると判断したからだ。まぁ時間もちょうど良かったしな。

ロリコンは昨日はガキどもと一緒に行動していた。昨日の夜、ダンジョンから帰る時に何人かのガキどもに慕われてるロリコンの姿が見えた。そのときのロリコンは怪しくニヤケてたから、犯罪臭が半端なかったが、1日で慕われるってことはよっぽど役にたったのだろう。まぁアリアたちの親愛度に変化はなさそうだがな。

今日はガキどものダンジョンでの実戦訓練に同行し、途中で危険があったら助ける仕事を頼まれたが、思った以上にガキどもが強くなってるから俺らは全く必要なかったな。
というか、ただの村人なのに強くなりすぎじゃねぇか?

ガキどもの訓練はほぼ初めて見たが、全員最初に渡した武器の他に木の棒を使っての戦闘やガントレットのみでの戦闘をしていた。

アリアに確認を取ると武器を持ってないときに襲われた場合を考えて、落ちてる可能性の高い木の棒と最悪の場合の素手での戦闘のためだとか。ガントレットは魔物が硬いから着けているだけで、村での訓練中は素手で的を殴ったり、2人で組手をさせたりしていたらしい。ただ、ガントレットなんて用意した記憶がないし、こんな大量のガントレットをどうしたのかと思ったら、アリアがこんなこともあるかと思って用意していたらしい。
普通はこんなことになるなんて思いもしないだろうに、アリアの思考回路はどうなってんだ?
ちなみに木の棒にも今は硬化の加護をかけてるらしい。これもこんなことがあるかもと思って『硬化の加護』を大量に用意していたんだとさ。

まぁガキどもが村人になるなら戦闘訓練はさせるつもりだったし、アリアなら俺が考えることがなんとなくわかってたってことだろう。
ほとんど一緒にいたアリアがどのタイミングで用意したかなんて想像もつかないけどな。

ガキどもにとっては練習だから、俺らほど攻略速度は速くない。それでも地下30階まで進んだのは早い方なんじゃないか?
それで今は食堂で飯を食う寸前だ。

全員が俺の「いただきます。」を待って静かにしている。
いうならこのタイミングだろう。

「腹を空かせてるとこ悪いが、いっておくことがある。今日は昼食後に町に行く。クローノストから来た者たちは町に行ってから奴隷解放をし、冒険者登録をしてもらう。あくまで身分証として登録するだけだから、その後なんの仕事をするかはお前らの自由だ。今まで通りここで仕事をするでも、本当に冒険者となって仕事をするでもかまわない。この村に残るか出て行くかも自由だ。わざわざ俺に許可を取る必要はない。ただ、俺らのグループに所属し続けるなら最低限のルールは守ってもらう。ルールっていっても細かく決めてるわけではないが、グループに所属するやつは仲間だと思ってるから、俺らを裏切らないってのと、自分が間違っていると思うことはするな。もちろん俺のグループのやつが問題を起こせばリーダーである俺が直接出向く可能性が高いだろう。そのときいくら理屈を並べたとしても俺が納得しなければ断罪する。だから、俺と敵対することになっても曲げられないことがあるなら自分の信念に従え。そういう想いがあるやつは嫌いじゃない。逆に信念もなく、悪いことだとわかりながら悪事を働くやつは殺すだけじゃ許さねえからな。そのために戦う力をつけさせたわけじゃねぇ。その場合はグループに所属してなくとも俺が責任持って、苦痛を与えてから処分する。もちろんグループに既に所属しているお前らは抜けるのも自由だ。仲間にするやつは選ぶが、去る者を追うつもりはない。…話が長くなっちまったから、わかりづらかったかもな。とりあえず飯食い終わったら町に冒険者登録をしに行くってのとその後は自由に生きろってだけだ。今後どうするかは別に仲間と相談してもかまわねぇから、町に行くまでに決めておけ。グループから抜けて村に戻ってくるつもりもないやつは町に向かう前にソフィアに頼んでグループマークを外してもらっておけよ。アリアたちは村に残るでも町に一緒に来るでも好きにしてくれ。残念ながら町に来ても奴隷解放はしないがな。最後に、今日までの訓練、お疲れ様。俺の予想以上に強くなってて凄えな。ささやかなプレゼントだが、この訓練を共にした武器と防具はそのままもらってくれ。使うかどうかは好きにしてくれ。」

ガントレットはアリアが既に回収してるから、おっさんから安く買った武器と防具はあげても問題ないだろう。返してもらったらもらったで使い道はあるにはあるが、そのときまたおっさんから買えばいいだろう。その方がおっさんへの恩返しにもなるだろうしな。あとはガルナに作らせるのもいい練習になるか。

