裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

133話



昨日のゴブリン狩りでの報酬は銀貨50枚だった。
もちろん依頼達成の報酬だから全てカリンのものだ。

カリンが半分は俺のだと主張したが、俺は断った。

もともと1回目は無償で引き受けるつもりだったし、カリンは自力で15体以上のゴブリンを倒してるのだから、依頼達成の報酬は全てカリンのものであるべきだろう。

俺が納得いってないのはそこじゃない。

俺が死にかけながらも初めて倒した魔物の素材は珍しいとまでいわれたのに銀貨27枚だった。にもかかわらず、ゴブリン26体で銀貨50枚だと?
あんな殴れば弾けるような雑魚で?

いや、まぁ俺のは依頼ではなかったから、比べるのがおかしい話ではあるんだが、なんか納得いかなかった。

でも魔族の討伐込みで銀貨50枚と考えたらむしろ安すぎるくらいか?
まぁ魔族を殺したのは俺だけど。

そんなモヤモヤした気持ちで寝て起きたら、どうでもよくなっていた。

それ以上に今朝のイーラからの報告でテンションはやや上がり気味だ。

以心伝心で起こされた時はイラっときたが、どうやらフォーリンミリヤの場所がわかったらしく、俺が今いる町のことを伝えたら明日の夕方までには来れるだろうとのことだった。

さすがアリアとイーラだな。

すると丸一日自由にできるのは今日だけだし、この町の探索でもしてみるかなと思って宿を出たのが間違いだった。

宿の外でカリンが待ち伏せしてやがった。

「おはようございます!カンノさん!」

「なんでお前がここにいる?」

「今日もカンノさんと冒険がしたくて、お待ちしてました!」

なぜかはわからんがこいつの笑顔が心に染みていたたまれなくなる。

「俺はそんな約束はしていないと思うが?」

昨日はゴブリンを討伐後はまっすぐ冒険者ギルドに行って、報酬をもらってからロビーで一緒に飯を食いながらちょっとした反省会をして、それぞれ帰っただけのはずだ。

また一緒にクエストに行く話どころか「また明日」とすらいった記憶はない。

「はい。約束をしていなかったので、お誘いに来ました!」

「そうか。なら他を当たれ。」

「一緒にクエストに行きましょう!」

こいつは俺の話を聞かないつもりか?

「俺は明日には帰ることになったから、今日はこの町をぶらぶらするつもりだ。邪魔するな。」

「え?もう帰っちゃうんですか!?明日は闘技大会にお誘いしようと思っていたのに…。」

こいつは俺の予定を勝手に決めてやがったのか。いや、誘うつもりってことは断られる可能性も視野にはいれてたんだろうから、俺が断ればいいだけだな。

「お前の計画など知らん。俺は町をぶらぶらする。お前は他の仲間を探して冒険でもしてろ。」

「でも闘技大会は見るだけでも有意義ですし、もしカンノさんが闘技大会に参加するとしたら、いい成績が残せると思ったのですが…。」

なんだろう。この微妙に話が噛み合ってない感じは…。

「仮にその闘技大会とやらでいい成績を残したとして、二度とこの国に来ないかもしれない俺になんの得がある?」

「3位以内であれば賞金がでます。確か優勝は金貨20枚だった気がします。3位でも金貨1枚もらえます。それに貴族の方に気に入ってもらえれば護衛や私兵として雇ってもらえる場合もあるそうですよ?」

貴族に雇ってもらうことにはなんの魅力も感じないが、金貨20枚はちょっと惹かれるな。
それにアリアたちが来るのは夕方だから、時間によっては参加できなくもないか?
まぁ自分の実力がどの程度か気になってもいたしな。ちょうどいいっちゃちょうどいいか。

「明日の闘技大会の件は考えとくが、今日は他を当たれ。」

「カンノさんがもう帰ってしまうというのなら、なおのこと私はカンノさんと一緒にクエストに行きたいです!」

なるほど。こいつはコミュニケーションが取れないタイプなのかもな。

今までコミュニケーション障害ってのは人を前にすると話すことが出来ない奴のことをいうのかと思ってたが、案外こいつみたいに相手の話に正しく返すことが出来ない奴をいうのかもな。
こいつみたいなやつは会話が出来てると思ってるだけに厄介だ。これじゃあボッチなのは支援しか出来ないからだけではないんじゃねぇか?と思っちまうわ。

…。

まぁ乗りかかった船ってやつか。

「わかった。今日は最後に付き合ってやるが、条件がある。最低1人はパーティーを誘ってこい。そしたらついてってやる。昨日と一緒で俺はパーティーもチームも組まないが、危なくなったら助けてやるよ。」

「…わかりました。絶対見つけて来ます。」

「じゃあ俺は市場でウロウロしてるから、ついでに依頼も受けてから俺んとこに来い。」

「はい!」

まぁこれで市場を見る時間は十分に取れるだろう。
あいつがすぐに仲間を作れるとは思えないしな。



カリンと別れた後、市場をウロウロとしているんだが、やっぱり国によって雰囲気が違うんだな。
ここは活気がないわけではないがわりと静かな印象だ。
パッと見た感じではアイテムショップっぽいのが多い気がする。次いで食品を扱う店って感じか?
海が近いんだろうなと予測出来るほどに新鮮そうな魚っぽい魔物がいろんなところで売られてる。

