裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

91話



「イーラ。約束の美味いもんだ。10本までなら好きなだけ食え。」

薬屋から出て、奴隷市場に向かう前に軽くなんか食べようと思い、挨拶がてらおっちゃんの肉串屋に寄り道した。

だからイーラに約束の美味いもんとしていつもより奢ってやることにしたが、イーラは不満そうだ。

「嫌なら食わなくていいぞ。おっちゃん。特上6本くれ。」

「食べるもん!思ったのと違っただけだもん!」

もし、第三王女と行ったレストランを想像してたなら、無理に決まってんだろ。

「おっちゃん。特上10本追加だ。」

「毎度!それにしてもあんちゃんはちょっと見ないうちにまた仲間が増えたんだな。」

前回来たのはアオイが仲間になる前だったか?
本当は仲間が増えるたびに来たいと思ってるんだが、最近はこの町にいないことが多かったからな。

「ここ最近はいろいろあってな。買ったわけじゃねぇのに気づけばこの人数だ。せっかくだし、このまま増やしてチームで冒険できるようにしようと思ってる。」

「買わずに奴隷が増えるってのも不思議な話だな。それに鱗族なんて珍しい種族の嬢ちゃんまで連れて、そのうち有名なパーティーになりそうだ。」

有名になるのは面倒そうだな。
しかも有名になると勝手に二つ名とかつけられるんだろ?カッコよければまだいいが、変なのをつけられたらたまったもんじゃねぇ。

「俺は自由に楽しく生きたいだけだ。面倒ごとはお断りだ。」

「あんちゃんは男なのに有名になりたいとかの願望がねぇんだな。ほらよ。先に特上4本だ。」

「あんがと。」

4本を受け取り、アリアたちに渡しているとすぐに次の肉串を渡され、次々と渡される肉串を全員に配った。
イーラだけ10本だ。

「そういやニクイヨツ帝国がまた戦争を始めたみたいだな。そのせいでクルムナとの国境が封鎖されてるんだとよ。」

何気ない世間話にまさかの俺でも知ってる国が出てきた。
知ってるといっても名前と鍛治師が多いってことだけだが。

「近いのか?」

「近いも何もクルムナは隣国じゃねぇか。ニクイヨツは暴食の孤児がいるからって本当にやりたい放題だよな。大災害の時期に何やってんだって話だよ。」

クルムナも隣だったのか。
しかも暴食の孤児を抱えてる国はニクイヨツ帝国とかいうとこなのか。
おっちゃんはけっこう物知りだな。
全部噂で知り得たのか?

