裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

131話



久しぶりの外…やっとダンジョンから出ることが出来た…。

自分で自分を褒めてやりたい。俺は頑張ったと。

だが、まだゴールではないようだ。
ダンジョンの周りは草原で、整備された道はなく、見える範囲に町や村はない。というか何もない。

もう真夜中だから見えてないってわけではないだろう。これじゃどっちに向かえばいいのかすらわからねぇ。
この女を連れてきて正解だったな。

「早く町まで案内しろ。」

「…え?あ、はい。」

こいつ半分寝てやがるな。

まぁ今日もこいつは戦ってはいないが、最後の10階は走ったから疲れたんだろう。

ダンジョンは階が上がるごとにフロアが狭くなる。
そのうえ魔物も弱くなるから上れば上るほど楽になるかと思ったんだが、考えが甘かった。
何故か上るにつれて魔物の数が増えていたからだ。
そのせいで思ったほど攻略スピードが上がらず、体力的疲労よりも時間的睡魔の危険が高かったから走るハメになった。
たいていの魔物が一撃で死んでくれたから出来た荒技だけどな。


女は周りを確認してから「こっちです。」といって歩き始めたが、眠いせいか動きがトロい。

ここから何分くらいかかるのかわからねぇが、俺は早くシャワーを浴びてベッドで寝たい。
だから、女を抱き抱えた。
俗にいうお姫様抱っこってやつだ。

「え!?」

「俺は早く寝たいんだ。走るから方向の指示だけしろ。」

「…はい。」

ずいぶん大人しくなったな。余程眠いのか。




30分ほど走ったところで、町を囲んでいると思われる壁が見えてきた。
この世界は全ての町が壁で囲まれてるのか?

まぁうちは村なのに壁を作ったけどさ。

そんなことはどうでもいいか。

そのまま門のところまで走りきり、身分証を提示して、1番近い宿屋を聞いてから中に入り、女を下ろした。

「じゃあ俺はそこの宿屋に行くから、気をつけて帰れよ。」

「あ、ありがとうございました。」

勢いよく頭を下げて、お礼をいわれた。
俺が生き残るために助けたようなものだから感謝されるとは思ってなかったが、悪い気分じゃねぇな。

手をヒラヒラと振って、俺は宿屋に入っていった。





翌日。よっぽど疲れていたのか、目が覚めたのは日が高く昇った頃だった。

それでもまだ微かに眠かったから、シャワーを浴びて眠気を覚まし、宿屋の店主に冒険者ギルドの場所を聞いてから宿屋を出た。



冒険者ギルドに着いたはいいが、情報収集しようにも昼過ぎでもう依頼をこなしに出ちゃってるからかあまり冒険者がいなかった。

とりあえずは受付で聞いてみるか。

「この国の地図をくれ。」

「はい。銀貨1枚になります。」

銀貨1枚を渡して地図を受け取った。

「ひとつ聞きたいんだが、アラフミナに帰るにはどっちに向かえばいい?」

地図を広げて受付の人に見えるようにして確認を取った。

「現在地からアラフミナ王都でしたら、地図で示すのであれば西南西の方角になると思います。」

「ドライガーで向かうとしたら何日くらいかかりそうだ?」

「申し訳ありませんが、私にはわかりかねます。ただ、フォーリンミリヤは大陸最東端の国のため、何度も休憩が必要になるかと思いますので、そうとうな時間を要するかと思います。」

アラフミナが通じたことに一安心してしまったが、確かアラフミナって西は海だったよな?
この世界の世界地図は持っていないが、下手したら東の端から西の端まで行かなきゃならないってことか?

帰る方角はわかったが、いつ帰れるかって感じだな。

というか冒険者に聞き込みする必要はなくなったな。

「ありがとう。」

礼を述べて受付から離れ、ホールの適当な椅子に腰掛ける。
ここは昼食なんかも取れるところみたいだな。

とりあえずの帰る方角はわかったし、ドライガーの調達や食料の買い込みの前に昼飯を食っちまうか。






まぁ美味かったし満足だ。
あとは長旅になるだろうからそれなりの準備をしに行かなきゃなんだが、さっきからアレ・・が気になって仕方がない。


依頼が貼り付けられている掲示板。

その一角でずっと立っている女。

人が近づくと何かを話しかけて断られているようなことが数回あって、誰も近づかないと周りをキョロキョロと見たりしているが、その場所からはずっと動いていない。

実は俺が冒険者ギルドに入ったときから存在には気づいてた。
ただ面倒そうだからスルーしていたんだが、あれから30分くらい経っているだろうに動かないでまだいるってのは異常だろう。

そう。昨日の女がそこにいた。

もしかしてあいつも字が読めないのか?
だとしたらちょっとした親近感が湧くが、俺は面倒ごとに自ら首を突っ込むようなお人好しではない。
だからあいつがキョロキョロと周りを見てる時は目が合わないようにそっぽを向いたりしながら飯を食ってた。

