プリーマヴェーラ春の夢
私は今、死んで行く…
病院。麻衣、心電図をつけられて昏睡状態。
千鶴「ねぇ父さん、何で母さん急に倒れちゃったの?母さん、病気なの?」
所縁里「千鶴…」
千鶴「目を覚ますでしょう?このまま死んでしまわないでしょ?」
麻衣にかけよってすがる
千鶴「母さん僕だよ!千鶴だよ!何で目を開けてくれないの?僕が悪い子だから?だったら僕、いい子になるから、これからは言うこともちゃんと聞くしお手伝いもする。ご飯も残さないから!」
麻衣「…」
所縁里「千鶴、母さんが倒れたのは決してお前のせいなんかじゃない!」
千鶴「だったら何で?」
所縁里「お前に心配させたくないから
黙っててくれって母さんに言われたんだけどね」
声をつまらせて冷静に
所縁里「母さん、癌って言う病気なんだって」
千鶴「それって治るの?」
医師「中洲さん、奥さんはもうこのまま意識が戻らない可能性が高いです。ベストは尽くしますが覚悟はしていてください。今の状態ですといつ何が起きてもおかしくはないでしょう」
所縁里「そんな…」
千鶴「何?母さんどうなるの?死んじゃうの?」
所縁里、麻衣をまじまじ
所縁里「いや、母さんは死なない」
所縁里M「麻衣ちゃんきっと僕が君を再び元気にさせる。絶対に死なせやしない!」
麻衣の瞑想の中。湖のある草原、他は何もない。
麻衣「ここは?」
キョロキョロとして歩く。湖岸に所縁里。リラを弾いて歌っている。
麻衣M「誰かしら?」
近寄る。所縁里、気がつく。
所縁里「ん?」
リラをやめる
所縁里「こんにちは、お姉さんは?」
麻衣「私はこの地域に住む高校三年生で麻衣ってんの。こう見えてもハンガリー生まれのハンガリー育ちなのよ。坊やは?」
所縁里「中洲所縁里。奈良から遊びに来たんだ。静岡県と京都府とのハーフ。僕の母は駿河邱の公爵家出身で父が平安邱の蘇我伯に仕える外務官。僕はその息子で宮廷詩人」
麻衣「君って凄い子なのね」
所縁里「とりあえずここにいたって仕方ないだろ?何処かへ座って話そうよ」
麻衣「座るって…」
所縁里「向こうに僕らの別荘小屋があるんだ。そこに行こう」
麻衣「ちょ…ちょっと!」
所縁里「(小粋に)何?まさか僕が君っを誘拐でもしようとしてる誘拐犯か何かに見えるかい?」
笑う。
麻衣M「そうだわ、思い出した!これって所縁里君との出会いの頃だわ!」
小屋の中。麻衣と所縁里、騒いでお茶を飲んだり遊んだりしている。
麻衣M「確かこの日をきっかけに、不思議な君は私が悲しいときや辛いときに…まるでこの気持ちを知っているかの様に。そう、まるで妖精のように現れては私の慰めになってくれていたわ」
霊安室。ベッドに横たわる男性と麻衣。
麻衣「せんちゃん!せんちゃんったら!」
泣き崩れる麻衣。
麻衣M「そうだったわ…14年前、私は婚約者を亡くしたのよ。私と同じ末期の癌で余命宣告を受けてから一年後だったわ…。彼ったら“僕が死ぬ前にここでささやかな結婚式を挙げよう”って言ってくれたのに…裏切り者…その前夜に逝ってしまったの」
湖岸で泣く麻衣。そこへ所縁里。
所縁里「どうしたの?」
麻衣「誰っ!?」
涙を脱ぐって振り返る。
麻衣「君は…」
麻衣M「そう…あの時も私の目の前に現れたのは所縁里君だったの。もうここ何年も会っていなかったけど久しぶりに会った彼はあの頃のままだった…少しも変わらぬ不思議に輝く茶色い瞳、小柄だけどスラーっとした体つき。もうあのときの無邪気なあどけなさは消えて大人の男性に近づく色気は出ていたけど、君だってすぐに分かったわ」
所縁里、おどおどとしながら麻衣を抱き締めて慰める。
麻衣M「あの日の夜のあなたは大人だった…悲しみに取り乱す私を落ち着かせて、寝る間も惜しんで懸命に慰めてくれたっけ」
麻衣M「そんなこんながある内に私と君はより仲良くなって…いつの間にかお付き合いをするようになっていたわ」
湖岸。
麻衣M「そして私、25歳の年の春…」
所縁里「麻衣ちゃん!」
麻衣「所縁里君、急な話って何?」
所縁里「僕、毎日毎晩…本当に色々考えていたんだ」
麻衣「何を?」
所縁里「考えた末…」
意を決する
