裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

93話



オークションの翌日、俺が起きてから朝食を取り、ガンザーラへ向かうことにした。

道中はイーラに乗って行くから装備の必要はないだろうが、セリナには黒龍の双剣を渡しておいた。
アリアがその場でセリナが元々使っていた短剣の加護を全て黒龍の双剣に移してくれた。これで他の短剣は投擲用として使えるな。

サラはまだアイテムボックスのスキルを持っていないから槍を渡さなかった。
ってか槍は普段はどうやって持ち運べばいいんだ?

今回はおっさんはベルトとかくれなかったし、俺は黒龍の双剣のことで頭がいっぱいだったからそこまで頭が回らず聞かなかったしな。

まぁしばらくは俺がアイテムボックスにしまっとけばいいか。

あとは身代わりの加護だが、予備が2つしかないんだよな。

テンコはスキルとか加護がないから機能するかわからないし、サラとヒトミに渡しておけばいいか。



北門から外に出て、しばらく歩いてからイーラに乗り、とりあえずは国境を目指す。

そこまでの地図はあるから、迷うこともなくすんなり行けた。

国境に近づいたところで、イーラを短剣の姿にして腰に装着した。
イーラは魔族だから、ステータスチェックで知られると面倒そうだからな。

ここの国境にも見張りが2人いるが、どちらもぱっと見は人族みたいだ。
片方が鎧で片方がローブを着ている。

ここもそれぞれの国の人が1人ずつなのだろう。
たぶん国境を超えた反対側にも同じ感じで2人いそうだ。

俺たちが歩いて近づくと、鎧の方が対応してきた。

「国境まで歩いて来たのですか?」

そういや前にケモーナに行ったときもそんなことを聞かれたな。
そりゃ馬車とかないんだからそう見られるわな。
今度からは目立たないように荷車を用意しておくべきか?そしたらイーラをドライガーに変身させときゃいいんだしな。いや、それでステータスチェックされたら意味ねぇな。

べつに徒歩でいいか。

「ああ、修行の一環だ。」

ちょっとてきとう過ぎたな。

「確かに徒歩での旅は足腰を鍛えられそうですね。それでは身分証を提示願います。」

なんか納得されちまったな。
まぁむこうも世間話的な感じで話しかけただけだろうから、内容はどうでも良かったのだろう。

ギルドカードを渡して、イーラを除く全員がステータスチェックをした。

「これが魔物だと!?人族と見分けがつかないな。」

ヒトミがステータスチェックをしたさいに驚かれた。
でも使い魔紋があるからそれ以上いわれることはなかったが。

「ちなみにドラ車とかで来た場合はドライガーも全部ステータスチェックするのか?」

「はい。決まりですので、チェックしないと国境を越えられません。」

ならイーラをドライガーにして荷車を引かせるのはダメだな。

チェックが終わり、国境を越えた。

ガンザーラ側は国境の位置がちょっと高いところにあるみたいで、ずいぶん見晴らしがいいな。

…ということはけっこう歩かなきゃイーラに乗れないってことじゃねぇか。

そういや地図の売り場を聞いとかねぇとな。

国境になってる建物を振り返ると、そこにも鎧とローブの男2人がいた。
このローブはガンザーラの正装なのかね。

「ガンザーラの地図が売ってる場所で、ここから1番近いのはどこだ?」

鎧の男が近づいてきた。

「冒険者ならゾンダ村だな。あそこの分岐が見えるだろ?あそこを左に行くと村がある。そこの冒険者ギルドに売ってるはずだ。左に曲がったあとは割とすぐだから道なりに進めば迷うことはないはずだ。」

