裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

123話



頭のおかしい女から逃げた後、二度と遭遇しないようにセリナに警戒させながら、肉以外の材料と大きな鍋や食器類を買って村に戻った。

戻り次第、昨日と同じ場所で肉を焼きながらシチューを作ったのだが、昨日ほどは集まらなかったな。
ちなみに大人は1人も来なかった。

まぁ来ないなら来ないで俺たちだけで食うけど。
余った材料はイーラに保存させときゃいいし。

今日も食べにきたのはガキが28人。
こいつらは奴隷になってでも俺についてきたいっていう頭のおかしいやつらみたいだ。
いや、むしろ賢いのかもな。
大人で俺の奴隷になる選択をしたら頭がおかしいのかもしれねぇが、親を失ったガキどもは他に選択肢がねぇんだからな。
正確にはこのまま死んでいく。もしくはクローノストの誰かが助けてくれるかもしれないっていう奇跡を信じ続けるっていう選択肢はあるだろうが、俺の奴隷になるより悲惨な結果になるだろうしな。
…それも人の価値観によるか。

奴隷になるくらいなら死を選ぶ。それも間違っちゃいねぇし。


そんなことを考えていたら、今日人が集まらないのは条件を飲まないのに飯だけもらうのを申し訳なく感じたとかではなく、ガキども曰く他にも理由があるらしい。

その理由ってのは村の人たちは今日のイーラの戦いを見ていたらしく、恐怖を抱いてしまったんだとさ。

今ここにいる28人はイーラや俺らをヒーローだと思っているらしいが、他のやつらはイーラを化け物だといっているらしい。
それでガキ同士が喧嘩になったりもしたらしいが、イーラが喧嘩を止めようと近づくと相手は駆け足で逃げたとか…だからさっきからイーラがやけに甘えてくるというか近寄ってくるのか?いや、これはいつもか。

まぁぶっちゃけここにいる28人のガキどもの意見より、ここに来なかったやつらの意見の方が俺は正しいと思うけどな。

だって、あの惨状を見るに戦闘なんかではなく虐殺だろう。

しかもあれだけの大軍を1人の少女が虐殺せしめるなんて、化け物といわずしてなんという?

まぁ俺からしたらイーラが仲間だ。
このことでイーラを討伐しようとする奴がいたら許さないだろう。
でもイーラに敵意を向ける勇気すらあるやつなんかこの村にはいないだろうがな。



これだけの人数を龍型のイーラに乗せるのは不可能ではないだろうけど、さすがにまだこいつらは信用しきれてないから、あまりイーラの変身は見せたくない。
…既にある程度見ている可能性はあるけど、それはしゃーない。

だから今回は下道でゆっくり帰るか。


そしたら馬車なりドラ車なりが必要になるな。

まぁ金は魔王討伐の報酬以外にも臨時収入が金貨20枚以上ある。
だからなんとかなるだろう。


「じゃあまず全員俺の奴隷にするから一列に並べ。ただ、奴隷になると家名は消えるからな。やめるなら今のうちだ。」

28人のガキどもは1人も迷うことなくピシッと一列に並んだ。

まぁ本人がいいならいいけどよ。

それにこいつらは村人にするつもりだから後々には奴隷解放するつもりだしな。
そのことを教えるつもりはないけど。




全員の奴隷契約は終わったが、こいつらの寝床をどうするか…というより、まずはシャワーを浴びさせたい。
何日風呂に入れていないのかわからないが、少し臭い。

子どもだからか、もしくはそんなに長い間風呂に入っていないわけではないからか、我慢できないほどではないが、これから同じ荷車に乗るのは遠慮したい。

仕方ないから宿に泊まるかと思ったが、なんだろう…この村にはあんまいたくねぇな。

ガキどもに話を聞いてから気づいたが、周りの俺らを見る目が不快だ。
これだとたぶん宿屋も断られるだろう。
昨日とは真逆だな。

まぁ長居したところで、イーラのことでなんかあったりしても面倒だし、いっそ出発しちまうか。

臭いに関しては俺だけ乗り物を別にすればいいだけだしな。

ならまずは町に行って馬車かドラ車でも買うとするか。








「こちらがルモーディア様よりご注文いただきましたイグ車となります。」


町に戻った後、どこで馬車やらドラ車を買えばいいのかわからなかったが、アリアならわかるだろうと決めつけてたのが失敗だった。

アリアに確認しても知らないといわれ、当てもなく彷徨ってはみたが、そんなことで店を見つけられるわけがない。

仕方なく以心伝心の指輪で第三王女と連絡を取り、入手方法を聞いたのだが、こんな時間に売ってくれる商人はそうそういないだろうといわれた。

もう完全に夜だしな。
いくら冒険者の町で24時間のところがあるっていっても、それは冒険者向けの店だけだ。

ただ、例外としてコネというものがある。

もちろん俺らはクローノストの商人にコネなんてものはない。だが、この国には今、俺と第三王女の共通の知り合いでコネというか権力を持ってる奴がいるではないか。

ということで、第三王女経由で第三王子に話がいき、第三王子からクローノストの商人に話がいき、俺らはイグ車とかいうのを3台買えたというわけだ。

やっぱりこれって借りになるよな…。

しかもお金も第三王子持ちらしい。

なぜか素直に喜べねぇ。
だが、気にしたところでもうどうにもならねぇからいいや。

イグ車というのはイグザードとかいう爬虫類みたいなのが引いてる車のことだ。

パワーがあり、持久力も優れているとか。
単体で走るならドライガーの方が断然早いが、荷台を引かせたら、馬車やドラ車なんかより断然早いらしい。

荷台は俺が15人くらいは胡座をかいて座れそうなくらいに広い。
御者台には詰めれば3人座れそうだ。
それが3台だから相当スペースに余裕があるな。

これを使い捨てにするのはもったいねぇから、行商人をしてみるのも楽しそうだな。

まぁするにしてもしばらく先の話だけどな。



商人からイグ車を受け取り、使い魔の引き継ぎをした。
そういやこいつらも魔物のカテゴリーだもんな。


全ての手続きが終わった後、以心伝心の指輪で第三王女に礼をいった。


けっきょく風呂に入れてねえけど、俺は御者台に乗れば問題解決だからもう帰るとするか。



イグ車を買ったところから町の外まで走らせてみたが、操縦は案外簡単だった。
まぁ車を引いてんのは生き物なうえに使い魔だから、わりと思うままに動いてくれる。
俺、アリア、セリナで一台ずつ操縦しているが、どれも問題なさそうだ。

外で待たせていたイーラとガキどもを拾い、アラフミナに向かって出発した。

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