裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

83話



準備といっても外していた装備品をつける程度だから2.3分で整った。

「俺とイーラ、アリアとセリナの二手に分かれて探す。カレンとアオイを見つけ次第、空に向かって上級魔法の電を打ち上げろ。」

「「「はい。」」」

「テンコはカレンとアオイが戻ってきたときのためにここに残れ。カレンが帰ってきたらこのブレスレットを渡して俺に呼びかけるように伝えてくれ。」

テンコにケニメイトから奪っ…もらった以心伝心のブレスレットを渡した。

「はい。」

「アリアはある程度のことは許すから、速度重視で頼む。」

「…はい。」



俺はイーラを連れて外に出て、宿の裏手に回った。

「イーラ。俺を乗せて速く走れる魔物になれ。小さめの魔物が好ましい。」

「は〜い。」

イーラがいつもの犬のような魔物の小さい版もとい本来のこの犬のような魔物になった。
いや、微妙に違うみたいだ。よく見るとところどころに違う魔物のパーツが入っている。
今はそんなことはどうでもいいか。

とりあえずイーラの背中に乗った。

「できる限りの速度でこの町を全て回れ。」

「ガウッ。」

不意に両手両足がイーラの体に吸い込まれた。

イーラが自ら俺の両手両足を固定するということはそれだけの速度を出すつもりなのだろう。

今日に限っては好ましいことだ。

あとは俺の観察眼にカレンが映れば反応するはずだ。

俺側はイーラの速度と俺の観察眼頼みで、アリアの方はセリナの超感覚頼りだ。

ただの迷子ならそれでいいんだが、違うなら手遅れになる前に見つけねぇと…。



俺たちとアリアたちは冒険者ギルド横の宿を挟んで反対方向に向かって捜索を開始した。

イーラは凄い早さで道や壁や屋根の上など、縦横無尽に駆け回った。

何人かの人に見られたが、この暗い中で一瞬だから俺らだとはわからないだろう。

観察眼をフルに使っても何も反応がない状態でどんどん先に進んでいく。

もうすぐ一周しそうだが見つからない…。しらみつぶしに探すのは無理があるかと思い始めた頃、観察眼が反応した。

ここはカレンと初めて会ったあたりのスラム街だ。

「イーラ止まれ!」

いつも通りの血の跡を作って急ブレーキをかけた。それでもだいぶ先まで進んでしまったから、急いで戻って確認した。

俺の観察眼に映ったのはカレンではなくアオイだと思われる刀だった。

なんか歪なオーラのようなものを発している。まるで殺気が視覚化されたかのようだ。

「そこにいるのはリキ殿か?」

念話で話しかけられた。間違いなくアオイだろう。

「そうだ。カレンはどうした?」

「人族二人組に連れ去られた。」

アオイは悔しそうな怒りのこもった声で返答してきた。

やっぱりただの迷子じゃねぇのか。

「場所はわかるか?」

「妾の切っ先側に走って行ったのはわかるが、妾がわかる範囲外に出てしまっておるからわからぬわ。」

切っ先側といったら俺らが来た方向とは逆だ。どちらかといえば俺らがいた宿の方か。

刀の切っ先側に視線を向けるが、もちろん今は誰もいないし、明かりのある建物もない。

とりあえずアオイについてる紐を肩にかけて、アオイを背負う。

「イーラ。奴隷市場に行け。」

「ガウッ。」

犯人の場所がわからないなら可能性を潰すしかないだろう。



奴隷市場の前に止まると、こんな夜中なのに奴隷商が外に立っていた。

「これはリキ様、こんな時間に珍しいですね。いかがいたしました?」

「俺の奴隷を売ろうとしたやつはいなかったか?覚えているかはわからねぇが、鬼人族の子どもだ。」

「リキ様がここに連れてこられた奴隷は全て把握しております。ですが、ここに売られてきてはいませんね。」

奴隷商はイーラを鼻先から尻尾まで見た後に目線を俺に戻した。

「心当たりはないか?」

「申し訳ございませんが、人の所有物となっている奴隷を奪う方の心当たりはありません。」

なんか引っかかるいいまわしだな。
奴隷狩りの心当たりはありそうだが、こいつは取引先の情報は拷問したって吐かなそうだな。

「それならいい。邪魔したな。」

余計な時間をくっちまった。
やはりスラム街を探すべきか。

そう思ってスラム街に視線を向けると雷のようなものが見えた。

雨雲なんてないから、あれはアリアの合図だろう。