「むしろこの時期だからなんじゃねぇの?大災害に備えて武器が欲しいから鍛治師がいっぱいいるクルムナを手に入れようとしたんじゃねぇの?わからねぇけど。」

日本にいたときから戦争って他人事にしか思えなかった。
今も隣の国で戦争が起きてるって聞いても他人事としてしか捉えられない。

現代の平和な日本で生まれ育ったからだろうな。
さすがに俺が異常なだけではないと信じたい。

「あんちゃんは凄えな。いわれたら確かにそうなのかもしれねぇ。その発想は俺にはなかったわ。」

おっちゃんは素で感心したような顔をしている。
ただ思ったことをいっただけなんだがな。

ってかクルムナが戦争中ならしばらくは行けないな。
というかヘタしたらクルムナって国がなくなる可能性もあるのか。

まぁとりあえずはガンザーラに行く予定だし、鍛治師についてはまた後で考えればいいだろう。

俺もアリアたちも肉串を食べ終わってしまった。

「思ったことをいっただけだ。実際は全く違う理由かもしれないしな。それよりごちそうさま。そろそろ俺らは行くわ。」

「おうよ!またな。」

「また。」

おっちゃんに手をヒラヒラと振り、別れた。




…肉串だけじゃ足りなかったから、定食屋で飯を食ってから奴隷市場に向かうことにした。




腹を満たしてから奴隷市場に行くと、今日は奴隷商は表にいなかった。

珍しいな。

奴隷市場に続く階段の扉をノックすると、中からスーツを着た男が出てきた。

「これはリキ様。いらっしゃいませ。中へどうぞ。」

なんで俺の名前を知ってんだ?
奴隷商以外のスーツのやつらはぶっちゃけ覚えてないから、会ったことあるのかすらわからねぇ。でも間違いなく自己紹介なんかしてねぇぞ。

しかも奴隷商と違って案内をしようとするわけではなく、ただの入り口にいるスタッフ的な立場らしい。

まぁその方が自分のペースで見れるからいいんだけどな。
むしろ今まで奴隷商がつきっきりだったのが異常で、本当はこういうスタイルなのかもな。


奴隷商に案内されてた癖で、性奴隷、戦闘奴隷、吸血鬼がいた部屋の順で見て回った。

廃棄間近は後回しにした。

女性向け性奴隷のフロアではサラがアワアワしていた。
よくよく考えたらそれが普通の反応か?でもサラは6歳なのに裸を見て恥ずかしがるとかませてるな。

他のやつらはもともと奴隷だったり魔物だったり精神年齢がガキだったりおばさんだったりだから裸に対する羞恥心がないのかもな。もしくは慣れてるとかか。

そんなことはどうでもいい。

今回も良さそうなのがなかった。

以前吸血鬼がいたフロアには檻が一つあるだけで他は何もないし、誰もいなかった。
たぶんオークションがあるから運び出されたのだろう。

けっきょく奴隷商には会わなかったな。

そんなことを思いながら、最後に廃棄間近のフロアを見るために廊下を戻ると、奴隷商がいた。

「これはこれはリキ様。お久しぶりでございます。ご案内せず、申し訳ございません。」

奴隷商はいつもの怖い笑顔で頭を下げた。

「いや、かまわない。」

むしろ好きに見れたしな。

「こちらのフロアはもう見ましたか?」

奴隷商が廃棄間近のフロアを指して確認をしてきた。

「いや、そこは俺1人で入るつもりだったから、これからだ。」

「それでしたら、今回のメインはこちらでしたので、ご案内させていただきます。」

廃棄間近がメインって、頭おかしいんじゃねぇか?

俺が訝しんだ目を向けると、奴隷商がまた怖い笑顔を向けた。

「リキ様にとってのメインなのでこちらに置いてありますが、気に入っていただけるかと思います。」

「馬鹿にしてんのか?」

眉根を寄せて睨みつけるが、奴隷商は顔色一つ変えない。

「滅相もございません。私はあの無法者のような姿にはなりたくありませんので、失礼を働くつもりは毛頭ありませんよ。ただ、リキ様のことを私なりに考えた結果、オススメ商品だろうと思った次第です。不快に思わせてしまったのでしたら申し訳ございません。」

無法者の姿って、アオイは何をしたんだ?
ってかちょっと馬鹿にされた程度で俺がブチ切れると思ってんのか?
確かにイラっとはしたがな。
それにしても奴隷商から見た俺のイメージってのはちょっと気になるな。

「べつにいい。早く案内してくれ。」

「かしこまりました。こちらです。」

アリアたちには入り口前で待つように伝え、俺は奴隷商について中に入った。

中は相変わらず死臭のようなものが漂っている。

「今回オススメの2名は以前リキ様が捕まえてくださった無法者が所持していた奴隷になります。なので、リキ様の好みに合えば無料でお譲りいたします。」

「そういや他の奴隷も奴隷商が預かってるのか?」

「捜索願いが出されていた者は家族に返し、身分がハッキリしていたものは解放しました。残りはそれぞれのフロアにわけて展示してあります。」

ってことは既に俺は見てるのか。
まぁ詳しく誰かなんて聞く気はないがな。

「こちらが1人目です。」

檻の中を見ると赤い点が2つ見える。
暗さに目が慣れてきて、徐々に見えるようになった。

ボサボサの長い白髪の赤目の少女?セリナより子どもっぽく見えるがアリアよりは大きいか?

それよりも左腕がないのが目立つな。
顔だけは傷がなさそうだが、ボロ布から露出した手足は傷だらけだ。

かなり興奮しているようで、荒い息を吐きながら威嚇している。
開いた口から歯が見えるが、牙があるようだ。

ぱっと見は人間なんだが違うのか?

なんか肌も白いし髪も白くて赤目だから兎みたいだな。

「これは混ざり者です。元は人族だと思われるのですが、ステータスエラーを起こしていて、確認が取れませんでした。」

「ステータスエラー?」

「人族でも魔族でもこの世界ではステータスがあるのですが、稀にステータス表記のない者が現れることがあります。その者は理から外れたとされ、無条件で迫害されます。この商品は魔族と混じってしまったためにステータスエラーを起こしたのかと思うのですが、実際にステータスエラーを起こした者を見るのは初めてなため、詳しくはわかりません。かなり希少な存在なので、コレクターには高く売れると思いますのでオススメです。」