「それじゃあ、いただきます。」

「いただきます!」

返ってくるガキどもの声がいつもよりもデカく感じた。






現在はセリナとカレンとソフィアを除く全員で冒険者ギルドに来ている。
ロリコンは付いてきたけど薬屋の女は飯を食ったら帰ったみたいだ。

さすがにこの人数だといくらけっこうデカイ冒険者ギルドだといっても邪魔だな。
まぁ昼過ぎで暇そうだったからまだ良かったけどさ。

テーブルや椅子が置いてあるスペースにはチラホラ冒険者っぽいのがいるが、受付には誰も並んでいない。スペースで会話をしている奴らの声が聞こえてきた。


「凄え人数だな。あれ?1番前にいんのって少女使いじゃねぇか?ってことはあいつら全員が奴隷なのか?」
「いや、何人かは胸もとが見える服を着ているが、奴隷紋がねぇぞ?それに男の子もいるじゃねぇか。」
「もしかしたら若けりゃ男もイケるのかもしれねぇじゃねぇか。でも奴隷紋がないんじゃちげぇのか?もしくはこれから奴隷にするとかか?」
「やつならあり得るな。クルムナの孤児どもを攫ってきたんじゃねぇか?」
「もしかしたら強制的に孤児にした可能性もあるかもな。今ならクルムナの奴らの死体が多少増えてもわからねぇだろうしな。」
「おまっバカやろ!聞こえたらどうすんだ!図星で消されるとか勘弁だぞ。」
「あれ?」
「どうした?」
「あの子どもの中にいるもう1人の男って『歩く砲台』のカンツィアじゃねぇか?」
「はぁ?そんなわけ………マジだ。あんなニヤケてる姿は初めて見たから気づかなかった。」
「歩く砲台ってソロでSランクになった化け物か!?」
「そうだ。化け物2人で何やってんだ?もしかしてこの町で何か起こるのか?」


俺はセリナみたいに特別に耳が良いわけじゃねぇのに最初から聞こえてるぞ。隠すつもりがあんならもっと小声で喋りやがれ。
まぁケンカ売るつもりがねぇならどうでもいいがな。
それよりロリコンの知名度に驚いた。

とりあえずアリアたちは空いてるスペースで好きにさせ、ガキどもを連れて受付に並んだ。俺が最初にここにきた時に説明してもらったお姉さんがいる受付に。

「本日はどういったご用件でしょうか?」

「こいつらを全員登録させたい。登録費用は俺が全部払う。登録に関する説明は1人ずつにするのは大変だろうから一度で済ませられるように受付近くに集めたいが、そうすると隣の受付を塞ぐことになってしまうと思うがいいか?」

このお姉さんがいたのは入り口から見て1番左端だった。だから片方は問題ないが、右側の受付は塞ぐことになっちまうだろう。まぁ受付は全部で6ヶ所あるから、この時間なら問題ねぇと思うけどな。

「今でしたら問題ありません。こちらとしても一度に説明させてもらえるのは助かります。」

「ありがとう。」

受付のお姉さんに礼をいい、ガキどもに振り向いた。

「これから受付のお姉さんが説明をするから、もっと近づけ。隣の受付は塞いでもかまわないから、近づいてちゃんと聞いておけよ。質問は最後にまとめてしろ。わかったか?」

「はい!」

ガキどもが無駄に元気よく返事をし、集まってきた。逆に俺は少し離れてガキどもに場所を譲る。

全員が止まったのを確認してから受付のお姉さんが説明を始めた。内容は以前とほとんど変わらないが、少しだけ変更があるっぽいな。まぁ俺がただ忘れてるだけかもだが。

変わったっぽいのはSSランクが出来たのと、Sランクになるときに試験を受けなければならないってことくらいか?ちなみにSSランクになるためには試験以前に冒険者ギルドに認められないといけないらしい。判断基準は教えてないとのことだ。あと、依頼達成のみで上のランクに上がるためには上のランクの依頼を規定回数こなさなきゃダメらしい。前回はそんな説明なかった気がするけど、まぁ例えばいくらBランクの依頼を完璧にこなせたとしてもそいつがAランクの実力があるという証明にはならねぇしな。
試験によるランクアップはいつでも出来るらしいが、失敗した場合は1ヶ月は試験を受けられないらしい。ただ、Eランクに受かったやつが続けてDランクの試験に挑戦することは可能なんだと。また、Fランクのやつが一気にSランクの試験を受けることも出来るらしい。試験内容は試験官との模擬戦闘もしくはランク相当の魔物との戦闘らしく、死ぬ可能性があるから自分に見合ってない試験を受けるのは推奨しないといってはいたけど。

お姉さんの説明が終わり、質問出来るようになったが、誰も質問はないみたいだな。

「じゃあ登録を頼む。」

「はい。それでは1人ずつ、こちらの水晶に手を乗せてください。」

ん?これって手が届かないパターンじゃねぇのか?アリアの時も持ち上げてやったが、こいつら全員にそれをやらなきゃならないのか?

