裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

45話



宿のチェックアウトを済ませて、おっちゃんの肉串屋にきた。

「おっちゃん久しぶり!」

「おう、あんちゃん!元気そうじゃねぇか!」

セリナを仲間にしたときに来て以来だから5日ぶりか?たいして久しぶりじゃなかったな。

「今日は新しい仲間が増えた祝いだ。特上を5本くれ。」

「毎度!この前来てからたいして経ってねぇのに2人も増えたんだな。儲かってるようでなによりだ。」

武器防具屋のおっさんにもいわれたが、奴隷が増えてるのと儲かってるのって関係あるのか?

「増えたのは1人だぞ?ちなみにカレンだ。これからこいつのレベルを上げに行くところだ。それにこいつはスラム街から拾ってきて、同意のうえで奴隷にしたから金はかかってねぇ。」

「鬼人族の嬢ちゃんをタダで手に入れるとは運がいいな、あんちゃんは。あと、そっちの黒と青の髪の嬢ちゃんも新入りだろ?」

なんでそんなすぐに鬼人族ってわかるんだ?着物のせいか?それともこの距離で目が見えてるのか?
ってかおっちゃんはイーラを何度か見てるはずだが。

「イーラは獣人のセリナより前からいたぞ?…あぁ、なるほど。イーラ。元に戻れ。」

「…は〜い。」

周りに見られないように念のため炎耐性のローブをアイテムボックスから取り出して隠した。

「マジかよ!?あのときのスライムか!?なんでスライムなんか頭に乗せてんだ?頭がおかしくなったのか?とか思ってて悪い!まさかあんちゃんは魔族を従えるほどの大物だったとはビックリしたわ。」

サラッと酷いことをいわなかったか?

俺が命令していないのにイーラは人型に戻った。
まぁおっちゃんに見せたかっただけだからいいんだが。



「だから王族のやつらが聞きに来たのか。」


おっちゃんがボソッと言葉をこぼした。


「ちょっと待て!王族のやつらがここに来たのか?」

確かに第三王女が調べたとかいってたけど、王族の名前を出して俺を探してやがったのか?だとしたら変な噂が流れるかもしれねぇじゃねぇか。

マジでふざけんな!

「王族とは名乗ってなかったけど、ありゃあたぶん第三王女だな。平民の格好をして紛れようとしてたみたいだが、俺は前に見たことあるからよ。そんでその第三王女があんちゃんのことをいろいろ聞いてきたわけよ。まぁてきとうにはぐらかしといたがよ。」

…第三王女が直々に聞き込みしてたのかよ。

しかも変装してんのに素性がバレてるとかどんまいだな。

「おっちゃんありがとう。これからも俺のことは知らぬ存ぜぬで頼むわ。面倒ごとは嫌いだからさ。だからイーラのことも秘密で頼む。」

「おうよ。俺も面倒ごとは嫌いだからよ。ほら。特上5本焼けたぜ。」

「あんがと。」

おっちゃんから受け取った肉串を1人1本ずつ渡す。

カレンは初めて食べたからか、とても美味そうに食べている。

俺のパーティーはみんな肉好きだから、いまだに飽きてないようだ。
まぁここの肉串が美味いからってのもあるだろうがな。

全員が肉串を食べ終わったあと、おっちゃんに別れを告げて、ダンジョンに向かった。





なぜだか今日は通り道に人が多かったな。
普段は外壁の外で人に会うことなんて滅多にないのに、今日に限っては冒険者っぽいやつらがいっぱいいた。
おかげでイーラを見られてしまった。

イーラが速すぎてすぐに通り過ぎたから、何人くらいいたかがわからなかったが、少なくとも20人はいたんじゃないか?

そんだけ人がいても関係ないってくらいにイーラは速度をほとんど落とさずに避けていたがな。

向こうも何かが通り過ぎたくらいにしか思わなかったりしてな。
…いや、通り過ぎたあとの後ろ姿は普通に見られてるか。

まぁ変身してるとこが見られなきゃべつにいいか。

道中にはあれだけ冒険者がいたのにこのダンジョン前には誰もいないんだな。
前回もいなかったし、よっぽど人気がないんだろう。まぁ穴場っていわれてるくらいだしな。

ダンジョンに入り、リスタートで地下7階に下りた。
どうせなら前回地下8階まで下りときゃよかったな。
たいして魔物はいないが、また虫のエリアを進むのかと思うと気分が萎える。