転売を勧めてどうすんだよ。
まぁ元は俺が手に入れたようなものだから、良さげなのは先に俺に話を通したってところか。

ここで俺が引き取らなきゃ、すぐにコレクターに買われちまうんだろうな。

でも片腕がないと戦闘の役に立たない可能性が高そうだ。

まぁ使えなければその時に売ればいいだけか。

あとは本人次第だな。

白髪赤目の少女の檻に近づくとさらに息を荒げて威嚇してきた。

軽くしゃがんで目線を合わせた。

「お前に選択肢をやる。俺についてくるか、ここに残ってコレクターに買われるか。好きな方を選べ。」

しばらく待つが、俺のことを睨んで息を荒げるだけで返事がない。

「もしかして言葉が通じないのか?元は人間なんだろ?」

「今も人間だ!」

おっ、反応があったな。
牙を剥き出しにして噛み付くような態度だが、反応があるならいい。

「なら話が早い。俺の奴隷になれば戦闘奴隷になることは確定だが、それ以外では人としての生活を送らせてやる。だが、コレクターに買われたら標本にされるかもしれないぞ?どうする?」

荒い息を吐くのはやめたが、まだ睨むだけで返事がない。
考えてるという感じでもないな。

これは待つだけ時間の無駄だな。
ひたすら粘ればどうにかなるかもしれないが、そこまでする必要性を感じないし、そんなに時間をかけたらオークションが始まっちまうからな。

「無理にとはいわねぇよ。まぁいい主と出会えるといいな。」

白髪赤目の少女に軽く手を上げてから立ち上がり、奴隷商に向き直る。

「もう1人を見せてもらおうか?」

「そちらの混ざり者はよろしいので?」

「無理やり奴隷にするつもりはないからな。本人が話をするつもりがないのならどうしようもない。」

「左様でございますか。それではもう1人の奴隷なのですが、正確には1体の魔物となります。」

「魔物まで扱ってるのか?」

「普段は扱いませんが、今回は押収品の中にあったからというのと、珍しいからという理由で連れてまいりました。まずは見ていただきたく思います。こちらです。」

奴隷商が指し示す檻を見ると、1人の少女が椅子に座っていた。

儚げで、座ってるだけで絵になりそうな少女だ。
光の加減で青くも見える黒い髪を腰まで伸ばし、目は吸い込まれるような黒い目をしている。

見た目年齢は10歳程度なんだが、可愛いより綺麗という言葉の方がしっくりくる、整った顔をしている。

無表情のはずなのに、なぜか悲しそうに見えてしまった。

「これが魔物なのか?人間でも魔族でもなく?」

「はい。これはヒトモドキという魔物です。ヒトモドキ自体は町の近くの森などで見かけることが多々ありますが、ここまで人族そっくりというだけでとても珍しいのに、ここまで整った顔立ちというのは見たことがありません。なので、こちらもコレクターには高く売れます。」

また転売を勧めてきやがった。
ん?そういやこいつは首輪も拘束衣もされてないな。

「こいつは首輪がされていないが、大丈夫なのか?」

「現在、魔物用の首輪がないので付けていませんが、ヒトモドキは戦うことを避けるために人の姿に似せているといわれているほど温厚なので問題はありません。」

温厚じゃ戦闘の役に立たなくねぇか?

「俺が求めてるのは戦闘奴隷だからな。戦えないんじゃ困る。」

「ヒトモドキは魔物なので戦えないということはないです。普段は温厚というだけであって、危機が迫れば人を襲います。」

それなら大丈夫か?
魔物というか魔族がイーラだけってのもかわいそうだし、こいつも仲間に入れるか。

「おい。こっち来い。」

檻の中に手を入れて呼びかけると、ヒトモドキはビクッと反応してこちらを見た。

こっちを見てはいるが、椅子から動こうとしない。

人が怖いのか?