…まぁやるしかねぇんだよな。

ロリコンに頼めば喜んで代わってくれそうだが、あいつにだけは頼んではいけない気がする。アオイかヴェルに頼むか?いや、俺がやればいいか。

「改めて一列になれ。」

俺の指示に従って一列に並んだガキどもの先頭から順に持ち上げて登録を進めていった。
中には届きそうなやつもいたのになぜか全員俺が持ち上げることになった。…なぜだ?



全員の登録が終わり、まとめて金を払った。
全員がカードを選んだようで、嬉しそうにカードを眺めている。

「それじゃ移動するぞ。冒険者になった祝いに肉串を奢ってやる。」

もちろんおっちゃんのところだ。

アリアたちを呼んで、全員で肉串屋に向かった。




「おっちゃん、久しぶり。」

「おう!あんちゃん、久しぶりじゃねぇか。…ずいぶん子どもが増えたな?」

「おっちゃんにしばらく会わないうちに仲間が増えてさ。とりあえず特上を50本くれ。」

「毎度!」

そういやソフィアが仲間になった時に来て以来か?

「俺の戦闘奴隷で増えたのはサーシャ、ウサギ、ヴェルの3人で、後はあのデカいの以外がうちの村人だ。さすがに全員は覚えられないだろうが、このマークをつけてるやつは俺の仲間だから、何か問題を起こしたらそいつの特徴とともに教えてくれ。」

そういっておっちゃんに背中を向け、チェインメイルに描かれたグループマークを見せた。

「お!あんちゃんもグループを作ったのか?名前はなんていうんだ?」

「名前は“一条ひとすじひかり”だ。作ったばかりだから、そんとき村にいたやつ以外に教えたのはおっちゃんが初めてだな。」

「そうか。まぁあんちゃんのグループならすぐに有名になるだろうよ。ほれ、特上まずは3本だ。」

おっちゃんが焼き上げた肉を受け取り、ガキどもに渡していく。

ポンポン焼きあがってくるものをガキどもに全て渡し、次にアリアたち、ロリコン、俺の順で、余ったのは全てイーラに渡した。

「さて、ここからはお前らの自由だ。まず、グループから抜けたいやつはいるか?いたら手をあげろ。」

全体を見渡すが、1人もいないみたいだ。

「じゃあ、住む場所を移動したいやつはいるか?一応、住民の把握はしたいからな。」

これもいないみたいだ。俺が聞いてるから手を上げづらいとかあったりするのか?

「あとは仕事か。冒険者として活動したいやつはいるか?」

おっ。これは5人いるじゃねぇか。

「わかった。アリア、今後の村での仕事の振り分けに関係するだろうから覚えておいてくれ。」

「…はい。」

「それじゃあこれで解散だ。その冒険者カードがあればどこでも自由に行けるから、これからは好きに生きてかまわない。ただ、村で仕事を続けるつもりのやつは仕事を疎かにするなよ。それと、せっかく町に来たから全員に小遣いをやる。並べ。」

肉串屋の前で並ばせたから、まるで肉串屋の行列みたいになっちまった。なんか目立ってるから早く終わらせねぇとな。

1人銀貨5枚ずつ渡して、裏通りには行かないように注意だけして送り出す。ガキどもの次はアリアたちにも銀貨5枚ずつ渡した。

「アリアたちは1人じゃ町から出れないからな。俺は日が暮れる頃に冒険者ギルドにいるようにするからそれまで自由時間だ。ただ、市場と冒険者ギルド以外に行くことは禁止だ。ちなみに帰りたいやつはいるか?」

帰りたいやつはいないみたいだな。

「それじゃあ、解散。」

さて、久しぶりに1人だし、何するか…まぁ正確にはフォーリンミリヤでも1人の時間はあったが、あの時はそれどころではなかったし、カリンが邪魔してきたしな。

ふと、闘技大会でセリナと戦った女を思い出した。

とりあえず、憩いの場にでも行くとするか。

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