所縁里「柳平麻衣ちゃん…」
麻衣「何よ改まっちゃって…」
所縁里「僕と結婚してください!」
麻衣M「突然の君からのプロポーズ…とても驚いたけどすぐにOKしたわ」
麻衣M「そしていざ、君のご両親に挨拶に行く時…」
大きな吊り橋
所縁里「ほら、この橋の向こうに古い大きな大名邸みたいなのが見えるだろ?あれが僕の家さ」
麻衣「へぇ…あなたの家って凄いところにあるのね。まるで仙人みたい」
所縁里「仙人は酷いな…でもまぁ、昔からの家だからね。騎士団が簡単に攻め入ることが出来ないようにあそこに建てたらしいよ。行こう!」
麻衣「はい!」
二人、渡り出す。
所縁里「古い橋だから気を付けて」
麻衣「あなたこそ」
少し橋が軋む。麻衣、バランスを崩す。
麻衣「きゃっ!」
所縁里「麻衣ちゃん!」
宙吊り状態の麻衣。所縁里、腕をつかむ
麻衣「お願い所縁里君、放して!」
所縁里「そんなこと出来るか!」
麻衣「じゃなきゃあなたまで危ないわ!このままじゃ共倒れよ!」
所縁里「バカ言うな!もし僕が放したら君、どうなるか分からないのか!?」
麻衣「分かってるわ!分かってるから言っているんじゃないの!このままじゃ本当に二人とも死んじゃうかもしれないのよ!だったらせめてあなただけでも生きて!私の事は諦めて!」
所縁里「そんなこと出来るか!待ってろ、必ず助けるから!」
携帯電話を探す。風で大きく橋が揺れる。
二人「うわぁっ!」
二人、落ちる。
所縁里「麻衣ちゃん!」
麻衣「所縁里君!」
病院。麻衣と所縁里、目を覚ます。
麻衣M「でも私たちは奇跡的に助かった…目を覚ました場所は病院だったの。きっと誰かが私たちを助けてくれたのね」
麻衣M「そして私たちは退院後、すぐに結婚した。そして結婚するとすぐに…」
自宅。所縁里、帰宅。
麻衣「所縁里君、お帰り」
所縁里「ただいま。はい、お土産」
包みを差し出す。
麻衣「わぁ!ありがとう!何かしら…」
開ける。シュークリーム。
所縁里「君がずっと食べたいっていってたやつ。タタロニア風のパストーレシュー」
麻衣「おえっ!」
えづく
所縁里「どうしたんだ、大丈夫?」
麻衣「ん、大丈夫、大丈夫」
落ち着く。
麻衣「実はね…私、今日の午後、病院に行ってきたの」
所縁里「びょ…病院!?何で!?」
麻衣、恥じらいげに笑う。
麻衣「3ヶ月…」
所縁里「え?」
麻衣「妊娠したみたい」
所縁里、目を丸くして麻衣を抱き締める。
麻衣M「そう、結婚してすぐに私は妊娠したの。そして順調に月が過ぎて私は…」
産声。
麻衣M「男の子を出産したわ…でも」
一年後の春。教会。参列者の中に麻衣と所縁里。麻衣、所縁里に寄り添って泣く。
麻衣M「1歳の誕生日を迎える1日前に、癌が出来て亡くなってしまったの。勿論私も彼も悲しくて毎日泣いた」
麻衣M「それから暫くは、私達には子供はできなかったけど、数年後…私が30歳の年に二人目の子供を妊娠したの」
麻衣と所縁里、新生児を可愛がっている。
麻衣M「そして皮肉にも、その子は前の子が亡くなった日と全く同じ日・同じ時間に生まれた。私たちは今度こそこの子には元気で成長してほしいと“千鶴”と名付けたんだわ」
麻衣M「こうして私達はやっと三人で幸せな生活が始まるって、ずっと思っていたの。でもそれなのに…」
病院。医師と麻衣。
医師「中洲さん、どうか落ち着いて聞いてください」
麻衣、やっぱりと言う顔で話を聞いている。
麻衣M「私は、息子が5歳になる少し前から体調が悪い日が多くて病院に行ったの。そしたらやっぱり…もうすでに余命1年の末期癌だって言われたわ。でもこの事は千鶴には秘密…夫にだけ打ち明けた。勿論夫もかなりのショックを受けていたけど、こうして私の余命を抱えた最後の人生が始まったんだわ」
ベッドに横絶える麻衣。側で見守る所縁里と千鶴。
麻衣M「そうよ…そして丁度1年後の今日…私は闇の床に伏した」
記憶が遡り出す
麻衣M「人ってこうやって死んでいくんのね…」
心電図が鳴り出す
麻衣M「そう…今私は死んでいく…」
千鶴「母さん!」
所縁里「麻衣ちゃん!」
医師、看護婦、飛んできて処置。
所縁里「先生、妻は!?」