鎧の男が指を差しながら説明してくれた。

道なりに行けば迷うことはないが、けっこう歩かなきゃならない。
左の森の中を進めばすぐにイーラに乗れると思うが、迷う可能性がある。


…たまには歩くか。


「ありがとう。」

鎧の男に礼をいい、俺が歩き出すとアリアたちも歩き出した。

「ここからだと分岐を曲がるまで丸見えだ。だからしばらく歩くことになる。何かあったときにはすぐに戦えるように準備しておけ。サラは武器を俺が持ってるから、俺の近くにいろ。」

「「「「「「「はい。」」」」」」」

後方にいたサラがトテトテと小走りで近づいてくると、スッとアリアが俺の左隣にきた。
サラはそれを見て、空いている右隣に並んだ。

「なんかあったか?」

急に隣にきたアリアに確認をとるが、特に何もないようだ。
じゃあなんでいきなり隣にきたんだ?
まぁ3人並んでも余裕のある道だからいいか。

「そういやヒトミのパーティー分けを決めてなかったな。アリアから意見がなければ俺のパーティーに入れるが、いいか?」

「…わたしはかまいませんが、リキ様の負担が増えてしまいます。」

「いや、半分持ってくれてるだけでだいぶ気的に楽だ。だから問題ない。」

「…はい。」

実際は一緒に行動して、俺が指示を出すのだろうからパーティー分けにあまり意味はないのだが、半分アリアのパーティーってしただけで、なぜか少しだけ気が楽になったのは本当だ。

ヒトミをパーティー編成で俺のパーティーに入れた。



その後は無言でひたすら歩いた。

後ろではセリナの笑い声が聞こえたりしたが、俺とアリアとサラはあれから一言も喋らずに分岐についた。

確かここを左だったな。

やっとイーラに乗れるが、ここからは割とすぐなんだったか?

もうここまできたら最後まで歩きでいいか。

分岐を曲がって少し歩くと木々に囲まれた道になっていた。国境の位置から見えなくなってしばらくしたところで何か違和感があった。

「リキ様。囲まれてるみたい。」

セリナはそこまでわかるのか。さすがだ。

「魔物か?」

「人間だと思う。たぶん24人。臭い。」

けっこうな人数がいるな。
臭いって情報はどうでも…もしかして盗賊か?
それなら風呂に入ってなくて臭いとか普通にありそうだ。

まだ敵意を向けてるのかがわからないから、殺すのもなんかな。

どうしようかと考えていると、前方と後方に男が3人ずつ現れた。

「荷物と女を置いて行け。そしたら命は助けてやる。」

あぁ、間違いなく盗賊だな。

「アリア。盗賊を殺した場合は罪になるのか?」

「人間を殺すのですか?」

サラが不安げな顔で見てきた。

「まぁ俺に害をなすならな。」

サラはビクッと肩を震わせて、怯えた顔になった。

サラの教育上には良くないだろうが、嘘ついたってそのうち知ることになるしな。

「…盗賊を殺すことは罪にはなりません。ただ、どこからを盗賊、どこまでを村人と区別する明確なものがないので、殺すよりは捕まえることをお勧めします。有名な盗賊であれば、大金になる場合もあります。」

金か。

この盗賊たちはたぶん人を襲うのはこれが初めてじゃないよな?
ならけっこう金を持ってんじゃねぇのか?

「セリナ。周りにいるやつで1番強いのはどこにいる。」

「ん〜。全員雑魚だから違いがよくわからにゃいけど、たぶん前にいる真ん中のやつ。」

マジか。
俺の視界に入ってるのにリーダーだと気づけない程度の雑魚かよ。
それともリーダーは安全な場所で待機してるのか?

「真ん中のやつがここにいるやつらのリーダーか?」

「だとしたらどうするってんだ?」

質問に質問で返されるとウザいな。

『上級魔法:磁力』

足に力を入れて、リーダーと思われるやつを磁力を上げて引き寄せた。

不意をつかれた男は俺に引き寄せられたが、足を地面にすって転んでそのまま地面に体を打ちつけながら俺の元まできた。

俺の予定では水平に引っ張られてきて、それを殴るつもりだったのに、俺の元にきた男は既に満身創痍だ。

うまくいかないものだな。
もっと磁力を上げるべきだったか?