それなのに、目が合ってしまった。

あいつが冒険者と話してる時にこっちを見やがったせいで、不意に目が合ってしまった。

今までは冒険者と話してる時はその冒険者を見るか下を見るかしかしてなかったから油断した。

そもそもそこまで観察してた時点で目が合ったのは自業自得だな。

あいつは一瞬反応したから俺に気づいたっぽいが、今は冒険者と話している。
俺は飯も食い終えたし、冒険者ギルドでの用は済んだ。だから今のうちに外に出てしまおう。

3日も一緒にいて情でも移ったのか少し気にはなったが、厄介ごとは勘弁だ。

俺は席を立ち、ギルドの出入り口へと歩き出した。

「待ってください!」

少し離れたところから声をかけられた気がするが、無視して出口に向かうが、あと少しというところで腕を掴まれた。
走るべきだったか…。

「…無視は酷いです。」

「悪い。面倒ごとは嫌いなんだ。」

「…ずっと思ってましたが、正直な人ですね。あの…私とパーティーを組んでくれませんか?」

「前にもいったと思うが、俺は奴隷以外とパーティーを組むつもりはない。」

そうでなくても早く帰らなきゃならねぇからな。生きてるって連絡すらできてねぇし。
まぁ心配されてない可能性もあるけどな。俺が死ねばあいつらは自由だしな。

「えっと…なんで奴隷だけなんですか?」

「奴隷は裏切れないからな。」

「私は裏切りません!」

こいつは何をいってんだ?

「人の言葉なんて信用できるわけないだろ?それにお前と会ったのなんてつい最近だし、名前すら知らねぇんだからなおさらだ。」

「私はカリントナ・クリセルファといいます。成人となり孤児院から出ることとなり、冒険者となりました。まだ冒険者となったばかりのFランクですがよろしくお願いします。」

え?この世界で成人ってことは少なくとも15歳にはなってるってことか?せいぜい13歳程度だと思ってた。

「よろしくしねぇよ。仮に俺がパーティーを求めてたとしてもお前を入れるメリットがないだろ。逆に聞くが、なんかの役に立つのか?」

「えっと…支援魔法が使えます。」

「お前程度の支援が俺に必要だと思うか?」

「…回復魔法が使えます。」

「瀕死のお前を助けたのが誰か忘れたのか?それとも俺が自分で魔法を使えないほどのダメージを与えてくるような敵と遭遇したとして、お前は魔法を使えるのか?詠唱中に殺されるのがオチだろ。」

「…。」

何もいえなくなって俯きやがった。
ってか売り込めるのはそれだけかよ。

「そもそも支援しかできないやつを求めてるやつなんて、死にたがりの前衛職か、自分が強いと勘違いしてる馬鹿くらいだろ。」

あとはカッコつけたがりか。
まぁこいつは顔は悪くないから、女に縁がなさそうな前衛職の男を狙えば可能性はあるかもな。

「…。」

いや、何かいえよ。

「だからまずは自分で戦えるくらいにはなれよ。そしたらお前を欲しいと思うやつも出てくるだろ。」

「…さい。」

ボソボソと女が何かをいっているが、聞こえなかった。

「あ?聞こえねぇよ。ハッキリいえ。」

「私を弟子にしてください!」

うるせぇな。
ハッキリいえとはいったが、大声でいえって意味じゃねぇよ。

「お前は馬鹿なのか?俺は支援タイプじゃねぇから教えるとかできねぇし、そもそも弟子なんてとってねぇよ。どうせなら経験豊富なSランクのやつらにでも頼めよ。」

まぁこんな弱いやつを弟子にしてくれるやつなんてよほどの物好きとかだけだろ。

というかこいつがでかい声で変なことをいったせいで周りの視線が集まっててウザいんだが。

「きっとあなたならいつか弟子をとることになると思います。その時のための練習としてでかまわないので、冒険者として生きていく方法を教えてください!」

こいつは何をどうしてそんな勘違いをしてるんだ?
俺が弟子をとる?馬鹿なのか?
あれ?でも見方によっては奴隷たちも弟子のようなものか?いや、あいつらは勝手に強くなっただけで最初以外はなんも教えてないから違うか。

「1人で盛り上がってるところ悪いが、俺はアラフミナに帰らなきゃならねぇんだよ。だから他を当たれ。」

まぁどっちにせよそんな時間はねぇからな。

「…せめて名前だけでも教えてもらえませんか?」

そういや名乗ってなかったな。
まぁ今後会うことないだろうから必要なかったし。
でも聞かれて答えないのも悪いか。こいつは名乗ったんだしな。

「俺の名前は神野力。力が名前だ。」

「…リキ様…。」

小声で名前を呟かれた。
は?なんでこいつに様付けされた?
いや、今のはこいつの声じゃないな。

周りを見渡すが、既に俺たちを見てるやつらはほとんどいないし、見てたやつらも目が合うと逸らされた。

「…リキ様〜。聞こえたら返事して〜。」

今度はわりとハッキリ聞こえた。
これはイーラの声だ。

でもどうやって?
なるほど念話か!

