裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
52話
…ろだな。
あれ?
目の前に男がいない。
それに体が痺れてるし、寝起きのような怠さがあるな。
首を巡らせるてわかったのは俺はダンジョン内で寝ているようだ。
凍っている男が近くにいるから、さっきの出来事は夢ではないようだな。
どうやら俺は死んでないみたいだ…。
良かった…。
周りには見覚えのある空き瓶が大量にある。
あれは以前、川の水を汲むために買った瓶だな。
他にも俺が凍る間際にアリアが飲んでいたやつと同じ空き瓶も数本転がっている。
凍った俺を水で溶かして魔法で回復してくれたってところか?
俺が死ねば奴隷から解放されるってのに助けてくれるってことはこいつらも仲間と思ってくれてるのだろうか?
地味に嬉しいな。
やけに体が重いと思ったら3人も地面に座って俯いて上半身を俺の体に乗せてやがる。
こいつら泣いてんのか?
もう一度首を巡らせると、カレンだけ壁際で刀を抱えて蹲っている。
とりあえず起きるか。
「助けてくれてありがとう。もう大丈夫だ。」
まだ少し怠いが、寝すぎた怠さに似てるから動いた方が治りそうな気がする。
「「「リギザマ!」」」
3人揃って俺の名前がいえてねぇぞ。
まぁ俺のために泣いてくれてんなら、余計なことをいうべきじゃねぇか。
「心配かけて悪いな。」
3人が顔を上げたから、上半身を起こすと、アリアが抱きついてきた。
アリアが抱きついてくるとか珍しいな。
「…ごめんなさい。もう…リキ様を困らせる…ようなことは…いいません。ワガママも…いいません。だから、私を置いて逝かないでください。…お願いします。お願いします…。」
最近おかしいことの自覚はあったんだな。
まぁアリアだって人間だ。そういう時期だってあんだろう。
「「リキ様〜。」」
イーラとセリナも泣きながらアリアごと俺に抱きついてきた。
カレンだけどうしていいかわからずオロオロしている。
「今回は俺の判断ミスだ。いや、今回だけじゃない、今まではたまたま上手くいっていたからって調子に乗っていた。すまん。」
異世界に飛ばされて、魔物と戦ったら思いの外通用して、口では弱いといいながら、心の奥底では慢心していたのだろう。
どこぞの勇者みたいにならないとか思いながら、変わらねぇじゃねぇか。
「アリアたちが助けてくれなきゃ、そんな後悔をすることすらできなかった。本当に感謝してる。ありがとう。」
「「「リキ様…。」」」
アリアたちは泣いてるからか、返答が俺の名前だ。
まぁいい。
「アリア!」
「…はい。」
「俺は弱い。アリアが思っているより確実にな。アリアの幻想を壊しちまって悪いが、現実の俺を見てくれ。これからも俺はアリアに頼っていくつもりだ。期待してくれてるのは嬉しいが、実力以上のことはできないとあらためて実感した。だから、よろしく頼む。」
「…はい。」
「それと、アリアは奴隷だが仲間だ。だからワガママはいってかまわない。もちろん受け入れるかは別の話だが、俺は従順な奴隷が欲しいわけじゃない。まぁ新人に当たるような真似は許容しかねるが、アリアはアリアでいてくれればいい。」
「…はい。ありがとう…ございます。」
「イーラ!」
「はい!」
「今回は敵の相性的にイーラに頼るべきだった。何でもかんでも自分でやろう。自分しかできないと慢心していた。この前イーラに戦い方を注意したが、まずは自分を見直せって感じだな。すまん。」
「そんなことない!イーラはリキ様の隣に並べるようにもっと頑張るから!頑張るから!」
「ありがとう。」
「エヘヘ。」
「セリナ!」
「はい。」
「セリナの忠告を無視してすまない。今回に限らずだ。セリナの忠告よりも自分の直感を優先したせいで死ぬところ…いや、死んでいた。これからはセリナの忠告はちゃんと聞く。聞いたうえで考えてから行動することにする。今まですまん。これからも頼む。」
「とんでも…にゃいです。グスッ。よろしく…お願いします。」
「カレン!」
「っ!?…はい。」
「無様な姿を見せて悪いが、これでわかっただろ?攻撃を受けない重要性が。強いやつの攻撃は武器で受けたら武器ごとやられる。少し受け流すのを失敗しただけであのザマだ。最初の攻撃を正面で受けてたらその場で一度死んでいた。だから、カレンはこうならないように強くなってくれ。」
「はい。」
だいぶ体もよくなってきたし、抱きついている3人を引き剥がして立ち上がる。
軽く体を動かすが問題ないようだ。
なんとなしに腕時計を見ると、壊れてはいないようだ。今は5時…17時!?
