裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

105話



今日の山頂の魔物討伐は太陽が真上に上がった頃に冒険者ギルドロビーに集合って話だったが、どいつが参加者なのかわからねぇな。

まぁ第三王女と連絡を取ってたのはアリアだし、俺は必要最低限しかアリアから聞いてねぇから、わからなくて当たり前か。

とりあえず第三王女に指定されたテーブルに座ってはいるが、まだ誰も来ていない。
そろそろのはずなんだがな。

確か今日の参加メンバーは俺ら以外に6人パーティーが5組の30人だったな。
ダンジョン攻略より難しいようなことをいってたわりには少なくないか?
そういや森の中だと大人数では邪魔になる可能性があるから少数精鋭だとかなんとかいってた気がするな。

一応、今日の参加者は有名なグループのやつららしいが、そもそもグループなんてものを初めて聞いた。
アリアも初めて聞いたらしく、第三王女から説明をちゃんと受けてから俺に教えてくれたんだが、簡単にいうと派閥というか組織というか、ゲームでいうギルドやクランみたいな感じだった気がする。
それに本人たちが名乗ってるだけで、チーム設定やパーティー編成みたいなものはないらしい。
グループマークみたいなのを作ってるところはあるみたいだがな。

だからグループ自体はたくさんあるんだろうが、有名なのはそんなに多くないとかいってたな。

正直その辺はどうでも良かったからあまり聞いてなかった。
ただ、その話の中で驚いたことが2つあった。

1つはあの化け物級の強さの男、確かクランって名前だったか?まぁそいつもグループに所属してるらしい。
そのグループはリーダーもしくは幹部のやつらに認められたAランク以上の冒険者しか所属できないグループとのことだ。

もちろん驚いたのはそこじゃない。
俺が驚いたのはあの化け物がリーダーでないどころか、幹部ですらないんだとさ。

上には上がいるんだな…マジで。


もう1つは黒薔薇の棘というグループだ。

Sランクの女性のみが所属できるグループだから、少人数のグループみたいだ。
でもリーダーがかなり強いから、他のグループからも一目置かれてるらしい。

そのグループの証である黒薔薇のマークを見たら近寄るなってのがAランク以下の冒険者にとっての暗黙のルールになってるんだとか。
俺はそんなルールどころか黒薔薇の棘なんて名前すら聞いたこともなかったよ。

だからこのグループ名を聞いて、この世界にも薔薇があるんだなと驚かされた。



グループにもいろいろあるようで、クランのとこや黒薔薇の棘みたいに強いやつらだけでグループを作ったり、仲間内でグループを作ったり、強いやつが作ったグループに弱いやつを所属させて後ろ盾となる代わりに所属費がかかったりとあるらしい。



今回の参加者は『武術クラブ』から12人と『魔術組合』から18人とのことだ。
グループ名が何を得意としてるやつなのかがわかりやすくていいな。

30人中4人がSランク冒険者で、残りはほとんどがAランクとのことだ。
本当はできる限りのSランク冒険者に参加して欲しかったらしいが、報酬との兼ね合いでこうなってしまったと第三王女が謝ってたな。

ちなみに俺らは依頼者側だから報酬はないらしい。
命懸けになるかもしれねぇのに酷い話だ。



サーシャとウサギを仲間にしてから約10日。今日の討伐で死なせないためにかなり頑張ってレベル上げをした。

最初は新人たちの戦闘訓練だったのだが、攻略組が頑張ってくれたおかげであっという間にレベルが上がり、それにともない戦闘技術も上がっていた。
戦闘技術は個人のセンスの問題だろうが、悪くはなかったと思う。
さすがにサラはまだ危なっかしいし、ソフィアは近接戦闘はいまだに下手くそで、かろうじて避けれるようになった程度だ。

ウサギは片腕がないせいか、最初は戦闘中によくコケていたが、今ではかなり動きがいい。動きだけならセリナとアオイが憑依したカレンの次くらいに速いんじゃないか?といってもその2人との差はかなりあるがな。

あと、サーシャはさすがというかなんというか、人間に恐れられていただけあって、最初から戦えていた。
しかも魔物の血を吸うたびに強くなってるように感じた。

今までは殺した魔物はイーラに食べさせていたが、イーラとサーシャの2人で話し合った結果、赤い血の流れる魔物はサーシャが吸血してからイーラが食べて、それ以外はイーラが食べることになったみたいだ。

魔族同士仲良くやってるようで良かった。

ちなみに赤い血だけってのはサーシャの好みの問題なだけで、本当に血が足りないときは緑だろうが黄色だろうが飲むし、本当は若い人間の血が一番だといってたな。
魔族には基本性別がないからか、若ければ男でも女でもいいから吸いたいといっていたが、俺がそれを許すわけがない。