次はもうちょい考えて使おう。


「もう一度だけ聞く。お前がリーダーか?」

「ち、違います…。」

元からなのか今抜けたのか、不揃いの歯をガチガチさせながら返答してきた。

「リーダーはどこにいる?」

「…。」

「仲間を売るより黙秘を選んで死ぬか。嫌いじゃないぞ。」

腰の短剣を外して男に近づける。

男はヒィと小さな悲鳴を上げた。

「べつに仲間を売れとはいっていない。それにお前らはまだ俺に攻撃を仕掛けたわけじゃねぇから殺す必要もない。ただ、俺らの進行の邪魔をしたことを許してやるためには誠意を見せてもらわないとな。たとえば金とか。その話をしたいだけであってべつに相手はリーダーじゃなくても俺はいいんだ。お前が代役を務めてくれるか?」

「リキ様。3人逃げたみたいだよ〜。」

セリナが俺の隣に並んで耳をピクピクさせながら告げてきた。

「捕まえてこれるか?」

「りょ〜かい。」

セリナは影に潜って消えた。
俺は男に向き直る。

「どうやら逃げるやつがいるってことは悪いことをしたって自覚はあるんだよな?どう落とし前をつけるつもりだ?」

「金は払うから、命だけは助けてくれ。」

「俺はその金のありかを聞きたいんだ。教えてくれたら許してやる。」

もともと命を取るつもりもないしな。

また頃合いを見て金をもらいにくればちょっとした収入源になるだろう。

「金は森の中にある。案内がないと辿り着けねぇ。」

男と話しているとセリナが3人の男を引きずって森から出てきた。
男たちは気絶してるみたいだ。
頭から血が流れてるが、もしかして死んでんのか?

「この人たちはどうすればい〜い?」

「そこに置いとけ。」

「は〜い。」

セリナはてきとうに男3人を置いて下がった。

俺は男に向き直る。

「さて、もちろんお前が案内をしてくれるんだよな?」

ふと何かが俺に向かって飛んできたのが視界に入り、それを避けると地面に矢が刺さった。

「…攻撃したな?」

矢が飛んできた方を見ると何かが微かに動いたのが見えた。

徐ろに腰に下げてるガントレットを装着した。

「え?」

男がアホヅラで間抜けな声を上げてるのを横目に森の中に飛び入った。

俺が着地した目の前に新しい矢をセットしようとしてる男がいた。
たぶんこいつだろう。

その男は俺に気づいてすぐさま次の矢を射ったが、俺はその矢を避けながらキャッチした。

自分でやっといて驚いたわ。
観察眼様々だな。

男は俺の行動に驚きつつもナイフを取り出して向かってきた。
俺はカウンターを合わせ、一発鳩尾に拳を入れたが、ほとんど感触がなく弾けた。

せっかく助かる命を…バカなやつだ。





森での用が済んだから、さっきのリーダーもどきがいる場所に戻り、話を再開した。

「さて、邪魔が入ってしまったが、お前が案内をしてくれるんだよな?」

「…はい。」

ずいぶん素直に聞いてくれるじゃんか。
楽で助かる。



アリアたちはその場に残して、森の中には案内する男と俺の2人で入った。

森の中を歩いてると、ところどころに不恰好な墓みたいなのがあるな。

「あの墓はお前らの仲間のやつか?」

「違う…ます。おかしらの趣味の犠牲者の墓だ…です。」

なんか頑張って敬語を使い始めたな。使えてねぇけど。

「なんで墓なんて作ってんだ?お前らみたいなクズでも人を殺したら罪悪感でもあんのか?」

「俺は人は殺さねぇ…です。他の奴らも元々は女、子どもは襲わねぇやつらだった…です。今のお頭に変わってからおかしくなっちまったが、それでも子どもは供養してやりたくてよ。」

子どもは?ってことはここの墓は全部子どもなのか?