凍ってたからか一瞬だったが、そんなに時間がたってやがったのか。
そりゃ心配かけちまったかもな。
俺は疲れてなくても、今日は一度帰った方がいいだろう。
「今日は俺のせいでもうすぐ夜になっちまうから、この男の装備品を回収したら宿に帰るぞ。フロアボスは明日だ。」
装備品を回収っていっても、よく見ると男はボロボロだ。刀くらいしか使えそうなのはないな。
アイテムボックスから衝撃爆発のハンマーを取り出して、刀を握っている男の手に軽く叩きつけた。
やっぱり叩きつけた威力で爆発の大きさが変わるらしく、程よい爆発が起きて、男の右手が砕け散り、刀が吹っ飛んで地面を転がった。
ついでに左手で握ってる鞘も同じようにして奪った。
転がっていった刀のところに行き拾うと、何かが俺に侵入しようとするのを別の何かが拒んでいるような不思議な感覚があった。
「やはり我は精神攻撃耐性を持っておるようじゃの。」
頭に直接言葉が響いた。
なんだ?
「言葉は届いているようじゃの。しかし、乗っ取れぬのならもう何も手がない。妾の負けじゃな。」
この喋り方はさっきの男!?
でも凍ってるし、乗っ取る?…もしかして、この刀が本体なのか!?
またなんの警戒もなく拾っちまってたよ。
俺に精神攻撃耐性がなかったら本当にバッドエンドになるところだった。
さっき反省したばかりなのに、後悔が足りてねぇんじゃねぇのか?でもマジで装備が本体とは思ってもなかった。
『テイム』
「我は妾を馬鹿にしておるのか!?妾は魔物ではない!」
ならあとは奴隷契約くらいしかないな。でも人じゃないのに使えるのか?
まぁ使うだけ使ってみるか。
奴隷契約を発動して胸を選択すると、俺の右手から現れた黒い何かが刀のいたるところで蠢いている。
しばらくして、黒い何かは俺の右手に戻ってきた。
戻ってきたのは初めてだな。
奴隷画面を見ると追加されてない。拒否られたということか。
「魔物じゃないからといって即座に奴隷にしようとはさすが人族じゃな。だが負けたからといって奴隷になどなるものか!」
「そうか。なら壊すしかないな。」
「待て待て待て!普通に武器として使うとか、ここに置いていくとかあるじゃろ?」
「は?んな選択肢はねぇよ。俺は奴隷以外をパーティーに入れるつもりもなければ、敵意を向けてきたやつを放置するつもりもない。デッドオアスレイブ。死ぬか奴隷かだ。」
「なんと傲慢な…じゃから人族は好かぬ。」
「いいから早く決めろ。」
「なら殺せ。」
ずいぶん潔いな。
こんな潔いやつがなんで人族だけ嫌ってるのかがちょっと気になるな。
壊す前に聞いてみるか。
「わかった。ちなみになんでそんなに人族を嫌ってんだ?」
「あんな繁殖能力しか持たぬような弱小種族のくせに周りを見下す傲慢な種族を嫌わぬ方が無理というものじゃ。」
…酷いいわれようだな。
アリアに確認を取ってみようとアリアを向く。
「そうなのか?」
アリアは「何が?」といいたそうに首を傾げた。
アリアにしては珍しく、俺らの話を聞いてなかったのか?