一度、サラの寝込みを襲おうとしたのがセリナにバレて説教され、その声で起こされて不機嫌なうえに寝ぼけてた俺に鉄拳制裁されたらしく、それからはいわなくなった。

らしいってのは俺が覚えていなくて、後でセリナから聞いたからだ。



新人たちの訓練がある程度終わったら攻略組と合流して、ひたすらダンジョン攻略をしながらの実戦訓練をした。

おかげで穴場のダンジョンは全フロア全滅させながら進んだにもかかわらず、最下層まで行ってしまった。
地下65階までの大型ダンジョンだったのだが、もちろん攻略はしていない。

攻略したら面倒なことが増えそうだし、せっかく近場にあるダンジョンがなくなるのはもったいないしな。

その結果、全員のレベルがかなり上がった。

今まで俺とセリナ以外のジョブ取得をさせるのを忘れていたが、まぁいいかと思えるくらいには上がっていた。

俺は冒険者LV100、奴隷使いLV80、魔術師LV100、魔導師LV88、調合師LV60、精霊使いLV80、戦闘狂LV61、調教師LV60、領主LV72にまでなった。

でもLV100を超えたジョブがないから、いまだにファーストジョブは冒険者にしている。早く魔導師か戦闘狂のLVが100を超えないと他の奴らに抜かれてしまう。

まぁそもそもアオイに負けてる時点で焦っても手遅れか。

手に入れたスキルは2つだけで、加護はない。
アリアやセリナみたいにはいかないみたいだな。

精霊解放…契約した精霊を解放出来るスキル。

会心の一撃…通常攻撃よりも強い攻撃が出来るスキル。


アリアは冒険者LV100、巫女LV82、付与師LV100、魔法使いLV50、魔術師LV100、魔導師LV60、調合師LV60。


セリナは獣人族LV100、冒険者LV100、暗殺者LV55。


カレンは鬼人族LV85、冒険者LV100。

カレンは冒険者の方がレベルが高くなったから一度ファーストジョブを入れ替えたのだが、なぜかステータスが下がったので、ファーストジョブは鬼人族にした。


アオイは鬼族LV145、冒険者LV58、殺人鬼LV33。

殺人鬼…対人間の戦闘に適した、鬼固有のジョブ。上限はない。

これはジョブなのか?


サラは鱗族LV40、冒険者LV62。

サラも鱗族のままの方がステータスが良かったからそのままだ。


ソフィアは魔導師LV56、魔法使いLV50、魔術師LV70、鳥人族LV76。



ウサギは気づいたらレベル表記がされていたが、ジョブは表記されていなかった。
ちなみにレベルは68だ。


そして俺は俺以外のスキルや加護の確認はもうやめた。
魔物を含む魔族組に関しては進化するたびにレベル1になるから、レベルの確認すらしてない。
さすがに仲間が増えすぎて、いちいち全部をチェックする気にはなれなかった。

そもそも俺以外のやつはスキルとかのことがなんとなくわかってるからうまく使えるらしいしな。だから俺が把握する必要が感じられなくなったのもある。

あとは一人一人が自然にスキルを覚えすぎだ。
見る気も失せる。

ということで俺はこいつらのジョブ管理しかしていない。
ただ、珍しいスキルが手に入ったらいうようにとはいっておいた。

改めてレベル確認をしていたら、1人だけ纏う空気の違う、かなり厳ついやつが近づいてきた。

真っすぐこっちに向かってくるから参加者か?
まぁこのガタイからして参加者なら武術クラブのやつだろう。

よく見ると厳ついやつの影に少し隠れる形で4人いる。他のやつらは外か?それともこいつは依頼と関係ないやつか?

厳つい男はかなり強いみたいだが、その後ろのやつらはたぶんカレンより弱い。
今回は本当に難しいクエストなのか?
こいつらがなめてるだけか?

いや、サーシャの件もあるからな。俺の観察眼を過信するのはよくねぇな。

「へぇ〜。お前さんが少女使いか。どんなやつかと思ったが確かに少女ばかりを連れてるんだな。…装備を見るにもしかしてお前さんも格闘タイプか?それとも戦わないクチか?」

なんだこいつ。
厳つい男は勝手にこのテーブルの空いてる席に腰掛けた。

今座っているのは俺とこの厳つい男だけだ。

他の奴らはなぜか代表者の後ろに立っている。武術クラブと思われるやつらだけでなく、アリアたちもだ。
…やっぱりおかしくねぇか?

