裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
135話
どうやらカバみたいな魔物が巣食っていたせいで魔物が森から出てきていた可能性が高いそうだ。
それだけ強力な魔物だったらしい。
まぁそこそこ強い魔物だろうとは思ったが、超級魔法で一撃で倒してしまったから、実際の強さは全くわからなかったがな。
今回は依頼達成報酬と追加報酬合わせて金貨2枚だそうだ。
ぶっちゃけ俺1人の功績だけど、依頼を受けたのはカリンのパーティーだし、俺はパーティーメンバーじゃない。だから今回の報酬も断った。
別に今は金に困ってねぇからな。
それにカリンとラスケルはまず準備するための資金がなけりゃこの先冒険者を続けるのが困難になるだろうから、餞別みたいなもんだ。
代わりにこの魔物は全部もらうけどな。
それにしても、冒険者ギルドに来るまでの間、ほとんどのやつらに訝しむような目を向けられたな。
まぁ原因は十中八九この魔物だったろうが、途中で捨てるわけにもいかないし、だからといってアイテムボックスには入らなかったのだから仕方ないと諦めて冒険者ギルドまできた。
それで今は報酬の受け取りとかが終わって、ロビーで4人席に腰掛け、俺の対面がカリン、カリンの隣にラスケルが座って飯を食いながら今後のアドバイスのようなものを2人にしている。
「…だから、薬類は一通り常備しておけ。今回は俺がいたから晒し者にされるだけで済んだが、お前らだけだったら魔物の餌になってたぞ。」
そもそも俺がいなきゃ今回は麻痺になってないだろうけどな。
「「はい。」」
「あとは最初のうちは準備に金を使うことに躊躇するな。いい防具や薬類を買って損になることはあまりないが、それらを買い渋って死んだら馬鹿みたいだからな。」
「「はい。」」
戦闘方法なんかは組んでればおいおい身についていくから、いう必要もねぇだろう。
「そういや、貸してたロッドはそろそろ返せ。」
「え?」
危なく回収を忘れるところだったが、ふと思い出してカリンに返せと手を出すと驚かれた。
最初にハッキリと「貸す」っていったはずなんだが、もらった気でいやがったのか?
俺が眉根を寄せると、渋々といった感じで返してきた。
いや、その対応はおかしいぞ?
まぁやっと使い慣れてきた武器を回収されたくない気持ちはわからなくないが、加護付きの武器をやるほどの優しさは持ち合わせてねぇんだわ。
「今回の報酬で金貨1枚手に入ったんだから、それで新しい武器を買えばいいだろ。」
「それなんですが、本当にカンノさんは報酬はいらないのですか?」
カリンが恐る恐る聞いてきた。
「しつけぇな。まだ冒険者として生きていくための準備すらでき終わってないやつから金を取るほど、今は金に困っちゃいねぇんだよ。」
「カンノさんって何ランクなんですか?」
今度はラスケルからの質問だ。
そういやラスケルにはいってなかったな。
「俺もお前らと同じFランクだ。それがどうした?」
「それだけの実力があるのになんでランクを上げないんですか!?それにFランクなのにそんなに稼ぎがあるんですか?」
「んなこといわれてもなぁ…俺は身分証が欲しいから冒険者になっただけで、ランクなんてどうでもいいんだ。ギルドの依頼は一度も受けたことねぇしな。金に関しては冒険してりゃそれなりにチャンスがあるから、取れるところから取ってるだけだ。」
曖昧にボカした返事を理解できなかったのか、ラスケルは小首を傾げている。
そこでふと気になったのか、また質問してきた。
「一度も依頼を受けたことがないんですか!?」
「ギルドからのはな。直接依頼されたことは数回あったけど。」
どれも第三王女絡みだけどな。
「逆に凄いですよ!Fランク冒険者なのに直接依頼されるなんて普通はありません!もしかして闘技大会なとで上位入賞したことがあるんですか?」
「いや、たまたま金持ちの変人に目をつけられただけだ。べつに目立ったことをしたつもりはねぇし、そもそも依頼して欲しいなんて思ってもいねぇんだがな。」
第三王女は俺らの実力を過信してやがるから、厄介ごとばっか持ってくるからな。
ダンジョン攻略、ゴブリンキング討伐、邪龍討伐、魔王討伐…本当にふざけた依頼だよ。
ダンジョン攻略は俺らはオマケみたいなもんだったからまぁいい。ゴブリンキング討伐は下見中に遭遇してしまったから俺らの運が悪かったと割り切ることが出来なくもない。だが邪龍は違う。あれは本気で死にかけた…ってあれ?そういや俺が死にかけたのは魔術組合のせいだったか?いや、でも異常に強かったのは確かだし、間違いなく俺らに見合った依頼ではなかった。魔王討伐だって魔王自体は雑魚だったが、イーラがいなきゃさらに村一つ消えてたから、後味の悪い仕事になるとこだったしな。
そう考えたら、第三王女は疫病神なんじゃねぇか?
結果だけ見るといい金づるに見えなくないから不思議だがな。
「それはベルのこと?」
いきなり横から声がして振り向くと、ツギハギだらけの人形をかかえた女の子が座っていた。
当たり前のように隣に座っているが、いつの間に座ったのか俺は気づけなかった。
対面に座っているカリンとラスケルも驚いているから気づいてなかったのだろう。
よっぽど影が薄いのかそこまで完璧に気配を消せるのか…前者は常識的にありえないと思うが、後者なら危険な存在ではないか?