「…リキ様。先ほどからどなたと話しているのですか?」
「…え?アリアにはこいつの声が聞こえてないのか?」
「…はい。」
嘘だろ?それじゃ俺がデカい声で独り言をいってる痛い奴にしか見えねぇじゃねぇか。
「そりゃそうじゃ。妾は我にしか話しかけておらん。他のものに聞こえるはずもなかろうに。」
話す相手を選べるのか。
スキルだとしたらけっこう使えそうなスキルだな。
それはあとでいいか。
「なら俺が話すが、人族は繁殖能力しか持たない弱小種族なのか?」
傲慢なのは人族に限らない気がするから聞かなくていいや。
「…確かに人族が他の種族よりも特出しているのは繁殖能力かもしれませんが、弱小種族ではないかと思います。」
「どういうことだ?」
「…それぞれの種族に特出したものがあります。主な種族でいうと、獣人が力、エルフが魔法、ドワーフが知能、そして人族が繁殖能力です。どの種族とも子をなせるのは人族だけです。ですが、人族は特出していないだけで、全てがそこそこ使えます。なので弱小種族ではないと思います。」
どの種族とも子が成せるとか人族の繁殖力は凄えな。
じゃあハーフイコール半分は人族なわけね。
「理解した。ありがとう。」
「…はい。」
「それと俺が話してたのはこの刀だ。さっきの男の本体はこの刀の方だったみたいだ。」
「「「「!?」」」」
4人が咄嗟に構えた。
俺が乗っ取られて攻撃してくる可能性を考慮したのか?
「俺のことは乗っ取れないらしいからたぶん大丈夫だ。」
4人はそれでも構えをとかなかった。
まぁ既に乗っ取られて嘘をついてる可能性もあるからな。
まぁでも精神攻撃耐性のおかげで乗っ取られずにすんで本当に良かった。
…待てよ。そもそも俺って精神攻撃耐性なんて持ってたか?
ステータスの加護を確認してみるがなかった。
どういうことだ?
本当は既に乗っ取られているのか?
でもこいつの侵入を拒んだ感覚はあったんだよな。
まだよくわかってないスキルに精神攻撃耐性的なのがあったのかもな。
今はそれで納得しておこう。
「繁殖能力が特出してることは確認取れたが、傲慢なのは人族に限ったことじゃないだろ?そこまで嫌う理由になるのか?」
「我はなぜそこまで妾に興味がある?女ならこんな物でも良いのか?やはり人族じゃな。」
「は?お前、女だったの?」
「な!?言葉遣いでわかるじゃろ?」
「いや、わかんねぇわ。男の体を使ってるから男だと思ってた。」
確かに頭に直接流れてくる声は女だから、いわれたら納得したけど、最初のイメージが強すぎて、声と言葉遣いだけじゃわからなかった。そもそもこの言葉遣いが女だとは知らなかったし。
「我は失礼だが、面白いやつじゃの。別に隠すことでもないから、冥土の土産に教えてあげようぞ。」
冥土の土産なんて本当に使うやつがいるんだな。
漫画の中だけだと思ったが、まぁこの世界自体がファンタジーだし。
というか死ぬのは俺じゃないんだけどな。
「妾は人族に殺されたのじゃよ。村付近に魔物が大量に現れたと知らせが入ったときに、妾が鬼族というだけで妾が魔物を呼んだなどと意味のわからないことを理由とし、魔物を鎮める生贄にされたのじゃ。」
「…マジかよ。」
「もちろん最初は断ったがのぅ。村の奴らなど本気を出すまでもなく全滅させられるからの。じゃが、夫と産まれたばかりの娘を人質に取られてしまったのじゃ。そんな状態で抵抗などできるわけもなかろう?だから生きたまま焼かれたわい。それで救われると信じてる狂った村人どもも見ているだけで止めようともしない人族の兵士どもも皆許さぬと思っておったら成仏できんかったようでな。気づいたらこの刀に憑依しておった。そして、あの氷漬けの男は最初に妾を拾ったのが運の尽き、同族殺しを何年もすることになったのじゃ。」
こいつも復讐者なのか。
なんか壊すのがもったいなく感じてきたな。
それにしても今の話は聞いてて引っかかる部分があったな。
違うとは思うが、聞くだけ聞いてみるか。
「お前の娘ってカレンって名前か?」
「っ!?…なぜ知っておる?」
「もしかして、お前の家名ってニノミヤか?」
「そうじゃの。妾はアオイ・ニノミヤじゃ。それがどうした?」
やっぱりか。
「たぶんだが、そこにいる鬼人族はお前の娘だ。カレン・ニノミヤ。まぁ俺の奴隷になったせいで家名はなくなって、ただのカレンになっちまったがな。」
「なんじゃと!?奴隷になったじゃと!?ならば我を殺して解放させてやらんと。」
なんだか殺気のようなものが流れてくる気がする。
「待て待て待て!カレンは自分の意思で俺の奴隷になった。もともと町の中のスラム街にいたとこを拾っただけだ。いっとくが俺が拾わなきゃ餓死してたぞ。」
まぁそこに付け込んで奴隷にさせたんだがな。
少しの沈黙があった。
ん?いきなり成仏したのか?