最初にアリアたちは座らせようとしたのだが、なぜかアリアにダメだと指摘され、アリアの指示で全員が俺の後ろに立っている。
なんだか俺が偉そうにしてるみたいで嫌なんだがな。

まぁアリアがいうのだから何か意味があるのだろうから、我慢した方がいいだろう。

「確かに主な攻撃は殴るだが、格闘といえるような技術じゃねぇよ。」

「やっぱり格闘タイプか!いや〜久しぶりに格闘タイプに会えて嬉しいぜ。」

この男はやけに上機嫌だな。

「それで、お前さんが依頼代理だと聞いてるが、お前さんも戦闘に参加するつもりなのか?」

俺はそういう扱いになってるわけか。
アリアから聞いてないから、たぶんアリアも聞いてなかったのだろう。

あの第三王女め。

「依頼主いわく、そうみたいだな。」

「お前さんの噂は聞いている。そこそこ強いらしいが、Fランクなんだろ?Fランクにしては強いのかもしれないが、今回のクエストはSランクだ。だから大人しく見学していた方が身のためだぞ。」

「見学でいいのか?ならその方が俺としても助かる。」

一応、今回の戦闘の準備として、何かあった際のことは決めていた。
俺に何かあればセリナの指示に従い、俺もセリナも指示できない状態ならアリアの指示に従い、後衛であるアリアすら指示できない状態になったなら、俺らに構わず全力で逃げるように伝えてある。
自信過剰かもしれないが、俺らなら死んでさえいなければどうとでもなりそうだしな。

その際は先頭をカレンに憑依したアオイ、しんがりをイーラに任せることになっていた。だからカレンとアオイは今回は見学予定だった。

あとは逃げるパターンもいくつか決めてあった。
せっかく飛べるやつが2人もいるのだから、飛んで逃げるパターンとかな。

他にもサーシャに幻影を使わせながら魔物の相手をさせてる間にイーラが変身して、全員を乗せたらサーシャを加えて全力で逃げるとか、まぁ何パターンかの逃げ方を決めていた。
今思い出すと、決めてたのはほとんどが逃げる場合のことだけだな。

でも今回は参加しなくていいっていうなら、それに越したことはない。
どうせ報酬もねぇし。

そもそもゴブリンキングを超える化け物なんかとは戦いたくないからな。

「ならチームからは外させてもらうことになるがかまわないか?」

あぁ、そういうことね。
今回は強い魔物と戦うから、経験値稼ぎをするつもりなのだろう。
使えないやつに分ける経験値はないというわけか。
まぁ経験値なんて命あっての物種だからな。

「それでかまわない。俺としては討伐してくれりゃあいいからな。」

「お前さんが話のわかるやつでよかったよ。それで、今回は俺たちだけなのか?」

「いや、あとは魔術組合とかいうグループの人たちが来るはずだ。」

「ほぅ。まさか魔法使いと共闘することになるとはな。」

厳つい男が目を細めて冒険者ギルドの壁を見つめだした。

「やっぱり武術クラブって名前だけあって、魔法は嫌いなのか?」

「いや…まぁ今回はだいぶ危険なクエストと聞いてるからな。余計なことはいわずに協力するさ。」

答えになってねぇがまぁいいか。

「二つ名が格闘家というくらいですからてっきり脳筋なのかと思いましたが、ちゃんと知能を持っているんですね。」

フード付きのローブを着た男5人組のうちの1人が急に話に入ってきた。
そしてそいつを含む3人は空いてる席に座った。

さすが冒険者だけあってみんな自由だな。
初対面なのに当たり前のように会話に入ってくる感じ、イライラするわ。

いや、まだ我慢だ。
こんなことでイライラしてたら話が進まないからな。

厳つい男は嫌味をいってきた男を一瞥したが、とくに何もいいはしなかった。
これが大人の対応か。今日に限っては見習うべきだろう。

「とりあえず確認を取りたいんだが、『武術クラブ』と『魔術組合』の方々で間違いないか?」

互いの代表と思われる者が頷いた。

魔術組合のやつらは全員弱そうだが、スキルが強いとかがあるからな。
魔法使いに対しては俺の観察眼は本当に当てにならない。
いや、今までずっと助けられてきたスキルを貶すのはよくねぇな。

俺が頼りすぎてただけで、かなり使えるスキルなのは間違いねぇし。

そもそもこいつらは敵じゃないうえに今回は共闘しなくていいんだから、そこまで気にする必要がねぇか。

「俺は依頼代理ということになっている神野力だ。さっき武術クラブの代表と話したのだが、俺はFランクでお呼びじゃないということになり、見学することとなった。だからチームには加わらない。魔術組合の代表に異論はあるか?」

「大丈夫ですよ少女使いさん。例え相手が魔族だったとしても私たちだけで十分勝てるでしょうしね。龍だったら苦戦するかもしれませんが。」

魔術組合の男たちがクスクスと笑い出した。
何が面白いんだ?

まぁスルーでいいか。

「それじゃあさっそく向かおうと思うが、準備は出来てるか?」

「問題ない。」

「もちろん大丈夫ですとも。」

「では行くとしよう。」

俺が席を立ち、冒険者ギルドの出口に向かうと全員がついてきた。






…。


さて、意気込んだはいいが、山頂まではどう行けばいいんだろうな。

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