裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
112話
アリアの言葉を理解するのに時間がかかり、少しの静寂が訪れた。
イーラが魔王?
「ってことは勇者とかが討伐に来るのか!?」
バレたら世界を敵に回すことになるってことか!?
いや、バレたらっていうか、巫女の神託かなんかで魔王が生まれたことがわかるんだったよな?だとしたら隠しようがねぇのか?
「…リキ様が世界を壊したい、征服したいといった考えを持っていないのであれば、リキ様の元にいる間はイーラが狙われることはないかと思います。もちろん知られたら大騒ぎにはなるかと思いますが。」
なぜそこで俺が出てくる?
もし使い魔紋で縛られてるからって話だとしたら、たぶんイーラにはもう意味をなしてないと思うぞ。
「どういうことだ?」
「…魔王は種族名に“王、女王、キング、クイーン、ロード”などが含まれる魔族のことを指します。この魔族とは魔物も含めた魔族のことです。なので魔王自体はけっこうな数がいると思われます。もちろん出会って戦闘となれば討伐するかもしれませんが、全てを倒すのは難しいと思われます。なので基本は人間にとって一定以上の害にならない魔王は国を挙げての討伐とはなりません。現に王都の近くに魔王であるゴブリンキングがいたことが確認されていましたが、山に入らない限り害はないと判断され、今まで放置されていました。人間にとって害のある存在の場合は巫女長の神託で知られてしまう可能性があり、その場合は間違いなく討伐対象となります。ですが、イーラはリキ様に逆らうことはないと思います。なのでリキ様が世界を壊したいなどの意思がないのであれば神託にて知られることはないと思います。」
…お、おう。
確かにゴブリンキングが魔王なら、町からあんなに近いところに魔王がいたのに勇者が出向かなかったんだからアリアのいう通りな気がするな。
へたに手を出して無駄に死人を増やすくらいなら放置の方が良いと判断したのだろう。
「それにしてもアリアはずいぶん詳しいんだな。」
「…リキ様のお役に立つため、勉強しています。神託については私はまだ使ったことがないので、推測です。過去に冒険者の調査によりゴブリンキングの存在が知られたという話がありましたので、神託ではゴブリンキングの存在を知ることはできなかったのだと判断し、私なりの仮説を立てました。間違っていたらごめんなさい…。」
アリアは下を向いてしまった。
「間違ってても気にすることじゃねぇよ。もう魔王になっちまったもんはどうにもならないんだ。だからアリアの仮説が正しいことを祈るさ。まぁアリアの話を聞く感じだとその通りっぽいけどな。」
「…ありがとうございます。」
アリアとの話にひと段落ついたところで、後ろからタックルされた。
踏ん張ったから倒れはしなかったが、背中が痛え。
「んだよ!?」
イラっとして振り返ると、背中側からホールドしている犯人はイーラだった。
「リキ様!リキ様!イーラね、子どもが生めるようになったよ!これでリキ様とイーラの子どもが作れるね!」
…は?
もしかしてクイーンになったから、性別ができたのか?
イーラのステータスを確認してみるが、性別の表記はなかった。
どういうことだ?
「子どもが産める体になったことはおめでとう?か?まぁおめでとう。だけど、何度もいうが俺は奴隷に手を出す気はない。」
「じゃあイーラは大丈夫だね!だってイーラは使い魔だもん!」
「そういう意味じゃねぇよ!奴隷も使い魔も精霊にも手を出す気はねぇ!そもそもガキのくせに色気付くんじゃねぇ。」
「ぶぅー!いいもん勝手に生むもん!」
イーラは不貞腐れて妙なことをいいだした。
勝手に産む?
子どもの作り方を知らないのか?
イーラは右手を水平に上げ、手のひらを下に向けた。
するとイーラの黒髪だった部分が徐々に毛先と同じ青色へと変わっていき、完全な青髪になったとき、右手からドロっと何かが地面に落ちた。
地面に落ちた何かを見ると、腐ってドロドロになった人の顔のように見える。
どことなく俺に似てるような気がするが、気のせいか?
「うまくいかないな〜。リキ様成分が足りないのかな?でももっとリキ様成分入れるとイーラの見た目が変わっちゃうからな〜…リキ様〜食べていい?」
イーラの独り言を聞く限り、この腐った生首のようなものがイーラの中では俺とイーラの子どもらしい。
「ダメに決まってんだろ。」
「ちぇ〜。」
イーラは渋々といった感じで、地面でうねうね動いている子ども?を拾って吸収した。
すると髪色が根元から徐々に黒くなり、元に戻っていった。
え?産んどいて食ったのか?
いや、産むっていうより生み出したって感じだなこれは。
「ってかこれは子どもじゃなくて、ただの分裂じゃねぇか!」
「ん?子どもって分裂で増やすんじゃないの?」
え?…いや、まだ0歳なんだから子どもの作り方は知らなくて仕方がないし、まだ知らなくていいことだな。
「…スライムは自然発生以外にも一部のものが分裂して仲間を増やすことがあるそうです。」
アリアから補足説明が入り、納得した。
スライムってアメーバみたいなもんなんだな。
そこに他者の細胞を入れれば確かに子どもといえなくもないのかもしれない。
まぁ俺の細胞を渡すつもりはねぇけどな。
「分裂できるようになったってことはイーラが武器化させた部位だけ体から離して使えるようになったのか?」
「そうだよ!凄いでしょ!それに仲間も増やせるよ!」
そういうと、右手からドロドロとスライム状の半液体を流し、それが徐々に人型になっていき、武術クラブの代表の姿となった。
イーラはこいつも食ってたのかよ。
代表はキョロキョロと周りを見渡したあと、俺に視線を止め、抱きついてきた。
気持ち悪くて、つい本気で殴ってしまったら、頭がはじけて青い液体が飛び散った。
すると体もドロドロと溶けて、地面にスライム状の山ができた。
「これが仲間か?」
「そうだよ!今のはスキルを何も分けてないから1発で死んじゃったけどね。」
そういってイーラは散らばったスライム状の半液体を回収した。
…分裂で生み出した仲間はイーラにとっては子どもじゃないのか?
それにしては死んだのにかなり軽い反応だな。
まぁ魔族と人間の命の価値観は違うからしゃーねぇか。
イーラの武器化とかはあとで確かめるとして、とりあえず邪龍から取った素材をしまうべきなんだろうが、このまましまっていいのだろうか?
今は地面に山積みにされている。
なぜ迷うかというと、いまだに黒い靄のようなものが漂っているからだ。
「アリア。これってこのままで平気なものか?」
邪龍の素材を顎で示すと、アリアに意図が伝わったようだ。
「…リキ様が気になるのでしたら浄化します。わたしたちのパーティーには魔族もいるので、このままでも使い道はありますが、売るのであれば浄化しておいた方がいいと思います。」
アリアは素材の山から鱗を5枚だけどかして、残りの素材の山に何かをした。
俺はアリアのスキルも魔法ももう把握してないが、アリアが無言で手をかざすと光の粉のようなものが舞い、黒い靄がなくなっていったから、何かしたのだろう。
べつに黒い靄がかかっている素材もアイテムボックスにしまって問題ないらしいから、全ての素材をアイテムボックスにしまった。
さて、用も済んだし、村に行くか。
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