「あの光のところに行け。」

「ガウッ。」

奴隷商に別れも告げずにアリアのところに向かった。




電気柱の場所は奴隷市場からそこまで離れていなかったからすぐに到着した。

アリアとセリナは建物の陰に隠れていた。
その隣に近づいた。

「カレンはどこだ?」

「…あの中だとセリナさんがいっています。」

どうやら建物の中にいるらしい。
入口から階段で下りる場所のようだ。
これじゃあ俺が仮にここを通ったとしても見つけられなかったな。

入口には見張りがいるようだ。

「早くしにゃいとカレンの血の匂いがするから危にゃいかもしれにゃい。」

セリナの発言を聞いてアオイが俺の体を奪おうとしてきたが、何かが拒んでくれている。だが、怒りだけは少し流れ込んできているようだ。

そりゃ自分の子どもが傷つけられてると知れば怒るわな。
だが俺の体を貸してやるわけにはいかない。


俺もそうとう頭にきてるからな。


「イーラ。フルプレートアーマーになって俺を包め。」

「ガウッ。」

俺に覆いかぶさってきたイーラが溶けるように俺を包み、全身鎧になった。

表面が赤いところを見ると、いわずもがなムカデの外皮で作ったようだ。

「アリアたちはここで待機だ。」

「「はい。」」

建物の陰から出て、建物に歩いていく。

全く隠れずに歩いているから、もちろん見張りに見つかった。

だが関係ない。

「おい。お前!それ以上近づいたらこ…。」

邪魔だから退けようと手を払っただけなのだが、勢いよくやりすぎたのか首がもげてしまった。
見張りのくせに弱すぎるだろ。
まぁいい。

そのまま入口から続く階段を下りた。

階段下にあった扉を開けて中に入ると微かに物音が聞こえる。

物音がする方に走ると、音の発信源だと思われる部屋の前にまた見張りがいた。

「お前!どうやっ…。」

アオイの刀を男の腹に刺した。

「アオイの怒りはずっと伝わってきてたからな。そいつの体は好きに使え。」

俺はアオイが男を乗っ取るのを待たずに扉を蹴破った。

「「なんだ!?」」

中には男が2人と傷だらけで吊るされているカレンがいた。

「…最初は俺の奴隷を返せばあとは金で解決してやろうと思ってたが、お前らはもうダメだ。」

拳を握って殴り殺そうとしたところで、肩を掴まれた。

「リキ殿。すまぬがここは妾に譲ってはくれぬか?」

触られた肩が凍るような錯覚を覚えるほどに冷たい殺気を放っていた。

俺もイラついてはいるが、ここは俺の出番ではないだろう。

「好きにしろ。だが、口は必ず封じろ。」

「わかっておる。」

男2人は仲間がいつもと雰囲気が違うのを察して戦闘態勢を取った。

俺はその2人を無視して間を通り、カレンが吊るされてる鎖をイーラに食べさせ、鎖が取れたカレンを抱きかかえた。

「…にいちゃん?」

「あぁ、そうだ。助けるのが遅れて悪い。」

「なんで?」

「ん?そりゃ仲間だからな。それより今はあまり喋るな。傷に響くだろ?」

「わかんないよ…。」

カレンがいきなり俺の胸で泣き始めた。…俺がわかんないよ。

これだけのやり取りをしていても男2人は俺の邪魔はしてこなかった。
まぁアオイの殺気が凄すぎて俺に構う余裕がなかったんだろうな。

早くカレンの傷を治してやりたいから先に外に出るかと思ったら、足元に何かが転がっていた。

踏みそうになったのを咄嗟に避けると、ボロボロになった子どもの死体だ。
いや、微かに動いてるな。

ついでだからとりあえず連れて行くか。

「イーラ。もう顔を隠す必要がなくなったから、人型に戻ってこの子を担いでくれ。」

イーラは溶けるように俺から離れていき、人型になった。

「は〜い。」

イーラは怪我人への配慮など一切なく、片手で掴んで肩に担いだ。

アオイが男2人に怒りをぶつけている横を通り、出口を目指した。

階段を上って外に出ると、そこには複数の黒服の男たちが立っていた。

「何でここにいる?お前が黒幕なのか?奴隷商!」

黒服の真ん中にいた奴隷商がニコリと笑顔を見せた。

「これはこれはリキ様。私は非公式ですが、裏商業ギルドのマスターをさせていただいている、ガイトス・デニーロと申します。以後お見知り置きを。」

奴隷商は胸に手を当て、恭しく礼をした。

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