裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
153話
村に戻ると、門の前にはセリナがいた。そして何故かロリコンも一緒にいた。
視界の隅でアリアが一瞬嫌そうな顔をしたのが見えたが、普段無表情のアリアにこの顔をさせるロリコンってすげぇな。
「お帰りにゃさい。」
「久しぶりだな!カンノ君。」
「あぁ。」
少し疲れ気味のセリナと無駄に元気なロリコンに片手を上げて答えた。
「というか来るの早すぎねぇか?4日後とかいってなかったか?」
「ん?以心伝心の加護で連絡を受けてから今日は4日後だと思うぞ?」
確かに連絡したのが4日前の夜ではあるが、早くても今日の夜、普通なら明日くらいだと思ってた。
…あそこでぶっ倒れてるドライガーを見るに、めちゃくちゃ急いで来たんだろうな。ヘタしたら俺らと入れ替わりくらいには着いていたのかもしれないが、セリナが危険人物と判断して中にいれなかった可能性もあるな。
「というよりよくここがわかったな。」
「グローリアで情報を集めてから来たからね。わからなければ一度アラフミナの王都に行って再度情報を集めようかと思っていたが、問題なく着けたよ。」
「そうか。立ち話もなんだから、俺は中に入るが、お前は明日来るか?」
「なんで!?俺は君と仲間の子たちとダンジョンに行くために急いで来たというのに入れてくれないのか!?」
俺の肩をガシッと掴んで必死な形相で迫ってきた。ガチ過ぎんだろ。
「いや、お前との契約は朝飯から晩飯までだろ?だが、今は既に昼前だ。だから明日からかと思ったんだが違うのか?」
「それじゃあ依頼内容の変更だ!確か明後日までダンジョンに行くんだったよな?なら今からその2日後までのダンジョン探索を一緒に行くのとこの村での宿泊、それで金貨25枚でどうだ?」
「急な依頼変更は困るな。どうしても変更したいというなら金貨30枚は欲しい。代わりにうちのガキどもが作る飯でいいなら朝と夜はタダで食わせてやる。」
昼は携行食だから自分で用意してなきゃ飯抜きだが、そしたら割高で売ってやるとしよう。
「むしろご褒美じゃないか!わかった、金貨30枚で交渉成立だ。やっと村に入れる!」
やっぱりこいつはけっこう金を持ってるんだな。というかなんでこいつはこんなに嬉しそうなんだ?たかが村じゃねぇか。しかも普通は村には好きに入れるものだと思うんだがな。
「おっと、興奮し過ぎて忘れてしまうところだった。初めまして、俺はカンツィア。二つ名は『歩く砲台』だ。お嬢さん方のお名前を教えてもらえるかい?」
ロリコンが俺の少し後ろを歩いていたガルナとガルネに自己紹介を始めた。
紳士然としているこいつはなんか気持ち悪いな。
ガルナとガルネは俺を通さず直接名前を聞かれ、答えていいのか迷っているようだ。
助けを求めるような視線を遠慮気味に送ってきた。
「自己紹介してやれ。」
「はい。ガルナです。」
「ガルネです。」
「ガルナちゃんとガルネちゃんか。2人とも可愛いな。」
また2人は助けを求めるような視線を送ってきた。まぁ気持ち悪いだろうな。
「お前は14歳までとか前にいってなかったか?ガルナは16歳だぞ?」
「なんだと!?成人しても俺の好みの見た目をしているなんて、これは運命の出会いではないのか!?……………いや、もしかしてドワーフかい?」
「…はい。」
絶望したような顔で質問してきたロリコンにガルナが恐る恐る答えた。
「なんということだ!」
ロリコンはうな垂れたが、リアクションが大げさ過ぎてけっこうウザいな。
「ドワーフはしばらくすると今度は横に成長してしまう…それでは俺は君を愛し続けられない。」
「…。」
なんと答えていいかわからないのだろう。ガルナは泣きそうな顔で俺を見てきた。
「黙れロリコン。俺の仲間を侮辱すんなら今回の依頼はなしだ。そして二度と俺に関わるな。」
「っ!?すまない!侮辱するつもりなんてないんだ。ただ、運命だと思ってしまっただけにショックが隠しきれなかっただけなんだ。」
隠しきれなかったって隠す気なかっただろ。
「一度目は見逃すが、同じことを俺の仲間や村人のガキどもにしたらその場で契約終了にするからな。だから先に金貨30枚よこせ。」
「わかった。気をつける。」
ロリコンは渋ることなく金貨30枚を渡してきた。
依頼って普通は達成してから払うものだと思うんだが、まぁくれるならもらっておこう。
「カンノ君。そういえば一つ謝らなければならないことがあるんだ。」
ロリコンを連れて今度こそ村の中に入ろうとしたら、神妙な顔つきで話しかけてきた。
「まだなんかあんのか?」
「実はグローリアでカンノ村のことを調べているところをジャンヌに見られた。だからもしかしたら…いや、高確率で来ると思う。すまない。」
ロリコンが頭を下げてきたが、どういうことだ?