「べつに攻撃するつもりはねぇよ。だから早く来い。」

そういや魔物だから言葉が理解できないのか?とも思ったが、ヒトモドキはゆっくりと立ち上がり、こちらに歩いてきた。

そのまま俺の元に来たかと思ったら、両手で俺の手を握ってきた。

べつに握手をしようと出してたわけじゃねぇけど、まぁ観察眼は反応してないからいいか。

ってかこいつは手も震えてるし、やけに怯えてやがるな。
なのによく握手なんてする気になったな。

まぁいい。

「俺は戦闘奴隷を集めている。お前の場合は魔物だから使い魔だな。だから戦闘を強要するが、それでもよければ受け入れろ。」

『テイム』

意外にもすんなり受け入れられた気がする。
怯えも少し和らいだようにも感じる。

「奴隷商。こいつは貰っていくから、使い魔契約をしてもいいか?」

「もちろんでございます。その場で使い魔契約が出来るとはさすがですね。」

使い魔契約はSPで取ったスキルだから誰でも使えると思うがな。

使い魔契約を発動して胸を選ぶと、黒い蠢く何かがヒトモドキの腕を伝って胸まで行き、浸透していった。

怯えすぎて震えではなく完全に硬直していたが、使い魔契約が終わると少し落ち着きを取り戻したようだ。

握られていた手を解いた。

それにしてもいっさい表情が変わらないな。

使い魔画面を見ると使い魔2となっていた。


名無し LV5
種族:ヒトモドキ
スキル 『擬人化』
加護 『護られる者』『成長補強」『成長増々』『進化補強』『状態維持』『成長促進』


擬人化…姿形を人間にすることが出来るスキル。


スキルで人の姿になってるってことは本来の姿があるのか?


「擬人化のスキルを解いてみろ。」

奴隷商が檻から出したヒトモドキに命令をしたが、無表情のまま首を振られた。

「いっておくが、俺の奴隷や使い魔には2つだけ絶対的なルールがある。『俺を裏切らない』と『俺の命令は絶対』だ。もう一度だけいう。擬人化のスキルを解いてみろ。嫌なら理由を述べろ。」

少しの間の後にヒトモドキはコクリと頷いた。

そういやヒトモドキは魔物だから理由をいえっていっても喋れねぇんだったな。



…たぶんスキルを解いたのだろう。

儚げで綺麗だったヒトモドキの顔が解けるように流れ落ち、黒い影の塊のようなものになった。

形は人型だが、髪も眉毛も目も鼻も口も耳もない。

黒いのっぺらぼうといった感じだな。

「ヒトモドキの本来の姿はこうなっていたのですね。リキ様のおかげで初めて見ることができました。」

隣で奴隷商が関心していた。

「口がないのに飯とかどうするんだろうな。」

なんとなく思ったことを口にしてしまった。

「魔物は食物を食べなくても餓死しません。魔物が何かを食べるとしたら、趣味か経験値を上げるため、もしくは攻撃手段といったところでしょう。」


…は?

え?じゃあイーラはなんなの?

今はデメリットスキルのせいだから仕方ないにしても、普段の飯は喰わせる必要がなかったってことか?

いや、1人だけ食わせないのもかわいそうだからべつにいいが、イーラ自身分かってんだろうから、そうならそうと教えておけよ。

「もう擬人化のスキルを使っていいぞ。」

俺が許可を出すとヒトモドキはすぐにさっきの少女の姿になった。

なんとなくその顔を触ってみたが、口は表面に付いてるだけで、開けられないみたいだ。

瞼は動くようで、瞬きはしている。

耳の穴に指を入れたらすぐに突き当たった。

本来の姿のうえに人の皮膚を被ってるような感じみたいだな。

一通り確認をして満足してからヒトモドキから離れると、ヒトモドキは魔物のくせに恥ずかしがっているようだ。
まぁ無表情なんだけど。

それにしてもヒトモドキって呼び名は長いな。
なんかてきとうに名前をつけてやるか。

ヒトモドキ…人みたいな者…ヒトミでいいか。

「名前がないと不便だから、お前のことは『ヒトミ』と呼ぼうと思うがいいか?」

ヒトモドキはコクリと頷いた。

魔物とも意思疎通ができるんだな。

改めて使い魔画面を確認すると、名無しがヒトミに変わっていた。

じゃあ用も済んだし帰るか。

奴隷商に向き直った。

「じゃあ俺は帰るが、またすぐにオークション会場で会うことになるのか?」

「いえ、私はここから離れるわけにはいきませんから、オークション会場には参りません。部下を行かせてあります。」

「そうか。じゃあまた機会があったらくるわ。」

「はい。リキ様の希望に応えられる奴隷を見つけましたら取り置きしておきます。」

けっきょくこいつは俺が戦闘奴隷を集めてると理解してたのか?

まぁとりあえずこの部屋から早く出るか。この空間に長居なんてしたくねぇしな。

最後に勧められていない他の奴隷も見てみるが、いいのはいなかった。

部屋から出るときに白髪赤眼の少女が寂しそうな顔をしているように見えたが、気にせず外に出た。

自分で選んだんだからな。好きに生きればいい。



部屋の外で待機していたアリアたちにヒトミを紹介して、奴隷市場を後にした。

コメント

  • 葉月二三

    すごくネタバレしたいですけど、あえて何も答えません!だから今後の展開を楽しみにしてもらえると嬉しいです!

    1
  • ユーノ

    クルムナが戦争で負けて鍛冶師の奴隷が市場に流れて来て仲間になるフラグだろうか・・・

    0
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