周りを見渡しただけでも10以上あるぞ?

気分が悪くなってきた。

「早く連れてけ。」

「は、はい!こっちでごぜぇます!」

男は返事の声が裏返っていた。
そして、走り出した。

俺はその後をついていく。

しばらくすると洞窟のような場所があり、その周りにテントやらが立てられていた。

洞窟の中からは人のものとは思えないような、悲鳴なのか叫びなのかわからない声が聞こえてくる。

男は目を閉じて唇を噛んで下を向いた。

自分は本当はこんなことしたくないんだとかいうアピールか?
見て見ぬ振りをしてる時点で同罪だぞ、このクズ。

動かない男は放置して、俺は洞窟の中に入った。

入り口まで血なまぐさいな。
中に入れば入るほど音がデカくなる。

ふと音が止んだ。

そのまま音がしていた方に進み、床になにか転がってると思ったら、小さい腕だ。
血が固まってないから新しいのだろう。

すぐ目の前には巨体と…形容したくない状態の女の子がいた。

俺は考える前に男を殴り飛ばしていた。
巨体は洞窟の奥まで吹っ飛んでいった。

アリアを連れて来ればよかったな。

「イーラ。この子、どうにかできるか?アリアの元に連れて行くまででいい。」

イーラが短剣から人型になった。

「ん〜?手足を生やせばいいの?たぶんできるけど、人間じゃなくなるよ〜?」

「そこまでしろとはいってない。出血を止めて、痛みを少しの間だけ麻痺してやれればいい。あとはアリアが処置するまで死なないようにしてほしい。」

今は泡を吹いて気絶してるようだが、この出血じゃいつ死んでもおかしくないし、目覚めたら痛みでショック死する可能性だってありそうだからな。

周りを見ると、四肢はあるからアリアならなんとかなると信じたい。

「それだけなら余裕だし!」

イーラはドヤ顔で答えたあと、女の子を自分の体に入れた。顔だけイーラの胸から出ている状態だ。
ちょっとしたホラーだ。

手足を拾い集めてイーラに渡すとそれも体内に入れたみたいだ。

「痛えなオイ。人の楽しみを邪魔したうえに俺を殴るとか、死刑確定だなオイ。」

2メートル以上ありそうな巨体がのしのしと歩いてきた。
頭から多少の血が流れているが、ガントレットで脇腹を殴ったのに、そっちはたいした怪我はしていないみたいだ。

「イーラ。その子を連れてアリアのところに行け。その後はアリアの指示に従え。わかったか?」

「…は〜い。」

返事が渋々って感じだな。やっぱりイーラも戦うつもりだったのだろう。
ぶっちゃけガントレットで倒せない相手ならイーラにいてほしいが、早く女の子をアリアに見せるべきだろうからな。

アリアで治せないなら諦めもつくが、余計なことをしている間に死なれたらなんか嫌だし。

イーラは渋々といった感じだったが、走ってアリアの元に向かってくれた。



でも、ガントレットで殴って一撃で死なないでくれたのはありがたかったかもしれねぇ。

そんな楽に殺してやれるほど今の気分は穏やかじゃねぇからな。

自分ごとじゃなくてここまで気分が悪くなったのは久しぶりだ。


「殴ったのはお前かオイ?お前に妹か娘がいるなら、それを差し出せば許してやらねぇこともないぞオイ。」

こいつは救いようがなさそうだ。
救うつもりもねぇけどな。

「喋るなクズ。気持ち悪い。」

「もう許さねぇぞオイ!」

男はどこからかトゲのついた金棒を取り出した。

「お前の許しなんていらねぇよ。ここからお前の地獄の始まりだ。楽しんでくれよ?」

自然と笑みが浮かんだのがわかった。

今の俺の笑顔はどんなだろうな。

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