裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

128話



一瞬の暗闇から抜け出すと、ドサッと地面に落ちた。

2メートル程度の落下だったが、急だったからバランスを崩して尻餅をついちまった。地味に痛え。

暗闇からは抜けたが、あきらかにさっきとは違う場所だ。
薄暗い…洞窟の中か?

確かあいつは転移とかいってたよな?
ってことはどっかに強制的に飛ばされたってことか?

ふざけんなよ。
あとちょっとで村だったのに。
それに戻るにしても俺はこの世界の地理をよく知らねえってのによ。

悪態ついても仕方ないから、まずはこの洞窟から出て、どこにいるのかを把握しなきゃな。

とりあえずの行動を決めて立ち上がったとき、何か違和感があった。


…。


10メートルくらい先の物陰から現れた蛇っぽい魔物と目が合った。

目を凝らすと、そのさらに50メートル先にもサイズ違いの同じ魔物がいるっぽいな。

あれ?もしかしてここってダンジョンか?

マジかよ…今は体が怠いから戦闘はしたくなかったが、相手はやる気満々っぽいな。

魔物は俺に警戒しながらも徐々に近づいてくる。

少し動いたことでわかったが、俺のダンジョンマップは使えてるみたいだからここはダンジョンで間違いないだろう。

ただ、俺が動いた数歩分しかマッピングされてないから、ここが何階なのかもどの程度の広さのダンジョンかもわからない。

これってけっこうピンチなんじゃねぇか?

もし最下層なんかだったら俺1人じゃ普通に生き残れねぇぞ?

とりあえずこの魔物は殺すか。
背中を向けたら噛み殺されそうだからな。

ガントレットを装着して構える。

この魔物はどっかで見たことある気がするが、どこのダンジョンの何階層かなんて覚えてねぇから、相手の強さが全くわからん。

だから一発食らったら死ぬと思って戦った方がいいな。

…なんか緊張してきた。というかちょっと怖いな。

初めての魔物狩りをした後のことを思い出す感覚だ。


「シャーーーーーッ!」

蛇が残り2メートルほどのところに来た瞬間、噛み付いてきた。

その頭を避けて、会心の一撃を使って思いっきりぶん殴ったんだが、ほとんどダメージを与えられなかった。

もしかしてマジで最下層なのか!?
最下層じゃなくてもかなり下の方だよな?

その後も避けては殴りを繰り返すが、ダメージを与えられてる気がしない。

鑑定で魔物のPPを確認するが、やっぱりほとんど減ってねぇ。

魔物との戦闘が長引いたせいで、遠くにいた魔物がけっこう近づいてきていた。

2対1とか無理だから!

再度噛み付いてきた蛇の頭を避けながら、短剣を引き抜いて切りつけるが、浅く切れただけだ。

物理耐性でももってるのか?

殴るよりはダメージを与えられたみたいだが、この程度じゃ倒す前にもう一体の魔物が来てしまう。

どうするか…ん?なんでムカデのガントレットで殴ってダメージをほぼ全く与えられないのに鋼の短剣で切れるんだ?

いや、考えてるほど時間はないから、これで死んでくれると信じるぞ。

二体の魔物が俺との延長線上に並ぶ位置にずれて、右手の人差し指をかまえた。

『上級魔法:電』

「かはっ。」

嘘だろ!?
発動しないうえに体がさらに怠くなりやがった。

体を支えきれずに膝をついたが、これはマジでシャレにならない。
この感覚は覚えがあるぞ。
アオイとの戦闘で禁忌魔法を使った時と同じだ。

ってか今はそんなこと考えてる余裕なんてねぇだろ。
相手は急に膝をついた俺を警戒しているのか攻撃してこないが、もう相手の攻撃範囲に入ってんだぞ。

これは最終手段だ。
間に合ってくれ!

アイテムボックスからローブを取り出して羽織り、さらにアイテムボックスから取り出した業火玉を握りつぶした。

ゴウッ。という恐怖を感じさせる音とともに腕を何かが這うようなおぞましさを感じたが、熱くも痛くもない。
炎耐性のローブって意外と使えるな。



数秒後に炎が消えると、すぐ近くと少し離れたところに真っ黒焦げの蛇が計2体転がっていた。
どちらの蛇もピクピクと動いていたから、念のため頭を短剣でザクザクと刺してトドメを刺した。

ほとんど炭だったが、業火玉でも頭蓋骨の中は焼けていなかったところをみると、やはりそこそこ深い階層の魔物なんだろうな。

記念に牙はもらっていこう。

さて、近くの魔物もいなくなったし、さっきの疑問について考えてみるか。といっても、もうだいたい見当はついているんだがな。

あいつは“呪い”っていってたからな。
サーシャの魔眼と同じような効果だろう。

確認のためにステータスを見ると、思った通り…いや、思った以上にステータスが下がっていた。
数値をハッキリ覚えているわけではないが、ジョブが人族LV1だった頃より低いっぽい。

こういうステータスダウン系はレベルが上がると治るイメージがあるんだが、冒険者はレベル100だから上がりようがないな。
そしたら魔導師か戦闘狂に…レベルが低い戦闘狂に変えておくか。

ステータス画面を開いたままジョブを変更したら一気にステータスが上がった。

元に戻ったというか、冒険者LV100より全ステータスが高いぞ!?
ジョブによってステータスが変わるのは知ってたが、ジョブによってはレベルが低くてもステータスが高かったりするんだな。

ステータスが下がってる状態でこの数値ってことはさすがにないだろうから、呪われたのは冒険者のジョブだけっぽいな。

なんだか力がみなぎってくる。




…早く殺し合いてぇ。





…は?

