裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

142話



飯を食べ終わったやつが出始めた頃から徐々にうるさくなり始めた。
どうやら早く食べ終わっても全員が食べ終わるまでは食堂からは出ないようなルールでもあるっぽいな。もしくはそういう空気をガキどもが読んでるのか?

食器の合わさる音が減るにつれてガキどもが喋る声が増えている。そのおかげか食べるのが遅いやつも焦らなくてすんでるみたいで、悪くない。

しばらくして、全員が食べ終わったようで、サラが手を2度叩くと静まり返った。

ガキなのに統率され過ぎててちょっと怖いな。

全員が俺を見てるから終わりの言葉を待ってるんだろう。

「ごちそうさまでした。」

「ごちそうさまでした!」

俺の食後の挨拶に全員がハモって返してきた。なんか小学校を思い出すな。

食器類は食事係っぽいやつらが回収するみたいだ。食事係っぽいやつら以外のやつらは午後の仕事に向かうようだ。
2組になってるようで付き添いはカレンとアオイとヒトミ、テンコとウサギの組み合わせみたいだな。まぁこいつらがいればよっぽど強い魔物がでない限りは大丈夫だろ。

第三王子が来るまで暇だし、俺は森の中の探索でもしてみるかな。





アリアの案内でとりあえず森の中にあったとかいうダンジョンを見てみることにした。

付き添いはアリアとイーラとセリナだ。

他にも一緒に来たがったやつらはいたが、それぞれが仕事を振り分けられているらしく、自由に動けるのがこの3人だったというだけだ。でもこの3人がいればダンジョンの下見には十分だろ。



村の門を出るとサーシャが門の横に突っ立ってた。

「何してるんだ?」

「我は門番が仕事らしいぞ。あとは眷族を飛ばしての周囲の警戒じゃ。」

自分の仕事なのに“らしい”って…。

「まぁ頑張れ。」

「もちろんじゃ。」




「…本当は日が暮れた後がサーシャの担当なのですが、念のため今日1日は日中担当のセリナさんを予定から外しているため日中もサーシャに頼んであります。」

サーシャにてきとうに別れを告げ、ダンジョンに向かって歩き始めたところでアリアが補足説明をしてくれた。

たかが村に門番が必要なのか微妙だが、まぁあって問題はないか。

日が出てる間がセリナで日が暮れたらサーシャか。2人とも広範囲の把握ができるし戦闘も強いから、確かにいい人選だ。だが、それだと休みがなくないか?それにずっと突っ立ってるのもな…。

「まずはガキどもの家が先だが、門のとこにも休める空間を建てたいな。まぁそれはおいおい頼むとして…。アリア。全員の仕事を持ち回りにして5日働いたら1日くらいは休めるように出来ないか?」

「…休みですか?」

アリアがキョトンと首を傾げて確認してきた。
…俺はおかしなことをいったか?

「あぁ、毎日働くのはさすがに辛いだろ?」

「…いえ、そんなことはないです。衣食住を提供していただいているのだから、毎日働くのは当たり前かと。むしろこれだけの高待遇を受けていながら体力的都合により半日の仕事しかしていないのが申し訳ないくらいです。」

なにこの社畜精神は…。いや、アリアは産まれながらに奴隷だから仕方がないといえば仕方がないのか。

「その気持ちは嬉しいが、適度に休みを取ることはなにも悪いことじゃない。むしろ自由な時間があった方が仕事効率も上がるらしいぞ。それに空いてるやつがいた方が俺が何かしたいときに頼みやすいしな。」

「…調整してみます。」

「決まってから口出しして悪いがよろしくな。」

「…いえ、ご厚意ありがとうございます。」



アリアとの話を終えてから少しした頃、ダンジョンに到着した。けっこう村から近いんだな。

確かにこれはわかりづらいな。

山だから急な斜面になってるのはおかしくないからダンジョンの盛り上がりに違和感がないうえに入り口が岩場に隠れているせいで近くを通ったくらいじゃ見えない。
俺の観察眼はこれに違和感を抱いたが、普通はわからないだろう。現に俺自身がなんかおかしいと思いながらも何がおかしいのかはアリアの案内で近づいて岩場の裏に回り込んで斜面との隙間から入り口を見るまでわからなかったしな。

