裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

84話



奴隷商は不気味なやつで仲良くなれるとは思わなかったが、それでも俺にとってはこの世界で長い付き合いのうちの1人だった。

まさかこんな形で裏切られるとは思わなかった。

自然と拳に力が入る。

だが、俺が殴りかかる前に奴隷商と黒服たちは一斉に胸に手を当てた。

その異様さに殴りかかるのを躊躇してしまった。

「まずは感謝を。私たちが見つけることのできなかった無法者を見つけていただき、ありがとうございます。」

黒服たちが一斉に頭を下げた。

これまた予想外な行動に俺はたじろぐ。

頭を上げた黒服たちはまだ胸に手を当てて、背筋を伸ばしている。

「そして謝罪を。私たちの無能がゆえにリキ様に迷惑をかけてしまい申し訳ございません。」

またしても一斉に頭を下げたが、今度はさっきよりも深く長く下げてから、頭を上げた。

「…どういうことだ?」

「実は裏商業ギルドに属さない者たちがこの町でルールを守らずに奴隷狩りをしているという情報が一月ほど前に私のところに届いたのですが、独自のルートで横流しをしているようで、全く足をつかむことができませんでした。」

ギルドマスターの責任として無法者を追ってたけど見つけられなかったってことか?

「今まではルールは守っていませんでしたが、法律は守っていたようなので私たち裏商業ギルドと被害者以外からは敵視されてはいませんでした。しかし、もうすぐ始まるオークションに出品するための珍しい種族の奴隷を手当たり次第に集め始めたようで、一般人に被害が出てしまいました。その1人がリキ様だったようです。」

そういや明後日だかにオークションがあるとかいってたな。

「特に本日の送魂祭は警備が手薄になってしまい、無法者が人攫いを行いやすい環境となってしまいました。」

「そんなのオークションに出した時点でバレて捕まるのがオチなんじゃねぇの?」

人の所有物の奴隷や一般人を勝手にオークションに出したら、黙ってないやつがいるだろう。

「オークションの開催者は権力のある方なため、オークションで問題を起こすことは暗黙の了解として禁止されています。なので、オークションに出品されてしまった時点で私たちでは手が出せなくなってしまうのです。」

なるほどね。
無法者たちはそれを知ってるから、ルールを破ってでも珍しい種族を捕まえたりしたわけか。
胸糞悪いやつらだな。

奴隷商の話を聞く限り、こいつらはカレンの誘拐については無関係っぽいな。

「無能な私どもが頼める立場でないことは承知のうえなのですが、後処理は私どもに任せてはいただけませんか?」

奴隷商の話では他にも捕まったやつらがいるっぽいし、俺は全員の世話ができるほどお人好しではない。
それに独自のルートを持ってるようなやつらなら、ヘタに俺らがやったことがバレたら面倒なことになるだろう。それは嫌だ。

「俺はカレンを助けられればそれでいい。あとは好きにしろ。ただ、中に俺の仲間がいるから、近づいたら勘違いして殺されるかもしれないぞ。」

「妾はもうここにおるぞ。」

真後ろから声がして振り向くと、そこには血だらけの男がいた。

アオイがそんなに怪我をするほど強い相手ではなかった気がするが…ボスのようなやつがいたのか?

「そんな驚いた顔をするでない。…あぁ、この傷のことか?これは自分でつけたのじゃよ。ほれ。」

アオイが自分の刀を差し出してきた。

もう満足したようだから、その刀を受け取ろうと手を出したら、男は自分の喉を潰してから俺の手の上に刀を置いた。

そのまま刀を受け取ると、男は崩れ落ちて呻いている。

「こいつもその無法者の一味だ。処分は任せる。後は好きにして構わないが、俺は何も関与していない。それでいいか?」

「もちろんでございます。私どもが見つけて、裏商業ギルドのルールに従って処分しただけでございます。リキ様には全くの別件でお礼をしたいと思っております。」

そのあたりはわかっているようだから話が早いな。

「それじゃあ俺らはもう帰る。行くぞイーラ。」

「は〜い。」

俺らが去ろうとすると、黒服たちが一斉に無言で頭を下げた。

俺らが見えなくなるまでそうするつもりなのだろう。

そんなことより早くカレンの怪我を治してやらなきゃだよな。

俺は奴隷商に振り向くことなく、アリアの元へと戻った。

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