「ジャンヌって誰だ?」
「あれ?前に会っていると聞いていたが勘違いか?二つ名は“戦乙女”っていうんだが、知らないか?」
ん?戦乙女って急にキレ出したヒステリック女だよな?
「なんであいつが高確率でここに来るっていうんだ?わざわざこんな遠くまで来るような仲じゃねぇし、恨まれるようなことした記憶も…なくはねぇが、追ってくるほどか?」
いや、あらためて考えたら、あんだけ人がいるところで下着姿にさせられたんだから復讐にきてもおかしくはねぇか。
「ジャンヌは君のことはあまり好いてはいないみたいだが、害を与えようとは考えていないと思うよ。むしろ噂を聞いて興味を持ったから来るんじゃないか?」
「噂?」
「子どもの奴隷がたくさんいる村とか奴隷の避難所とかいった噂を俺は聞いたね。」
確かに子どもの奴隷はたくさんいるが、村であって避難所ではねぇな。
「まぁ復讐というか、害がねぇならべつにかまわねぇ。というか、お前ってあいつと仲いいんだな?」
べつにそこまで興味があるわけではないが、あの女は潔癖そうだったのにこんな変態とつるむんだなって思ってなんとなしに聞いてしまった。
「仲良くはない。だが、共通の趣味というか話題というか…好きなものが近いからたまに話すことがあるくらいだな。」
なんか嫌な予感がするんだが…。
「聞きたくない気もするが、その共通の話題ってのはなんだ?」
「ジャンヌも子どもが好きなんだ。まぁあいつの場合、子どもというより純粋な心を持ってる者や可愛い者が好きという感じだから、俺の好みとは少し違うんだがな。あいつの方が範囲が広い。」
…。
「もしかして既に向かってきてんのか?」
「ジャンヌかい?だとしたらしばらくは来れないと思うぞ。俺が情報を集めてるときにあいつらはちょうどギルドのクエストに向かっているところだったみたいだからな。ただ、来れないことをかなり悔しそうにしてたのと、仲間に情報を集めるように指示していたから、あいつの性格からして高確率でここに来るだろうと思ったんだ。そのとき君に対して勘違いの恨みを持っていたようだったから、その誤解は解いておいたよ。だから害を加えては来ないと思う。」
ただアリアたちに会いたいだけか。俺の仲間が純粋かは疑問があるが、見た目的には悪くないからな。すぐに来るわけでもなく、害があるわけでもないなら今考えることではないな。戦争が終わってから考えればいい。
「とりあえず中に入るぞ。昼飯前にガルナとガルネに少しでも訓練させたいからな。」
「あぁ!早く入ろう!」
ずいぶん興奮してやがるな。今さっきは普通だったのにガキどもが関わると元気になるとか…まぁいい。
門を開けて中に入るとガキどもが戦闘訓練…主に武器を使う練習をしていた。
今日はアリアを連れていっちまったから、サラがメインで指示を出してるんだったか?