千鶴「ねぇ父さん、何で母さん急に倒れちゃったの?母さん、病気なの?」
所縁里「千鶴…」
千鶴「目を覚ますでしょう?このまま死んでしまわないでしょ?」
麻衣にかけよってすがる
千鶴「母さん僕だよ!千鶴だよ!何で目を開けてくれないの?僕が悪い子だから?だったら僕、いい子になるから、これからは言うこともちゃんと聞くしお手伝いもする。ご飯も残さないから!」
麻衣「…」
所縁里「千鶴、母さんが倒れたのは決してお前のせいなんかじゃない!」
千鶴「だったら何で?」
所縁里「お前に心配させたくないから
黙っててくれって母さんに言われたんだけどね」
声をつまらせて冷静に
所縁里「母さん、癌って言う病気なんだって」
千鶴「それって治るの?」
医師「中洲さん、奥さんはもうこのまま意識が戻らない可能性が高いです。ベストは尽くしますが覚悟はしていてください。今の状態ですといつ何が起きてもおかしくはないでしょう」
所縁里「そんな…」
千鶴「何?母さんどうなるの?死んじゃうの?」
所縁里、麻衣をまじまじ
所縁里「いや、母さんは死なない」
所縁里M「麻衣ちゃんきっと僕が君を再び元気にさせる。絶対に死なせやしない!」
麻衣の瞑想の中。湖のある草原、他は何もない。
麻衣「ここは?」
キョロキョロとして歩く。湖岸に所縁里。リラを弾いて歌っている。
麻衣M「誰かしら?」
近寄る。所縁里、気がつく。
所縁里「ん?」
リラをやめる
所縁里「こんにちは、お姉さんは?」
麻衣「私はこの地域に住む高校三年生で麻衣ってんの。こう見えてもハンガリー生まれのハンガリー育ちなのよ。坊やは?」
所縁里「中洲所縁里。奈良から遊びに来たんだ。静岡県と京都府とのハーフ。僕の母は駿河邱の公爵家出身で父が平安邱の蘇我伯に仕える外務官。僕はその息子で宮廷詩人」
麻衣「君って凄い子なのね」
所縁里「とりあえずここにいたって仕方ないだろ?何処かへ座って話そうよ」
麻衣「座るって…」
所縁里「向こうに僕らの別荘小屋があるんだ。そこに行こう」
麻衣「ちょ…ちょっと!」
所縁里「(小粋に)何?まさか僕が君っを誘拐でもしようとしてる誘拐犯か何かに見えるかい?」
笑う。
麻衣M「そうだわ、思い出した!これって所縁里君との出会いの頃だわ!」
小屋の中。麻衣と所縁里、騒いでお茶を飲んだり遊んだりしている。
麻衣M「確かこの日をきっかけに、不思議な君は私が悲しいときや辛いときに…まるでこの気持ちを知っているかの様に。そう、まるで妖精のように現れては私の慰めになってくれていたわ」
霊安室。ベッドに横たわる男性と麻衣。
麻衣「せんちゃん!せんちゃんったら!」
泣き崩れる麻衣。
麻衣M「そうだったわ…14年前、私は婚約者を亡くしたのよ。私と同じ末期の癌で余命宣告を受けてから一年後だったわ…。彼ったら“僕が死ぬ前にここでささやかな結婚式を挙げよう”って言ってくれたのに…裏切り者…その前夜に逝ってしまったの」
湖岸で泣く麻衣。そこへ所縁里。
所縁里「どうしたの?」
麻衣「誰っ!?」
涙を脱ぐって振り返る。
麻衣「君は…」
麻衣M「そう…あの時も私の目の前に現れたのは所縁里君だったの。もうここ何年も会っていなかったけど久しぶりに会った彼はあの頃のままだった…少しも変わらぬ不思議に輝く茶色い瞳、小柄だけどスラーっとした体つき。もうあのときの無邪気なあどけなさは消えて大人の男性に近づく色気は出ていたけど、君だってすぐに分かったわ」
所縁里、おどおどとしながら麻衣を抱き締めて慰める。
麻衣M「あの日の夜のあなたは大人だった…悲しみに取り乱す私を落ち着かせて、寝る間も惜しんで懸命に慰めてくれたっけ」
麻衣M「そんなこんながある内に私と君はより仲良くなって…いつの間にかお付き合いをするようになっていたわ」
湖岸。
麻衣M「そして私、25歳の年の春…」
所縁里「麻衣ちゃん!」
麻衣「所縁里君、急な話って何?」
所縁里「僕、毎日毎晩…本当に色々考えていたんだ」
麻衣「何を?」
所縁里「考えた末…」
意を決する
所縁里「柳平麻衣ちゃん…」
麻衣「何よ改まっちゃって…」
所縁里「僕と結婚してください!」