「こんなのよく見つけたな。」

「…アオイさんが不自然な場所があると感じたようで、近づいたらダンジョンだったそうです。」

あぁ、目が見えないからこそわかる的なやつか。いや、五感全てが機能してないのに把握できてるアオイが凄すぎるだけか。ん?触覚や聴覚は機能してるのか?…いや、今はどうでもいいな。



ここからはとくに案内が必要ないから、俺がガントレットをはめて先頭を歩いて先に進んだ。

地上1階と地下1階は全滅させたばかりだからか1体も魔物がいなかった。
マップを埋めたらそのままどんどん下へと降りていく。

出会う魔物だけを倒して進んでいるが、地下5階でこの弱さなら特に問題なさそうだな。

とりあえず第三王子が来るか、支援なしの一撃では倒せなくなるくらいまで進んだら帰るとするかな。



「…ルモーディア第三王子様が来られたようです。現在サラが対応しています。」

ちょうど、地下10階でボス部屋を見つけた時にサラからアリアに連絡がきたようだ。

「ここまできたらボスを倒しておきたいから、第三王子はてきとうな理由をつけて待たせておけ。」

ここまでの魔物が弱すぎてつまらなかったから、ボスで憂さ晴らしがしたいからな。
それに夕方来るとかいっといて早くに来た第三王子が悪い。

「…はい。」




アリアがサラに連絡をし終えるのを待ち、ボス部屋に入った。

中には灰色のライオンがいた。
見た目はまんまライオンなのに目が緑で、顔を覆う毛が黒。そのほかの体毛は全て灰色で、尻尾が3本ある。

ライオンは嫌いじゃないが、こいつはちょっと気持ち悪いな。

よく見ると体毛じゃなくて鱗か?

そんなことを考えていたら、ライオンは一度屈んで、突然飛びかかってきた。
予備動作はあったが、100メートルくらいの距離をひとっ飛びでくるってのはかなりの跳躍力だな。
だが、この距離の跳躍は愚策だ。空中じゃ避けれないからな。

魔物の軌道からズレて殴る構えを取って会心の一撃を発動すると、魔物の軌道がかわった。
俺の見間違いじゃなきゃ、こいつ今空中を蹴ったぞ?

まぁ驚きはしたがそれだけだ。べつに真正面からでも殴れるしな。

襲いかかって来た魔物の鼻っ面を殴ると弾けて抉れてグロい光景が広がった。

俺のパンチに耐えるほどの肉体が魔物にあってくれれば吹っ飛んでくれたのかもしれないが、脆くも崩れたせいで慣性の法則が働いて、俺にぶつかって崩れながらも突き進んで来やがった。

ようは俺が魔物の緑色の体液塗れになったってやつだ。

さすがに相手の体内を突き進むような体液の浴び方だと血避けの加護も効果がないんだな。もしくはこいつの体液が例外なのか。

とにかく気分最悪だ。

「イーラ。綺麗にしろ。」

確かイーラは水を蓄えてたはずだ。ずぶ濡れになるのは嫌だが、この体液と比べれば何倍もマシだからな。

「は〜い。」

元気よく返事をしたイーラは何を考えたのか俺に抱きついてきやがった。そしてそのまま俺を飲み込むように覆った。
俺を食う気か!?
いくらイーラがバカだからって俺と魔物を間違えてんのか?それともどさくさ紛れに殺す気か!?

まさかの裏切りかと一瞬考えたところで、イーラが俺を解放した。
どうやら俺についた魔物の体液を綺麗に取ってくれたみたいだ。疑ってすまん。

その後飛び散った肉片をイーラが食べ尽くした。

「…帰るか。」

憂さ晴らしのつもりが余計に精神的疲労が溜まった気がするな…。

「「「はい。」」」

解放された下り階段を下りてからリスタートで地上1階へと戻り、第三王子が待っている村へと帰った。

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