イーラは実戦訓練させる相手として使われてるみたいだ。物理が効かないから遠慮がいらないしな。
イーラだけでは的が足りないから、丸太に何かを巻いたものも数本立てられている。
まだ建物が2つと複数のテントしかないから場所はかなり余ってるからな。
他のやつらは分かれて教えてやってるみたいだ。
ちなみに薬屋の女は俺らの朝食が終わる頃に村に来て、晩飯を食ってから帰っている。だから初日からずっとガキどもと同じようなメニューをこなしている。もしかして最後までやる気か?
まぁべつに俺に負担があるわけじゃないからいいんだけどさ。
「おおおおおおおおおっ!!!!」
隣でロリコンがいきなり吠えだした。
マジでうるせぇ。
「なんなんだここは!噂以上じゃないか!ここは楽園なのか!?」
「うるせぇよ。」
「すまない!だが、この光景を見て、興奮せずにいられるわけがないだろ?」
「お前基準で話すなよ。普通はガキを見たって興奮しねぇから。」
「重ねてすまない…。それで、俺は何をすればいい?」
べつに何もしなくていいんだが、せっかくSランクのやつがいるんなら使わない手はないか。
「アリア。こいつに何かやってほしいことはあるか?」
「…とくにないと思います。」
基本無表情のアリアだが、言葉がいつも以上に冷たい気がする。わりと本気で嫌ってるのか?
ロリコンが少しショックを受けたような顔になった。
「こいつはソロでSランクになったやつだから、俺より強いし、役に立つと思うから、好きに使ってくれ。というか役立てろ。あと、ガルナとガルネの訓練を頼む。必要な武器はよっぽど珍しいものじゃなきゃ一通り持ってるから後でいってくれ。俺はドライアドたちに印をつけてくるから、ソフィアを呼んできてくれ。」
「俺はもう少しカンノ君と話してから行くから、先にいっててくれ。」
さっきまで興奮していたロリコンが普通の対応をしていた。感情の起伏が激しいやつだな。
「…わかりました。」
アリアはガルナとガルネを連れてガキどもの方に歩いていった。
「カンノ君。あの子たちはみんな君の奴隷なのか?」
アリアたちがガキどものところに着いたのを確認してから、ロリコンが話しだした。
「1人余計なのがいるが、そいつ以外は今は全員奴隷だな。」
「今はっていうのは?」
「クローノストから連れてきたガキどもは村人予定だからな。戦闘訓練もろもろが終わったら奴隷から解放するつもりだ。」
「なぜだい?奴隷でいさせた方が楽じゃないのか?」
「約束だからな。それに村人がいない村とか寂しすぎんだろ。」
「そもそもどうして戦闘訓練なんかさせるんだ?」
さっきから質問うぜぇな。
まぁ今は依頼主だし、このくらいは世間話として受け入れるか。
「この世界はどこにでも魔物がいるんだから、自分の身を護れる程度の力はつけておくべきだろ?あいつらは親がいない。だから一応保護者の俺が生きるための土台を作ってやるのは当たり前だろ。まぁ正確には保護者じゃねぇけど、拾ってきたのは俺だからな。最低限の教育はしてやるべきじゃねぇか。」
「ほぉ。君は変わっているな。いや、正しいのだが、だからこそ変わっているというべきか。」
「何いってんだ?」
「いや、素直に凄いと思っただけだよ。…さて、それじゃあ俺も一肌脱ぐとしようかな。」
ロリコンは爽やかな笑顔でガキどもの方に歩いていった。
普通にしてればけっこうかっこいいし、性格もいいヤツなんだろうにな。
まぁロリコンは脳の病気みたいなもんだから仕方ねぇか。
しかもロリコンであることが雰囲気でバレているのか、こっちに向かってきていたソフィアがロリコンとすれ違うさいにけっこう距離をあけて避けるように進んできてた。
ちょっと哀れだな。
「お帰りなさいませ、リキ様。」
「あぁ。それで、アリアから聞いたかもしれないが、これからドライアドたちにグループの印を付けに行く。必要な者があったら持ってこい。」
「既に準備はしてありますわ。先ほどアリアさんとガルナさんとガルネにも付けましたので、あとはリキ様とドライアドやトレントたちだけですわ。」
ずいぶん仕事が早いな。
「じゃあ俺にも付けてもらうか。」
一応俺がグループのリーダーだろうに俺がグループマークをつけなかったらおかしいからな。
「かしこまりました。それではそのチェインメイルの背中に大きく付けてもいいでしょうか?」
まぁ目立つ方が早く広まるだろうし、その方がいいか。
「あぁ。」
ソフィアに背中を向けると、許可を得たソフィアが俺の背中に何かをし始めた。
「終わりましたわ。確認よろしくお願いいたします。」
し始めたと思ったらもう終わったらしい。
こんな簡単にあのクオリティのマークが描けるのか?