麻衣M「突然の君からのプロポーズ…とても驚いたけどすぐにOKしたわ」
麻衣M「そしていざ、君のご両親に挨拶に行く時…」
大きな吊り橋
所縁里「ほら、この橋の向こうに古い大きな大名邸みたいなのが見えるだろ?あれが僕の家さ」
麻衣「へぇ…あなたの家って凄いところにあるのね。まるで仙人みたい」
所縁里「仙人は酷いな…でもまぁ、昔からの家だからね。騎士団が簡単に攻め入ることが出来ないようにあそこに建てたらしいよ。行こう!」
麻衣「はい!」
二人、渡り出す。
所縁里「古い橋だから気を付けて」
麻衣「あなたこそ」
少し橋が軋む。麻衣、バランスを崩す。
麻衣「きゃっ!」
所縁里「麻衣ちゃん!」
宙吊り状態の麻衣。所縁里、腕をつかむ
麻衣「お願い所縁里君、放して!」
所縁里「そんなこと出来るか!」
麻衣「じゃなきゃあなたまで危ないわ!このままじゃ共倒れよ!」
所縁里「バカ言うな!もし僕が放したら君、どうなるか分からないのか!?」
麻衣「分かってるわ!分かってるから言っているんじゃないの!このままじゃ本当に二人とも死んじゃうかもしれないのよ!だったらせめてあなただけでも生きて!私の事は諦めて!」
所縁里「そんなこと出来るか!待ってろ、必ず助けるから!」
携帯電話を探す。風で大きく橋が揺れる。
二人「うわぁっ!」
二人、落ちる。
所縁里「麻衣ちゃん!」
麻衣「所縁里君!」
病院。麻衣と所縁里、目を覚ます。
麻衣M「でも私たちは奇跡的に助かった…目を覚ました場所は病院だったの。きっと誰かが私たちを助けてくれたのね」
麻衣M「そして私たちは退院後、すぐに結婚した。そして結婚するとすぐに…」
自宅。所縁里、帰宅。
麻衣「所縁里君、お帰り」
所縁里「ただいま。はい、お土産」
包みを差し出す。
麻衣「わぁ!ありがとう!何かしら…」
開ける。シュークリーム。
所縁里「君がずっと食べたいっていってたやつ。タタロニア風のパストーレシュー」
麻衣「おえっ!」
えづく
所縁里「どうしたんだ、大丈夫?」
麻衣「ん、大丈夫、大丈夫」
落ち着く。
麻衣「実はね…私、今日の午後、病院に行ってきたの」
所縁里「びょ…病院!?何で!?」
麻衣、恥じらいげに笑う。
麻衣「3ヶ月…」
所縁里「え?」
麻衣「妊娠したみたい」
所縁里、目を丸くして麻衣を抱き締める。
麻衣M「そう、結婚してすぐに私は妊娠したの。そして順調に月が過ぎて私は…」
産声。
麻衣M「男の子を出産したわ…でも」
一年後の春。教会。参列者の中に麻衣と所縁里。麻衣、所縁里に寄り添って泣く。
麻衣M「1歳の誕生日を迎える1日前に、癌が出来て亡くなってしまったの。勿論私も彼も悲しくて毎日泣いた」
麻衣M「それから暫くは、私達には子供はできなかったけど、数年後…私が30歳の年に二人目の子供を妊娠したの」
麻衣と所縁里、新生児を可愛がっている。
麻衣M「そして皮肉にも、その子は前の子が亡くなった日と全く同じ日・同じ時間に生まれた。私たちは今度こそこの子には元気で成長してほしいと“千鶴”と名付けたんだわ」
麻衣M「こうして私達はやっと三人で幸せな生活が始まるって、ずっと思っていたの。でもそれなのに…」
病院。医師と麻衣。
医師「中洲さん、どうか落ち着いて聞いてください」
麻衣、やっぱりと言う顔で話を聞いている。
麻衣M「私は、息子が5歳になる少し前から体調が悪い日が多くて病院に行ったの。そしたらやっぱり…もうすでに余命1年の末期癌だって言われたわ。でもこの事は千鶴には秘密…夫にだけ打ち明けた。勿論夫もかなりのショックを受けていたけど、こうして私の余命を抱えた最後の人生が始まったんだわ」
ベッドに横絶える麻衣。側で見守る所縁里と千鶴。
麻衣M「そうよ…そして丁度1年後の今日…私は闇の床に伏した」
記憶が遡り出す
麻衣M「人ってこうやって死んでいくんのね…」
心電図が鳴り出す
麻衣M「そう…今私は死んでいく…」
千鶴「母さん!」
所縁里「麻衣ちゃん!」
医師、看護婦、飛んできて処置。
所縁里「先生、妻は!?」
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