裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
63話
振り向くと後ろには第三王女と護衛っぽい男が2人いた。
なんで主催者がこっちにいるんだ?
「っ!?…ローウィンス様!?え!?Sランク!?」
マリナは本当に騒がしい女だな。
アリアたちをちょっとは見習えよ。
イーラとセリナすら静かにしてるぞ?
ん?なんか全員が俺のことを黙ってガン見してる気もするが、気のせいか?
まぁいい。
マリナは第三王女を知ってるんだな。
「お久しぶりです。リキ様。」
「あぁ。なんでお前がここにいんだ?主催者なんだからあっちで仕切ってろよ。」
「今日はリキ様とずっと一緒にいさせていただく約束ですので、私の居場所はここであっていますよ。」
何いってんだ?こいつは。
そんな約束をした記憶がないんだが、まぁ依頼主がそうだっていうなら好きにしろとしか俺にはいえねぇか。
「ずいぶんと仲間の方が増えていらっしゃいますね。…あら?そちらの方はもしかしてクリアナさんの娘さんで、えっと…マリナさん?」
「なんだ?知り合いか?」
「クリアナさんのお店はよく利用させていただいているので、何度かお会いしたことがあります。」
「あっえっ、ご、ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。本日はよろしくお願いします。」
お願いされたのは俺たちの方なんだがな。
「いいからもうマリナは下がってろ。そんなにテンパられたら主として恥ずかしい。」
「…すみません。」
「リキ様に雇われているのですか?」
「マリナは今は俺の奴隷だ。俺は奴隷以外とパーティーを組むつもりはないからな。」
第三王女は俺の後ろのアリアたちをチラリと見た。
「その話は本当だったのですね。では、後ろにいらっしゃる可愛い娘たちは皆さんリキ様の奴隷なのですか?」
「まぁそんなとこだ。」
イーラは奴隷じゃなくて使い魔だから若干曖昧な答えになったが、第三王女に嘘だと判定はされなかったようだ。
「女の子ばかりですが、大丈夫なのですか?」
第三王女じゃ見ただけで相手の力がなんとなくわかるってことがなくても仕方がないから、戦いに女の子が使えるのか心配なのだろう。
「こいつらは戦闘奴隷だから問題ない。マリナ以外は死なない程度には育ててある。マリナは周りがフォローするから心配ない。いっとくがお前に何かあっても護ってやる余力はねぇぞ?」
第三王女の護衛っぽい男2人のうち1人が拳を強く握ったのが見えた。
さすがに第三王女をお前呼びは聞き捨てならなかったか?
まぁ俺には関係ないがな。
「私のことは心配せずとも大丈夫なので、リキ様の思うようにダンジョン攻略をしてください。頼りになる護衛とともに私は勝手について行きます。」
「本気でついてくるつもりなのか?」
「もちろんです。」
マジで厄介だな。
王女から視線をそらした先にふと何かが映った。
気になった先を改めて見ると、細身で首輪をつけた長い金髪の女が立っていた。
鑑定を発動するが、認識阻害を使っているようだ。
徐々に鑑定を強めていると、見られてることに気づいたのか、女がこちらを向いた。
それとほぼ同時に頭が割れそうだが、なんとか簡易的なステータスが見れた。
カルナコック エルフ 86歳(奴隷)
魔導師LV80
状態異常:なし
間違いねぇ。
やっぱりエルフだ。
エルフの女に飛びかかろうとしたところを前からイーラ、後ろからセリナに抱きつかれ、アリアが大の字になって道をふさいできた。
なぜ邪魔をする?
というかその程度で俺の邪魔が出来ると思ってるのか?
イーラとセリナに抱きつかれたままアリアの頭を越えてエルフの女の元に行くべく足に力を入れたところで、カレンが鞘付きの刀で殴りかかってきた。
咄嗟に掴もうとしたが、これはアオイの刀じゃねぇか。
なんか嫌な予感がして、イーラを盾にした。
「お前らなんのつもりだ?」
「…リキ様。ごめんなさい。非礼はお詫びします。ですが、彼女はダメです。彼女は他の方の奴隷です。他の方の所有物に手を出すのはおやめください。勝手な行動の罰はわたしが全て受けます。だから、お願いします。」
こいつらは最初からあのエルフに気づいてやがったのか。
静かだったのは俺の行動に即対応するためとかか?
ふざけたことしやがって。
気にくわないが、おかげで少し冷静になれた。
人の所有物を壊して弁償とかバカらしいからな。
「悪い。頭に血がのぼった。べつにアリアに罰を与えるつもりはないが、気づいてたんなら先にいえ。」
「…はい。ごめんなさい。」
もう襲いかかる気がなくなったのを察したのか、イーラとセリナが俺から離れた。
あらためてエルフの女を見ると、そばにいた1人の男がこちらに歩いてきていた。
なんだ?
目の前に止まると睨みつけてきた。
「俺様の奴隷になんかようか?」
「は?」
なんだこいつ。
「エルフが欲しいのか?」
「違えよ。エルフにゃ恨みがあったから殺そうと思っただけだ。でもお前の所有物なら手を出さねぇから安心しろ。」
安心しろといってやってるのに男は眉根を寄せている。
「お前は見たことねぇが、何ランクだ?」
「Fランクだが、それがどうした?」
「は?Fランクの分際で俺様をお前呼ばわりしやがったのか?ふざけるなよ。それよりなんでFランクがここにいる?俺様みたいな有名人を見たくて来たんならさっさと帰れ。このクエストはFランクが来るような難易度じゃねぇんだよ。」
こいつは俺に喧嘩を売ってんだよな?
こいつが何ランクなのかは知らねぇが、見た感じセリナでも勝てる。
よくその程度で喧嘩を売れるな。
「アハハッ。リキ様にそっくりだね。」
隣でふざけたことをぬかしたイーラの額に全力で裏拳を打ち込んだ。
イーラがスライムだからか、全力で殴ったのにペチッという音がなっただけで、吹っ飛ぶことも痛がることもなかった。
「え?え?なんで殴られたの?え?」
素手で殴ったから痛くはないのだろうが、イーラはビックリしながら額を押さえて俺を見ている。
「俺とこいつのどこが似てんだ?」
「すぐ怒るところ?」
「ふざけたことをいってると今度はガントレットをはめて殴るぞ?」
「う〜。ごめんなさい。」
喧嘩を売ってきた男は無視されて、イライラしてるのが見て取れる。
「俺がどこにいようがお前には関係ないだろ。とっとと失せろ。」
「キサマ!」
「喧嘩はおやめください。彼はわたしの護衛としてお呼びした方なので、ランクは関係ありません。」
殴りあいになるかというところで、第三王女が間に入ってきた。
ってか護衛なんて初耳だし、さっき護らねぇっていったはずなんだが?
「え!?ローウィンス様!?こ、これは失礼いたしました。」
男は胸に片手をあてて、頭を下げた。
「わかればいいのです。お下がりなさい。」
「はっ!」
頭を上げた際に俺を一度睨んだ後、仲間の元へと戻っていった。
男の仲間は全員首輪をしているようだ。
こいつも奴隷しか仲間にしない主義なのかもな。
ずいぶん偉そうな態度をとってたくせに第三王女には従順なんだな。
なんかダサい。
「それではリキ様。騎士からの説明も終わったようなので、私たちもダンジョンに向かいましょう。」
集まっていた冒険者たちがぞろぞろとダンジョンに向かうのに続いて、俺たちも歩き始めた。
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