念のためチェインメイルを脱いで、それを目の前で広げて確認してみると、アリアが見せてきたのと同じマークが描かれていた。
これをあんな一瞬で凄えな。魔法か?さすがファンタジー。
ただ、これだと俺も一瞬奴隷に見えないか?
いや、服の上にマークがあるから勘違いされることはねぇか。
「じゃあこの作業を外にいるドライアドたち全員に頼む。」
「かしこまりました。」
さっき俺のチェインメイルにマークを入れさせたときに一瞬で終わったから、ドライアドたちに魔術紋を刻むことは大した作業ではないと思っていた。
だが、けっきょく終わって戻ったときにはアリアたち全員が食堂で俺らの帰りを待っていた。
たぶん昼飯の予定時刻を1時間くらい過ぎてただろうな。ガキどもの数人からは腹の虫が鳴ってるし。
なんでこんなに時間がかかったかというと、ドライアドたちが一ヶ所にいなかったからだ。
最初の畑に行ったときには元リーダーのドライアドがいて、残りのやつらの居場所を聞いたら5ヶ所に散ってやがった。
つまり、畑の数が俺が知らないうちにもともとあった畑を合わせると6ヶ所に増えていやがった。
まぁちゃんと面倒見てくれんなら多いに越したことはないのだが、山の中を歩きまわらされたから疲れたし、時間がかかった。
俺1人なら走れば時間はかからなかったかもしれないが、どうせ余計に疲れることになっただろうし、ソフィアの体力に合わせて正解だっただろう。
そんなこともあったが、無事にドライアドたち全員にグループマークを刻めた。
ただ、ドライアドたちはほとんど服を着てないのにどこに描くのかと思ったら、もともとある使い魔紋の上にクロスしたガントレットを書くだけだった。
奴隷紋と使い魔紋は似ているが違う。だからグループマークが偽物だと思われちまうんじゃねぇのかと思ったが、これでいいということだった。どうやらアリアたちで話し合って決めたことらしい。
任せたのに後から文句をいいたくはないから、それ以上は何もいわなかった。
ソフィアは奴隷紋の上にクロスしたガントレットを描き、さらに普段着ている防具の肩部分にもグループマークを付けているみたいだ。
ガキどもはこの訓練が終わったら奴隷紋を消すから、服の上だけだったり、二の腕に刻んでるやつもいるんだとか。
ソフィアがいれば自由に描いたり消したり出来るからこそかもな。
「悪い。待たせた。一応飯の前にいっておくが、今日から1人加わる。名前はカン……。二つ名は確か歩く砲台だ。こいつは不審者だが、変なことはしてこないから心配すんな。あと、俺より強いから、今後冒険者になりたいとか強くなりたいって思ってるやつはいろいろ話を聞いてみるといいかもな。明後日まではいるそうだ。」
「…カンツィアさんです。」
アリアが小声で何かをいってきた。
…あぁ、ロリコンの名前か。
「こいつの名前はカンツィアだ。それじゃあ、俺のせいで冷めちまったかもしれねぇが昼飯にしよう。いただきます。」
「いただきます。」
カンツィア以外の全員の声が重なり、いい終わるとすぐに食器のぶつかる音が鳴り始めた。
さて、俺もさっさと食べて、またダンジョンだな。
今日こそ強い魔物が出てきてくれりゃあいいんだけどな。
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