ガンザーラと違ってさすがに奴隷を売る店は見当たらない。

もう少しで市場の区画から出そうなところで、すごく古そうな店を見つけた。

東京にいた頃じゃ絶対に足を踏み入れないだろうボロい店。
だけどゲームだとこういうところに重要なものがあったりするんだよな。

この世界は現実だと認めてはいるが、ゲーム的要素が多いとも思っている。なら入るしかないだろ。



「いらっしゃい。」

店に入ると萎びた魔女みたいな婆さんが声をかけてきた。

軽く会釈をして店内を見てみると、ここは本屋みたいだな。
本以外にもドクロとか小さい水晶とかよくわからないカラフルな石とか置いてあるからアイテムショップともいえるかもしれないが、8割は本だから本屋でいいだろう。

俺はこの世界の文字が読めないから本はいらねぇなと思って早々に店から出ようかと思ったが、アリアに買ってやるのもアリだな。
どれを買えば喜ぶかわからねぇから適当に気になったのを買うか。

そう思って本棚をあらためて見ると、不思議と気になる本がいくつか出てきた。
これは観察眼が反応してるのか?
なら買うしかねぇだろ。

気になった本を片っ端から手に持ってみたが、この世界の本はほとんどがハードカバーだからかめちゃくちゃ重い。
軽量の加護があるにもかかわらず、10冊持ったら少し重いと感じるんだから相当だろう。

面倒ではあったが10冊取ったら一度カウンターに置いてを繰り返して、観察眼が反応した38冊を全てカウンターに並べる。

「これらを売ってくれ。」

「一度にこんなに買ってくれるなんて、これは少しまけてやるかな。」

婆さんがまけてくれるとか嬉しいことをいいながら本を見て金額を計算していた。
それを見ていたら、ふと違和感を得て、キョロキョロと周りを見ると、カウンターに置いてある本に日本語で書かれた本を見つけた。

タイトルは『勇者召喚された者へ』と書かれていた。
俺は勇者ではないが、俺でも読める本というのに興味が湧き、手を伸ばしかけたところで婆さんが声をかけてきた。

「端数はまけてやるとして、金貨10枚だね。」

「え?」

いや、待て。アリアが買ってた本は銀貨1〜5枚程度だったから、高くても38冊で銀貨190枚だろ?それの5倍以上だと!?

「なんだい?お前さんは金額を見ないで持ってきたのかい?全部の本に値札をつけてあるだろ?それとも私の計算が信用できんのなら自分で計算しんさいな。」

値札がついているならぼったくりではないだろう。むしろ端数はまけてくれてるんだ。疑うのは失礼だろう。

「いや、悪い。つい値段を見ないで気になったのを持ってきてしまったから、思ったより高額でビックリしただけだ。」

婆さんに金貨10枚を渡して本をアイテムボックスにしまっていく。

「だとしたらお前さんは目利きが出来るのかもね。それに随分と多方面の知識書だけど、研究者なのかい?」

目利きができるとは武器防具屋のおっさんにもいわれたが、観察眼のおかげでずいぶん得出来てるみたいだな。

「べつに俺自身は本にはそこまで興味はない。仲間に本好きがいるから、ただのお土産だ。だが、この本はちょっと読んでみたいから売ってくれ。」

カウンターに置いてある日本語の本を取って婆さんに渡した。

「お前さんはこれが読めるのかい?」

そうか。この世界では日本語が読めるのは勇者召喚されたやつくらいだもんな。面倒ごとは避けたいから誤魔化しとくか。

「いや、逆だ。読めないからこそ解読してみたいだけだ。それとも売り物じゃないのか?」

「もちろん売り物だが、何が書かれているかもわからないのに金貨10枚もするぞ?いいのか?」

マジかよ…。
一冊で金貨10枚はぼったくりだろう。
というか売ってる側が買い手に買うのを考えさせるようなことをいっていいのか?
まぁこの婆さんは根が親切なのかもな。

その親切心を利用するようで悪いとは思うが、ちょっと立ち読み交渉させてもらうか。
まさか読めるとも思ってないだろうから、よっぽどの貴重品でない限り軽く見るくらいは許してくれるだろう。
いや、一冊で金貨10枚なんだからよほどの貴重品か。

まぁ聞くだけならタダだしな。

「確かにどんなのかもわからず金貨10枚はキツイな。少しだけ中を見させてはもらえないか?」

「中を見たところでわからんと思うが、まぁこれだけ本を買ってくれたんだ。少し見るくらいならかまわんよ。」

やっぱり駄目元でも聞いてみるもんだな。

「ありがとう。」

カウンターの本を開いて中を読む。
パラ見だが、クローノストで勇者召喚されてからの日記みたいなものから始まり、国から受けた援助と自分が行った強化方法やこうした方が効率良かっただろうというアドバイスが書かれていた。

