裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

101話



町に着き、まずは服屋でソフィアの服を数着買って着替えさせた後、防具を買う前におっちゃんに新人が入った挨拶がてら肉串を買って食べていた。

そんときにふとおっちゃんに名前を聞かれた。

「あんちゃんってその娘たちにリキ様って呼ばれてたっけ?」

そういやおっちゃんには自己紹介とかはしてなかったな。

まぁ店員と客だから改まって自己紹介するのもおかしな話だけど、おっちゃんに隠すようなことでもないからな。

「力って名前だがらそう呼ばれてるけど、何か?」

「いや、もしかして連れてる仲間以外にも自由に行動させてる仲間とかいたりするかと思ってよ。」

話が見えないな。

「今は拠点とかないから全員連れて歩いてるぞ?」

「じゃあ人違いだな。良かった良かった。」

おっちゃんは笑いながら俺の名前を確認した理由を話してきた。



今朝、肉串を買いに来た新人冒険者風の若者2人組が話していたのが聞こえてきたらしいが、2人組の片割れが度胸試しとして夜中にスラムの奥にある墓地街といわれる場所まで行ったとのことだ。

この度胸試しはアラフミナ王都の新人冒険者がよくやることらしい。

運が良ければただ行って帰るだけ。
運が悪くてもスラムの人間に襲われたり、墓地から出てきたスケルトンやゾンビなどの武器も持ってない弱いアンデットと戦う程度だ。だから冒険者になるならこのくらいは出来なきゃならないから丁度いい度胸試しになるのだとか。

町の中の墓地からスケルトンが溢れてくるとか危なくないかと思ったら、墓地は壁に囲まれてるうえに見張りもいるから普通は出てこないけど、たまに外に数体いることがあるらしい。
それはそれで危ないが、最初に被害にあうのはスラムの人間だから放置されてるんだろうな。むしろそのアンデットはスラムの死者かもな。

その新人冒険者が昨晩の度胸試しで墓地に到着する寸前に急に霧に囲まれて、目の前に化け物が現れたそうだ。

戦う前から敗北すると分かるほどの化け物だったため、命乞いすら忘れてただただ立ち尽くしていたが、一向に攻撃してこない。幻か?と思ったとき、化け物が人間の言葉を発した。

「うぬはリキ様の知り合いか?」

新人冒険者はまさか言葉を発するとはという驚きで頭が真っ白になってしまい、化け物が発した言葉の意味が理解できなかったらしい。

ただ、疑問形だったことはわかったから、必死に発された言葉をうまく働かない頭で反芻していたのだが、長い沈黙となっていたらしく化け物のイラつきが伝わってきた。

その恐怖にゴクリと唾を飲み込むときに首をわずかに縦に振ってしまった。

そこでやっとさっきの発言の意味を理解した。
新人冒険者は『リキ様』という者の知り合いかと聞かれたのだと。そして新人冒険者はそれに頷いてしまったということを。

もちろん知り合いにリキ様なんていないが、その答えは正解だったようだ。
化け物は「そうか。」と落胆の声を出して消えていった。

化け物が消えると霧も晴れて、元のスラム街に戻っていたそうだ。

化け物という認識はあったのにどんな姿だったかをほとんど覚えていないから、もしかしたら白昼夢だったかもと新人冒険者たちは話していたが、おっちゃんは俺がリキ様と呼ばれてることを知っていたのと、俺ならそういった仲間がいてもおかしくないと思ってたらしく、確認を取ってきたらしい。


ちょっと気になるな。
なんとなく思い当たることがなくもないんだが、それは気のせいであると信じたい。

まぁ今夜あたりに確認すれば、問題も解決だろう。
ただ、化け物らしいから油断はできないが、放置して俺のせいなんかにされたらたまったもんじゃないからな。

「おっちゃん。情報あんがと。少なくとも俺はその事件?は知らなかったし、現仲間はここにいるだけだ。だけど俺の名前を使われてるみたいだから確認しておくよ。」

おっちゃんは驚いた顔をした。

「あんちゃんなら大丈夫だと思うけど、相手は化け物なんだから気をつけろよ?」

「心配ありがと。アリアとイーラとセリナを連れてくからなんとかなるさ。」

話に一区切りついたところで、おっちゃんに別れを告げて肉串屋を後にした。




ヒトミとソフィアの防具をおっさんのところで買って、ソフィアには元々持っていた魔法補強の加護付きの杖を渡した。
ヒトミは店にあったモーニングスターを選んだから、買ってやった。

アリアにはずっと渡し忘れていた、カルナコックから奪っ…もらった杖を渡した。


武器防具を買いに行った際におっさんには黒龍の双剣は絶対に転売するなよといわれたが、返せや正規の値段を払えとはいわれなかった。

おっさんは『男に二言はない』を地で行くタイプみたいだからな。助かった。

これで準備も揃ったし、まだ時間もあるからダンジョンでレベル上げをしておくか。

場所はアオイと会ったダンジョンの方が他の冒険者がいなくていいだろう。

いや、レベル上げならマッドブリード討伐もありかもな。あのときアリアは戦ってないのにけっこうなレベルが上がるほどだったし。
マッドブリードのことは詳しく知らないが、もしかしたら山の頂上の魔物を退治したら出現しなくなるかもしれないから、その前に空水晶集めをしておくという意味でもありだろう。まさに一石二鳥だ。

「アリア。マッドブリード討伐でレベル上げをしようかと思うんだが、どう思う。」

アリアは一度目を見開いた後、いつもの無表情に戻った。

「…やめておいた方がいいかと思います。前にわたしを守りながらリキ様1人でできたことを否定するのはおかしいかもしれませんが、この人数を守りながらのマッドブリード討伐は危険です。」

アリアの発言にサラが驚いていた。

「でも今ならアリアも戦えるし、イーラやセリナも強い。他だって自分の身くらいは護れるだろ?」

さすがにサラとテンコは他が護らなきゃだろうが。

「…イーラはともかく、他は体力的に戦い続けるのは無理だと思います。それにセリナさん以外はマッドブリードの魔法を全て避けるのは無理だと思います。」

もちろんリキ様を除いた話です。とアリアが補足した。

俺だって戦い続けられたのも全ての魔法を避けられたのも今思えば奇跡だったのだろう。そもそもあのときの記憶はほとんどないから、同じことができる自信は全くない。というかしたくもない。

ならマッドブリード討伐はやめておいた方がいいだろう。

空水晶はまだあるし、無理して死人が出たら目も当てられない。

「じゃあ北にあるダンジョンに行くぞ。」

「「「「「「「「はい。」」」」」」」」

全員の返事を受け、ムカデやアオイがいたダンジョンへと向かった。

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