見た目はアリアくらいだろう。
袖が緩めのゴスロリっぽい服を着ていて手が袖に隠れているが、暗器を隠しているといわれても納得いく雰囲気を纏っている。
なによりこいつの目が歪だ。
全体的に整った顔をしているから余計にそう感じてしまうのかもしれないが、こいつの目は空っぽだ。どこまでも空っぽなのではと、気づいたときには視線が吸い寄せられる不思議な感覚。
いや、俺は何をいってんだ?
目に空っぽやら満たされてるやら、深いも浅いもないだろ。でもそんな風に感じさせる時点でこいつは危険なんじゃないか?
この歳で1人で冒険者ギルドに来てるってことはたぶん冒険者だろ。
それで、気配が消せてありえない感覚を抱かせる存在…。
関わらぬが吉という感じだな。
俺はゴスロリ少女からカリンとラスケルに視線を戻した。
「だけどお前らは俺と違って冒険者として生きてくつもりなんだろ?だったらまずは準備を整えて魔物を狩ってレベルを上げて、その報酬のお金でまた新しい武器防具を買ってを繰り返して、余裕が出来るまでは親切に甘えておけ。んで、本当に感謝してるなら余裕が出来たら恩返しすりゃいい。」
カリンとラスケルは俺があからさまにゴスロリ少女を無視してることが気になるのか、チラチラとゴスロリ少女を見ている。
その見られてるゴスロリ少女は無視されてるのが不服なのか、俺の脇腹を何度もパンチしてくる。
腕力がないのか、ダメージを与えるつもりがないだけなのかはわからないけど、全く痛くないから無視していたが鬱陶しいな。
「んだよ?」
仕方なく反応すると、なぜかゴスロリ少女は笑った。
目が普通なら違和感のない満面の笑みに見えるんだろうが…。
「見えてないのかと思った。ふふっ。良かった。」
何がそんなに嬉しいんだ?
「用がないなら邪魔だからどっか行ってくれ。」
「お話ししよ?ベルがリキが気になるっていってた。」
呼び捨てかよ。
…………………ってかなんで俺の名前を知ってる?
「お前と会ったことあったか?」
「ないよ?でもベルが気になるっていってたから知ってる。少女使いのリキと支援タイプの人族奴隷のアリアローゼと近接タイプの獣人族奴隷のセリナアイルでしょ?」
ん?どういう意味だ?
…あぁ、確かに武器と見た目で判断したら、今いるのは支援タイプで人族のカリンと近接タイプで獣人族のラスケルだな。
だがラスケルは男だ。
話に聞いてるだけで実物は知らないってやつか。
「こいつらは俺の奴隷じゃねぇよ。ちょっとした暇つぶしで一緒にいただけだ。」
「そうなの?じゃあ奴隷たちは?」
「今は別行動中だ。」
まぁ嘘ではないだろ。
「ふーん。じゃあベルとマナとダンジョンで遊ぼ?」
マナってのはこいつの名前か?
「いや、俺は今日はもう寝るし、明日は帰るから無理だ。」
というか知らないやつとダンジョンなんか行く気ねぇよ。
「ぶー。ベルがマナが頼めば遊んでもらえるっていってたのに。」
だからさっきからいってるベルって誰だ?
こいつが抱えてる人形か?
「可愛い?」
俺が人形をガン見していたからか、ゴスロリ少女が人形を顔の高さに上げて見せつけてきた。
「いや、普通にキモいだろ。」
「キモい?わからない。可愛いでしょ?」
…これは可愛いっていうまで終わらないパターンか?
まぁ相手は子どもだ。適当にあしらって帰ればいいか。
「あぁ、可愛い可愛い。」
「じゃああげる。」
「え?」
マジでいらねぇんだが。
「我与える。我が御霊より分かれし力により意味ある個と成り給え。」
『ソウルシェア』
「ちゃんと大事に持ち歩いてね。」
魔法だかおまじないだかを人形にかけてから無理やり押しつけてきた。
断る方が面倒そうだな。
まぁアイテムボックスに入れときゃいいか。
仕方なくゴスロリ少女からキモい人形を受け取り、アイテムボックスにしまおうとしたら、入らねぇ…。
だが、もう返却は受け付けない感じだし、さすがに捨てるのは悪いよな…しゃーない、腰のベルトから吊るしておくか。
腰のベルトに紐を通して人形を結ぶと首吊りに見えたから、位置を変えて吊るすのではなく固定した。
武器と一緒に人形があるとシュールだな。
もう精神的に疲れたから、宿屋に帰るか。
「カリンとラスケルには悪いが、俺は疲れたから帰る。お前らは好きにしてくれ。」
「「ありがとうございました!」」
なんかいつも以上に改まった感じがするけど、気のせいか?
まぁ飯は食い終わったし金は前払いだから先に帰って問題ないだろ。
「もっとお話ししよ?もうすぐベルも来るよ?」
ゴスロリ少女が俺の服の裾を掴んで引っ張ってきた。
というかベルってこの人形の名前じゃねぇの?
もう会うこともないだろうし、どうでもいいか。
ゴスロリ少女の頭をガシガシと適当に撫でると、その手を制止させようとしてゴスロリ少女が服から手を離したからその隙に距離を取った。
「また機会があったらな。」
そういって手をひらひらと降って、俺は魔物の死体を引きずりながらギルドの出入り口に向かって歩き始めた。
最後にチラッと見えたゴスロリ少女が頭を抑えて名残惜しそうな顔をしてるように見えたが、気のせいだよな?
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