裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

145話



思いの外早く王城での話が終わったため、俺は今、北門の前にいる。
帰るときには以心伝心の加護で呼ぶから、それまでは自由に過ごすようにとアリアにはいってあり、終わるのは日が暮れる頃だと伝えてある。

もちろん遅くても夕方には終わるだろうと思っていたが、理由があってアリアには日が暮れる頃だと伝えた。そうでもしなければまだ夕方にも満たない今頃に北門で待っている可能性があったからだ。

「セリナ!!!」

北門にいる人々が一斉に俺を見た。

急に1人で大声を出したら変な目で見られるのは当たり前だな。今さらながら恥ずかしくなってきた。
だが、これ以外にセリナだけを呼び出す方法が思い浮かばなかったのだから仕方がない。

今セリナがどこにいるかはわからないし、アリアたちが3人一緒なのかバラバラなのかもわからない。それでもセリナならこの声を聞いて1人で来るだろうという、変な信頼があった。

そしてセリナはちゃんと俺の信頼に応えてくれたみたいだ。むしろ期待以上だ。

セリナが俺の視界に入ってからはずっと見ていたのだが、物凄い速さで人をかき分けて俺のもとまで来た。
俺が呼んでから5分も経ってねぇんじゃねぇか?

「どうしたの?」

セリナは俺の前にちょこんと立って、小首を傾げて聞いてきた。

「ちょっとセリナにだけ用があってな。他の2人は?」

「にゃはっ、私だけ!2人は置いて来た!」

何が嬉しいのか、セリナはニコニコしている。
まぁ置いて来たってことは一緒にいたのか。ヘタにセリナを探して無駄な時間を使わせたら悪いから連絡しようかと思ったが、なんとなく今は知られたくない。
俺がいなきゃアリアとイーラはこの町から出れないとわかってはいてもな。

「それはいい判断だ。じゃあ一度村に帰るぞ。」

「え?にゃんで?」

「前に約束してた本気の戦闘訓練と説教を一度にするため、つまり殺し合いをするためだ。」

「…え?」

理由を聞いてきた時とほぼ同じ顔のまま固まり、かろうじて疑問を表す気の抜けたような一言が発せられた。
顔は同じなのに顔色は全く違って真っ青だがな。

「時間がないから行くぞ。これは命令だ。」

俺の命令という言葉にピクリと反応したセリナは、村に向かう俺の後について歩き始めた。




村に着くと、門の前には変わらずサーシャが立っていた。

「リキ様とセリナだけかの?」

「ちょっとやることがあってな。以心伝心の加護でサラを呼んでくれないか?」

「ん?我はMPがないから以心伝心の加護は使えんよ?だが、サラを呼べば良いのだな?ならこれで呼ぶからしばしお待ちを。」

そういってサーシャはコウモリのようなものを村の中に飛ばした。
そんなことよりも今さらっと凄いことをいわなかったか?MPがない?

…いわれてみればサーシャにはMPゲージがなかったな。

使い魔にしたときに確認したのは表示されていたものだけだったから、MPがないとか疑問にすら思わなかった。だが、いわれると確かにない。…どういうことだ?

「なんでサーシャはMPがねぇんだ?」

「それは我が魔族だからだが?」

は?だってイーラはMPゲージがちゃんとあったぞ?しかも尋常じゃない量で。

念のためヒトミも確認してみるが、MPゲージがなかった。どういうことだ?

「確かにヒトミもないけど、イーラはあるぞ?」

「イーラは同族でも稀有な存在よ。例外を除いて普通は魔族がMPを得る手段そのものがないのだが、イーラは“人間”を“捕食”したからMPを得た。それだけのことだが、そもそも捕食のスキル持ちなどスライムくらいしか我は知らん。しかし、スライムが人間を捕食するほどの力を得ること自体が普通はないからのう。だからイーラは稀有な存在というわけなのだ。」

そういわれると、イーラにMPゲージがあったのはカルナコックを捕食した後だった気がするが、その前にもあったような気がしなくもない…正直よく覚えてねぇ。…いや、カルナコックの前にもイーラは人を捕食してるじゃねぇか。正確には人の一部を。俺の髪の毛を。
MPというのがどこを捕食すれば得られるのかは知らねえが、可能性としてはなくはないのか?いや、さすがに髪の毛だけじゃありえないとは思うが…まぁいつからなんてのはどうでもいいか。

というかイーラが尋常じゃないほどのMPを持ってる理由がわかったよ。イーラはカルナコックの後にも魔術組合のやつらを捕食してるし、100%の吸収率でなくとも相当なMPが手に入るだろうな。

そして、魔族は普通はMPを持ってないわけか。

だから魔族は普通は魔法を使えない。


今後イーラに人前で魔法を使わせるのは危険か?逆に魔法が使えるから人間だと周りが勝手に勘違いしてくれるか?
この辺りは後でアリアと相談だな。


サーシャとの話にひと段落ついたとき、村の門が開けられた。
門の隙間から現れたのはサラだった。

「リキ様、お帰りなさいなのです。」

「ただいま。早速で悪いが確認したい。村の中には誰かいるか?」

質問の意図がわからなかったのか、サラは小首を傾げた。だが、ちゃんと俺の質問には答えた。

「ソフィアさんしかいないのです。」

「そうか。なら重ねて悪いが、サーシャと少しの間だけ門番を代わってくれ。そして、ガキどもが帰ってきても俺が門から出てくるまではよっぽどの危険や緊急の何かがないかぎりは誰も村に入れるな。中を覗くことも禁じる。これは命令だ。わかったか?」

「了解なのです。」

ソフィアは部屋から出てこないだろうし、サラは俺の命令に背くことはないだろう。
これで俺の醜態を見られる心配はほぼないはずだ。

「サーシャも来い。」

「はい。」

サラが開けた門の隙間から俺とセリナとサーシャは村に入り、門を閉じた。

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