俺は取得可能一覧から念話を探した。

前に一通り見た時にはなかった気がするから、あまり期待はしてなかったが、普通に見つかった。
他にもかなり気になるのがあったが、それは後回しにして、とりあえず念話を取得。

いざ使おうとするが、なぜかイーラを選択できない。

目の前の女は選択できるっぽいから、念話自体が使えてないわけではなさそうだし、見えてる相手にしか使えないのか?

でもイーラが使えてるってことは一度使った相手なら遠くても使えるとかか?

どっちにしろ今の俺には使えないのだから考えるだけ無駄か。

「…カンノさん?どうかしました?」

名前を呼ばれて女を見た。
考え事をしてたせいで、目の前の女が何かいってたのを無視してたみたいだ。

「いや、悪い。なんでもない。」

左手を上げてなんでもないと告げた時、左手の指輪に魔力の干渉があったのを感じた。

「リキ様〜。聞こえたら返事して〜。」

なるほど、以心伝心の加護での連絡か。

でもこの指輪はたしか盗賊のやつらとのやつじゃなかったか?
まぁものは試しだ。

「聞こえてるぞ。今から帰るつもりだが、しばらくかかりそうだ。」

…。

返事がないな。

「リキ様〜。聞こえたら返事して〜。」

ん?聞こえてないのか?
そういやこの加護はMPの量で距離や声量が変わるんだったな。

最悪大陸の端から端だもんな。普段の感覚じゃ届かないわけだ。

「聞こえてるぞ。」

「リキ様!やっぱり生きてた!でも声が小さくてよく聞こえないよ?」

マジかよ!?
ジョブは魔導師にしてあるからかなりMPはあるけど、それでも念のため今の一言に5%くらい消費させたんだぞ?
それでよく聞こえないくらいの声量だとしたら、普通に会話なんてできねぇじゃねぇか。

まぁ出来るだけ短文で必要なことだけ話せばいいか。

「かなり距離があるからMPがもたない。今から帰るが時間がかかる。」

「今度はちゃんと聞こえたよ!どこにいるの?」

MPがもたないっていってるのに会話を続ける気かよ。

「大陸最東端のフォーリンミリヤの町の冒険者ギルドにいる。」

「…カンノさん?」

おっと。また無視してたわ。

「悪い。今、仲間から連絡が入ったから話してた。」

「それは邪魔してごめんなさい。」

気を使ったようで、女は黙った。

…。


ん?イーラのMPが尽きたのか?


…。



「アリアがすぐに調べて5日以内に迎えに行くから待っててだってさ〜。リキ様が生きてるのはわかってたけど、心配だったからイーラはすぐに行こうっていったのにアリアが村でやることを終わらせてからじゃないとダメだっていったせいで連絡が遅くなっちゃった。アリアのせいでごめんなさい。」

たしかに俺がここから道を調べながら帰るよりもアリアが調べてイーラで往復した方が速そうだから、せっかくやる気になってるならアリアとイーラに任せるか。

それにしても見事なまでの責任転嫁だな。

べつに連絡がこなかったとしても責めることではねぇんだけどな。

「べつにアリアは悪くねぇぞ?俺の奴隷になったガキどもを放置しなかったアリアの判断はむしろ正しい。まぁイーラがすぐに俺を探そうと思ってくれたのは嬉しいし、それでもちゃんとアリアの指示に従ったイーラは偉い。ありがとな。」

「えへへ〜。」

「じゃあ待ってるからよろしく頼むな。」

「うん!着いたらまた連絡するね!」

なんとか話が終わるまでMPがもってよかった。
それにしても、以心伝心の加護は便利だと思ったが、どこでもいくらでも使えるわけじゃないんだな。

というかアリアたちを待ってる間暇になったな。

…。


「よし。気が変わった。」

「?」

急に喋りだした俺に対して、女は首をかしげた。

「お前がさっきからずっと眺めてた依頼はどんな内容だ?」

「え?あっ…えっと。最近この近くの村がゴブリンに襲われることがあるらしいので、村の近くの森のゴブリンを15体以上討伐するです。」

討伐系クエストか。
まぁゴブリンは一般人でも倒せるって前に盗賊のやつがいってたし、練習にはちょうどいいか。

「弟子にするつもりはねぇし、パーティーを組むつもりもないが、その依頼に付き添ってやる。もちろんゴブリンを討伐するのはお前だが、本当に危ない時だけ助けてやる。どうする?」

「お願いします!」

勢いよく頭を下げられた。
そういや金の話をし忘れちまったな。
後付けで金を請求するのはなんか嫌だし、しゃーねぇからこの一回は無料で付き合ってやるか。

「なら決まりだ。その依頼を受けてこい。」

「はい!」

女は満面の笑みで掲示板のところに走っていった。

…やっぱり15歳には見えねぇな。

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