「本当みたいじゃな。」
「は?」
「今カレンと念話をして確認を取った。仕方ないから仲間になってやってもよいぞ。」
俺と話してたのは念話だったのか。
他のやつとも念話ができるのか。
「でもカレンは念話を使えないと思うが、お前が使えれば相手も使えんのか?」
「いや、本当なら頷くように指示しただけじゃよ。」
そういうことかよ。
「ってか刀なのに見えんの?」
「見えるわけがなかろう。だが、刀になって長いこと生きておるからのう、感覚でわかるわい。乗っ取っておった男も飯を食わさなかったら途中で死んでもうたから、目が見えなくなって感覚でしか見ることが出来んかったからなおさらじゃな。」
第六感を極めてるのか。さすが霊体ってところか。
だからイーラを魔物とわかっても仲間とわからなかったわけだ。
「あと、仲間になるとかいわれても、俺は奴隷以外をパーティーに入れる気はないから、奴隷になんねぇなら壊すって予定は変える気ねぇよ?」
興味本位で聞いたことが意外な結果にはなったけど、だからって俺には関係ないしな。
「なんじゃと!?我は悪魔か!?」
「先に殺そうとしたのはお前だろ?自業自得だ。しゃーねぇからもう一度だけ好きな方を選ばしてやる。壊されるか、俺の奴隷になるか。」
「この姿じゃたいしたこともされんからのぉ。奴隷になってやるわい。」
「なんで偉そうなんだよ!?」
「すまぬ。元々の性格じゃが、奴隷になるのなら直す努力をせねばな。」
わかってはいるようだからいいか。
あらためて奴隷契約を発動して胸を選ぶと、俺の右手から現れた黒い何かが刀を這って蠢いている。
しばらくして刀に吸い込まれていき、柄の部分に奴隷紋が刻まれた。
奴隷画面を確認すると奴隷4として表示されていた。
奴隷4
アオイ 14歳
鬼族LV138
状態異常:なし
スキル 『寄生』『念話』『朧』『縮歩』『不老』『精神侵食』『居合』
加護 『精神攻撃耐性』『成長補強』『成長増々』『状態維持』『成長促進』『奴隷補強』
レベル138!?
そりゃあ勝てるわけがねぇ。
鬼族…鬼族固有のジョブ。上限はない。
初期のジョブで上限なしかよ。
ってか14歳ってカレンを4歳で産んでんのか!?
怖いわ。
それにスキルが聞いたことないのばかりだ。
寄生…宿主の体を乗っ取ることができるスキル。
念話…任意の相手の頭に直接話しかけることができるスキル。
朧…姿を霞ませることができるスキル。
縮歩…身体能力に応じた距離を瞬間的に移動できるスキル。
不老…歳を取らなくなるスキル。常時発動型。
精神侵食…任意の相手の精神を攻撃するスキル。
居合…居合の速度が上がるスキル。常時発動型。
とりあえずパーティー登録をした。
これで6人になったな。正確には4人と1体と1本だが。
そして間違いなく俺のパーティーで一番強いのはアオイだろう。
「そういえば、まだお主の名前を聞いておらんかったわい。」
「そうだったか?俺は神野 力。力が名前だ。」
「そうか。これからよろしく頼むぞ、リキ殿。」
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コメント
葉月二三
一気に読んでくれてるんですね!
当作品はファンタジーなので、深く考えてはダメですw
パトニキ・フォン・アインツベルン
なんか、すごい展開だね、ファンタジーだ。
葉月二三
ありがとうございます!
修正しました!
ノベルバユーザー232154
弱小種族ではないかと思います。
→
弱小種族ではないと思います。
の方が文脈として合っていると思います。