いやいやいやいや。これはダメだ。


ジョブを魔導師に変更した。
衝動が治ったからやっぱりジョブの影響だろう。
あんな殺害欲求にかられるジョブじゃあ、いくらステータスが高くても使えねぇわ。まぁ名前通りの効果だな。


魔導師もかなりステータスが高いな。
特に魔法関係が凄い。MPも冒険者LV100の3倍近くあるしな。
ただ、物理系の数値は冒険者LV100よりは低いけど、許容範囲だろ。
とりあえずのジョブは魔導師にしておくか。

時間が経つにつれ、徐々にPPが増えているから、幾分体が楽になってきた。

これだけMPがあれば魔法も使えるから、ドジさえ踏まなきゃダンジョンからは出れそうだし、とりあえず上に進むか。

まぁそうとう深かったら途中で力尽きるだろうが、ここでジッとしてるのは馬鹿でしかないからな。





3つの階段を上ったが、出口が見つからないのは仕方ないとして、いまだに誰にも会わないっていうのはどうなんだ?

もちろん魔物には何度も出くわした。
1人で倒すのはキツいが出来ないことはない程度の魔物だからなんとかなってはいるが、今が何階なのかわからずに進み続けるのは思った以上に辛い。

周りを警戒しながら進まなきゃならないから精神的に疲れるし、魔物はけっこう強いから肉体的にも疲れる。
回復系のアイテムは一切持ってないのにどこまで行けばゴールなのかもわからない状態。

せめてもの救いは上に上がれば魔物が弱くなるというのがこの世界での常識であるってことか。

実際の感覚的には3階層上っても魔物が弱くなった気が全くしないが、このダンジョンだけ全階層の魔物が同レベルなんていう例外ではないと信じたい。

こんな時に携帯電話が使えればいいんだけど…。

そういやこの世界には以心伝心の加護があるじゃねぇか!
と思ったが、アリアたちに連絡を取れるアクセサリーはねぇんだった…。

こんなことになるなら、アリアが予備に作ってるっていってた以心伝心の指輪をもらっとけばよかった。…ん?でもそんなことにアリアが気づかないわけがない。
前に俺との連絡手段がないってアリアは自覚していたのに俺に以心伝心の指輪を渡さなかったということは別の意図があったのか?

いや、よくよく考えたらアリアはまだ8歳なんだよな。
なんでもできるからいろいろと任せまくっていたが、普通に考えたら8歳のキャパを超えてるわな。
そりゃミスの1つや2つ出てきてもおかしくはない。
ここから出て村に戻ったら、もう少しアリアの負担は減らすべきか。


最悪の手段としては第三王女伝いでアリアに連絡を取ることだが、イグ車のことで借りを作ってるのにさらに借りなんか作りたくねぇんだよな。

そもそもここがどこかわからねぇのに助けなんか呼べねぇし、ここから出てから改めて考えればいいか。

けっきょくは自力でここを出なきゃなんだよな。
マジめんどくせぇけど、進むか。







あれからさらに10階上ったのだが、魔物が弱くなってる気がしないんだが…。
俺が疲れてきてるからか?
というか眠さがヤバい…。
これは寝ようと思えば立ったまま寝れるんじゃないかってくらいの眠さだ。

だけど、寝れる場所なんてあるわけがない。
他の階層に隠し部屋っぽいのがあったりもしたから、もしかしたらそこが安全なスペースになっていたのかもしれないが、さすがに1人でその部屋に入るなんて馬鹿なことは出来なかった。
もし強敵がいたら終わりだからな。
仮にスケルトンの大群だったとしても、アリアの魔法がない状態の俺1人ではどうすることも出来ないだろうしな。
まぁ魔法を使えばどうにかなるかもしれないが、MPが尽きたら終わりなんていう賭けにでるつもりはない。

だから寄り道せずにひたすら上に上り続けていたんだが、そろそろ限界だ。

エナジードリンクか眠気覚ましのガムでもあればもうちょい頑張れるかもしれないが、俺が持ってる食料は携行食と調味料くらいしかねぇからな。

いや、調味料の中に確か…。

…あった。俺の世界での唐辛子と同じ味の赤い実。

俺は辛いのはわりと好きではあるが、このまま齧ったことはないから慣れてない。

これなら多少は眠気も覚めそうだな。

考えるより試せだな。






 ︎




これはヤバい。

辛いってか痛い。

無理無理無理!


俺は赤い実を吐き出して、水を飲んだ。

口の中に広がった辛いエキスが水に混じり、水を飲み込んださいに喉から胃にかけて激痛の道を作り出した。

「ハァハァ。」

けっこうなダメージを負った気がする。

水は口をゆすいで吐き出すべきだったな。


確かに目は覚めたが、こんな目の覚まし方じゃ効果はすぐになくなるだろうし、2度目はたぶん効かないだろう。

だから今のうちに出来るだけ上ろう。

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