まぁしゃーねぇか。

そういやカレンをパーティーに入れるのを忘れてた。
武器も渡してねぇじゃん。

カレンをパーティーに入れ、アイテムボックスから成長の加護が付いた刀を取り出した。

「これがこれからカレンが使う武器だ。」

カレンに持たせてあらためて見ると、けっこうデカいな。
俺の股下というか骨盤くらいまでだから片手でも使えそうな刀だと思ってたけど、カレンの胸くらいまであるんだな。

こいつはこれを使えるのだろうか?
でも武器自体使ったことねぇらしいし、これが普通と思えば問題ねぇか。
それに成長の加護が付いてるから、使いやすいようになるだろう…成長して縮むことってあるのかはわからねぇけどな。

今回おっさんからはベルトじゃなくて紐みたいなのをもらった。
着物にはこっちの方が似合うとかなんとかいわれたが、どう付ければいいんだ?

「アリア。この紐を使って、良さげな感じで付けてやれ。」

「…はい。」

カレンとアリアは2人でどこがいいかを話し合い始めた。

あとはアリアがなんとかしてくれるだろう。
困ったときのアリアだ。

今さら武器だのパーティーだのやっているが、既に俺たちはダンジョンの地下7階にいる。

だからその間に近づいてくる魔物はイーラが遊んでいた。

柄の長い鎌をブンブン振り回して切り刻んでいる。

避ける素振りは見せているが、ガンガン攻撃をくらってやがる。
物理無効があるからって、あの戦い方は危ねぇな。

「イーラ。ちょっと来い。」

近場にいた最後の魔物を切り刻んだイーラがこちらに駆け寄ってきた。

「な〜に?」

「人型で戦いたいなら、回避をもっとちゃんとやれ。」

「でも痛くないよ?」

「それは今の魔物が魔法を使わないからなだけだ。」

「魔法だったら避けるもん!」

こいつは言葉でいっても理解できないタイプだな。

「わかった。じゃあ俺と模擬戦をするぞ。俺は身代わりの加護があるから殺す気で来い。回避の重要性がわかる程度に痛い思いをさせてやる。」

「ふふ〜ん。イーラはもうリキ様にだって負けないよ。」

「セリナ。近づいてくる魔物は任せた。」

「はい。」

俺が構えるとイーラは鎌をクルクルと回した。

俺から動く。
一歩で懐に入ろうとしたところ、観察眼が反応したから、横にズレる。
俺の移動予定だったところを鎌が通り過ぎた。

本当に殺す気だなこいつは。

横にズレて回避した俺をイーラが鎌を横薙ぎにして狙ってくる。

こいつの武器の素材は何が使われてるかが不明だから、受け止めるべきではないだろう。

トンファーで下方に受け流しながら飛び越えて、すかさずイーラの懐に入って服の中に手を突っ込み、脇腹を掴む。

『中級魔法:電』

「ギャーーーーーッ!」

もちろん軽くショックを与える程度まで加減したんだが、スライムにとっては電気は弱点だったのか、思った以上に痛がっていた。

イーラは今まで聞いたことのないような酷い声で叫んでる。

加減しなかったら間違って殺しちゃってたのかもな。

「これでわかっただろ?そうとう威力を加減してこれだ。魔物は加減なんかしてくんねぇんだから、下手したら一発で死ぬぞ?」

「ごめんなさい…。」

だいぶしおらしくなりやがった。

「わかればいい。仲間に死なれたくないだけだからな。」

「リキ様!イーラ頑張るよ!」

なんか元気になりやがった。
さっきのは演技か!?
コロコロと変わりやがって…まぁ頑張ろうとしてるのを邪魔するのはよくないか。

「あぁ、期待してる。」


どうやらカレンの準備が終わったようだ。

刀の鞘に紐を結んで、その紐を肩にかけることにしたみたいだ。
刀がぷらぷらしてるが、横に固定しちゃうとカレンには刀がデカすぎて鞘から抜けなさそうだしな。

まぁ2人で話し合って決めたなら大丈夫だろう。

「それじゃあ地下8階に向かう。行ったことないうえに魔物が溢れかえっている可能性が高いから、油断はするなよ。」

「「「「はい。」」」」


4人の返事を聞き、ダンジョンマップを見ながら下り階段に向かって走り出した。

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