正直今さらだなというか、そもそも国から援助を受けてないし、勇者でもない俺には関係ないなと思い、本を閉じようと思ったところである一文が目に止まった。

『大災害攻略後の生活のための注意点』

そこから書かれていたのはこれを書いたと思われる元勇者の大災害攻略後の変わり始めた扱われ方と巻き込んでしまった仲間への謝罪。あとは今後召喚された勇者へのアドバイスだった。

簡単にまとめれば、大災害を攻略した勇者と仲間は間違いなく英雄ではあるが、それだけの力を持つ存在は平和な世界では危険分子でしかないと判断されたらしい。

なんせその代の勇者は6人パーティーで最後の魔王を倒してしまったらしいからな。
とはいっても、そんな簡単に倒せる敵ではなかったらしく、最後まで生き残ったのは2人だけらしい。

大災害攻略後はしばらく平和が続き、2人は英雄と持て囃された。

平和な時代の話は特に書かれてはいなかったが、英雄と呼ばれる日々が落ち着きを見せた時、今度は勇者の仲間が命を狙われるようになったらしい。

表面上は英雄扱いだが、命を狙われてるのは間違いないと判断し、勇者は唯一の生き残りの仲間にこの本を託して逃がすことにしたようだ。

勇者自身は召喚紋があるから逃げられないとわかっていたのだろう。

『この本を読んでいる勇者にさせられた者に告げる。決して自身や仲間だけが強くならないように気をつけろ。私たちが作った冒険者ギルドをうまく使って、無害を演じろ。』

そう締めくくられ、残りの数ページは白紙だった。
元々が白紙だった本に手書きで書いていたからページが余ったんだろうなと思いながら、パラパラとめくっていたら、最後のページにもまだ文字があった。

ただ、今までとは文字の雰囲気が変わり、全てひらがなになってるから、別のやつが書いたのだろう。

『そうたのおもいをうらぎりたくはない。だから、わたしがにんげんをほろぼすまえににんげんをみちびいてくれることをねがう。』

これだけじゃよく意味がわからないが、これ以上はもう何も書いてありそうにない。

“そうた”ってのはこれを書いた二宮宗太とかいう昔の勇者のことだろう。それは名前が出てきてたから予想がつく。

だが、宗太の思いってのがわからんな。

これを読んだ感じではただただ次からなる勇者には二の轍を踏まないようにというアドバイスをしてくれたいい先輩ということしかわからない。

だから人間を滅ぼすのが宗太の思いを裏切る行為になるってのはよくわからない。まぁ考えるだけ無駄か…。

それにしても冒険者ギルドを作ったってのは凄えと思うし、それを作ったのが今後の勇者のためとか尊敬ものだ。
まぁこの本がここにある時点でどの勇者にも二宮さんの意思は受け継がれちゃいないんだろうがな。


これだけのことをした勇者なのに二宮宗太なんて俺は聞いたことがない。むしろ片割れの英雄の方が有名なんじゃねぇか?

“カザエル・サイモン”

おっちゃんと同じ名前だったから覚えているが、神様みたいに崇められてる英雄だろ?

たぶん本の最後に言葉を付け足したのはカザエルだろう。

人間を救った英雄が人間を滅ぼそうと考えるほどのことがあったんだろうが…想像したくねぇな。

それに人間を導けとか、勇者に期待しすぎだろ。

本当に勇者じゃなくてよかったわ。

「カンノさん!依頼を受けてきました!」

本を読み終わって、少し思考していたところに声をかけられ、横を見るとカリンがいた。

あまりに早過ぎねぇか?
もしかしてパーティーを誘えってのを無視して依頼だけ受けてきやがったのか?

「俺はパーティーを誘ってから依頼を受けてこいといったはずだが?」

「ちゃんと誘いました。お店の中で挨拶するのはお店の人にも失礼かと思って、外で待ってもらってます。」

今まで一度もパーティーを組めなかったこいつが既にパーティーを見つけてるだと!?
もしかして、パラ見の予定だったが、そんなに時間をかけてガッツリ読んでしまっていたのか?

だとしたら立ち読みで許させる域を超えてんだろ…。

カリンにちょっと待つように指示を出し、カウンターの婆さんに向き直る。

「婆さん。ちょっと見せてほしいといっときながら時間をかけ過ぎちまった。金貨1枚で許してくれ。」

本を閉じて、その上に金貨を1枚のせて婆さんに渡した。
高い買い物になってしまったが、10枚払って買うよりはマシだろう。
さすがに何度も読むような内容ではなかったしな。

「どうせ立ち読みで解読できるような本じゃないんだ。そんなに気を使わなくてかまわないんだが、ありがたくもらっておくことにするよ。」

婆さんは金貨をカウンターの下にしまい、本をカウンター上の本だてに置き直した。

これで罪悪感もないし、早いとこ依頼を終わらせるか。
時間もあまりないかもだからな。

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